第9回金沢創造都市会議

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プレゼンテーションB

■プレゼンテーションB「シェアリングエコノミー」

プレゼンテーター
牧田 恵里 氏(株式会社tsumug代表取締役社長)
コメンテーター
佐々木 雅幸 氏(同志社大学教授/文化庁地域文化創生本部主任研究官)


電子錠の導入で住宅や空間を多元的に活用する



(宮田) 今日の最初の志賀様の予言どおり、パーソナルモビリティの次がシェアリングエコノミーということで、僕が完全に手玉に取られている感じです。先ほど福岡さんが、パーソナルモビリティのダークホースになり得るのではないかとおっしゃっていましたが、次の登壇は日本のスタートアップ界のダークホースといわれているtsumugの牧田さんにお話しいただきたいと思います。まさに今日はシェアリングエコノミーという文脈の中で、彼女はスマートロックといわれる鍵を作っています。シェアリングエコノミーとは何か、単なる鍵ではなく、なぜこれを作り始めたのか。そしてtsumugという会社が一体どんな未来を目指しているのか、ぜひお話しいただきたいと思います。よろしくお願いします。

(牧田)株式会社tsumugの牧田と申します。今からお時間を頂いて、tsumugという会社がどんなものを作っているのかと、その先の未来のお話をさせていただきます。  tsumugは、ちょうどこの12月で丸2年の、スタートアップといわれる会社です。こんな若い会社が鍵を作っているのですが、こんな未来があったらいいなという私の強い強い欲望を形にして、2年走ってきて、やっとデバイスを作れたという会社です。そのデバイスのご紹介をさせていただきます。  
  まずご存じのとおり、スマートと付くデバイスが、世の中にすごく出ていると思います。そのデバイスのおかげで、私たちの生活の中も少し便利になったり、いろいろなサービスが使えたりするようになってきています。  
  日本でも、2015年にスマートロックといわれる、スマートフォンで開けたり締めたり、鍵を共有できるデバイスが発売されました。ただ、tsumugは、「このスマートフォンで開けるだけが本当にスマートな鍵なのか。これで鍵の未来と言ってしまっていいのか」と少し疑問に思い、そこから考え始めて、違う製品を作ろうと思いました。
 このtsumugの鍵を作るきっかけになったお話をさせていただきたいと思います。  1人の女性の話です。一人暮らしをしているので、仕事が終わって、遅い時間に夜の暗い道を歩いて帰っているときは、「何か気になる、不安だな」という形で家に着きます。いつものように、一般的に使われているような鍵で扉を開けて家の中に入ります。そうすると、「家の中の家具の位置が少し変わっているかな」「あれ、ここにレシート置いてあったのに、レシートがなくなっているな」など、ちょっとした違和感があったのです。  

  実はこの話は、私が元彼に合い鍵を渡していたときに、知らない間にコピーされていて、別れた後によりを戻したいと元彼が不法侵入していたという話なのです。でも、家の中に勝手に入っているので本当に驚いて、よりを戻す話をするどころではなく、不法侵入だとまず言いたくなったところでした。  
 少し考えていろいろ数字を見てみたのですが、把握されているだけで、不法侵入の数は年間で7500件くらい、ストーカー行為に関わる相談件数は2500件ほどあるそうです。この数を多いと見るか、少ないと見るかは、いろいろご意見はあると思いますが、私は圧倒的に少ないと思います。

  多分、今、私がお話しした違和感が全然可視化されていないのではないかと思っています。先ほどの話だと、どんな男と付き合っているのかという話にしかならないのですが、多分それを言えなくて悩んでいる方や、例えばご年配の方や母親が、自分の知らない間に家に不法侵入されている状態になってしまったとか、身近な家族でも起こり得ていることかもしれないと、私は感じています。  

  私の場合、あまり大きな被害にならなくて済んだのですが、安全だと信じられている物理鍵が本当に安全なのかという、結構危険なテーマを見付けてしまったのではないかと思っていまして、今回、tsumugで鍵デバイスを作るところに至りました。  では実際に、どんな製品なのか、うちの製品を実生活の中で使ったムービーを見ていただきたいと思います。

***ビデオ上映 開始***

<ケース1>  ベロベロに酔っ払って帰るということは、実生活の中でも結構あると思います。女性は鍵を閉めるよりも化粧を落とす方に意識がいってしまうのです。今日は男性が多いので、なかなか分かりづらいかもしれません。  これも、割と普段見られる光景だと思います。  簡単に削除できるのです。はだしで外に出されてしまいましたね。

<ケース2>  実は私の母親は名古屋にいるのですが、鍵を忘れて東京にやって来ることがあります。これもよくあるケースだと思います。「今、あんたの家の前に着いたんだけど、鍵忘れちゃった、ごめん」と言うのです。遠隔でワンタイムのパスワードをあげて、家の中で待っていてもらうことができるというものです。

<ケース3>  結構、知り合いのお母さんから、「子どもにどのタイミングで鍵を渡していいのか分からない」と言われます。だから、少し留守番を頼むと仕事間でも不安になって気になってしまいます。子どもも、お母さんに連絡することを忘れて帰って、そのまま遊んでしまうことがあるのです。そこで、帰って来ると、帰って来たことを通知してくれる機能が付いています。

<ケース4>  おばあちゃんが、一日扉を開けたり閉めたりしていませんでしたという通知が届きます。遠くに住んでいる大切な人が「今日、大丈夫かな」「健康かな」と日々気にしているよりも、通知で教えてくれるというものです。そこで自然に「今日、ご飯でもどう?」という形で、家族のコミュニケーションが増えていけばいいなと、こういった機能を作っています。
***ビデオ上映 終了***  
 今、映像の中でも出てきたConnected Lockという、通信する電子錠を作っています。操作も年配の方からお子さんまで使っていただけるように、テンキーで開けたり閉めたりできます。FeliCaやSuicaなど、駅で使うカードのようなもので開けたり閉めたりできるようになっています。  
 実は、このConnected Lock「TiNK」は、世界で初めて単体でLTE通信する電子錠です。  皆さんは当たり前のようにスマートフォンを使っているので、LTE通信を普通に日々使っていると思います。私がこの鍵を作り始めたときは、「単体で通信する、設置しただけで、家のネットワークやインターネット設定をしなくても使える鍵が欲しい」ということで、LTE通信がしたいと思いました。しかし、実は非常に開発コストが高く、通信モジュール自体の値段も高いのですが、それを開発できるエンジニアの数がすごく少ないのです。設立2年のスタートアップのようなところに、そういったスペシャリストの方が採用されて働いてくださる機会も、そんなにありませんでした。当時、製品として出回っていたものだと、Bluetoothという、もっと安価なチップで、実際に開発キットなども結構世の中に出回っていて、エンジニアの方もある程度いるというものがありました。
  Bluetoothで通信するデバイスはすごくあったのです。けれども、私はリアルタイムで通信する鍵を作りたかったので、「Bluetoothで本当にいいのか。でも、Bluetoothでやるしかないのか」と、当時、ものすごく悩みました。  今日、この場でお話しさせていただくのもご縁だと思いますが、実はそのとき、やはりLTE通信でいこうと思ったきっかけが、福光屋さんのウェブサイトにありました。3年ぐらい前に、福光屋さんのオフィスに行かせていただいて、お酒で化粧品を作るというお話を聞いたときに、「すごく面白い。こんな日本酒の酒蔵さんがあるんだ」と思って、すぐにウェブサイトを見ました。そうすると、昔はお米が少なくて「三倍増醸法」で希釈するお酒を造っていた。そういう時期があったからこそ、純米酒を造ることにこだわっているというページがありました。それを見て、Bluetoothで安価に作るのはありだけれども、やはり難しくてもLTEにチャレンジするのも、一つありなのではないかと思ったのです。  
  この絵だけだとすごく分かりづらいですが、鍵です。実際に錠前に接続する付属品ではなく、本当に鍵を作っています。その中にLTE通信をするチップが載っています。ですから、純米酒と錠前はつながらないのですが、添加物とオプション製品ではなく、本当の鍵で、ちゃんと通信するものを作りたいという思いから、結構ハードルは高かったのですが、LTE通信するデバイスを作り、2年で販売できる形にするところまでできました。  このデバイスを使って、少し先の未来で、私が本当に使ってみたいサービスを使ったらどんなイメージになるかというムービーがあるので、見ていただきたいと思います。

***ビデオ上映 開始***
<ケース1>  バタバタ出て行っても、家の電気が勝手に消えてくれるという機能です。これは家電と連動するとできる機能になっています。

<ケース2>  何となく、何屋さんかイメージしていただけると思います。家にいなくても、家の中にまで荷物を届けてもらうサービスです。

<ケース3>  ここら辺は、TiNK単体というよりは、いろいろパートナーとサービスをつくっていったらできる未来です。もう履かなくなった靴を、最近ではCMで話題のメルカリなどもあり、出品はすごく楽なのですが、売れると発送しなくてはいけないので、「今忙しいから売れないでほしい」という、サービスとして使うには何か本末転倒のことが起こってしまいます。そこで、梱包も配送もいない間にやってくれるというサービスです。

<ケース4>  最近、サービス発表会をやったのですが、その前日、私の家はこんな荒れた状態だったので、そのときに欲しいサービスだと思いました。写真できれいな状態になったことを教えてくれます。 <ケース5>  これは、冒頭の私の経験談から、「こんなサービスにつながっていたら、あんなに不安にならなくてよかったのに」と思って考えている機能です。実際にドアをガシャガシャされると、加速度センサーが振動を検知して教えてくれる機能です。誰かが家の扉に触って開けようとしたのかもしれないと思ったら、警備の人を呼んで見てもらい、安全だと分かったら家に入るというものです。別れた元彼と出くわさなくていいという機能です。
***ビデオ上映 終了***  

  今見ていただいた映像は、tsumug単体で作るサービスというより、弊社の鍵を使って、弊社のシステムと連携開発してつくれる、近い未来のサービスだと思っています。現時点では、まだこのサービスはありません。ただ、既にアメリカでもAmazonが、宅内配送や家事代行のようなものを先日、ちょうど今年発表されて、Amazonという巨大な会社がこれに挑戦するということで、結構話題になりました。
 
  Amazonの動画をYouTubeでご覧になった方はいらっしゃいますか。動画自体はすごく話題になりました。YouTubeはグッド・バッドなどの評価ができるのですが、瞬間で1万件のバッドが付きました。しかも、この映像に対して、「Amazonが不審者を家に招き入れるようなあり得ないサービスをつくった」という批判ムービーが、その後たくさん出るということが起こりました。やはりそのあたりはアメリカならではと思ったところもあります。  
  ただ、それに対して、日本はお財布を落としてもお財布がそのまま返って来るという、世界でも数少ない国だと思うので、ぜひこの日本という国で、宅内配送や家事代行サービスなど、家の中まで入って来てくれて、自分の生活をより豊かにしてくれるサービスを受けられるところにチャレンジできればと、今、思っています。  そんな世界を作るため、tsumugは2021年度までに、100万室の物件にTiNKという鍵を付けていく予定で、今、量産開発しています。

  2021年度までに100万台というと、多分ここにいらっしゃる企業の大先輩たちは、「どうやって作るの。どうやって設置するの」と思われるでしょう。やはり、創業2年のスタートアップの会社なので、うち1社でこういった世界をつくっていくのはすごく難しいです。そのため、多くのパートナーや先輩企業と連携してやっていきます。
 幾つかそのパートナーを紹介させていただきますと、まず、販売パートナーとして、アパマンホールディングショップと、今、業務提携しています。アパマンの賃貸物件に順次設置していくという形で、来年2月からスタートします。アパマンは実は面白い会社で、アパマン単体の管理物件は約7万件弱ですが、アパマンのメイン事業はフランチャイズです。金沢にも加盟店があるのですが、今、全国の加盟店でトータル130万件くらいの管理物件があります。それに対して、順次退去になったときに弊社のTiNKを付けて内見していただき、実際に入居したらそのままTiNKを鍵として使っていただくという形で、展開していきます。  

  また、最初に鍵を作っているという話をさせていただきましたが、スタートアップが鍵を作るというと、「その鍵は大丈夫なのか」「鍵は漏えいしたりしないのか」と心配されるかと思います。今、デバイス自体の量産開発パートナーとして、シャープにサポートしていただいています。ご存じの方も多いと思いますが、シャープも去年、鴻海という台湾の大手OEM会社と戦略的提携をされました。「量産アクセラレーションプログラム」ということで、去年から、もっとスタートアップにシャープの量産ノウハウを提供していこうということをしてくださっています。  

  うちの鍵デバイスの、主に品質管理や安全基準を、シャープがサポートして製品を開発しています。やはりスタートアップだと2年しか社歴がないので、安全基準に対して、どのような検証をしていいのか分からないのですが、「こういう動きをするものであれば、こういうテスト項目入れた方がいい」「シャープだったら、これくらいテストしないとお客さまに出せない」など、シャープの基準を教えていただきながら開発しています。  もう一つ、Bluetoothだと開発する人は多いけれども、LTEだと通信に詳しい専門家のエンジニアが少ないという話をしました。しかし、通信インフラのパートナーがいます。弊社の鍵には、日本の上場企業であるさくらインターネットのLTE通信チップが入っています。皆さんはスマートフォンに慣れているので、LTE通信にすると「インターネットに鍵が出る」というイメージを持たれると思います。さくらインターネットでは、インターネットに直接出ない仕組みを持っているので、それを活用させていただいています。  

  もう1人、少しワイルドなロック歌手のような写真の人がいます。彼はAndroid OSの基になるソフトウエアを作ったシリコンバレーのエンジニアで、アンディ・ルービンと一緒に、Googleに売却したDangerという会社を立ち上げた一人で、ジョー・ブリットといいます。今はAferoという会社で、シリコンバレーで起業しています。彼のチップが搭載された日本国内初めてのデバイスということで、これもセキュアなBluetoothということで、セキュアな通信をサポートしていただいています。  もう一つ、メルカリのCMを見られている方も多いと思いますが、最近、資本参加いただきました。ただ単に通信する鍵となると、「物理鍵の方が安全だから変えたくない」という方の方が多いと思います。実際にユーザーが使う、どんどん生活が便利になるサービスを増やしていけるように、パートナーと一緒に作っています。  

  最後に、もう1社です。設立当時からデザイン開発パートナーということで、金沢の会社のseccaというチームが、鍵のデザインをやってくれています。金沢の方はseccaの陶器などをご覧になっている方も多いと思います。実際に入居者が触れる部分をすごく緻密に考えてやってくださっていて、今、こんなにすてきなデザインができています。ちょうど来年1月にCESというラスベガスの展示会でもこちらを出品する予定です。すごく海外の人から受けのいいデザインになっています。  ここから実際に、このデバイスを使って、私がこんな未来の生活をしてみたかったというものをご説明させていただきます。  

  実は、私は大学の専門が建築で、建築デザイナーになりたいという夢がありましたが、どちらかというと、ITの方に流れ来てしまいました。  空間を考えるときに、多分まだオフィスというと、人が集まって、同じ場所・時間帯で仕事をするのが普通だと思います。「ただ仕事をするための作業場」というチャレンジングなワードを選んでいますが、そういう場所です。  今、いろいろなテクノロジーが進化してきているので、例えば未来のミーティングは、こういうものではないかというムービーをご覧ください。

***ビデオ上映 開始***  
知り合い同士だとアカウントが分かるので、VRのようなものを使って遠隔でミーティングをするというものです。まるでその場所に、目の前にいるかのような形で、話や打ち合わせができます。例えば、一緒に写真を撮って、「こっちの方がいい」とFacebookにポストするという感じで、この場でインターネットにつながって、一般のソーシャルに公開されるといったものです。
***ビデオ上映 終了***  

  こういったミーティングというか、空間の在り方に変わっていくのではないか。このようなものが、本当に近い未来にあるのではないかと思います。  そうすると、「場」が何を提供してくれるものになるのかと考えると、たまたまそこで出会ったとか、別のことを考えて行ったけれども、そこで起こった出来事によって違うアイデアが生まれたとか、そういったことにつながるのにリアルな空間が活用されていくのではないかと思います。よくセレンディピティという表現をしますが、そういったものが空間の中で自然と生まれるということが、その場にいて体感する価値になってくるのではないかと思います。  
  これを家に置き換えると、ここはリビング、ここはキッチン、ここはダイニングというように空間の切り分けがされていて、家族という既に見知った人とのやり取りで快適に過ごす場所という形で、今までの家があったと思います。  それがこのように変わるのではないかと思います。縦型、立体になっています。友達やご近所さんとも一緒に楽しめる空間が当たり前になるのではないかと思います。  

  もう少し分かりやすい例で言うと、プライベートスペースがあるとか、皆さんで集まって議論ができるソーシャルスペース、Airbnbのような民泊として貸し出せるスペースも一部提供できるといったイメージです。  これは一軒屋のイメージですが、一部屋という考え方でもできると思います。なぜかというと、入り口にTiNKが付いていれば、遠隔でワンタイムパスワードを発行できるので、「突然来た方に民泊としてあの部屋を提供してもいいな」「今日3時間だけなら、うちの居間を会議室に使ってもいい」という感じで、物理鍵を渡すとコピーされる危険性がありますが、このように物理鍵を渡さなくても一時的に使ってもらう場所に空間を変えていくことができるのではないかと思っています。  

  今、「TiNKを使って」と言いましたが、物事の利用しやすさ、アクセスしやすいという意味でのアクセシビリティと、実際の空間自体をリアルタイムで3時間だけ、今日1日だけ、来週の土日だけなど、モードが切り替わる物事の在り方という形で使うことができるのではないかと思います。ポータビリティとアクセシビリティです。  そうすると本当の未来の話ですが、プライベートスペースをパーティスペースとセミナースペースに区分けしたり、翌日には1階と2階を全部イベントスペースにしたり、結構ダイナミックに変えていくこともできるかと思います。  特に金沢は今、観光客の方がすごく多いと思いますが、その割にはホテルが足りないとか、イベントになると早めにホテルを取らないと宿にあぶれてしまうことが起こると思います。2世帯住宅、3世帯住宅がありますが、それがもっと広がって、民泊にもすごく適しているので、海外の方と交流しやすい空間もできるのではないかと思っています。  これがさらに進化すると、普段は東京で生活していても、「来週3日間だけ金沢で仕事してくる」「明日から福岡で仕事してくる」と、住む場所を移して生活することができるのではないかと思っています。  最後に、こういった未来の話をさせていただいたところで、私からの発表を終わりたいと思います。ありがとうございました(拍手)。

(宮田) どうもありがとうございました。鍵の話から、いわゆるシェアリングエコノミーの話までしていただきましたが、まさに住宅そのものが結構変わるような話だと思います。例えばこれから家を建てるときに、このようにアクセス領域が変わる住宅になると、最初から収益を生むような家なので、例えばローンの組み方が変わってくるなどという世界の話になってくると思いました。  皆さん、鍵そのもののお話にも興味があると思いますが、今日はコメンテーターとして佐々木先生にお願いしているので、まず何かご意見があればぜひお願いします。

(佐々木) 鍵というのはセキュリティですよね。これが壊れたときはどうなるのかと思ったのですが、どのようにその信頼性が確保されていますか。

(牧田) 鍵に関してのセキュリティは、大きく二つあると思っています。日本語で「鍵」というと一まとめになっていますが、英語だと「ロック(錠前)」と「キー(鍵)」の二つに明確に分けています。鍵のセキュリティは、錠前と鍵がそれぞれ持っていると、私は思っています。  
  TiNKの場合で言うと、錠前がデバイス、ハードウエアに当たり、鍵がソフト、システムのセキュリティに当たると思っています。ハードの部分は、100%壊れないわけではないので、そこは随時対応していくことになりますが、基本的に作りとしては電子錠と同じです。なので、全くアクセスできなくなった、全く動かない、家の中に入れないとなったときは、通常の物理鍵と同じで、破錠する流れになると思います。  もう一つ、セキュリティとしてtsumugが考えているのは、キーの方のセキュリティです。先ほどリアルタイムで通信するという話をしましたが、Connected Lockといっているゆえんで、例えば「鍵がコピーされました」「鍵が何か悪さされています」「ハッキングされています」といったことを事前に検知することができるのです。セキュリティの部分も、ファームウエア・アップデート、それこそコネクテッドカーといわれるテスラのように、どんどんデバイス自体のバージョンアップもできるので、そういったセキュリティの担保の仕方もあるのではないかと思います。  
  一番簡単なところで言うと、扉が操作されている、何回か番号を間違って入力しているので誰かが開けようとしているなど、遠隔でも通知が来て、事前に知ることができるだけでも、既存の鍵よりもセキュリティが上がるのではないかと考えています。

(佐々木) お話の中で、Bluetoothでやってもいいけれども、LTEにするということでした。それは、今の話と関係があるのですか。

(牧田) 事前にリアルタイムで検知するのは、Bluetoothでは難しいと思っているというのが一つです。もう一つが、Bluetoothだと、ネットワークの設定やペアリングをしなければいけない、家の中にWi-Fiルーターがないといけないなど、既存でインターネット環境がないと使えないデバイスになってしまうので、使える場所が減ってしまうのではないかと思い、単体でLTE通信するものにこだわって作りました。

(佐々木) 結局、鍵を個人が持っていて、そのシェア範囲を限定的に使うということですが、シェアするということは、お互い信頼関係がなければできないわけです。ですが、最終的に信頼できない人たちはいますよね。家のケースで言うと、その信頼の度合いによって、スペースを分けるのですか。

(牧田) 確かに、私もそこはこれからしっかり考えなければいけないと思っています。まさにおっしゃるとおりで、信頼というのがキーの証しだと思っています。  私は、信頼していた元彼に裏切られたパターンですが、信頼のレベルを分けることもできます。例えばAirbnbやUberなどでは、実際にゲストの人が泊まったり、ホストがおもてなしをした後に評価できるのです。そういった評価軸で相手の信頼を測るということも、こういった鍵だとできるようになっていくのではないかと思っています。  民泊をされると、多分、全く知らない外国の方や、カルチャーも分からない人も来ると思うので、信頼することの方が難しくなってくると思います。何かそういったものを測れる指標があったり、その人個人とやり取りしなくても知ることができるように、近い将来できるのではないかと考えています。

(佐々木) 信頼ということを考えると、伝統的なコミュニティであれば、コミュニティの間で信頼関係が成立しています。だから、少し変な人が入ってきたら、お互い情報を共有し合います。しかし、Airbnbの場合、それがなかなかうまくいきません。例えば、いきなり自分のマンションの部屋の隣に外国人が現れる、ゴミだけ出してパッといなくなるということがあります。そのような段階でいうと、コミュニティと、ここで言う鍵を持っている人たちの信頼関係というのは、どんなことになるのかなと思っています。

(牧田) 例えば今、私はオフィスが二つあります。秋葉原のDMM.makeというシェアオフィスと、福岡の旧・大名小学校という、福岡市と福岡地所やアパマンがされている、スタートアップを育成するインキュベーションオフィスのようなところです。そこで出会う人たちは、ほとんど初めての人たちですが、その人たちとのやり取りでは、例えばDMM.makeだとものづくりでつながるコミュニティ、福岡だと近辺に住んでいて何か新しいことを始めようとしている人たちという、何か一つ共通項があるのです。  今回のテーマでもあるAIに近付いてくると思うのですが、実際にその場の共通項や同じ行動、先ほどの「鍵を勝手にコピーしない人」を信頼の軸にするのであれば、その軸をTiNKがどんどん学んでいって、それを評価として教えてくれる形を作っていけるのではないかと思っています。それはリアルタイムで通信するので、ログを取ることもできます。

(佐々木) 最後にもう一つ質問です。僕はセレンディピティという言葉が大好きで、セレンディピティが生まれる場所がクリエイティブなスペースであり、それがまち全体で起きてくるとクリエイティブシティになる、創造都市・金沢とはそういうものだと思うのです。その場合、今日最初に話があった多様性ということがとても大事で、多様性を持った人たちがお互いに信頼しながら集まると、セレンディピティが生まれると思います。そのときに、あなたの鍵が、どのような役を演じるのでしょうか。 (牧田) 実はそれがこのTiNKという名前に込められている思いでもあります。Trust Linkを略して、TiNKという名前を付けました。通信するデバイスということは、インターネットの先にあるデータベースを学んでいって信頼を可視化する、逆に信頼していないということも可視化できるということでもあります。それが、評価の軸を一つ生むと考えています。ただ、tsumugがその評価の軸を作りたいというわけではありません。どちらかというと、そういうシステムを提供して、いろいろなパートナーやこれからサービスをつくりたいと言ってくださる方が利用できるような形で、TiNKが使われるといいなと思います。

(佐々木) もう一つだけ質問です。tsumugという言葉とTiNKには、どんな関係があるのですか。

(牧田) tsumugという言葉は、実は着物の「紬(つむぎ)」という漢字から来ています。私もそんなに着物に詳しいわけではないのですが、縦糸と横糸で強度に織り成された普段着と認識しています。このtsumugという会社一社でできることはすごく限られていますが、いろいろな会社や産業をつくられてきた方たちと一緒に何か紡いでいくと、面白いものが作れるのではないか、そういう思いを込めてtsumugという会社名にしています。  一方、TiNKというのはプロダクト名なのですが、やはりパートナーになるのは一種信頼で紡がれている状態だと思うので、プロダクトもTrust Linkしていくものという思いを込めて製品名を付けています。深いところを突っ込んでいただいてありがとうございます。

(宮田) 佐々木先生、ありがとうございました。投資家の質問のようなものに牧田さんが答えられるとは思いませんでしたが、上手に答えたと思います。  ちょうど佐々木先生がおっしゃっていたような、これから先どうやって判断するのかなど、その辺のお話は、まさに今日最後のゲストスピーカーのオルツに鍵があるのではないかという気がしています。何となくそのような流れで、最後、人工知能のお話に持っていきたいと思います。  また、いろいろお話があると思いますけれども、牧田さんのセッションはこれで終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。

(牧田) ありがとうございました(拍手)。

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第一日目 12月7日

第二日目 12月8日

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