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講演@「『自粛と緊縮で日本は自滅する』 〜半自粛と積極投資による『公衆免疫強靱化』」




















藤井 聡氏(京都大大学院工学研究科教授)

●プロフィール
京都大学工学部卒。同大学院工学研究科修士課程修了後、同大学工学部助手、同大学院工学研究科助手を経て、同大学博士(工学)取得。スウェーデン・イエテボリ大学心理学科客員研究員、東京工業大学大学院教授などを経て、2009年より京都大学大学院工学研究科教授。11年より同大学レジリエンス実践ユニット長、12年より同大学理事補。第2〜4次安倍内閣において内閣官房参与も務めた。52歳。

藤井氏の講演要旨は次の通り。

「半自粛」で経済を回す
財政規律の凍結は不可欠

 新型コロナウイルス禍の今年秋に「『自粛』と『緊縮』で日本は自滅する:菅総理への直言」(ビジネス社)と、「公衆免疫強靱化論:菅政権への提案」(啓文社書房)という2冊の本を上梓しました。
 「『自粛』と『緊縮』で日本は自滅する」では、コロナ禍の「新しい生活様式」で日本社会が壊れてしまうと警鐘を鳴らしています。いまの日本は、コロナに関して全体主義に陥っています。いわば「医療崩壊」という言葉が、戦前の「鬼畜米英」のような状況で、どれだけ理性的なことを言っても「君は医療崩壊するリスクを高めたいのか」となってしまいます。
 国内には「自粛しなければ多くの人が死んでしまう」「緊縮しないと日本は借金が膨らんで破綻する」という声が蔓延していますが、過剰な自粛、緊縮によって、日本は確実に自滅します。
 「公衆免疫強靱化論」は本日の講師の一人の宮沢先生と編集させていただきました。「半自粛」でリスクの高い高齢者の感染を防ぐと同時に、集団免疫を確立しようというものです。
 基本的にコロナの感染経路は「接触」「飛沫」「空気」の三つしかありません。接触感染はウイルスの付いたドアノブや手すりなどの物に触れたりした手で、自分の鼻や口を触って感染することです。飛沫感染はせきやくしゃみ、会話によって飛び散ったしぶきに含まれるウイルスを、近くにいる人が吸い込んで感染することです。もう一つの空気感染は、密閉された空間でウイルスを含んだ唾液の粒がエアロゾルと化し、他の人がそれを吸い続けて感染することですが、これはほとんどありません。
 つまり接触、飛沫の二つの感染対策を取れば良いのです。まず目、鼻、口を触らない。こまめに換気をする。食事中にマスクをしたり、ちょっと距離を取ったりする。経済に副作用のないものだけをやって、それで十分に感染症対策ができるのであればそれでいいというのが半自粛の考え方です。

若年層にとっては風邪と大差なし

 年齢別の感染者数と死者数、重症者数、軽症・無症状者数のデータを見ると、40代以下の人にとっては、コロナは風邪と大差ありません。一部の例外のケースをのぞくと、死者、重症者はほとんどいません。50代でも死者、重症者はまれです。80代以上の人がコロナに感染しても大半が助かります。
 日本では近年、肺炎が原因で年間約9万人が亡くなっています。コロナで重症化したり、亡くなったりする人は、基礎疾患のある人が多く、仮にコロナとは別の原因で肺炎になっても、同じ症状が出てしまうリスクが一定以上ある方々と考えられます。


過剰な自粛が社会を破壊

 木直道北海道知事は11月18日に不要不急の外出自粛を要請しました。24日には吉村洋文大阪府知事が一部エリアの飲食店へ時短要請し、翌25日には小池百合子東京都知事が飲食店の時短要請に踏み切りました。理由は全て医療崩壊を防ぐためです。
 しかし、医療崩壊を防ぐためにこうした要請を行った当時の重症者数は、北海道が18人、大阪府が98人、東京都が41人です。わずかこれだけです。冬になって寒くなれば、コロナが流行することは分かっていました。それなのに病床を増やしておかなかったのは明らかな怠慢でしょう。
 諸外国の事例を見てみましょう。フランスは1日の新規感染者数が5000人を下回ればロックダウンの解除となります。フランスの人口は日本の半分ほどですから、日本にたとえると、1日の新規感染者数が1万人を下回れば自粛を緩和するということです。
 また、イギリスは1日の新規感染者数が1万2000人を下回った段階で、ロックダウンを段階的に解除していきました。ところが日本では、1日の新規感染者数が2000人を超えた程度で知事が自粛要請を始めています。諸外国に比べて圧倒的に自粛要請が早いのです。
 コロナに関しては、欧米と東アジアで感染拡大速度が全然違うことも考慮しなければなりません。今年春の感染拡大時、欧米はわずか2週間で人口100万人当たりの死者数が10人を超えましたが、日本や中国、韓国、台湾はそうではありません。ゆえに韓国や台湾では、日本のような自粛は行われませんでした。


日本は日和見主義

 あるデータによると、4〜6月の日本の自粛度は欧米並みのマイナス20〜30%でしたが、韓国はマイナス3・3%、台湾はマイナス1・4%でした。欧米と違って、それほど死者はおらず、重症者も少なかったので、日本のような自粛はしなかったのです。要するに諸外国は、コロナによる死者数などのデータに基づいて自粛のレベルを決めたのに対し、日本は日和見主義的に過剰な自粛をしてしまったわけです。
 日本のコロナ対応能力は圧倒的に低いと言わざるを得ません。ヨーロッパの国々が多くの新規感染者がいてもロックダウンを解除できるのは、医療にゆとりがあるからです。
 日本はずっと緊縮財政を続けていて、お金がないから、東京も大阪も北海道も病床を増やせません。財政規律を緩めないとコロナ禍に勝てないのです。
 感染症法の適用にも問題があるでしょう。法律では感染症を危険度によって最も高い1類から相対的に低い5類まで分類していますが、コロナは、「2類感染症以上の取り扱い」です。毒性の高いSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)と同じ扱いです。患者の隔離などが必要となり、治療に手間がかかります。医師も病床も足りなくなるのは当然です。コロナは劣化版のSARSみたいなもので、「2類感染症以上の取り扱い」というのは早急に改めるべきです。


ヨーロッパの国々、消費減税でV字回復

 自粛をすれば当然、国民の所得は下落します。日本の経済は冷え込み、ぼろぼろの状態になりました。自殺も急増中です。自殺者が増えているということは貧困化した人がいっぱいいるということです。
 ヨーロッパの国々も国民の所得は下落しました。しかし財政規律を凍結し、まず消費税の減税を行いました。同時に多くの国で個人や法人の所得損失を補ほ填てんしています。
 イギリスは上限約50万円で、個人所得の80%を下回った分を国が毎月補填しています。毎月です。同じようなことをフランスもやっています。日本は10万円を一度配っただけです。
 ヨーロッパの国々は個人にも法人にもお金を配り続けています。どうしてこれができるかというと、財政規律が凍結され、国債が青天井に刷れるからです。この結果、ロックダウンが解除されると、消費がV字回復しました。
 日本はコロナの不況が終わるまで、緊縮財政を停止しなければなりません。消費税の凍結、最低でも5%減税が必須だと思います。EUレベルの所得補償も求められます。夜の街の店舗へもきちんと休業補償するべきです。


「知・情・意」で克服を

 人間の精神は「知・情・意」と言いますよね。「知」は知性、「情」は感情、「意」は意志や気概です。日本人は「知」と「情」はありますが、「意」が欠けていると思います。「意」がないとコロナ禍にやられてしまいます。韓国や台湾の人は「意」があるから自粛しなかったのです。ヨーロッパの人は「意」があるから財政規律を凍結したのです。
 日本人は「意」が欠けているから、「財政規律をやめたら怖い」「コロナは怖い」「自粛しよう」「緊縮のままでいこう」となるんだと思います。コロナ禍を克服するためには「知・情・意」はどれも大事です。自粛と緊縮のために日本が自滅するという事態は、何としても避けなければなりません。







 

 

 

 

 

 

 

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