第10回金沢創造都市会議

金沢創造都市会議2019 >セッションA

セッションA

「指定管理者制度 〜金沢方式を探る〜」

座  長: 浜崎 英明 (金沢経済同友会代表幹事)
現状報告: 宮本 伸一 氏(金沢芸術創造財団理事長)
八日市屋典之氏(金沢蓄音器館館長)
ゲ ス ト : 上村 章文 氏(地域創生プラットフォーム代表、総務省自治大学校客員教授)
進  行: 清水 義博 (金沢経済同友会理事)


セッション1












施設の魅力を引き出すための、民間活用の可能性とは

(清水) まずは「指定管理者制度〜金沢方式を探る〜」という議論をどのような経緯ですることになったかということをお話しさせていただきます。「指定管理者制度〜金沢方式を探る〜」ということで、経済同友会の中で座長として浜崎英明代表幹事、委員として林隆信理事、松田光司理事、私、清水義博の3人が、指定管理者制度のチームを編成して議論をしてきました。最初、まちのにぎわいの創出を考えるという中で、先ほど水野一郎先生が「これからはいい小屋だと人が来る」と、金沢歌劇座のお話でおっしゃいましたが、実はその「いい小屋」の指定管理をどうしようかということ自体を取り上げた背景を申し上げたいと思います。
 現状認識としては、現在の文化施設は、利用者目線から見ると利用しづらいのではないかということをまず話し合いました。なぜ利用しにくいかというと、開館時間の9時というのは普通の時間かなと思うのですが、閉館時間の17時は早すぎて、来訪者が行動する上で制約になっているのではないかとか、施設全館が一斉休館である。月曜日が休館なのですが、例外はありながらも、これは来訪者のみならず企画立案の自由度を狭めていないだろうかとか、時間に関してのいろいろな部分を、利用者目線から見て変えていくことはできないだろうか。あるいは、広報という部分に関しても、スマホを片手に観光者が右往左往しているのはよくまちなかで見られますが、実際に住んでいる僕らにしても、今この時間が空いたから、何かあればどこかに行きたいなというときに、タイムリーにスマホで館の状態を確認できるような広報には、今はなっていないと思います。努力はされているとは思いますけれども、現状はそうです。
 であるならば、民間活用はということでいろいろ考えた場合に、指定管理者制度による民間活用に関しては、石川県がしいのき迎賓館を指定管理ということでやっていますが、比較ということからすると、市はその県よりも積極性という面では薄いのかなと。ただ、県が指定管理をやることによって、新たなにぎわいの創出であったり、訪問者の増加などが結果として出ているということ自体は新聞にも載っていましたし、指定管理者に民間を入れるとこうなるのだということを認識しました。
 一方、金沢市においては、指定管理者制度導入以降の当初から、当初というのは2003年(平成15年)の4月1日からですけれども、芸術文化施設27カ所を、公募せずに、金沢市が選定するとの基本方針の下で、現在は金沢市が設置した金沢芸術創造財団と金沢文化振興財団の二つの財団に管理を委ねられています。一時、アートホールの指定管理者に民間を活用したことがあるわけですけれども、5年間指定管理で民間を採用した上で、その民間の活用は打ち切られているという事実があることも分かりました。そういう中で、「民間活用を増やし、市民・県民はもとより来訪者に利用しやすく親しまれる文化施設に」を課題として、指定管理者制度の運用を取り上げました。
 では次に、本日の進行に関してお話ししたいと思います。指定管理者制度をテーマに取り上げた上で、まず現状認識ということでお二方にご発言いただきたいと思います。公益社団法人金沢芸術創造財団理事長の宮本伸一さんです。金沢芸術創造財団は市の設置した外郭団体で、現在、指定管理を市から請け負っています。現状ということでお話を頂きます。同じく現状認識で、金沢蓄音器館館長の八日市屋典之さんに、指定管理者として館を運営するということについて、現場の話を直接お聞きしたいと思います。その上で、実際に金沢市における指定管理者のあり方というものを金沢方式で考えようという中で、学ぶ必要があろうかということで、上村章文さん、地域創生プラットフォーム代表、総務省の自治大学校の客員教授をなさっておられる先生に、他の地域の事例についてお聞きします。最後に、一応討論を少し締めくくった後で、大内浩フェローにご意見等をお伺いして最後にまとめた上で、このセッションを終わりたいと思っております。
 金沢市選定の外郭団体である芸術創造財団の理事長の宮本伸一さんから、財団の現状に関し、財団の組織、事業内容、事業運営の実際のお話を頂き、多種多様な施設を一括管理する大変さもお聞かせいただければと思います。また、公共施設であるが故のご苦労や、人材育成等の課題についても触れていただければと思います。

(宮本) 当財団の現状について報告をさせていただきます。概要、実績、課題といった形で、報告をさせていただきます。
(以下スライド併用)

 まず、設置目的です。金沢市における芸術文化の創造に関する事業を積極的に企画実施し、市民の生涯にわたる芸術文化の土壌を醸成することにより、芸術文化の振興に寄与するということです。
 事業です。芸術文化の創造に関する事業。それから、市民に対する助言・指導。3番目として、芸術文化関係施設の管理運営の受託です。

 管理運営をしております施設です。まず、芸術文化ホールです。金沢歌劇座。歌劇座には1919席を有する大きなホールがございます。それから、金沢市文化ホール。これは899席。それから、金沢市アートホールは308席でございます。それから、芸術文化施設です。金沢市民芸術村。これは旧大和紡績の倉庫群を活用した、市民が練習や発表にも使用している施設です。それから、金沢卯辰山工芸工房。これは工芸の後継者育成のための施設です。この下に牧山ガラス工房、それからおしがはら工房というのがございます。あと、湯涌の方に金沢湯涌創作の森がございまして、これは古民家を活用して版画ですとかスクリーンなどの工房があって、いろいろ市民が創作活動に取り組むことができるような施設でございます。最後は美術館です。金沢21世紀美術館、それから隣接して金沢能楽美術館がございます。

 沿革です。平成5年に財団法人金沢市公共ホール運営財団として設立されました。12年には金沢卯辰山工芸工房と統合いたしまして、財団法人金沢市文化創造財団と改称しています。15年には財団法人金沢芸術創造財団と改称して、23年には公益法人改革により公益財団法人金沢芸術創造財団と改称して現在に至っております。

 組織です。計の欄を見ていただきたいと思います。全体で117人、そのうち市派遣職員が10名で8.6%、プロパー職員が55名で47.0%、臨時・非常勤職員が50人で44.4%という比率になっております。特に芸術文化ホールですとか芸術文化施設の部分では、臨時・非常勤の比率が60%を超えるような状況がございます。

 ここで、指定管理者制度について確認させていただきたいと思います。先ほどもお話がございましたが、平成15年度に自治法の改正により制度が創設されまして、公の施設の管理がそれまでは自治体、外郭団体のみだったものが民間も可能といった形になっています。16年度には21美に導入され、17年度は芸術文化施設、18年度は芸術文化ホールに導入されました。能楽美術館についてはこの年オープンし導入が図られています。30年度には利用料金制度および定額交付金制度が導入され、利用料金についてはこれまで市の歳入ということだったのが、指定管理者の収入という形になりました。実際にその運営財源が、これまではほとんどが指定管理料だったものが、利用料金収入と、当然、その分減額されるわけなのですが、その指定管理料で、このときからは定額という形になって、しっかり利用料金収入を稼がないとちゃんと運営できませんよという形になっています。
 実績になります。30年度の事業収支です。計の欄を見ていただきたいのですが、収入は、指定管理料が9億9600万円余で53%ほどを占めております。利用料金が5億9600万円ほどで31.6%。その他市補助金、委託料、入場料、販売とそれから助成金・協賛金等がもろもろございまして、トータルで18億8400万円の収入になっています。それから、支出ですが、施設運営費が12億6100万円ほどで69.5%、それから事業費が3億7000万円ほどで、この施設運営費と事業費で、9割ほどを占めるというような状況になっています。他に自主事業費、管理経費、市委託事業費等があって、トータルで18億1500万円という形になっております。

 実際に行っている事業です。施設の管理以外に取り組んでいることとして、まずホールですが、歌劇座の事業としてオペラを毎年やっております。それから文化ホールはティーンズミュージカルと、今年度は伝統舞踊劇を実施いたしました。アートホールでは、ベストオブアンサンブルやNEXT MUSIC LIFEというコンサートを開催しております。それから、芸術文化施設です。市民芸術村につきましては、アクションプラン事業というのは、市民芸術村にはドラマ工房・ミュージック工房・アート工房と三つありまして、それぞれに市民ディレクターがおります。この市民ディレクターの自主事業という形で、年間を通じてさまざまな事業を実施しております。それから、卯辰山工芸工房では、ここは技術研修者の研修がメインになるのですが、それをサポートするという形でアートフェアですとかインテリアライフスタイルへの出展、卯辰山茶会等を行っています。湯涌創作の森では、各工房の講座、作品展。AIRというのはアーティスト・イン・レジデンスの事業ですが、宿泊施設がございますのでそれを活用して滞在制作をしていただくというような事業を行っております。美術館の方では、当然のことですが展覧会。その他に教育普及事業、交流事業等を行っております。それから能楽美術館。ここでも当然なのですが企画展。それからもろもろの講座、楽器体験等も実施しております。その他で、事務局の事業課が行っている事業ですが、S.C.D.C.という創作ダンス事業、それからJAZZ GATEというジャズの事業、邦楽アウトリーチという出前公演というような形の事業、それからキッズアートキャンプという子どもの育成の事業ですとか、ナイトミュージアム事業につきましては、連休のとき、それから百万石まつり、それから7月の下旬から金沢マラソンにかけて、年間で50事業ほどの取り組みを行っております。

 利用実績です。25年度からの推移を見ていただければと思います。文化ホール等の休館があってきっちりとした形では出ておりませんが、29年度を見ていただくと、どのホールも65%前後というような状況です。

 ホールの利用者数です。水色が歌劇座、緑が文化ホール、赤がアートホールですが、29年度は文化ホールが休館していますので、28年度を見ていただきますと、歌劇座の方が大体35万人、文化ホールは20万人、アートホールは3万7000人、大体そのような感じの利用実績となっております。
  それから、芸術文化施設の実績でございます。芸術村は大体20万人前後。卯辰山工芸工房は、研修がメインですので説明は省略します。湯涌創作の森は2万5000人前後なのですが、29年度に湯涌街道が崩落し、それから大雪もあって落ち込みました。それがまだ回復できてないという、ちょっと厳しい状況もございます。それから、美術館につきましては、よくマスコミにも報道されておりますが、新幹線開業以降どっと増えまして、ちょうど27年度に230万人を超えて、昨年度は過去最高の258万人といった実績になっています。能楽美術館については、新幹線開業年に5万人弱の最高を記録したのですが、最近は新幹線開業前に戻ってしまったというような状況です。

 課題でございます。幾つか挙げているのですが、二つの項目に分けました。一つは芸術文化の振興発展に向けてというところで、芸術文化に関する多様な施設を運営することによる相乗効果の発揮ということで、困難性もあるのですが、逆に相乗効果を発揮していくことが大切ではないかと思って課題としております。それから、施設の利用者拡大・稼働率向上、事業の参加者拡大、ネットワーク拡充に向けた情報発信の強化も課題でございます。
 二つ目の柱で、サービス向上に向けた組織体制整備と業務の効率化といった点につきましては、組織のところでも触れましたが、市派遣職員への依存ですとか、それから非常勤職員の比率が高い状況における人材の育成・確保が大きな課題でございます。また、働き方改革に向けた業務の効率化および職場環境の改善というのも、イベントが非常に多いものですから効率化を図っていく必要があると思っております。また、文化ホールと卯辰山工芸工房につきましては改修も行ったわけですが、他の施設では老朽化が進んでおりますので、利用者の安全性や利便性の確保が大きな課題だと考えております。また最後に、利用料金制度、定額交付金制度の円滑な運用と、剰余金の活用による環境整備等もしっかり進めていく必要があると考えています。
 一応、課題解決に向けた現状の取り組み状況について触れさせていただきますと、まず、芸術文化の振興発展に向けて相乗効果を発揮していく必要があるということでの財団運営会議。これまでは館長会議という形で事務局からの報告がメインだったのですが、しっかり各施設連携を図っていく必要があるということで、財団の運営について協議をする場を設けております。また、その中でパフォーミングアーツ事業調整会議というものを今年度から新たに設置しまして、これについては芸術村の各工房と、パフォーミングスクエアという300人ぐらい入れるホールがございます。あと21世紀美術館にもシアター21というホールがございまして、これと歌劇座、文化ホール、アートホール、それぞれパフォーミングアーツの練習や発表ができる場ですので、その練習から発表まで各施設の役割分担と連携の強化をしっかり図り協議を進めているところです。
 それから、2番目の情報発信の強化については、広報連絡会議を今年度から設置いたしまして、21世紀美術館には専門の部署がございます。そこのノウハウも共有し、プロモーション活動を強化していこうという取り組みを進めております。
 取り組みの二つ目です。サービス向上に向けた組織体制整備と業務の効率化ですが、人材育成の確保の困難性克服では、今、受付を21世紀美術館では既に民間にお願いしているのですが、ここの部分を他の施設でも民間委託化の推進ができないかという検討を進めております。また、ホールの舞台技術業務、ホールにつきましては、季節によって非常に稼働率が変わります。最も高いときに合わせておくと人件費がかさみますので、そこの部分はアウトソーシングでいくしかないということで、民間委託化の推進が必要ではないかと考えております。逆に、舞台芸術の企画制作の専門スタッフについては、例えば採用するとか、中でしっかり育成をしていく必要があるのではないかと考えています。業務の効率化といったところでは、ICTの活用ですとか、ペーパーレス化を進めていく必要があると思っております。
 安全性および利便性確保といった点につきましては、委託業者と市との連携を強化していくこと。また、剰余金を有効に活用していくことも必要ではないかと思っております。
 最後に、利用料金制度、定額交付金制度の円滑な運用のために、執行管理の徹底、コスト縮減、各種財源の拡充ということで、助成金ですとか皆さま方からの協賛金等をしっかりとお願いしていく必要金沢芸術創造財団の現状について報告をさせていただきました。皆さま方には、引き続きご指導・ご協力を賜りますようお願い申し上げて、私からの報告とさせていただきます。

(清水) あとでまとめて少し討論ということになりますので、引き続き、現場の末端である八日市屋さんの方から、文化施設の館長として日常従事されておられる現場の現状をお聞かせいただきたいということと、館長自ら取り組まれる企画内容と他の地域から注目されているポイント、また、かつてはもう少し館長会議等でコミュニケーションを図られていたということもお聞きしていますので、現在の運営に何か欠けていることがあるとしたらということに触れていただければと思います。

(八日市屋) 今お話しいただいたのが芸術創造財団で、もう一つ文化振興財団というのが金沢にございまして、例えば泉鏡花記念館とか徳田秋聲記念館、それから室生犀星記念館、その他にもいろいろ、10館ちょっとの指定管理者となっていますが、その中の一つが金沢蓄音器館です。私は今、その金沢蓄音器館の館長をさせていただいておりますけれども、実際の現実の話、現場での話を、具体的な事例を少しお話しして、何かのご参考になればと思ってやってまいりました。
 いきなりですけれども、会場に入りましたときに蓄音器をかけさせていただきました。事務局から連絡がありまして、「パソコンを使いますか」と言ってきたので、そうしようかなと思ってちょっと考えていたのですけれども、「いや、ちょっと、それよりも今日集まる皆さまの中に、蓄音器の音を聴いたたことがある人はいるのだろうか」と思ったのです。それで、まずは蓄音器の音を聴いていただければと3曲だけ選んでかけさせていただきました。先ほどから何回かかけて、聴いていただいたとおりですが、蓄音器は初めての方はいらっしゃいますか? ああ、やはりいらっしゃいますか。やはり持ってきてよかったですね。
 蓄音器は、まず電気を全く使わないのです。電気を使いませんけれども、先ほどのあの大きさが出ます。では、今日はよほどでかい立派な蓄音器を持ってきたのかというと、ご覧のとおりポータブル蓄音器です。あのポータブル蓄音器は一体いつ作られたかといいますと、昭和8年、日本コロムビアが発売したものでして、当時の値段で100円でございました。そんなことを言われても、「チョコレートより安いな」と思うかもしれませんけれども、当時の初任給の大体3カ月分ぐらいとほぼ同じくらいの値段で、あの蓄音器は、ポータブルとはいえ、お聴きいただいたように大変にでかい音であり、そして高いものなのですね。
 そのような蓄音器で、昭和8年ですからあまりないと思いますけれども。あれがでかい音が出る理由は、電気を使わず、ただ溝に刻んだ音を針で拾うと、それで振動板が動いて、それを管、アームといいますが、その中の空気を振動させて、その中にラッパを通すわけですが、そのラッパが、あの蓄音器はいったん後ろに下がって、そして折れ曲がって二つに分かれてまた前に出て、それからもう一回また外に出す。つまり、ラッパをできるだけ長くしたラッパで、それであそこまでの音を出します。
 では、蓄音器はいつまで作られていたかといいますと、1951年(昭和26年)に日本コロムビアが発売した蓄音器が1万2000円でございました。当時は初任給が大体5000円とか6000円の時代ですから、2カ月分ぐらいの給料を使ってやっと買えた。それが実は最後の蓄音器でした。
 今、当館にあります台数は、当初は540でしたが、今は600を超えております。それにかけるレコードはSPレコードといって、1分間に回転数が78回なのですけれども、当初は2万枚でございましたけれども、今は全国からいろいろな寄贈がございまして、4万枚を超えております。しかし、送られてきたものが、まずほとんどはカビだらけです。そのカビを落とすのがなかなか大変で、そのカビを一生懸命カビキラーで磨くわけです。先ほど清水さんが私に「現場を」「現場を」ということをしきりにおっしゃったのはそういう意味で、自分で一生懸命カビキラーで磨いているのですね。
 そういう状況で、私自身が館長を仰せつかって一番大事にしていることは、実はその蓄音器の聴き比べなのです。エジソンが蓄音器を作りました。今日は12月5日で、明日は6日ですね。実は、明日は「音の日」といいまして、エジソンが蓄音器の音を初めて録音した日が明日です。何か今日はご縁かなと思ったりもしましたけれども、その蓄音器の音を聴いていただいているわけです。エジソンから始まりまして、全部で10種類ちょっとの蓄音器を1日に3回、11時、2時、4時の3回聴いていただいています。それが、私が蓄音器館を運営するにおいて最も大事なことだというふうに思い、一番力を入れさせていただいている当館の事業です。
 他にもいろいろなイベントをしておりまして、そのイベントは週1ぐらいのペースかな。大体月に4〜5回ぐらい、いろいろなイベントをしますけれども、それは金沢市民であるとか、あるいは近隣の人たちを対象としたイベントですが、その両方が当館の運営において最も力を入れてやっているものです。
 できまして今18年たちまして、当初の頃は一体どのようなお客さまがいらっしゃったかといいますと、「この蓄音器は昔、家にあったわ」とか「これ、よく私が聴いたやつや」とか、そういう声がすごく多かったのです。要するにノスタルジックといいましょうか、懐かしいというようなことがいっぱいあったわけですが、その中で私の印象に残っているのが、一つは「有楽町で逢いましょう」です。奈良から来られていたお父さん85歳、お母さん81歳とおっしゃいましたけれども、その曲を蓄音器でかけましたら、すぐに「これは昭和32年の音ですね」と言われたのです。「よくご存じですね」と申し上げたら、その奥様が何と言ったかというと、「当時は何もないときで、うちのお父さんとのデートでは、映画館によく行きました。映画が終わった後、横の喫茶店に行くと、いつもかかっていたのがこの『有楽町で逢いましょう』だったのです。だから、昭和32年だということをよく覚えているのです」とおっしゃったのですね。当時、コーヒーショップでコーヒーを飲んで、うちのお父さんと何を話していたか、全然印象はないけれども、ただ一つだけ覚えていることは、お父さんと目が合ったときに心臓がどきどきっとした。その思い出だと。その方にとっては、その音は大変大事な音だったわけです。
 もう一つが、先ほどかけましたビング・クロスビーの「White Christmas」です。これまたお越しいただいた女性の方でしたけれども、急に涙を流されたのでどうされたのかお聞きしましたら、「実はこのビング・クロスビーの『White Christmas』は、うちの父が、私がこんなに小さかったときに、いつもこのレコードをかけながらクリスマスプレゼントをくれたのです。この曲を聴いた瞬間に、あの優しかった父が目の前に現れたのです。父に会えたと思った。そうしたら涙が止まらなくなったのです」と言われたのです。このように、皆さん一人一人にいろんな音楽がある。そういうノスタルジックを感じる方が、当時はたくさんいらっしゃったわけですが、最近はそれがだいぶ変わってまいりまして、蓄音器館に来るお客さまの数は、年々伸びてきています。新幹線の伸びが一番大きいと思いますけれども。
 どういう人たちが来ているかというと、若い人たちなのですね。これもいろいろな事例がございます。面白いことがいっぱいありまして、一つは、東京から来た女性で28歳だとおっしゃっていましたけれども、サザンオールスターズのファンなのだそうで、「CDを全部持っています」と。蓄音器館では、3階にLPレコードのサザンを聴けるコーナーをつくってございます。それを自分でかけて聴いたところ、「サザンの音って本当はこんな音だったんだと思って涙が止まらなかった」と言われたという、そんな話がございました。
 それからまた、このようなこともありました。「この金沢蓄音器館にはどうしたら就職できますか」と言われたので、「は?」と聞き返したら、その人は本当に国立大学の一期校の大変素晴らしい学校の工学部を出ているのですよ。それで就職したのが電気の会社で、会社に入って求められたことが、「効率を上げろ」とかコストパフォーマンス、「コストを下げろ」とか、そういうことばっかりだった。「音楽が好きでこの会社に入ったのに、求められることはそんなことだ。私が思っていることと違う」と言うのですね。ところが蓄音器館に来て、蓄音器の聴き比べの音を聴いたら、蓄音器の音は高いところでもせいぜい6000Hzしか出ません。CDは2万Hz出ますので、数字で見ればCDが3倍以上いいのです。だけど、この6000の音をどうしたら出せるか。自分はこういう仕事がしたい。だから、「蓄音器館に勤めるにはどうしたらいいですか」という話だったわけです。いい会社に入ったばかりなのに蓄音器館に来てもらったのではまずいので、「そんな熱心だったら、ちょっと何人かオーディオメーカーの人を知っているから、紹介するから、そこの人の話を一遍聞いてからでも遅くないんじゃないの?」と言ったら、そうですよねという話になって、その後は全然連絡が来ませんから、まあ大丈夫だったのだと思います。
 それから、こんなこともありました。東京から来た、やはり女性でした。携帯電話で音楽配信をする仕事をしています。音楽が好きでそこに入った。でも、auとかいろいろあるでしょう。あれはMP3といって、電波を速く送るのですね。圧縮して音声を送らないと送れない。その音声を聴いていると、音楽好きでその仕事に就いたのだけれども、とてもつまらなく思っていた。ところが、ここに来たら、たかだか6000Hzしかないようなものが、なぜこんなに豊かに聴こえるか。「この蓄音器の音の要素を私の仕事に入れるにはどうしたらいいか、東京に帰ったら考えたいと思います。とてもいいヒントをここでもらいました」とおっしゃったのです。そういう人たちが今は増えてきている。だから、そういう人たちに合うような管理であるとか運営であるとか、それをどのようにしていったらいいかなということを、今、実はいろいろと考えている次第です。
 先ほどのお話と全然違う話で申し訳ないですけれども、私は現場にいて、そういうことを体験をしており、そういうお話を皆さまに申し上げるのが私の務めだなと思って、最初のお話を終わらせていただきます。

(清水) ありがとうございました。創造財団と振興財団の二つで、全部で27館の施設の指定管理者をやっていただいているのですけれども、今お話しいただいた八日市屋さんの金沢蓄音器館以外にも魅力的な館がいっぱいあるということで、八日市屋さんに代表して魅力的な館があるということをお話を頂いた形になりました。
 それを踏まえて、指定管理者を民間にということを考えた場合に、まずどのような事例が各地にあるのか、他の地域での文化芸術施設の管理運営の実態をご紹介いただいて、また上村先生には2度にわたって金沢にお越しいただき、金沢市の文化芸術施設を実際に見学していただいています。金沢市の施設をご覧になられてどう感じられたかもお話しいただければ。


(上村) 上村です。指定管理者制度の現状と、それから特に事例に学ぶということですので、幾つか事例をご紹介させていただいた後、金沢の状況についての感想を述べさせていただきたいと思います。

 まず、指定管理者制度というのはどういう制度かというと、平成15年6月の地方自治法改正で設けられた制度で、15年ちょっと経っています。元々、公共施設の管理委託という制度があったのですね。管理委託をするとどうなるかというと、管理業務が委託先の団体の業務となって、基本的には自治体の職員ではなくて、委託先の団体の職員が施設に入ってきて管理する、マネジメントする、経営することになります。民間に委ねる制度としては、他に地方公共団体が行っている事務の一部を民間に任せる業務委託という制度がありますけれども、管理委託は全面的に施設の管理を委託する形の制度です。
 その管理の受託先、受託者が、かつては公共団体や政令で定める自治体の出資法人、いわゆる外郭団体などに限られていましたが、指定管理者制度になって法人その他の団体ということで民間企業も受託できるようになりました。しかも、委託というような契約ではなくて、指定という行政行為の形式になって、しかもその指定には議会の議決を経る必要があるという仕組みができました。行政の権限たる処分としての使用許可などもその委託先の指定管理者ができるようになったということで、管理運営の裁量権が非常に大きくなった。しかも、一般の民間の企業でもできるようになったというのが、改正された現在の指定管理制度であります。

 その対象となる施設は、公の施設に限られる。公の施設とは何かというと、要は行政サービスを提供する施設です。福祉施設、病院、図書館など、いろいろな施設がありますし、道路や河川、公園なども含まれます。ただ、行政サービスを提供するのが目的ではない、例えば庁舎などは、公の施設には含まれない、対象指定管理の対象にはならないということです。

 このような公共施設、行政が設置した施設の管理運営手法は、指定管理者制度だけではなく、他にもいろいろな方式があるわけです。まずは、当然ですが直営です。自ら管理する。例えば、これはいくらでもあるわけですけれども、石川県でいえば石川県立美術館や石川県立歴史博物館、石川県立能楽堂、兼六園など、こういった施設は全部直営で管理しています。それから、全部役所の人がやっているというわけではない、公務員がやっているわけではない、先ほど申し上げたように業務委託によって民間にいろいろな業務を委託してはいても、それでも直営でやっているということになります。それから、今申し上げている指定管理者という制度ですね。それから、これはちょっと話が先ほども出ましたプライベート・ファイナンス・イニシアティブ(PFI)。これは、施設を建設する事業から入っていくわけです。公共施設を企業が資金調達(ファイナンス)して建設して、しかも維持管理する事業方式ということで、建設後ある時期に施設の所有権が自治体や行政に移る、公的団体に移るという方式を、一般にPFIといっています。国の庁舎などでも行われていますし、地方団体を含めて病院や住宅、学校などでも行われている例がありまして、文化施設では例えば大分の複合文化施設でもそういう方式を取る、香川県の情報通信交流館もPFIを採用していることで、これは後でお話をさせていただきたいと思います。
 それから、もう一つ、独立行政法人が管理するという方式がありまして、これはかつて特殊法人改革で独立行政法人というのが国の制度としてできました。同じような制度が地方でもできまして、平成25年から博物館や美術館といった文化施設も地方独立行政法人の対象に追加されたということで、地方でも文化施設の管理に独立行政法人の仕組みを使うことが可能となったわけであります。
 特色は、独立行政法人にその施設の所有権が譲渡されて、その独立行政法人が自らの施設として管理運営を行うというところでありまして、国の文化施設は、実は指定管理者の制度はないのです。指定管理者の制度があるのは地方自治体の公の施設だけですので、国は何を使っているかというとこの独立行政法人の仕組みを使っているということです。国立文化財機構は博物館を経営・管理していますし、国立美術館は国立の美術館、近代美術館の工芸館も独立行政法人の管理になる。それから、国立科学博物館という施設も独立行政法人です。あと地方の独立行政法人でよくあるのは、公立病院です。公立病院は、地方でもかなり地方独立行政法人で管理しているところがあります。北陸地方にはあまりないのですけれども、全国的にはかなりある。それから、先ほどお話しした平成25年の追加によって、大阪市にはかねてより博物館を独立行政法人化しようという構想がありまして、これが既にもうスタートしています。大阪市博物館機構という地方独立法人をつくりまして、五つでしたかの博物館を全部まとめてこの機構の管理にしている。国の方式と同じですね。大阪市が実施しています。
 それから、指定管理に若干似た方式でコンセッション(公共施設等運営権)制度というのがありまして、公共施設の運営権を民間事業者が買い取って、民間事業者が運営を行うという制度であります。関西空港など、空港でよく行われていますけれども、文化施設でも、国が国立女性教育会館を初めてコンセッションによって運営するという手法を取っているということで、これも全く使えないわけではありません。
 このようにいろいろな手法がありまして、指定管理者というのはその一つの制度であります。これについてはいろいろな評価があります。この制度が最良であるということでは必ずしもない、いいか悪いかは議論があるところであるということを申し上げておきます。

 続きまして、指定管理者の導入状況はどのようになっているかといいますと、指定管理者のうち、民間企業の割合が約4割。都道府県と指定都市と市区町村で若干率が異なっており、指定都市が民間企業の割合が多くなっています。
それから、指定管理は公募するという方法も、あるいは公募しないで指定するという方法もあり得るわけですが、公募しているのは全国では46.5%です。都道府県、指定都市に公募の率が高い。公募はかなりテクニカルに難しい面もあるので、行政組織がある程度整った自治体が行っているのかなという気もいたします。あるいは、大都市圏で公募して応募する企業が存在するかどうかという問題もあることなどから、都道府県と指定都市に集中しているということではないかと推測されます。

 指定管理を導入してどうなったかというと、サービスが良くなったというのが幾つかありますが、その中で例えばイベントの開催や、ホームページ、ブログの更新頻度が高まった。あと教室の種類が増えたとか、先ほど来話にもありました開館時間が延長したということなどもいわれています。サービスの質の面でも同じような内容になっています。

 指定管理制度の担い手として誰が指定管理を行っているかということですが、これは幾つか類型というか種類があるわけですけれども、大きく分けて民法法人、株式会社、NPO法人があります。民法法人の中で多いのは、やはり従前の管理委託の時代から担当してきた、いわゆる外郭団体といわれるような自治体出資の財団です。それ以外に、株式会社の種類としては地元の企業もあれば、全国的に指定管理を事業として展開している企業もあります。また、複数の企業で共同企業体、共同事業体ともいいますけれども、こういった複数企業のJVで管理しているところもあります。それからNPO法人もあります。
 その担い手が、施設の種類によってかなり異なっていまして、スポーツ施設はかなり株式会社が多いです。というのは、スポーツクラブなどを展開している企業が主に指定管理を受けているということがあります。それから基盤施設、これは主に駐車場ですが、社団、財団が多いです。それから、文教施設は、これを見ると比較的株式会社は少なくて、多いのが地縁団体です。公民館が数の上で多数を占めますので、いわゆる文化施設がこういう状況だということは言えないと思います。
 社会教育施設における指定管理施設の割合は増加傾向にありまして、17〜30年度までの増加状況を見ると、ホールは元々多かったのですが、特に劇場やホール、音楽堂で指定管理によって管理を行う施設がかなり増えてきていますし、それ以外に博物館はそれほど多くはないのですが、やはり増えてきているという状況にあります。
 それから、担い手の状況の変化ですが、指定管理を受けている公の施設全体の中で、株式会社の率、シェアが増えてきていて、外郭団体(財団、社団など)が減ってきているというような状況が、一般的なトレンドとしてはうかがえると思います。

 次は、今回のテーマであります文化施設の指定管理の状況です。民間の活力の導入の観点から指定管理会社に焦点を当てて、会社による指定管理が各文化施設でどういう割合になっているかということでいきますと、博物館が5.2%、博物館類似施設6.9%、あと美術館もそうですけれども、博物館系の施設ではかなり低いのに対して、劇場や音楽堂、いわゆるホールにつきましては19.1%とかなり高い状況になっています。これは類推するに、博物館の学芸員の確保の問題がこれに絡んでくると思われます。

これは群馬県が単独で調査を行ったものですが、都道府県立の博物館、かなり規模の大きい博物館や美術館の管理の状況ですが、規模の大きいところは先ほどの石川県立美術館や博物館、歴史博物館などがそうであるように、直営がやはり多くて101。指定管理で行っているところが31ありまして、形態として外郭団体(財団等)が24、それから民間企業の受託が7となっています。
 その中で注目すべきなのが、管理部門のみ指定管理を導入しているという施設が、財団等の受託で6、民間企業の受託で5あることです。要は、学芸部門というのは、先ほども博物館のところで言いましたけれども、専門性が高い部門になりますので、民間企業では手が出せないということで、管理部門のみ指定管理の募集を行い、学芸部門については直営で行っているということが分かります。後で事例が出てきますので、ご覧いただきたいと思います。

 それぞれの担い手によってどのような違いが出てくるか。さっといきたいと思いますが、いわゆる外郭団体である社団法人や財団法人などにつきましては、一般には学芸員など常勤の専門人材がいるということで、先ほどの美術館、博物館など専門的な知見を要する施設においては質の高い管理が可能となるだろう。それから、同一法人が継続して管理することになりますので、専門的なノウハウが蓄積されていく。一つの財産になるということですね。それから、行政のいわば子会社ですので、行政の要求に柔軟に対応しやすい。民間企業ですと、例えば5年間ともう契約で決まっていますので、それに左右されることになるので、無理が利くのは外郭団体だと。
 一方では、一般には民間的な経営ノウハウが十分でない。役所的な団体であるということで、ユーザー目線の高度なサービスレベルは期待できない。あるいは、民間の支援によってそういった部分をカバーしていく。これには業務委託なども入ると思われます。また、スタッフが固定化されるため、経営改革が行われない恐れがある。恐れがあるということで、本当に行われないかどうかは分かりませんが、一応そのようなところです。
 次は、地元の民間企業。何といっても地域の特性をよく知っていますし、民間企業ですので経営ノウハウがあって地域密着型のサービスができる。一方で、学芸員やキュレーター、事業の企画スタッフといった専門職員がなかなか雇用できない。
 それから、先ほども言ったように、全国的に指定管理を事業展開している企業が幾つかありまして、全国の美術館、博物館、音楽ホールなどをかなり受託しているところがあります。その最大手がサントリーパブリシティサービスで、東京にサントリーホールという有名な音楽ホールや、あるいはサントリー美術館などもありますが。親会社サントリーの施設の管理をしている非常に有力な会社ですが、あと全国で同じように事業展開しているアクティオという会社があります。これは指定管理者協会の理事長がやっている会社です。あと、乃村工藝社というのは主に博物館の展示の関係に強い会社ですが、そこが博物館の指定管理を受けていたりします。こういった企業が全国の多数の施設を管理しているため、非常に専門性が高くレベルが高くなっているし、全国の状況も知っている。サービス提供のノウハウが蓄積されていて、専門人材もいる。ただ、逆に地域の特性にはそれほど詳しくなくて、東京から人が来たりしていますので駐在コストの問題や、あるいは地域の人材育成が継続的に行われないということもあります。
 それから、サントリーパブリシティサービスにインタビューしたのですが、民間の美術館運営のノウハウは持っているものの、美術館や文学館の場合は、学術部門の専門性が非常に高い施設ですので、学芸員を自社で確保するのは非常に難しいということで、「学芸員等の専門人材が求められない案件にのみ応募している」という話をされていました。大手のサントリーパブリシティサービスでさえ、そういった問題点を抱えているということではないかと思います。
 あと、複数企業による共同企業体というのも、かなり全国的には最近多くなってきていまして、得意分野を持ち合って各社の強みを活かした経営が可能だと。特に、先ほど申し上げた全国的に事業展開をする企業と地域の企業がJVを組めば、双方の特色を活かし、補完を行えるということですが、一方では、統一的に運営を行うときに、それなりに企業風土の違いなどもありますので、努力が必要といった問題などが出てきます。
 それから、あとNPO法人もあります。非常に公的な使命感を持っていて、モラルが高くて、特に福祉分野では指定管理が多くなっていますが、地域の活動をしているものもあります。ただ、海外にはかなり大規模なNPO法人があるのですが、日本は一般には規模が小さいため、マネジメントレベルの問題が出てきます。

 こうしたことを踏まえて、これから幾つか全国の事例を申し上げていきたいと思います。
 まず静岡県掛川市です。掛川城に関係する文化施設。これはかなり全国的にも有名となった事例です。掛川城というのは、市民の寄付によって再建されたということでも非常に有名なお城で、しかも掛川市は生涯学習のまちを目指して、以前から公民連携型のプロジェクトをいろいろ進めてこられた、特に都市計画、まちづくりでは有名なまちです。ここでは公募によって指定管理を指定しているということで、従前、掛川城の茶室とか天守閣、竹の丸という御殿は、掛川市生涯学習振興公社というところが管理していたのですが、竹の丸だけはNPOでしたね。平成26年からの指定管理の募集で、それぞれが掛川グランドホテルなどを経営するホテルなどの3社により構成される管理運営共同体、地元の共同企業体が応募してきて、それと評価して点数を比べたところ、こちらの方が勝って、10年間の指定管理になりました。
 それで何をやったかというと、ホテルを運営しているところですので、結婚式などが得意なわけです。それで、重要文化財の御殿で結婚式を挙げるとか、本丸の広場ではビアガーデンをやったり、宴会を誘致したりという、いわゆるホテル的なプロジェクト、事業を行って、実は委託費として指定管理料というものを払うわけですが、それを3年目以降0円という条件を出してきて、それが実現して、さらに黒字化して大幅な入場者増につながっていると。しかも、そのグランドホテルは結婚式の披露宴の便乗でもうかってしまったという、非常に双方がハッピーな結果となったということがあります。
 一方で、では生涯学習振興公社はどうするのか、経営できなくなるではないかということですが、掛川市二の丸美術館と掛川市ステンドグラス美術館は生涯学習振興公社が取った。また、生涯学習センターなどのホールものも、そのためにつくられた生涯学習振興公社ですので指定管理を受けていたのですが、来年からの新たな公募で競い合って、今度はSBSプロモーションという静岡放送局系の会社に負けてしまいました。このような状態になっていて、かなり流動的ですけれども、公募によって指定管理は選ばれているという自治体です。かなり全体的にはレベルが上がっています。ただ、文化施設といっても、やはり民間企業は主に観光施設に強いという感じはいたします。

 それから、次は島根県立美術館。島根県立美術館がユニークなところは、長期的な視野が必要な、先ほど来言っているような学芸部門というのは学芸員などの確保が必要で専門性が高いということで、そこは直営で残しました。そして管理運営の部門だけ指定管理対象として公募したところ、先ほどから出てきているサントリーの子会社であるサントリーパブリシティサービスの、さらに地元子会社である「SPSしまね」が、管理部門を受託して運営する指定管理になりまして。親会社サントリーパブリシティサービスが今までの経験で培った能力をいかんなく発揮しているということで、2016年で入館者数500万人を達成しました。島根県立美術館は松江市の観光地になっていて、特に宍道湖に落ちる夕日が名物になって、そのために従来、固定化されていた閉館時間を夕日の時間に合わせて延長したというのがかなり効果的だった。それから、民間ですから、マーケティングやイベント戦略をいかんなく駆使して成果を上げているというふうに聞いています。

 続いて、香川県情報通信交流館「e-とぴあ・かがわ」。ここでは、全国で初めての運営中心型PFI事業を採用しています。運営中心型というのは、建物自体は再開発で港につくられた施設に入居しているのですが、そこの展示施設などを中心として、運営を中心にPFIを行ったということです。この事業には、実は私が個人的にですが香川県庁に勤めていた二十数年前に関与していまして、構想をつくるときに、当時、慶應義塾大学の湘南キャンパスの人たちと地元の地域情報化のキーパーソン、あるいは全国的な情報通信企業などで研究会をつくって、その研究会で構想を立案してこの事業をやろうということになり、ミュージアム施設と人材育成の講座などを行うアカデミー施設と、スタジオなどのコミュニケーション施設の三つの機能を構想に掲げたのですが、それがそのまま維持されています。
 PFIを募集したところ、その構想立案に参画した地元のキーパーソンと全国企業が、かがわ県民情報サービス株式会社というSPC(特別目的会社)をつくって応募してきて、PFIによって情報通信の展示施設の展示などの機器の整備を行い、それから10年間の運営管理を行うということで、その期間終了後に指定管理に移行しました。
 これの何が特色かというと、県民が参画して事業をつくり上げていくというところで、県民による運営サポーター制度や、県民によるいろいろな活動を行うe-とぴあクラブというものがあります。このe-とぴあクラブというのは、いわゆる大人の部活のようなクラブをキュレーターが中心になってつくっていくという事業で、既に40ほど県民参加のクラブができていまして、そのクラブがこの場所でイベントを自ら開催して運営するという、市民参加型の施設運営が実現しています。これには私も関与したことがありますので、取り上げておきました。

 次が、ホール関係で兵庫県立芸術文化センターです。この復興のシンボルとしてつくられた兵庫県立芸術文化センターの指定管理をしているのは、公益財団法人兵庫県芸術文化協会です。この財団法人はこの施設の設立構想から既に関与していまして、いろいろな形でこのセンターにコミットしてきたと。指揮者の佐渡裕さんが芸術監督で、兵庫芸術文化センター管弦楽団が専属オーケストラになっていろいろな事業を展開しています。特にプロ級の専門的なイベントから、一般県民が親しみやすいようなイベントまで、非常に幅広いイベントを、この専門性の高い劇場の特性を活かせる高度なレベルのスタッフによって実現しているということで注目されています。会員制度、メンバーシップでやっていまして、既に無料会員が6万人で、年間300の主催公演を行っています。こんなにできるのでしょうか、すごいと思いますけれども。30万人有料観客でチケットを売り切る劇場としてかなり有名です。要は、公益財団法人ですが、スタッフのレベル、スタッフが頑張れば、いろいろなことができるということを実証している例として取り上げました。

 次に、大阪各地の博物館が地方独立行政法人化するという事業が進みました。ついに地方独立行政法人ができてしまったということで。大阪市の五つの博物館、美術館と、新しい美術館を建設するという構想がありまして、その6館を独立行政法人に統合化する。その前提、前の段階で、公の施設の管理委託を行っていた市の外郭団体に指定管理が引き継がれてきていたわけですが、それらを統合して一つの団体をつくる。トップにJR西日本の会長を据えて、民間的な経営手法、マネジメントを行うことによって、いろいろな博物館、美術館に伴う問題を解決する。
 特に、人材の安定的確保や利用者目線のサービス、それから指定管理の場合に、施設の設置者と管理者が分離してしまうという問題点があって、施設の設置者と管理者を分離することによって行政と民間の連携が必ずしもうまくいかない、あるいはマネジメントがうまくいかないのではないかという問題を解決する。要は、運営と経営が一つの団体、地方独立法人によって一元化することで、こういった問題解決を図ろうとしたものであります。

 以上が実例ですけれども、あともう一つ、指定管理の問題として、評価の問題があります。指定管理者の評価は、76.8%の施設で実施しているということで、やっているところがかなりあるのですが、特に都道府県は100%ということなのですが、外部の有識者の評価をどれだけしているかというと、必ずしも行われていない。全体では34.4%で、なぜか指定都市では多くて62.6%となっています。
 どういう形でやるかというと、館ごとの目標を設定する、いわゆるKPIですね。数値目標。それから、例えば来館者数が一番簡単かもしれませんけれども、外国人が増えたかどうかとか、そういった評価指標。それから、それだけではなくて、利用者の満足度や、地域のまちづくり、観光に貢献したといった定性的な指標なども評価目標として設定する。そして、その問題点、改善点、課題の把握などのフィードバックをする。さらに第三者評価を含めた評価手法を設定する。こうしたことによりまして、いわゆるPDCAサイクルを回すことが必要になってくるのではないかということで、先進的な自治体では実際にこういった形で行っているということであります。

 以上、文化施設における指定管理については、いろいろな問題点も指摘されてきました。ここで総括してみますと、まずはコスト削減によりサービスが低下するのではないかということが前々からいわれていて、実際に指定管理が導入された背景としては、行政におけるコスト削減ということがあったのは事実であります。経費を削減するために行政の財政当局が指定管理でサービスの効率化を図って、指定管理料をできるだけ下げることで経費を削減できる。実際に指定管理料をどんどん下げているところもあって、実際にサービスレベルが下がっているところもあるという話は聞いておりまして、最近、常識的には指定管理料をあまり下げてはいけないのではないかということになっています。
 それから、先ほど来言っているような基幹的な、主に学術的な分野、学芸的な分野の継続性が保証されない。それから、人材確保もできない。それから、どうしても非正規職員。コストを削減するためには非正規職員が増加してしまいますし、働き方改革には必ずしもプラスではないという面もある。これは事実だと思います。
 また、指定獲得のための準備が非常に大変で、3年に1度だと、最後の1年間は指定獲得のために使われている、努力しなければいけないということで、かなり疲れるという場合もあります。先ほどお話ししたように、掛川市は10年間という形で指定管理期間を長くしましたけれども、現在は継続性なども考えて指定管理期間がかなり長く設定されるようになってきていて、5年ぐらいがもう既に平均になってきているということもあります。それから、先ほど継続性の問題や文化財の管理とか、同じような話です。
 あともう一つは、指定管理者がつぶれたり撤退したりしてサービスが停止されるということが実際にないわけではなくて、幾つか事例が出ているという問題点もあります。
 それから、市の外郭団体が指定管理団体であると、どうしても自主性が発揮できないという問題点もあります。
 それらについていろいろ反論も出ていて、サービス低下は指定管理料等を十分考慮して、仕様書やモニタリングで担保していく。それから、行政側が指定管理者に対して仕様書などでビジョンを示して具体的に要求しないと、指定管理の募集ができなくなりましたので、むしろ行政のマネジメント力、政策能力が高まるのではないかという議論、反論もあります。文化の継続性については、行政側で政策として対処する。また、指定管理の更新がありますので、学芸員も緊張感を持って臨むのでいいのではないかという議論も出てきております。
 これら芸術文化施設の経営・運営全般においては今申し上げた点。アートマネジメントを実現するハイスキルの専門人材の育成確保等が重要であるとか、サービスレベルの向上、それからやはり行政と芸術家、芸術あるいは芸術団体、市民ユーザーを結ぶ仕組みづくりというものも重要になってくる。それから、民間のノウハウ、経営手法によるマネジメント力の向上。それから評価。
 あとは、今まで申し上げませんでしたが、情報インフラが十分整備されていないということもあって。特にシティカードなどの話もありましたけれども、キャッシュレスが今一般の小売店舗などでは重要な課題になってきています。あるいは、会員のアプリですね。スマホで会員が管理できないかとか、会議システムもできないか。
 それからもう一つは、施設の老朽化などの問題がありまして。施設のライフサイクルに対応してしっかり維持管理、修繕計画ができていないと、これも問題となってくる。そのために財源をどうやって確保するかという公共施設マネジメントの問題、これは公共施設全般にいえることですけれども、これもちろん技術文化施設にとっても重要な課題であるということです。

 次は、横浜市のガイドラインと、金沢市の公募・非公募の問題について簡単に述べたいと思いますが。横浜市は原則公募しています。選定過程の透明性を高めるとか、いろいろな理由があって原則公募を貫いている。ただ、例外もありまして、非公募による選定とすることも可能とするということで、その中で、極めて高度な専門性を要するとか、利用者との関係が極めて重要であるなどの理由で、将来担い手が存在しないといった点を非公募の理由として挙げています。

 実際どのようになっているかというと、横浜美術館、横浜みなとみらいホール、横浜能楽堂、横浜芸術センター、大佛次郎記念館については、非公募単独指定で横浜市芸術文化振興財団が指定管理者になっています。横浜市といえば、基礎自治体として日本最大規模の自治体です。かなり指定管理の運営もレベルが高いところですので、こういった運営の仕方というのはかなり参考になるのではないかと思います。他の19施設は公募によって選定していて、企業または企業の共同事業体が多いということで、これはどのような施設かというと、区ごとに置かれているようなホールや文化施設などが、こういったものに該当します。
 金沢市の場合には、公募せずに選定するケースと、公募の上選定するケースがあるという基本方針を提示されていて、芸術創造事業および人材育成事業を主体とする施設として幾つか挙げられている他に、寄付等された文化資産の展示と事業展開を主体とする施設。特に寄付・寄託されたゆかりの文化遺産。こういったものを非公募、公募しないとしていて、これがかなりの施設数になっている状態です。

 最後に、私の感想としまして、金沢の文化施設は市内の広域に点在しているのですが、こういった施設群というのは幅広い市民あるいは来訪者の文化ニーズに対応しているのではないか。特に、まち歩きの楽しさといいますか、まちを歩いていろいろな風景なども見ながらこういった博物館、美術館巡りをするというのは、極めて魅力的なコンテンツとして、観光的にも魅力あるものではないか。
 ただ、それぞれが質の高い施設であるにもかかわらず、どうしても特定の施設に観光客が集中するということで、個別の施設の魅力が必ずしも伝わっていない。それから、まち歩きの魅力も伝わっていない。情報発信とか、ライフスタイルの提案といいますか、もう少しマーケティング的であれば面白いのではないかと思われます。
 それから、その一方で、こういった多種にわたる施設ですので、維持管理を適切に行う、それから高度なアートマネジメントも展開していくために、専門人材の継続的な確保が重要であると。
 また、その維持管理のための予算や、財源確保というのはどうなっていくかということを考えると、行政と運営主体の密接な連携も必要になる。
 あとちょっと私の個人的趣味もありますけれども、食文化に関する体験や学習、情報発信の機能を持った施設というのも、今後のことを考えるとあってもいいのかなというのが、正直な感想であります。

(清水) このあとディスカッションと考えていましたけれども、感想の中で網羅的にまとめていただきましたので、ほぼディスカッションの必要はないのかなと思いますけれども、何か個別にお聞きになりたい部分は、館長さんとか理事長、ありますでしょうか。なければ、大内先生から何かコメントを頂けますか。

(大内) いや、フェローなどというものになると、こういう難しいことを。それがフェローなのかなというふうに思いましたが、私も大変勉強させていただきました。
 実は、私自身、ある東京の特別区の指定管理者を選定する選定委員会の、これは公募のですけれども、小学校の放課後の事業に対して指定管理者を選ぶ選定委員会の委員長などを、随分何回もやりました。そのときのことだけまずちょっとお話ししますと、私が非常に苦労したのは、やはり何年かやっていきますと、だんだん形骸化していくというか、同じ業者になってしまうのですね。それで、何とかして私は放課後の子どもたちの支援にいろいろな新しいタイプのプログラムや、いい意味での競争が入れられないかと考えて、特にお金の面ではなくて内容的に、例えば文化的なこともそうですし、スポーツなどもそうなのですけれども、そういう事業について、業者の方たち同士の間でどういうふうにしたら競争原理がうまく働くか、私は随分苦労しました。そのために、いろいろなアイデアを出してもらうための仕掛けをつくってみたり、あるいは実際に私たちが現場に行っていろいろな指導をするというようなこともやりました。そのようなことを思い出しました。
 これは私の感想なのですが、今、お三方からいろいろなお話を伺って、私からの大きなコメントをさせていただきたいのですが、大きい意味で言うと、要するに、文化の担い手とは一体誰なのかということを、やはりきちんと私たちはもう一度考えないといけない。あるいは、文化創造というのは一体誰がやるべきものなのかということを考えなければいけない。確かに、公共の役割というのは大きいと思いますし、かつてのように、この加賀藩で言いますとお殿様が大変な役割をして、そして加賀藩という藩に大変な人材がいたこともあって、例えば「百工比照(ひゃっこうひしょう)」などという言葉がここにはありますけれども、全国のさまざまな地域の工芸のいろいろなノウハウをここで集めて、それを若い人たちに提供する事業。今でもそれに近いことをやっているわけですし、あるいは、「御細工所(おさいくしょ)」というような、要するに一種の学校のようなものをつくって、全国の工芸にチャレンジしたいという若い人たちが、そこで実際に先輩から指導を受けながら作業する。そして、いいものが出来上がったら加賀藩が買い取ってあげるというような仕組みをつくったという歴史がありますけれども、しかし、これを現代に置き換えて、では現代はその担い手は誰がやるのか。宮本さんが芸術創造財団として一生懸命ご活躍されていることは先ほどのお話で分かりましたけれども、大変ご苦労があると思いますし、市が全部、公共が全部できるかというと、私は必ずしも公共が全部やるべきではないと考えていて、そういう議論をいつもこういう場に出るとするのですね。それはなぜかというと、本来、市町村であるとか県であるとか、あるいは国もそうですけれども、国家というのはもっと別の意味での、例えば皆さんの安全を確保するとか、あるいは衛生状態を確保するというような、文化とはある意味で違った意味で、とにかく個人の人権を守るとかというレベルの行政というのがあるわけで。これは相手が誰であろうと、あるいは文化に興味があろうとなかろうと、それは区別して差別をしてはいけない分野で、これが第一義的に本来公共がやるべき問題であって、それに対して、例えば文化とかスポーツという分野は、果たして100%税金で面倒を見るべき分野なのか。違うのではないかという疑問を、私はいつも発するのですね。
 自治体の人たちなどと時々話をすると、特に若い職員などが困っているのは、例えば議会で「福祉が足りない」「医療費が足りない」と言われる。そういう状態のときには、「文化にお金なんか使って何だ」という議論が必ず出るわけです。そういうときにどう答えればいいのか、いつも悩んでいるというような相談を私は受けるわけですけれども、そのときにアドバイスをするのは、治安を維持するとか安全を維持する、あるいは衛生を維持するということと、文化とは、ちょっと次元の違うテーマであるし、文化は100%公で面倒を見てしまったら、逆にその文化に興味のない人、あるいはスポーツに興味のない人にとっては税金の投入のし過ぎになるので、それはちょっと違うのではないかということです。やはり文化というのは、簡単に言うと、半分ぐらいは自分たちの自立的な力。それは自分たちが費用に見合うものを払うということもそうですし、あるいは民間から寄付を集めるということもそうで、要するに関心のある人たちから多く寄付を出していただいた上で、それで49%ぐらいまでは公のサポートがあってもいいのではないか。そういう考え方は、僕はあり得るというふうに思っています。
 三つ目のコメントで、もうこれくらいにしますけれども、今、私は大学の関係も少し見ていて、思わぬところに「実は寄付をしたい」という方が結構おられるのです。それはどんな方かというと、そろそろ自分も相当いい年になってきて、そこそこの財産を持っているけれども、別に子どもたちに残すつもりはない。できれば持っているものをいい形で使ってほしい。だけど、無駄な使い方をしてほしくはないという方です。
 ご存じのとおり、欧米などはそうですけれども、日本もかつては、例えば安田講堂や大隈講堂もみんなそうですけれども、個人や企業からの非常に多くの寄付で財団の運営が成り立っているという文化があったわけです。今、日本は金利がゼロかマイナスになっているので、財団が売り上げに非常に苦労するというような問題はありますけれども、今、私がちょっと見ている大学の関係で言うと、それなりに寄付をしていただいたということをきちんと明示する。何らかの形できちんとお応えする。この方からこれだけの寄付があったということをきちんと明示する仕組みさえ担保すれば、それなりに「少しは出しましょう」という方が、実は潜在的にかなりおられるのですね。
 私はそれをいい意味で、金沢のまちというのは、この次に観光のセッションがありますけれども、やはり「観光で生きるまち」というよりも「文化で生きるまち」であって、まず文化的な厚みであるとか文化的な活動があって、それが結果として観光に生きていくというのがこのまちの生き方だということを、この会議でもずっと議論してきました。ですから、その文化の分野に、金沢の関係者の方たち、あるいは金沢に縁のある方たちに、もう少し何らかの形で寄付をしていただく。何か寄付しやすくなるような仕組みを、そろそろ考えないといけないときに来ているのではないかというふうに思っています。企業なども、寄付行為が損金に算入することができるようになりましたので、少しはそういうものもそろってきているとは思いますけれども、そういうことをしていかないと、もちろん指定管理者制度というのを上手に活かしていくということは必要ですけれども、なかなか文化振興というものが次の飛躍のステップにいかないなというのが、私の感想でございます。

(清水) どうもありがとうございました。理事長の方に1点だけですけれども、相乗効果とかサービス、情報発信という課題に対して、対策を言っておられますよね。民間というのはこの辺の分野を得意にしているのではないかという中で、当然、そういった民間の活用というのは選択肢の中で座長はどうお考えでしょうか。

(浜崎) そうですね。特に情報発信、それからもろもろのプロモーション等については、民間の方の力は活用していくべきだと思っていますし、あとは、そうですね。ただ、各施設の連携という話になると、施設もあるのですけれども、芸術文化についてはいろいろ活動をされている方、芸術文化団体との連携が一番大事だと思っていまして、そのときには芸術村の利用者であったりホールを利用される方との連携・交流というものを一番重要視して、それを芸術文化の振興につなげていきたいというところがあります。そういうところで民間の方の力をどのような形で活かしていくのかというところに、少し検討の余地があるのかなという。ちょっと、あまり簡単にはできないところもあるかなという感じではおります。

(清水) ありがとうございます。大内さんの言われた、このまちは文化で生きるまちだという部分と、市民が芸術団体の中で財団と交流するとかということは、ベクトル的には合っているのかなと。あとは仕組みかなと思います。
 それでは、八日市屋さん、いかがですか。

(八日市屋) 先ほど蓄音器館の現場の話をしましたが、私が立っていろいろ話をしていると、お客さまと随分親しくなりました。その中で、2人の人が「金沢でマンションを探してくれんけ? あんた顔が広いやろ」とかと言われて、本当に2人、ご紹介させていただきました。それで、「どうして金沢のマンションに住みたいのですか」と聞いたら、2人とも同じ答えだったのですけれども、1人は「まちがきれいや」と言ったのです。もう1人の人が何と言ったかというと「文化施設がリーズナブルや」と言ったのですね。値段が安いということでしょう。リーズナブルということは、高くなくて、手頃な値段で入れて、いろんなところに行けるという切り口だと思うのですが、偶然かもしれませんが2人の人がそういう話をされました。
 だから、先生が今おっしゃったような、何かこう・・・。うちの館は全国から蓄音器の寄贈を頂いておりまして、寄贈していただくと蓄音器館の中に、ゴルフのハンデキャップみたいなものですけれども、小さなプレートをずっと貼ってあるのです。あれが一つ効果がございまして、亡くなられましたけれども俳優の池部良さんの奥様から頂きましたし、それからソニーの創業者の盛田さんからも頂きました。そのようなことで、あそこに名前が出ると「あ、盛田さんと一緒に俺の名前が載ってる」みたいにして思ってくれるのですが、これを最初に私が市に提言したときに、「そんな施設はどこもない」と言われまして、「いや、ぜひやって」と随分お願いをさせていただきましたけれども、そのようなことも今先生がおっしゃったようなことにつながるなと思って、話を聴かせていただきました。

(清水) ありがとうございます。「そんな仕組みは公にはない」というのは、かなりポイントですよね。ぽんと言われてしまったというのが。すみません。
 実際に民間の活力を活かそうというときに、実際に市が民間も対象にして公募を出されたときに、誰も手を挙げないと困るなということで、可能性のある事業者会社さんにヒアリングに行きました。全体、簡単に言ってしまうと、民間に任せてよい施設と民間が得意とする分野に関しては、「ぜひ出していただきたい」というお声が多かったです。民間に任せてよい施設というのはホール関係の三つで、民間が得意とする分野は企画、集客、プロモーション、広報、サービスなどで、これらに関してはかなり自信があるということを、3社が異口同音に言っておられました。このことを踏まえて、きちんと公募ということで民間も対象にして出すと、それを利用して、今、言われた実際のサービスの分野であったり、相乗効果であったりという部分は、民間を使うことによって可能性が出てくるかなと。
 ただ、今日は「金沢方式を探る」というサブタイトルが付いていますけれども、その辺もぜひ、自分たちの中で金沢らしいことをやってみたいと思います。金沢らしいというのは、行政と経済同友会と市民、皆が手を携えてこのまちをずっと何十年、前田家から言えば430年以上培ってきたものがあると思います。ぜひ民間の活力をどう活用するかという提言につなげたいと思います。
 その中で、どうしてもこの人のことを思ってしまうわけですけれども、これは2013年6月21日のBSフジLIVEプライムニュースです。午前0時から2時間、生出演なのですね。今後の地域の活性化のために、山出保前金沢市長に提言を求めたところ、自分は具体的な提言をされるかなと思ったら、私の提言はこうですと。「現場の視点と自立の気概だ」と。自分もこのことには非常にびっくりしまして、2時間眠い目をこすりながら見ていたわけですけれども、こういうことなのだろうなと。われわれは共通して現場の視点を大事にしながら、自立していく金沢が、市民から、行政から、われわれのような経済団体から、芸術団体から、いろいろあると思いますけれども、山出さんが言われたのは、それら全部が、市民も含めて全て一本芯が通っているのだということだったと思います。
 われわれはその思いを継承した上で、行政であろうが、経済団体であろうが、市民であろうが、全て一本芯を通した中で、まちづくりにまい進していっているのだということで、明日に向けて、今日いただいたお話を、努力してきちんと金沢方式ということで提言できればなと思います。

 

 

 

 

 

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