第9回金沢創造都市会議

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全体会議

■全体会議 12月8日

議長 佐々木 雅幸 氏(同志社大学教授/文化庁地域文化創生本部主任研究官)

加賀藩が百工比照を作ったように、工芸や食文化、伝統芸能が息づく金沢でAI特区をつくり世界に貢献する







(福光) 昨日は長時間にわたりまして、AIのお話と尾張町のお話をいろいろとお聞きいただき、議論していただいて、ありがとうございました。  今日は全体会議ということで、最初に昨日の復習をいたします。ご多用の中、山野市長にも来ていただいておりますので、ご一緒に少し現状の整理をし共通の認識を共有したところで、全体で議論を進めていきます。佐々木先生が議長をされますが、いろいろ議論になっていることには、自由に手を挙げて発言していただきますよう、よろしくお願いいたします。ここから佐々木議長にマイクをお渡しします。よろしくお願いします。

(佐々木) まず前半は、宮田さんに昨日の前半について振り返っていただくということでお願いします。

(宮田) 昨日は、最初に日産自動車の取締役副会長で日本産業革新機構CEOの志賀様からお話を頂き、幾つか非常に重要なキーワードを挙げていただきました。最初は自動運転やモビリティなどのお話で、自動車というものが発明されてから131年たっていて、ほとんど大きな進化はしてこなかった。それが現在変わろうとしているのではないかということでした。「CASE」というのは、「つながる・自動運転・カーシェアリング・電気自動車」それぞれの頭文字を取った言葉なのですが、これらがこれからのキーワードになっていく。131年間変わらなかったものが、まさに変わろうとしているのが、今であるということでした。  また、2050年には完全自動運転になり、人間が運転する車は公道を走れなくなるだろうとおっしゃっていました。自動車メーカー全体が、交通事故ゼロを目指しています。「CASE」の「つながる」という話ですが、全ての車がネットワークでつながることで、恐らく渋滞もなくなるだろう。そうなってくると、道路事情も変わって、まちづくりそのものも変わってくるのではないか。全ての車の行き先があらかじめ分かっていれば、変な運転をする人もいなくなるし、渋滞もなくなるので、車線など、そもそもなくてもいいのではないかというお話が出ていました。結構刺激的なお話でしたが、言われてみるとそのとおりだと感じました。  まち全体については、多様性やオープンイノベーションと呼ばれるもの、それといわゆるアントレプレナー(起業家)、こういった多様性を増やしていくこと自体がイノベーションにつながっていくのだろうと。  ちょっとまとめますと、まず車線が要らなくなる。自動車を呼べば勝手に来るので、駐車場という概念もなくなるだろうと。人間が運転しないから、運転免許もなくなるのではないかというお話でした。昨日、四つのセッションがあったのですが、志賀様は全てにつながるようなお話をしてくださっていました。  次にプレゼンテーションを頂いたのは、WHILLという、非常にかっこいいパーソナルモビリティ。実際にここにも展示してあります。何と言いますか、今まで乗ったことがない乗り物なのですが、乗った瞬間に運転の仕方が分かるというか、本当に素晴らしい機械です。

***ビデオ上映 開始***  
これはその場で回転するのです。スマートフォンでも操作ができます。
***ビデオ上映 終了***  

 昨日、これをプレゼンテーションしてくださったWHILL代表取締役の福岡さんは、非常に印象に残ることをおっしゃっていました。まちによって最適なインフラは違うだろう。あと、これから来る社会の移動手段として、WHILLは非常に重要になるのではないかと。これに乗ることによって、外に出たくなるというか、オープンマインドの創出があるだろうというお話をされていました。  ちょっと福岡さんにも、昨日のお話について一言頂きたいと思うのですが。

(福岡) おはようございます。WHILLの福岡です。年を取ると本当に歩けなくなってくる、足で歩行できる距離はちょっとずつ、ちょっとずつ短くなってくるので、それが一定のところを超えて歩行可能距離が短くなった後は、家にどんどん引きこもってしまうのです。そうやってみんなが外に出なくなっていくのをこういう商品で何とか解決して、みんなが外に出る社会をつくりたいと思っています。  また、これを使ったらもっと外に行けるとか、気軽に外に行こうと思えるようなイメージを作っていくために、今回、まちづくりという形でも一つ貢献できる場があるのではないかと思って、来させていただきました。

(宮田) どうもありがとうございました。WHILLは、まちの中を動いていて、それに乗って、ここから先へ移動したいというイメージが本当に付きやすいので、ぜひこういうものを金沢に導入していけたら面白いと思いました。  次は「シェアリングエコノミー」です。聞いたことがある人とない人がいると思うのですが、tsumugという会社の代表取締役牧田さんに来ていただきまして、それは一体何なのかというお話を頂きました。これは「TiNK」と呼ぶのですが、いわゆる鍵の未来です。  これが裏側というか、内側の鍵そのものになります。これはスマートフォンや交通機関系のICカードなど、いろいろなものをかざしたり、テンキーで開けたりできるという、今までの物理的な鍵ではなく、電子的な鍵になります。非常に暗号化されたセキュアな状態で、鍵というものを置き換えるという製品でした。  実際、それでどんなことができるかというビデオを二つほど見ていただきたいと思います。30秒くらいです。

***ビデオ上映 開始***

<ケース1>  彼氏の鍵をスマホ1個で削除してしまうという、恐ろしい機能が付いています。
<ケース2>  次にもう一つ見てもらいます。これは、鍵を介して他の事業者とつながるようなイメージです。
***ビデオ上映 終了***  こんなに散らかった部屋は嫌だと思いますが、スマホ一つで鍵を開けることによって、

 家事代行サービスの方と接続して、掃除までしてくれるというようなことができます。 これはいわゆる、簡単に言えば鍵なのですが、その鍵を張り巡らせることによって、玄関の他に部屋の鍵など、家の中には結構たくさん鍵があると思うのですが、例えばこれを住宅に付けた場合にどうなのかをちょっと見ていただきたいと思います。  これが普通の家だとします。
  シェアリングエコノミーの例なのですが、可変可能なアクセス領域として、例えば入れる部屋と入れない部屋。スマホで、例えばこの部屋は福岡さんが開けることができる、この部屋は米倉さんが開けることができるというように、コントロールできるわけです。  
  そうするとどうなるかと言うと、例えばこの緑の部分は福岡さんだけがアクセスできます。青の部分は米倉さんだけがアクセスできます。黄色の部分はこの家のオーナーが使っている部分というように。 どんどんアクセス可能な領域を変えることができます。  
  次のスライドへ行くと、また違うバランスになるというわけです。  これはどんなことかと言うと、最近Airbnbなどがはやっています。自分の家に1日だけ誰かを泊めるとか。そういうときに、どうしても入ってほしくない部屋などがあると思うのですが、いちいち物理的に鍵をガチャガチャやっていると面倒くさいではないですか。それを、今日はこういう予定だからとピッとやると、アクセスできる領域が変わっていくのです。それをやることによって、住宅そのものも新しい概念で建てることができるのではないかと思います。  いわゆるシェアリングエコノミーの、ちょっと分かりやすい例だと思ったので、同じような話ですが、図として見ていただきました。  

  最後にプレゼンテーションを頂いたのは、オルツという謎の会社です。本当に僕も目からうろこがいっぱいあったのですが、今回のキーテーマであるAI(人工知能)を使って、オルツという会社は分身を作るというお話をされていました。分身というと、藤子・F・不二雄先生の漫画で、赤い鼻のロボットの鼻を押すと、もう一人自分が生まれるというのがありましたが、まさにそういう話だと思います。  
  昨日、「皆さん、分身がいたら何をしますか」ということを問い掛けてくださいました。そう言われると、分身がいたことがないので、最初はあまり想像できないのですが、いたらどうなるかという一つの解として、「人間はしたいことをするだろう」というお話を頂きました。ここをちょっと簡単に米倉さんに説明していただきたいのですが。

(米倉)僕らが作っているのは、汎用型AI(AGI)というもので、次のAIの技術を使っています。それは簡単に言うと、人間の脳を作ろうとしているようなものです。その脳が作られていったときにどのように使うかというと、われわれはその人本人のコピーを作ることをテーマにしています。  
  これは私が昔から考えていることですが、「分身がいたら、あなたは今、何をしますか」と尋ねると、瞬間的にみんなしたいことを話すのです。それはなぜかというと、実はみんなが心の中で、「したい」と思っていることが、本当の自分がやらなければいけないことだと感じていて、多分、そこに価値があると感じるからだろうと思っています。  
  私はかなりAI系のタカ派なので、テックに関してはかなりタカ派の立ち位置でしゃべるのですが、かなりいろいろなところで人間が今、仕事だと考えていたり、労役という言葉が合っているかと思うのですが、労役だと思っている部分が、ロボットにどんどん代替されていきます。そのスピードは、想像以上に速いだろうと実感しています。  それを前提としたときに、人とロボットの世界はどのようにあるべきか。それに関しては、人はやりたいことをどんどんやっていって、そこに価値を見いだすと。そういう社会をつくっていくことが大事だろうと考えています。

(宮田) どうもありがとうございます。人工知能が、これから本格的になるというようなことを、ここ数年いわれているのですが、それでよく人間の仕事を奪われるなど、結構怖い話ばかりをいわれていたのです。しかし、昨日お話を聞いたら、全然そうではないのだなと思いました。本当にやりたことをやるというのは、まさにそうだなと思ったのです。  昨日の米倉さんの人工知能のお話のまとめとしては、どんな世界になるかというと、人間の想像力がより高まる世界になるのだろうということだと思います。なので、安心してくださいという感じです。  少しまとめますが、今回の人工知能とまちづくりというところで、AIによって人間中心のまちに回帰するだろうという話になりました。われわれが、ここ何十年、近代化とともに失ったモノやコトを取り戻すチャンスは、もしかしたらこの金沢から始まるのではないのかと思いました。  
  以上、昨日のプレゼンテーションのまとめとしてお話しさせていただきました。  そして牧田さん。

(牧田) では一言だけ。鍵についてなのですが、鍵は実は物理的な機構としては、もう4000年以上変わっていないといわれています。物理的なものなので、コピーが取れてしまったり、あと誰が実際に使っているかを、私たちが知ることはできません。実際に私が開けていたとしても、本当に牧田恵里という人物が開けているのかどうかというのは、現時点の鍵では知ることができないのです。  そういった既存の「安全」だと信じられている価値観を、「本当にそれは安全なのか」というところから、鍵を考え直してみようということで、TiNKを作っています。

(宮田) なるほど。鍵というものは、4000年も前からあったのですか。

(牧田) 物理的な、てこの原理で、デッドボルトを出したり入れたりするので、変わっていないと聞いています。

(宮田) 4000年変わっていなかったものを、牧田恵里が変えようとしているのですね。

(佐々木) ありがとうございました。水野先生、続けてお話になりますか?

(水野) 四つのプレゼンテーションでは、これからITの技術が、指数関数的に進化していくのではないかという予測を頂きました。何か世の中が変わりそうだということを実感しております。  そんな中で、「AIと考える尾張町」という非常にリアルな、アナログなテーマを持ってきました。一つは、今の四つの発表の中にも出ている部分なのですが、人間の移動手段が大きく変わるのではないかということだと思います。  今、車は95%駐車している状態にあるということ、それから事故で年間何千人と死者を出しているということ、あるいはエネルギーの問題、CO2の問題もあります。あるいは、今のガソリンの自動車は部品数がめちゃくちゃ多いのです。それが電動化すると、3分の1くらい減るのではないかといわれています。それが自動化を可能にしていきます。それからAIと結び付くと、カーシェアやライドシェアなど、いろいろなシェアを可能にしていきます。
 
  それから、先ほどパーソナルモビリティの話がありましたが、5人乗れる自動車はそれほど必要がなくなり、小さな車も増えていくでしょう。そうすると、移動のための空間を、日本の都市は全体的に、拡張、拡張で、いっぱい造ってきました。駐車場もいっぱい造ってきたのですが、その必要がなくなってきます。そのとき、日本の都市空間は変わってくるだろうというのが、最初のテーマでした。  片や、金沢という都市は、実は江戸時代の骨格をほとんど残しています。半径2kmの範囲の旧市街ですが、歩ける都市であったところに都市計画道路という形で拡幅して、自動車が何となく幹線を走れるように変更していったという歴史があります。そういった道路体系が、これから変わるだろうということが十分予測されるわけです。  完全に車の自動化や共有化、パーソナル化が達成されるのはいつごろかについて、大体20年後から始まるだろうという大胆予測がありました。都市を考える、都市計画を考えると、20年先というのは今から立てないといけない目標に入ってくるわけです。そんな中で、日本の都市空間も変わるだろう、金沢の都市空間も変わるだろう、そのモデル地区として、尾張町界隈を考えようということになったわけです。  
 
  尾張町界隈を考える理由については、竹村先生から指摘がり、金沢には駅から武蔵、武蔵から香林坊、香林坊から片町という幹線道路があります。それから駅西に、駅から港までの幹線道路があります。いずれも車社会に対応して、拡張して、完了しました。それと同時に、都市機能としてのその沿道空間もガラッと変わりました。  最初に変わったのが香林坊から片町のあたりです。戦後の近代化事業という形で、木造の町家群、商家群を鉄筋コンクリートの燃えないものに、要するに、都市の不燃化戦略が、戦後、日本の全部の都市に普及しました。全国画一な不燃化のまち、燃えないまちをつくろうという戦略で、近代化事業を成し遂げました。  それから、バブルも含めて日本が高度成長していくときに、武蔵ヶ辻から香林坊の間のビジネス街が、金融単機能のまちに変わりました。日銀があった関係で、銀行も信金も生保も損保も証券も、みんなそこに支店を構えて、雨後のたけのこのようにビルを造ってきました。それが今、バブルがはじけて再編の時期に入っています。単機能から多機能化へといった形で、コンバージョンを繰り返しています。ホテルができたり、ブティックが入ったり、専門学校が進出したり、いろいろな形で変身してきています。同じく先ほどの片町界隈も、今までの古い商い、単純に不燃化のためだけの町並みをつくってしまったものですから、改編する力がなくなって魅力がなくなってきてしまって、今、再編に入っています。  そ
  して駅から武蔵の間は、今ようやっと10本くらいの再開発ビルができました。今、最後のビルに着工中ですが、そこには商業・業務・宿泊・居住、多機能化したものが完成しつつあります。それがどう再編されるか分かりませんが。  その中で唯一、未完の状態で残っているのが、武蔵から橋場に至る尾張町界隈の道です。ですから、金沢的な要素がまだいっぱい残っています。木造も40%残っています。商いも、ろうそく屋さんやお香屋さん、お麩屋さん、麹屋さん、あるいは昔からある骨董屋さんや美術商、薬屋さんなど、非常に古い商いが残っています。もちろん新しい商いも入ってきています。そういう多機能で、しかもいろいろ歴史的で、建築的にも、明治のもの、江戸のもの、大正のもの、昭和のもの、平成のもの、みんな残っています。だから何か面白い、ガチャガチャのまちと言えばガチャガチャのまちです。多様な存在があるまちです。しかも、都市計画道路の拡幅が完了していなくて、未完の状態で残っています。これは面白いです。  ここで、何か新たな再編集を試みてはどうか。今の拡幅という方針をストップさせて、再編する、そういう試みに入ってはどうだという提案が、宮下先生からなされました。金沢全体が、再編の時期に入ってきている、日本全体が再編の時期に入ってきている。そういう状況をつかんで、尾張町をそのモデル地区にしたいということでした。  

 そのときに、AIがどれだけ絡むのか、正直なところ発見できなかったというのが、私の気持ちです。ツールとして商いがどうなのか、一人一人のクリエイティビティがどうやったら高まるのか、それから観光客がどう動くのか、そういう一つ一つのデータを拾ってきて、そのデータを作り、それを基に考えることまではできるのでしょう。しかし何となくAIが「こうした方がいいんじゃない」と言ってくれそうな雰囲気も感じていたのです。しかしそうではなくて、米倉さんからも先ほど出ていたように、AIによって人間中心のまちに回帰するとか、あるいは人間の想像力がより高まる世界だとか、そういうことを聞くと、やはりそのときにどうしたいのだというわれわれの、金沢市民の意思が大事なのだということを、大体感じております。その意思をどうつくっていくか、それが、われわれクリエイティブシティを発展させる、伸ばす大事なポイントではないかということを確認しました。

(佐々木) どうもありがとうございました。  まず志賀さんが言われたのは、ともかく大量生産・大量消費・大量流通の時代は、AIと共に終わるということでした。大企業のトップの口から、あれだけはっきり言われたことに驚かされました。一方で、うんと簡単な機構になって、どんな会社でも参入できるようになると共に、極めて個性化された個人の好みにフィットする、そういった工芸的なものづくりの自動車が好まれる、多分そのように変わってくるだろうと。そういう意味でいくと、金沢の工芸の未来形が車にも及ぶと思いました。  

  また、米倉さんのプレゼンの最初のページ(ピカソ、バルセロナ)には、大いに同感するものがありました。私も、バルセロナはクリエイティブシティの最も代表的なところだと思うのです。そこで行われていることには、ラテン語で「ラボーロ」と「オペラ」という二つの概念があります。ラボーロというのは、大概苦役なのです。これは分身に任せておけばいいのです。本来の生身の人間は、オペラをする。オペラというのは、創造的な仕事という意味です。その割合を変えるということが、本来的な働き方改革なのです、今、政府は中途半端な言い方をしていますが。創造都市というのは、全ての人々がクリエイティビティを発揮できるような空間や時間を増やしていくことです。それには、AIは大変親和的です。同時に、水野先生が言われたように、大量生産の車、一昔前の車の流通に合わせた都市計画ではない、江戸時代の歩いている、その空間を残しているところが、またAIに親和的であるということです。金沢創造都市会議は、実はもうAIのことが感覚的に分かっていたのだと思うのです。それを先取りしてやってきたのが、われわれのまちづくりなのだという印象を持ちました。  

  鍵の話では、20年近く前、私がボローニャに留学中のエピソードなのですが、一つの部屋を借りていました。鍵を10本も渡されるのです。10本あるということが信頼性なのです。1本で開くような家は駄目です。全然信頼性がありません。それで、ズボンのポケットに穴が開いてしまうので、ベルトからつるすのです。あれは単なるファッションではないのです。本当に重くて穴が開いてしまうくらい、信頼性というのは重いものなのです。その4000年前からずっとあった鍵が、AIでうんと軽くなる。これまた面白いことです。軽くなったことによって、もっと新しい発想がわいてきたりします。そういう鍵にまつわる話というのも、4000年の時空を超えて、AIが解決するのだなと、改めてそういう印象を持ちました。  他にもいろいろ衝撃的な印象を受けたのですが、パネリストのプレゼンテーターの方で、さらにこういう話をしたいということがありましたら、まずお聞きしたいと思うのですが、福岡さんからいきましょうか。

(福岡) では、せんえつながら。昨日のお話を受けて、どういうまちなのか肌で感じてみようと思って、朝から尾張町へ行ってみたのです。すごく面白いと思ったのが、いわゆる昔の近代化というか、都市開発のように道路を広げようというのに対して、うちらの道は別に通路ではないよと、まち自体に魅力があるのだよという主張が、何かせめぎ合っているような雰囲気を結構感じました。  その一方で、かなり道路に押されて、歩行者に対しては、正直なところ、かなり厳しい場所だなと思いました。われわれはWHILLというモビリティを造っていまして、これは基本的に歩行者扱いなので、WHILLが走りやすいか走りにくいかを感じると同時に、それは歩行者にとって歩きやすいか歩きにくいか、歩きたいと思うかどうかというところと、感覚としてはすごく似ていると思っています。その中で、あの場所は、すごく興味深い建物や設備がいっぱいあるのに、歩行者にとって優しくないなと。なので、もったいないし、これは戦っている途中なのだなと感じたのです。 ここで、歩行者のための場所や道に、もう一回かじを戻してあげると、また一気にガラッと違う雰囲気になるのだろうと、強く感じました。

(佐々木) 確かにせめぎ合っているというのが、本当にあのまちの姿ですね。どうもありがとうございました。牧田さん、どうですか。

(牧田) まちづくりのような、都市計画という観点で、昨日出ていた話ですごく金沢らしいと思ったのは、やはりいろいろな方たちが来るから多様性に対応していかなければいけないという話です。 どんどん、海外の方がいらっしゃったり、金沢という場所に初めていらっしゃる方が来たり、人が多様化するときに多分、空間や場所も多様化に対応していかなければいけないのだというのが、まちづくりの一つのテーマにもなったり、金沢らしいテーマにもなったりするのかというのを、いろいろな方の話を聞きながら体感していました。

(佐々木) 多様性ということとセレンディピティが生まれる場所が、鍵、TiNKによって実現しやすくなるというあたりが、とても面白いと感じました。  志賀さんが最初に言われましたが、多様性があってこそ、イノベーションが進むのは確かですよね。ですから、ともすれば伝統的なまちというのは、多様性を失いやすいのです。そこに例えば21世紀美術館ができることによって、うんと多様性が広がりました。われわれはそういったことをずっと広めてきたわけです。そういう多様性とセレンディピティとイノベーションのようなものを、またAIがうまく推進していくことになってくるのだろうと。米倉さん、そのあたりを。

(米倉) 私の会社はパーソナルAIを作っています。WHILLさんはパーソナルモビリティを造られていて、tsumugさんはキーですが、発想としては、キーワード的に3社とも、パーソナライズについて常に考えられていると思っています。  今までどちらかというと、マクロ、マクロにという方向で物事を考えていました。われわれはAIをやっているのですが、AIだとアメリカが圧倒的な力を持っていて、圧倒的にマクロの世界に入っているので、そこに対してマクロに向かうというのは本当に無駄なのです。本当に蟷螂の斧を感じるのですが、そこを違った視点に変えていく。その方が、実は個人の幸せには役に立つのではないか。そういう発想に転換できるきっかけになるものが、3社ともにあるのではないかと思っています。  
  パーソナルの視点へいったときに、私が気が課題だと思っているのは、セルフプロモーションの力です。金沢のまちの中には、信じられないくらいのテクニックを持っている職人の方などがいて、ちょっとまねもできない、40年、50年やっても無理なのではないかというものを持たれている方もいるかもしれないのです。恐らくそれを極めようと思うと、セルフプロモーションをしている場合ではないと感じられているのではないかと。  今までは本人がセルフプロモーションをやることによって成功させて、それが本当に成功者という印象を付けていたと思うのですが、そのセルフプロモーションの部分をAIやテクノロジーでかなりカバーできるのではないかと思っています。それを何か事例としてつくっていくことで、非常にスターの多いまちといいますか、そういったことなどもできるのではないかと思っておりました。ありがとうございました。

(佐々木) 「個人の力を最大限にしていく」、それがAIの活用だと。一方で、アメリカ型に進んでいるグローバルの波というのは、むしろ個人とはある意味では非常に乖離(かいり)的な要素がある。そこで、「和」ということをいきなり言われたのですよね。その「和」の意味をもう少し言ってくれると、何か金沢につながるような気がします。

(米倉) AI、いわゆる人工知能という言葉は、人間とは違う、コンピュータに脳みそが与えられていることを前提とした、仮想脳のようなものです。仮想脳にどのような役割を与えたいかといったときに、われわれはどちらかというと、コピー品、人間コピー、個人のコピーを作ろうとしているわけです。とても計算力があるので、忘れないなどの能力を持っている脳なので、統計処理に非常に向いています。それから全体の総意をうまく抜き出すのに、やはりAIというのは向いているところがあります。  なので現状として、どのように向かっていくのか、われわれが感じている共通項は何なのかというところを、言葉に出さずとも導き出すことに向いているので、いわゆる「和」です。「和」を感じて、どこに「和」があるのか、「和」とは何なのかが何となく可視化できていくということにつながっていくと思います。

(佐々木) その「和」は、やはりある種のコモンセンスですか。

(米倉) すごくここは幅広く取っていかなくてはいけないところです。「個」を取ろうというところに関して、曖昧に取られるとすごく残念な「和」になるのです。というのは、やはりかなり皆さん、何が大事かというと、ラッセルの『幸福論』ではないですが、大事なのはまず自分です。まず自分が幸福であることが大事であって、全員が持っている状況があるので、隣の人にも理解できない幸福の仕組みがあるわけです。そこを抜き出そうと考えると、その「個」に関するかなりの深い研究をされている信頼感のようなものが必要になってきます。そういうものをどうつくっていくかが大事かなと思います。

(佐々木) 昨日のお話から分かったのですが、AIの最先端というのは、とても哲学的になりますよね。既存の社会を構築しているものを全部組み替えることになるので、倫理観や哲学などがすごく求められると、改めて思いました。  大内先生、そのあたりも含めていかがですか。

(大内) 米倉さんの話に刺激されたのと、私が前から思っていることを加えてみたいのですが、都市計画図というものがあります。普通の方はそんなに身近なものではないのですが、行政を担当する者は必ず知っています。現状、都市計画図は、私に言わせると、あれは都市計画図ではなくて、都市計画制約図です。つまり、ここは高さはここまでですよとか、ここにはこういう制限がありますよと用途が色分けされていたりする。  しかも、問題は、実は2次元でしかないことです。AIの進歩によって、今は自動運転などもみんなそうですが、3次元で常にデータを読みながら自分をコントロールするということをしているわけです。3次元的にデータを解析しながらやるものは、これから世の中にどんどん増えていきます。WHILLなども将来、違ったさまざまな乗り物と、いろいろとお互いに協力しながらAIを介して、自分の動きをコントロールしていくようになります。  一方、もっと身近な例で言うと、一般の方たちと都市の将来。例えば尾張町の将来をどのように持っていったらいいか。これはやはり先ほど水野先生がおっしゃったように、金沢市民、あるいは尾張町の人たちの意思がどこにあるかをきちんと反映しなければいけませんし、外から来られる観光客のような方たちの意思も反映させなければいけません。  昨日も出ましたがGoogle Earthで上から見て、Googleストリートで横から見ることができて、完全な3次元とはまだ言えないかもしれませんが、ほぼ3次元的にものを見ることが、一般の方たちのツールとして当たり前になっています。しかしどういうわけか、いろいろな制約があるということはもちろん分かっているのですが、まだ行政の出すものはそうなっていません。  では金沢の、尾張町の市民の意思をどう反映して、これから尾張町をどうつくっていくのか。今のところPublic Involvementという公開ヒアリングのような形で、できるだけ多くの方たちの意見を聞きながらやっているのですが、ではそれをどう集約していくのかというときに、コンピュータの脳というのはすごく優れていて、過去のデータや、そこで誰がどう議論したかというところを全部記録していってくれます。また、その膨大な記録の中から、それをもし集約するとすれば、こういう案があり得ますよと、AIがある種代案を出してくれることさえ考えられます。例えばシンガポールの都市計画図などはもうどんどん、樹木の1本1本、電信柱の1本1本まで、3Dで完全に見られるようになっています。今、世界中でやっているわけではありませんが、北欧やデンマーク、オランダなども、ほとんど都市計画図は3次元で見られるのです。日本からも見ることができます。そういう時代になっていて、そしてさまざまな非常に新しいタイプの乗り物が、非常に多様な形で、道という空間を動き回る。しかもそれはAIを介しながら、クラウドにそのデータが上がっていますから  例えば尾張町をみんなで、どのようなまちの姿にしたいのか。あるいはどういう機能にしていきたいのか。現状は、多機能で面白いというところでとどまっていますが、それを20年後、30年後にどう持っていきたいのかと、例えば今日、米倉さんからご提案していただいたようなアプローチや、牧田さんのキーのようなところから入っていくことだってできます。WHILLをもっともっと活用するためには、まちをどういじったらいいかと問い掛け、AIと対話する。そのときに、前提となる都市計画が、例えば歴史的にはこうなっています、現状はこうなっていますというのが3次元のデータで入っていれば、今までにない、相当な議論ができるということです。  ごく一部では、日本でも、3次元で都市計画図を作ろうという試みがないわけではありません。何も行政の方たちだけでやる必要はないので、民間の企業にお願いするということでされればいいと思います。ぜひ、そういうトライをされたらいいと、私は思っています。

(佐々木) 竹村さん、昨日は尾張町についてモザイク状の良さがあるという話がありました。今、3次元の都市計画図、そして街路計画のこれからという話になってきましたが、いかがですか。

(竹村) 今の大内先生の3次元の話は、本当にもっともなお話だと思います。私どもも、市に問い合わせてみると、やはりまだ2次元のもので、オープンにはされていますが、なかなかそれでは一般の人が分かりづらい、どうやって計画に結び付けるかは、もう一つ次のステップにいくのではないかと思います。  2点ほどありまして、一つはAIとまちづくり、AIをどうやったら活用できるのかということです。昨日からのAIの話を聞いていると、われわれの想像をはるかに超えて、急速に進歩し、進化しています。実用化もされている現状が分かりました。 アルファ碁の後のアルファゼロは、将棋も囲碁も全部強いです。去年、アルファ碁が一番強い棋士に勝ちましたが、それに100戦連勝したというものもまた出てきました。10年ほどかかるのかなと思っていたものが1年でできて、さらにもっと短期間にここまでになるという、本当に私たちの想像を全く超えた状況かと思っています。  この都市計画の中でAIは今どうかというと、実は未開というか、未知の世界に近いと思っています。割と防災など、ターゲットがある程度特定されて、データなどがたくさんあったものに対して、AIはものすごく迅速に効率的にやってくれて、すごく効果があるのではないかと思います。ただ、都市計画の哲学やポリシーといった場合、昔の、例えば後藤新平ならどうつくるか、丹下健三ならどうつくるか、○○市長ならどうつくるかなど、いろいろその人の都市計画の哲学を入れて、「こういうまちづくりをするのだ」といった場合、実はデータをたくさん入れないと、多分AIは働かないのかなと。ではどのように入れていくのかとなると、こういう複雑多岐にわたる命題があると、なかなかその解が分からない、解けないところがあって、これは悩みです。ただ、昨日のお話を聞いていて、これは自分が考える以上にどんどん進んでくれるのかなと思います。  昨日のまちづくりに関係して言うと、今の交通問題、あるいは地域のコミュニティや防災など、少しターゲットを絞って、そういうところに対して応用していく。要は、単に効率的に、計算などでスピーディーに処理するだけではなく、人間性、人間重視という視点を入れていった場合に、AIはどう考えるのか。地元の全体の総意やコンセンサスを得るために、一番スピーディーに、的確に判断してくれるかもしれないと考えると、AIに対する活用の期待が、これから非常に願ってやまない、そういう状況です。  尾張町の将来像なのですが、やはりこの多様性、モザイク状にあって、立体的にも平面的にもでこぼこしています。要は、これを逆に良しと見て、こういう多様性を受け入れたモザイクタウンというか、市でいうとモザイクシティになると思うのですが、そういうものを施行する。多様性の共生を図って、人間優先の空間を構築する、これがまず一つの目標かと思います。  これに対して、やはりハード・ソフトの対策を持っていくべきかと思っています。一つは道路空間を再編成します。人間優先のために、AIを活用して何とか実現できないか。道路ができた昭和5年に、車は1台もありませんでした。40年たって、次はモータリゼーションで、路面電車や車のためにどんどん道幅を広げました。それからさらに40年たって、今度は車や人が減っていく、高齢化が進んで、自動運転などいろいろな分岐点になっていることを考えたときに、一つ目標として道路空間の再編成があるのかなと。  ハード的に言うと、このでこぼこを生かしてモザイク広場というものにするといいのかなと。今、尾張町市場とひがし茶屋街などの拠点があって、新幹線開通後、すごくにぎわっているわけです。そこへ狭い歩道を素通りしていくのが実情だと思うのです。そこで、でこぼこやコインパーキングをうまく活用して、観光客も地元の人も憩えるような広場、若者が集えるようなイベントやオープンカフェなど、多世代が交流できるスペースに生まれ変わらせる。そのように、ハード面でもきちんと目標を持つ。

(山野)今朝、新聞を拝見して、先ほど宮田さんのプレゼンや皆さんのお話をお聞きした感想のようなことを、少し述べさせていただければと思います。  車メーカーのリーダーである志賀さんから、131年変わっていなかった車がこれから劇的に変わる。劇的に変わるだけではなく、運転免許証までなくなるというのにはびっくりしましたが、そんな時代が来るのではないかというお話がありました。それから、鍵も4000年続いているのですね。その鍵がここで変わるという牧田さんのお話も、衝撃的にお聞きしました。さらに米倉さんからは、AIを突き詰めていって、もう一人のコピー人間ができたら自分は何をするか。好きなことをするだろうと。突き詰めていって、好きなことをすることで、人間は創造的な生き物になっていくのではないかというお話もすごく刺激的でしたし、なるほどなとも思いました。  実は今、武蔵から香林坊のいわゆる金融街だったところで、びっくりする勢いでホテルの計画がなされています。宿泊特化型のホテルが増えてくるとも聞いています。AIやコンピュータ化が進んでいくと、ホテルに人が来て、フロントでピッとやって、部屋にピッと行って、全部完結してしまう。それは一つのニーズだからいいのでしょうが、まちづくりの観点からすると、そういうホテルが 路面に続いてくるとつらいなという思いがあります。  今、担当部署とずっと話をしていて、来年度どんな形でできるかまだ分かりませんが、東急ホテルの1階にスタバがあって、オープンカフェのようになっていて、ホテルトラスティのところもオープンカフェになったらすごくいいと僕は思っています。あのエリアに、できれば、既に手遅れのところもあるかもしれませんが、オープンカフェ的なものや、何かベンチを置くことによって、そこで座って話し込んでもらうようなことができないのかな、そんなことが誘導できる施策はないのかな、それが活性化につながっていくのではないかと話しています。  米倉さんから、人間は突き詰めていくと最後は創造的な生き物になるのだという話を聞いて、オープンカフェでコーヒーを飲むことが、ベンチで話し込むことが創造的かどうかはともかくとして、センシャスというか感受性というか、そんなところに誘導する。誘導という言葉は語弊があるかもしれませんが、そっと持っていくことによって、人間的な通りに少しでもできればということを、こ3カ月ずっと担当部署などと話をしていましたので、今の米倉さんのお話を聞いて、言葉で説明するとそんなことなのかなという思いを強くしました。  2次元的な話になりますが、尾張町に関しては、今、国の方と市で、地元の皆さんと、武蔵から博労町、壽屋のあたりまでは、拡幅という方向で計画が進んでいます。博労町から橋場町のところは、これからまさに地域の皆さんと話し合っていきながらというところですが、ただ強い要望として、歩行環境の改善はぜひ図ってほしいという声が出ていて、それは国の方にも理解はしていただいていますし、われわれも同じ思いでいるところです。町並みを大切にしていきながら、一方では歯抜け状態になっているところをどのように活用していくか。守っていかなければいけないものは守っていく方向で、どんな形のものができるのか。自動運転であったりAIであったり、いろいろなものを活用できるヒントを教えてもらった気がします。ありがとうございました。

(宮下)昨日のお三方のお話を聞いていて、本当に何か、機能のデザインをそれぞれされているのですが、そのベースはみんな人の営みのデザインなのかなと感じました。  例えて言うならば、福岡さんのはWHILLに乗ることによって、むしろその人が時にはスターになってしまったり、それに乗ると外に出てみたくなるという話で、いわゆる単純な移動を何か違うものに広げているのだと思います。牧田さんの鍵で、4000年で非常に大きく変わった部分というと、鍵というのは今まで基本は閉めることだったのが、どうやって開けるかを考えているような気がして、これはものすごく大きな拡張だと思うのです。開ける楽しさを鍵が持つというか。そうすると、いろいろなものの使い方が変わると思うのです。米倉さんの話も、人が今、労働的なもので閉ざされている部分を、逆に明け渡すことで拡張して、自分がよりクリエイティビティなものになる、やりたいことをやれるという。そういう意味で言うと、広げている、皆さんのやりたいことや個性のようなものであったり、自分の行動というものを拡張するためのツールを、皆さん、それぞれの機能という立場でされているのではないかと思いました。  さらに言うと、今度は皆さんがそれぞれの個性でものを話してきたときに、恐らくそこにはいろいろなコンフリクトが生まれてくることもあるのです。恐らくまちの中というのは、いろいろな個性の総体という部分もありますから。でも、それがうまくいくと、まちの個性に変わっていく。下手をすると、それが問題となって起きてきてしまいます。では、その個人の個性や個人の拡張をどうやってまちの個性に変えていくかというときに、私はAIがものすごく面白い回答というか、データというかを、導き出してくれるのではないかと思うわけです。  われわれは常に建築を考えたり、まちを考えたりしますが、やはり当事者にはなかなかなれません。人々の中で、恐らく信頼性の高い、お互いに信頼性の高いまちとそうでないまちは全く違う姿を想像しないといけないと、まさにそんな感じだと思うのです。  先ほどの大内先生の3次元というものは、もしかするとさらにもう1次元、何か別の次元が入ってくるのかもしれない。それが時間なのか、人々の関係性なのか分かりませんし、4次元と言っていいのかも分かりませんが、3次元以上のものを考えるときに、やはりAIがすごく役立つのではないかなと。

(佐々木) オープンカフェなどは、実は創造都市会議で実験的にやりましたね。それはそれで、いろいろなところにつながっていったと思います。私はクリエイティビティという言葉を使うのですが、創造的な環境がまさに新しいアイデアを生んだりします。そういうモデル地区に尾張町界隈がなっていくというのは、一つの新しいプロジェクトとして意味があるかもしれません。浦さん、どうですか。

(浦) 昨日から今日も、個性やパーソナル、あるいは多様性、ダイバーシティといった話が、たくさんキーワードとして出ています。何か今までのAIというと、ビッグデータから皆さんの最適に楽しいものをマスの中から集計して、そういうものをまちづくりに生かしていくということでしたが、そうではなくて、ある種の多様性を強化していくような、そういう一つのツールのようなものだと感じています。  例えば大都市に多様性を入れるということと、この金沢で多様性をどう飲み込んでいくかは、かなり大きな課題だと思っています。大都市で何かやるというのは、大きなキャンパスに何かものを描いていくようなものです。でも金沢というのは、既に色の付いた小さな器で、その中にどういった多様性を入れていくかということが、これからの金沢の一つの大きな課題かと思っています。色の付いた器という、結構面倒くさいまちでもありまして、その面倒くささの中に、一人一人の多様性のようなものを顕著化しながら入れていく。先ほど米倉さんが「和」と言いましたが、そういった縮図の実験台として、このまちがあってもいいのかなと思っています。  
  少し具体的な提案をさせていただきたいのですが、この金沢というまちは、400年前に前田家が入ってきて、基本的には城下町なので、いかに人を侵入させないか。二つの川があってその中にまちづくりをして、いかにお城まで人が攻め入れないかということを考えていて、わざと小さな道であったり、行き止まりがあったり、まっすぐな道はほとんどないという構成になっています。  自動化運転の話など、交通という視点で言うと、尾張町の1本の通りを考えるよりも、もう少し面的に金沢を見ると面白いと思っています。尾張町のところから兼六園に出て、兼六園から香林坊、香林坊から武蔵、そして尾張町と、金沢城の周りをぐるぐると環状的に割と大きな道が通っていて、その中に小さな細々とした道があるのです。
  これから高齢化も進んでいきますし、2050年には全自動化されるという話なのですが、それまでやはりどのような交通形態を作っていくかは、かなり重要な課題だと思っています。例えばですが、定時運行できるバスをそのぐるぐるの中に入れ込んで、その中にパーソナルモビリティなどを組み合わせて新しい交通形態を作っていくような、そういうモデル地区に金沢がなれば、ちょっと面白いと思いますし、それでかなり劇的に変わるのではないかとも思います。  
  もう一つは、昨日は都市計画的な話が結構主だったと思うのですが、「AI×金沢の個性」のようなものをやればいいと思っています。「AI茶人」というのができないかなと。私はちょっとだけお茶を習っているのですが、今、金沢では、割と若い人でお茶を習う人が増えているのです。京都と金沢は今、お茶どころとして有名で、金沢にも茶人が何人かいらっしゃるのですが、そのようなパーソナル的なものをインストールする。お茶というのは空間、時間、それからどういった人をおもてなしするかという、日本文化のかなり高度な総合芸術的なところもありまして、「そういったもの×茶人の個性」のようなものをAIに入れながら、今までのいろいろなお茶会で、どういう器、どういう軸、どういうお花をやったかを読み込ませながら、AIのお茶人を少し研究していけばどうか。そして、できた茶人に逆にまちづくりの示唆を与えてもらえるような、そんなことができたら面白いなと、ちょっと感じております。

(佐々木) どうもありがとうございました。確かにお茶というのは、意味のやり取りなのですよね。なので、AIを入れたらすごく面白いですね。とんでもない新しいお題が出てきたりするかもしれません。浅田さん、どうですか。

(浅田) 今、頭の中にある幾つかをお話しさせていただくと、日本全国の観光都市は今、どこを切っても同じ、金太郎あめのような、個性個性と言いながら、気が付くと結構似たまちづくりになっているなと、いろいろなまちへ行くと思うのです。  今回は別に尾張町をやり玉に挙げたいわけでは全くないので、それを最初にお伝えしておきたいのですが、ただ尾張町が面白いと思うのは、例えば面の専門店や旗の専門店など、いろいろ面白い専門店があることです。日本全国のいろいろなまちでは商店がなくなって、イオンなどに取って代わられている中で、あのようなスペシャライズな専門店があるまちというのはすごく貴重だし、ああいうものは誰かの意思で守ろうとしない限りなくなっていく。老舗というのは誰かの意思がないと多分なくなっていくのだろうと感じています。そういう意味では、今の尾張町はこのままいくと、水野先生、建て替えは木造ではできないと昨日、おっしゃっていましたけれども。 (水野) 今の法律ではね。

(浅田) では、できないのですよね。

(水野) 宮下先生から、防火地域から準防地域へという提案があったのは、その木造を継続したいと。そんな都市は日本中にないのでやってみたいと。

(浅田) というわけで、尾張町に関しては、そんなことを感じております。  もう一つ、昨日、実は一番自分の心にフックになったのは、都市計画化された空間にはあまり面白みがないという渡邊さんのご意見でした。行ってみたい、面白そうだと思うところは計画化されていないところだというのは、今、都市計画やまちづくりということを話し合っている中で面白い意見だなとすごく思ったので、これはお伝えしたいと思いました。  最後に、どうしてもこの創造都市会議は、アンチ観光のような色合いがあると私は感じているので(笑)、観光の立場から。AIがどんどん発達していくと、やらなければいけない部分はAIに任せて、人はやりたいことをやっていくといったときに、クリエイティブという側面が一つ出てくるというお話がありました。昨日、米倉さんが壇上から「何をしたいですか」と呼び掛けたときに、ぱっと私の頭に思い浮かんだのは、「ハワイへ行ってサーフィンをしたい」ということでした。その余暇というか、宮下先生も「営み」とおっしゃいましたが、余暇を楽しむところは、AIがどんどん便利になっていくと同時に、両軸で考えなければいけないことのような気がしています。片方だけをやっていたら、どんどん嫌な世の中になっていってしまうのではないかと。人間らしい温かみや営み、そして余暇や観光。うまく説明できないのですが、アマンリゾートのような、ラグジュアリーに特化したリゾートという側面も、まちづくりの中では大事なのではないか。あまり機能性ばかり追い求めても、偏ったまちになってしまうなと。この3点です。すみません、まとまっていなくて。

(佐々木) 創造都市会議から出てきたプロジェクトで、クリエイティブツーリズムやクラフトツーリズムという、かなりマスツーリズムを超えた概念を出して、実験してきたと思います。つい最近はクラフトで、KOGEI Art Fairを成功させた本山さん、どうですか。

(本山) ちょうど11月24日から26日にかけて、金沢市内のホテル「KUMU金沢」でKOGEI Art Fairという、初めて工芸だけに特化した、現存の作家の新作を販売するアートフェアを金沢で開催しました。全国から、海外の方もいらっしゃいましたし、アートフェアというのがエンターテイメントなアクティビティになっている、それを目的にして人は来るのだという自信を深めたところもありました。 AIのデータ等で、何か内容をより深めていくツールとして役立つのであれば、アートを求める人たちがどういう行動をしているのかというデータを落とし込めると、また新しい、そういう観光とアートと融合したデータもあったら面白いのかなと思ったりもしました。  面白かったのは、昨日のお話で米倉さんのプレゼンが、最初ピカソから始まっていたことです。AIの説明で、いきなりピカソというアーティストが出てきた。クリエーションというか、創造性というのは、本当に人間の最後の聖域ではないかと思っていたところに、AIが進化していって、最後ASI(超人工知能)が生まれて、それは神になるという話でした。AIがクリエーションを獲得したときに神になるのか、そうしたら人間は何になるのだろうと思ったときに、昨日のAIの話を改めて深く聞いていると、先生が哲学的な領域とおっしゃって、まるで自分の姿を鏡に映して見ているような感覚にもなりました最後に残された領域のクリエーションというのは、やはり人間がやっていくべきところでもあるし、いろいろなことを取りとめもなく考えていると、20年後には取り扱い作家の中に、東京の彫刻家、アメリカの陶芸家、
  AIのペインターというラインナップが入ってくるのかなと考えたりもしました。  またAIに関しては、いろいろ感じるところがありました。作家さんやものを作っている人と日々対峙(たいじ)していて、「分身がいたら」ということを、また鏡のように考えたときに、「作るとは何か」ということを改めて考えたいというきっかけにもなりました。  まちづくりのことに落とし込めるかは分からないのですが、作家というのは、ある意味、多様性を具現化しているような存在だと思いますので、例えばクリエイティブなアーティストがモザイク状のまちのピースとして入っていって、アトリエ長屋や、それこそTiNKのような鍵を備えたシェアアトリエのようなものがあれば、もっとフレキシブルに、目的を同じくする人たちが流動するまちというのが、クリエイティビティに実現するのではないか。何か新しいまちの作家、作り手とまちの姿のようなものもできる気がしました。ありがとうございます。

(佐々木) 半田さん、清水さんという順番にいきましょうか。塚本さん、考えておいてね。

(半田) 本当に近い将来ではなく、遠い将来どうなるという話で、これから1年、2年、3年くらいでそれを使って何か実現する方向というのはあるのかなと、今ちょっと考えていました。  観光の話になりますが、われわれが例えば海外旅行へ行ったとき、アナログでface to faceは非常に大事だし、面白いまちだとは思うのですが、やはり欧米、ヨーロッパなどは、その裏側ではすごくITがきっちり組み込まれていて、いろいろなカード決済や、観光地がいわゆるiPhoneで全部出てくるなど、日本と比べて非常にしっかりしているという思いがあります。やはり今、もし変えるとすると、AIというよりITですが、特に海外から観光に来られる方というのは、どの国から来られるかによっても違います。ものすごく多様性があると思いますが、そういった方に合わせて、いろいろな歴史や知りたいことを教えられるようなAIと言いますか、検索エンジンでもありませんが、そういったものがあればいいなと。今、いろいろなところで、ソフトバンクのPepperが受付にいて、話し掛けると答えてくれたり、感情がこもったような挨拶をするわけです。ああいった技術で、来た人が何を見たいか、どういったものに興味を持っているかというデータを蓄積した上で、答えられるようなものができればいいなと思っています。  もう一つ、モザイク状のまちづくりということで、いわゆるオープンカフェのようなものも、本当にいいなと僕は思います。途中、歩いて行くにしても、休んだりちょっとお茶を飲んだりするところがあれば、非常にいいと思います。ただ、一つ残念だと思うことは、武蔵のバス停のところには少しオープンカフェが出ていますが、例えば、せっかく近江町市場の地下というところが空間的にあるわけです。店舗は入っていますが、そんなにちゃんとしたコンセプトのお店はありません。その一方で、あの通路と言いますか、近江町の中は、その場で飲食という人も非常に多いわけです。何かその辺が一体化して、武蔵あたりに少しそういったものができればいいなと思っています。

(佐々木) では清水さん。

(清水) 自分が一番興味を持ったのは、やはりAIの話で、特に分身を作るというものです。冒頭、この会議が始まるときに、創造都市会議と金沢学会、合わせて20年やっているという話でした。このラウンドテーブルの中で出てきた意見や、いろいろな議論。分身ということになると、例えば皆さんの分身ということで、記憶を全てAIに入れて、その中で共通項とは何なのかという統計処理をしたときに、自分たちがどんなことをやってきたのか見てみたいと思いました。  自分の専門は石油抽出なのですが、やはりコンピュータを使って、統計処理をして、何らかの共通項を出し、それで石油がどこにあるかを確率論的にやって穴を掘って探すわけです。実際、コンピュータを使ってやる中で、いっぱい間違ってきたわけです。地震の予測にしても、統計処理をして確実に起こると分かっていながら、その確率が低いことに安心感を持ったり、実際に共通項を探すにしても、やはりコンピュータに頼りすぎるというところで、僕たちは分身を作って、第三者的に自分たちを見つめ直さなければいけないということが、今、あるのかなと思いました。  志賀さんがインダストリー4.0の話をされて、今、経営者は精神や魂を鍛え直さなければいけないと。それと同じようなことが、やはりまちづくりの中にあって、何かをどうしようかという観点よりも、一回分身的な部分で、原点に返るということ自体も、自分自身にも必要なのかなと思いました。  ただ、分身を作ることによって、記憶したり、いろいろなことをAIに任せてしまえばいいということで少し安心しました。先月、脳ドックへ行ったら、「来年、もう一回再検してくれ」と言われまして、えらいショックを受けて(笑)、余計なことまで記憶していてやるべきことをやっていないのかなと思ったのですが、今回、記憶の部分はAIに任せればいいということで、少し安心した次第です。感想も含めてお話ししました。

(佐々木) 補完性の話、ちょっと待ってね、では塚本さん。

(福光) 塚本さんに今振りますが、ちょっとAIの話ばかりになっています。金沢のテーマ全般で議論していただいていいので。今、塚本さんは青年会議所の理事長ですが、スポーツ文化をもっとこのまちにつくろうということも随分一所懸命やっていただいています。そんなことも含めてのご発言をお願いします。

(塚本) 金沢青年会議所の塚本でございます。今年、金沢青年会議所では政策提言をまとめさせていただきました。どういったものかと申しますと、これからの金沢はエンターテイメントを通じたまちづくりをしていこうという内容です。その両輪となるのが、スポーツ文化と伝統文化です。  金沢というまちは、これまであまりスポーツ文化が定着してこなかったという歴史があります。そういった中で言うと、今はプロスポーツチームが、野球、バスケ、サッカーと3チームあります。また金沢青年会議所では今年、大学スポーツの活性化、石川版のNCAAをつくっていこうという政策を日本JCの政策コンテストにエントリーして、最優秀賞を頂いたという実績もあります。  先ほど、米倉さんからも、AIがセルフプロモーションするというお話がありました。このスポーツ文化が地域に定着するに当たって、AIがものすごく活用できるのではないかという可能性を感じた次第です。どんどんこのAIが市民に対してローカリズムを刺激するような情報を発信することによって、スポーツを楽しむ文化が金沢に定着していくのではないかということを考えました。  私は実は本業がタクシー業でして、Uberの誕生などから、自動車の、タクシーの将来像を何となく予測できるようになっていました。恐らく現行のビジネスモデルは、5年から10年くらいで破綻してしまうだろうという予測の中、このビジネスのプラットフォームをどこが握るのかをすごく危惧しているところです。海外の企業が日本中の交通プラットフォームを握ってしまうと、われわれは富を搾取されるだけと言いますか、そういった意味では自然な流れかもしれないのですが、怖いなと感じているところです。以上です。

(佐々木) AIの未来は明るい面もあれば、やや深刻な問題も当然あるということで、そのあたりも含めて、そろそろまとめ的発言を、では、まず福光さんから。

(福光) いろいろと勉強させていただいてありがとうございます。このまちは400年くらい、基本のフレームワークが同じです。要するに、中央にお城がある城下町であり、道路の根本は変わっていません。住んでいる人は、お城のご意向は大変尊重する。そのような中でいろいろな文化を継いできているという構造です。  この地はご存じのとおり、外様大名になったので、徳川に対して武力放棄しました。その代わり、地域経営を他の何かで考えなければいけなくなったので、簡単に言うと工芸で地域経営をしようと思って、全国から職人、名人を集めて、さらにその他に、集めてきた全国の工芸の、膨大なテクノロジーサンプル帳を作ったのです。それを「百工比照」といいます。従って、前田家的に考えると、米倉さんからお聞きしたようなAIの様子、それから福岡さんのパーソナルモビリティ、牧田さんの鍵の話、さまざまなこういう文化は、実は前田家であった金沢にみんな集まってもらうのがいいのではないかと思うわけです。  今、AI関係の「百工比照」をするということは、何らか特区になって皆さん方の研究所を全部金沢に造る。そして世界に貢献するまちになり、それに関わっていろいろな方に出入りしていただく、シリコンバレーに対応できる唯一のアジア拠点ができないかというのが一つです。つまり、AIの究極は神だということは、昨日分かりました。非常に分かりやすかったです。要するに、ずっとお城には神がおられるわけです。ですから、それが殿ではなくて神になるということで、そうすると金沢にそういう神々が集っていただくというのは大変素晴らしいわけです。そこから大きなイノベーションなどをいっぱいやっていって、その実験は全部金沢中心のこの地域でやっていると。そんなようなまちはいくらでもつくれると思うのです。  そのときに、実は人間は、芸術的な工芸を含めて、あるいは食文化や研究そのものなど、AIにできないことをしなければいけないことになります。ですので、ここはAIにできないことも随分すごいということにして、「神たるAIのゾーン」と「神が降りてきた人間のゾーン」として、名人たちが工芸を作ったり、あるいは伝統芸能の踊りを舞ったり、素晴らしいおいしいものを作ったり、そういうことをやっている、そういうまちにしようという気がするのです。  前田家がかつて外様になったとき、この地にさまざまな当時のスーパーディレクターたちを集めて、このまちをどうしようかと議論していたのがこのような会議であって、そこから工芸を中心としたクリエイティブシティになった。だから今、ユネスコのクリエイティブシティにもなったのです。その脈絡と、全く何の問題もなく一致しております。従って、あとは山野市長がどのようにされるか、僕らもまたお手伝いをして、そういうふうにつくっていくというのが、多分、日本のまちの中で最もここはやりやすいだろうと、そんなふうに思うのです。ですから、ぜひ、AIを直接われわれがどう使うかというのは徐々に分かってくると思うので、既に今、研究所や事業所を出していただくと市の方では歓迎する制度ができているのですが、「百工比照」的に、ここに何らかの特区を申請するか何かして、もっとそういうのを集めようと思ったらできるかもしれません。  それから既にたくさんの工芸、たくさんの食文化、たくさんの伝統芸能などがあります。近代化で失ったものは、多分交通と不燃化で失ったので、それを取り戻します。交通は昨日お聞きしたように、志賀さんのお話が本当であれば、ほとんど問題なくなっていくということですから、あとは不燃化、木造の技術が進んでいることも含めていくと、さまざまに面白いことが描けてくるのではないかと思います。

(佐々木) そろそろ、みんな納得した顔をしておりますが、では水野先生。

(水野) 今の福光さんのお話を受けてですが、多分、日本中の都市が、交通のための再編を始めると思うのです。そのときに、金沢は今言ったお城を中心に半径2km、この都市構造のインフラはほとんど江戸時代そのままです。そのインフラをきちんと守るということ、あるいはそこから発想を始めるということ、これは金沢のメリットだと思っています。  一方で、日本のほとんどの都市と同じくやった、金沢の南の方の住宅地開発、それから駅西の方の業務地区の開発をどうしていくか。駅西の方は今、発展途上ですので別としても、金沢の南の方の車社会に合った住宅地区、これをどう再編するかというのも、金沢が解答を出さなければいけない大きなテーマだろうと思っています。  そんな中で過去、金沢は武家屋敷など、あの辺にあった都市計画道路を廃止しているのです。非常に大きな決断を一回しています。それから、私が来た40年以上前では、用水にふたをどんどんして、車庫にしたり車道を広げたりする営みをしていたのです。そうしたら、福光さんのお父さんたちに当たる経済人たちが「あのふたを外せ」と言ったのです。車社会にとって不便かもしれないけれども、金沢の旧市街地に流れている50本の用水が金沢らしさだ、これを守らないで金沢と言えるかということで、用水のふたを外させたのです。それを経済人がやったのです。昭和42年に市電を廃止して、金沢が車社会に対応しようという、その勢いのときに「駄目だ」と言った。そういう見識のようなものがありました。そういう、都市計画をやめたりした見識があったということを忘れなければ、今度、この新しい金沢の再編事業も、必ずや成功するのではないかと期待しています。

(佐々木) 今日の会議も間もなく終わろうとしていますが、昨日からの会議を実際的にプロデュースされてきた宮田さん。 (宮田)今回も本当にいろいろ勉強になりました。今、水野先生のお話を聞いていたら、金沢というのは昔からむちゃくちゃなことをやってきているのですね。なので、今回もAIとまちづくりというのも、一見むちゃくちゃなテーマに聞こえるのですが、僕はそんなことはないと思って、今回お話しさせていただきました。去年からちょっと人工知能というテーマを少しずつ出させていただいたのですが、割と具体的に何か少しお話が見えてきたのと、そういう世界に向かっているのだな、これは止められないのだなというのは、もう皆さん何となく実感されたと思うのです。  それでどんな過去の歴史を振り返っても、やはりいろいろなものが塗り替えられてきて、われわれ人類は進化してきたと思います。その中で、どうやっていくのかと知恵を絞ることこそが人間のやるべきことで、昨日、米倉さんに見せていただいたようなものを見ると、本当に予想をはるかに超えたというお話が今日もありましたが、とはいえ予想どおりな世界だと思うのです。僕はそれにあらがうことはできないので、このままノーガードで死んでいこうと思います(笑)。  本当にそういうものをどのように生かして、われわれはよりクリエイティブに生きていくというのが、まずこのまちの近い未来なのかなと思いました。

(福光) 牧田さん、私が「百工比照」と申し上げたら、福岡にそういう特区があるとおっしゃいましたよね。人、いろいろなものを集める。ちょっと説明していただけますか。

(牧田) 私も詳しいわけではないのですが、安倍総理の3本の矢の一つで、日本でも起業支援をやっていく一環で、創業特区に福岡市が選定されて、そこから2年くらい、起業家の支援をいろいろな形でやっているのが現状です。今、tsumugが本社を登記しているところが、大名小学校といってだいぶ古い学校なのです。廃校になってしまって、その小学校自体をどう使っていくかを一般公募して、福岡地所、アパマンショップ、さくらインターネット、福岡市で、起業家向けのインキュベーションオフィスとして改装して、今使っています。 (宮田) あれは言い出してから実行まで、むちゃくちゃ早かったですよね。 (牧田) 早かったですね。

(宮田) 数カ月ですよね。

(牧田) はい、そうです。実質、内装工事だけなので、2カ月間くらいで複数のオフィスが入居する形まで持ってきています。  福岡市としては、そこに入居しているスタートアップの企業に対して、士業を無料で受けられるサポートをしたり、あとは実際にこれも使っている会社がいるのですが、法人税の減税サポートで多分50%くらいカットされていたり、あとは私たちのようなハードウエアを作っている会社に対しても、実際に製品化する前にどんな不具合がまちの中で起こり得るのかを検討するための実証実験をする特区エリアを作ってくださったり、そういった市としてのサポートを結構充実してやっています。  もちろんサポートも、市の方でどんなことをしていいのかが分からないので、結構、高島市長が割とスタートアップに近いところで、「どんなことが必要なの。遠慮なく言って」という感じで、ヒアリングをされています。元々アナウンサー出身の方なので、結構話しやすい雰囲気でいろいろヒアリングしていただいているというところもあると思うのですが、そこから生まれた仕組みも幾つかあるようです。

(米沢) 先日、「日本海サミット」があって、そこで福岡市長とお話をしたのですが、二つの都市に共通しているのは、観光客が来すぎて市民が困っている。 福岡には年間390隻のクルーズ船が入ってきていて、毎日50、60台の観光客を乗せたバスがまちを走り回っているのです。  そういう話をしていましたら、他のまちの人たちからは「おまえたち、自慢話をしているんじゃないか」と言われたのですが、そういうことではなくて本当に困っているのです。まちの方向性を真剣に考えているということが他の都市の人たちには分かってもらえなかったのです。そういう話を福岡市長としたことを思い出しました。

(佐々木) 京都も金沢も福岡も、マスツーリズムを超えて、どうやって本来の創造都市にしていくかという話ですよね。  この会議を続けている中で、2009年にユネスコの創造都市ネットワークに認定されて、かれこれ10年になります。2015年には山野市長が自ら招致されて、クリエイティブシティネットワークの年次総会をここでやりました。そのときは世界69都市だったのですが、現在、世界180都市という形で、かなり大きなものになりまして、主要な都市がかなりカバーされました。  そういう中で、今年7月に金沢と同時期に認定された都市のモニタリング評価が発表されました。皆さん、金沢はそこそこいい評価をされていると思われていると思いますが、そこそこどころか、満点の評価だったのです。例えば、フランスのリヨンという都市は全然駄目なのですが、金沢は満点の評価を受けました。神戸よりも、金沢の方が高い評価を受けています。先ほど来ずっと出ていましたが、金沢の中心部、特に先進的なゾーンと言いますか、そこはやはり世界的な知性や、世界的な新しいアイデアが生まれてくるような場所(神の領域)として創造都市のコアにしていくということが、私は大事だと思っています。  ユネスコのネットワーク総会のときに山野市長が、創造都市研究所を、世界の研究所をここに持ちたいと提唱されました。当時、ユネスコからは、もうちょっと時期を待ってくれと言われたのですが、クリエイティブラボなどいろいろなものがありますが、金沢はやはり今こそ、AIの時代に、世界の都市のモデルになる。そういう気概を持って、しかも責任を果たすということが、ますます大事だなと改めて思っております。

(山野) 先ほど少し申し上げた具体的な施策を、ヒントも頂いたので進めていきたいと思っています。 宮田さんが、「AIとまちづくりという、とんでもないことを言っていると最初は思った」ということでしたが、実は僕もイメージがなかなか浮かびませんでした。今日、報道を見たときもそうだったかもしれません。しかし、こうやって今、皆さんの具体的な個別の事例をお聞きしながら話を聞いていると、つながってきつつあるなという思いもしています。今一度整理をして、また皆さんのご意見をそれぞれ個々にお聞きしながら、まちづくりに生かしていければと思います。今日はどうもありがとうございました。

     

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