第8回金沢創造都市会議

金沢創造都市会議2015 >セッション1

セッション1

■セッション1 「文化プログラムのデッサン」

コーディネーター
佐々木雅幸氏(同志社大学経済学研究科教授/ 文化庁文化芸術創造都市振興室長)
●パネリスト   
近藤 誠一氏(前文化庁長官、近藤文化・外交研究所代表)
磯谷 桂介氏(文化庁長官官房審議官)
吉本 光宏氏(潟jッセイ基礎研究所研究理事) 

文化資源を活用し社会的経済的価値を作る人材を


セッション1













(佐々木)
 青柳現文化庁長官が金沢におみえのときに、創造都市ネットワーク日本の総会がありましたが、そのときに、オリンピック文化プログラムによって日本を文化大国にしよう、それから2020年には世界工芸サミットを北陸で、石川県や富山が軸になって開催したらどうだと言われました。そして、創造都市ネットワークは東アジアを中心にして広がってきたのだけれど、日本でもかなり広がりがあり、現在63都市が入っています。これを170ぐらいにしていこうという考え方もありますが、さらにアジアに広げようということを提唱されました。
 近藤誠一前長官にもたびたびお越しいただき、青柳長官のお話ともシンクロしながら、このようなことをお話しいただいたと思います。これまでの西欧基準の芸術文化に対して、日本人が持つ自然観や美意識を、深みを持って世界に発信する、このオリンピックをそのような機会にしたらいいという文化プログラムです。その際に工芸や人間国宝などに関するフランスとの交流、対話の機会が大変重要だと、まさに金沢に対して話を頂いています。
 後で磯谷審議官がより詳しくお話しになりますが、2015〜2020年は、あっという間に2020を迎えると思います。それでリオの大会が終わりますと、直後から京都と東京でスポーツ・文化・ワールド・フォーラムが開催され、これがキックオフになり、東京のみならず全国的に展開します。2030ぐらいには文化大国になっていなければいけないのですが、このような感じです。
 これは昨年、吉本さん、太下さんに来ていただいて、われわれが手本とすべき直前の、2012年のロンドンオリンピックのときの文化プログラムがどのようなものであったかをかなりお話しいただき、大変皆さんに関心が広まったと思います。ロンドンのみならずイギリス全土で18万イベントが開催され、4300万人が参加しました。吉本さんからはスコットランド、つまりロンドンから遠く離れた地方でもいろいろな取り組みがあるという話を後でしていただけると思います。
 今年5月25日、ユネスコの創造都市ネットワークの年次総会が金沢会議という形で開催され、69の加盟都市のうち62都市が参加し、市長・副市長の参加によるラウンドテーブル会議を行いました。これは過去には2011年にソウルがやっただけで、当時はまだ加盟都市が少なかったので、今の半分以下でした。この金沢で開催した規模は大変立派なものでした。
 実は明日、今年の申請都市の結果が出ます。多分、合計で100を超える都市が認定を受けます。文字通り世界的なネットワークになってきますので、そうなると、ユネスコは国連の機関ですから、今、国連が掲げている持続的発展目標(Sustainable Development Goals)が今年9月に採択されて、そこで都市が果たすべき役割も書かれています。このようなものを全世界的に取り組んでいく上で、やはり本格的なユネスコ創造都市研究センターを設立したらどうだろうということを、この会議の基調講演をさせていただいたので、そのとき、最後に提唱しました。
 早速、山野金沢市長から、ぜひ金沢はそれに取り組みたいという話を頂き、会議にユネスコの代表として参加していたリン・パチェット氏が、検討するには時期は少し早いが、意味は十分にあるということで、金沢の意欲を受け止めていただいたように思います。後ほど、ユネスコについては非常に造詣の深い近藤誠一前長官に、この件についてもお話しいただけたら、ありがたいです。
 お話は、まず文化長審議官の磯谷さんからスタートしていただいて、吉本さんから、そして二人の話を聞かれて、近藤さんから総合的にアドバイスいただくという形で進めていきます。実は磯谷さん、近藤さんは大変お忙しい中、この会議の時間帯だけ金沢へ来ていただき、またすぐに東京へ帰られるので、ぜひたっぷりお話しいただきたいと思います。
 それでは磯谷さん、お願いします。

(磯谷) 文化プログラムの実施に向けた文化庁の取り組みについてお話をさせていただきますが、個人的にぜひ、前振りとして話しておかなければいけないと思っていますのは、私自身がこの石川県金沢市と非常にゆかりがあり、1990年に石川県庁に3年近く出向しました。一時期、93年度に当時の文部省に戻って1年間いましたが、また1994年から2000年にかけて、今度は北陸先端科学技術大学院大学で仕事をしました。そのように足かけ7〜8年、90年代はほとんど石川県金沢市でお世話になったということです。私にとっては第二のふるさとというか、うちの息子も弥生小学校に入学して卒業したのですが、今回、創造都市の会議にお招きいただいて、このような話をする機会を頂いたことを心から感謝申し上げます。
 それから、今日はかつてお世話になった、北國銀行頭取の安宅会長からもご挨拶を頂戴しまして、また、当時よくお酒を飲んでいた社長さんの福光実行委員長にもお話しいだいて、それでも感激しているところです。お二人がおっしゃった、観光立県ではなく文化立県、観光都市ではなく文化都市というお話や、リピーターではなく金沢ファンをつくりたいというところに、まさに金沢の素晴らしい文化・芸術に対する深さ、層の厚さを感じました。
 もう少し余談を続けますと、私は初めて石川県に来たときに、いろいろなことにびっくりしました。商工労働部の方に教えてもらったのは、今はどうか分かりませんが、金沢のお店、例えばスーパーマーケットに置いてある、加工品は違うと思いますが、魚や肉、食料品のことです。大体、東京で言えば、安いものは悪い、安かろう悪かろう、それから良いものは高いというのは、非常にバリエーションがあります。しかし、石川県、金沢市は、特に安かろう悪かろうというのは、置いていないのですと。要するに、そんなに非常に高価なものはないのですが、ある程度きちんとした品質で、おいしいもの、値段はそんなに安くないかもしれないけれど、いいものをたっぷり、きちんと置いてあるということを教えてもらって、「ああ、そうですね」と実感しました。
 それから、ある町角の魚屋さんに行って、私は東京から来たものですが、ブリが置いてあったので、「これは養殖のブリですか」と聞いたら、「いや、うちはそんな養殖のブリなんか置かない。天然のブリしか置かないんだ」と怒られたのを非常によく覚えています。
 何が言いたかったかというと、先ほどのお話に通じるような、文化というものに対する金沢市民、石川県民の思いが強いということを感じており、これからお話しする文化庁の取り組みというのは、実は私自身、後付けのような説明かもしれませんが、石川県でいろいろ教えていただいたことを無意識のうちに反芻しながら、このようなプランを作ったということもあり、そのような目で見ていただければと思います。国がいろいろプランを作りますが、実際は金沢あるいは石川県のようなところが非常に優れたアイデアを出し、そして先行的に取り組みをされている、われわれとしては十分くみ取って、また国全体の施策にしていくということを、キャッチボールしながら文化立国に向けて進めていきたいと思っています。

 役人のすごく悪い癖で、特に文部科学省の悪い癖なのですが、小さい字でたくさんパワーポイントに書いてしまいました。どうしてかというと、財務省か何かに説明するときに、できるだけ1枚の紙に押さえてくれということで、このようになってしまうのです。
 これで最初に「文化プログラム」とありまして、これは釈迦に説法ですが、オリンピック・パラリンピックはスポーツだけではなく、文化の祭典でもあるということで、オリンピック憲章で、開催国において文化イベントのプログラムを行うというのが義務とされています。これはむしろ、私の隣にいる吉本さんから教わった話で、彼の方がプロなのですが、過去の多くのオリンピックにおいて、いろいろな文化プログラムが展開されていました。特にバルセロナ五輪からは、直前の五輪から4年間、文化プログラムを実施するようになって、皆さん、ご案内のようにロンドン五輪では最大規模の文化プログラムが展開されたということです。
 そのような状況も踏まえて、今年4月に文化庁が「文化芸術の振興に関する基本的な方針」、第4次方針を策定しています。これは5〜6年に一遍ぐらい、5〜6年間の文化政策についての基本方針を作るということで、「文化芸術振興に関する基本的な方針」が議員立法でできて、今回は4回目、ちょうど2020年に向けての5年間をターゲットにした方針です。そこで非常に大きな特色として、先ほど来のお話ともまさに通ずるのですが、「文化芸術を資源として未来をつくろう」というのがキャッチフレーズです。具体的には、少子高齢化、人口減少社会、地域の疲弊、あるいはさまざまなグローバルな競争にさらされ、新興国が追い上げてくる、そのような厳しい環境の中で、文化芸術が生み出す社会への波及効果を生かし、諸課題を乗り越えて、成熟社会に適合した新たな社会モデルを構築していこうということをうたっている方針です。
 文化芸術というのは、芸術家、文化人の方たちを大事にして、文化財を保護するということだけではなく、教育、社会福祉、科学技術、産業、観光、地方創生、外交、そのようにさまざまな分野、あるいはさまざまな領域に社会的価値や経済的価値も生んでいくような文化芸術戦略が必要ではないかという意識です。そのきっかけとして2020年を使おうということで、2020年に向けた文化プログラムをそうした目標の下で進めていこうというのが、この基本方針に書かれています。
 今年6月ごろには骨太方針や成長戦略、地方創生、観光戦略、さまざまな閣議決定や本部会議決定レベルの報告書等が出されましたが、その中でほとんど全てのところに文化プログラムの推進、芸術文化の振興ということが書かれているという状況です。

 7月に文化庁の基本構想を出しました。ここでは2016年秋から4年間、全国津々浦々で文化プログラムを推進し、ロンドンを超える規模ということで、20万件のイベント、5万人のアーティストの参加、5000万人の参加を掲げていますが、三つの枠組みを設けました。
 一つは、「わが国のリーディングプロジェクトの推進」です。国が責任を持って企画・立案をして進めていくプロジェクトということで、例えば文化芸術プロデューサー人材の育成です。これは各地でいろいろな芸術祭等々が行われていますが、先ほど申し上げたように単なるお祭りではなく、それをいかに地方創生につなげていくか、経済的効果を生むか、インバウンドに貢献するか、さまざまな地域の実情がありますが、そのようなことを、文化そのものの振興のみではない観点からプロデュースができる人材を育成します。それから、「新たな文化と産業の拠点」ということで、伝統的な文化、現代的な文化も含めて、経済的な価値、社会的価値につなげていけるような拠点を形成します。それから3番目に「日本文化の再発見とその魅力の発信」です。これは近藤前長官も日頃から言われていることに通じるものです。この機会に日本を再発見し、青柳長官の言葉で言いますと、日本文化の棚卸しをしたいということで、彼は少し極端な意味合いで使うことがありますが、一遍全部見てみようではないかということを長官も言っています。そのようなことをした上で、日本が世界に誇れるもの、新たに取り組むべき文化芸術活動を見いだして進めていこうと、そのような趣旨です。
 2番目は、これまでも文化庁として補助金や委託費を出していましたが、地方自治体、民間の方たちが行っているさまざまな取り組みについて、国としてもタイアップ、支援しながら進めていこうということで、例えば日本遺産のような取り組みを今年から始めて、石川県でも認定されているということですし、劇場や音楽堂での公演を支援するなどということです。
 3番目が「民間、地方公共団体主体の取り組みを支援」、これは必ずしも財政的な支援ということではなく、情報を提供していただいて、ポータルサイトに載せて、それは多言語でアクセスができるというものを20万件、ゆくゆくはためていくのです。また、例えばロゴマークのようなものを決めて、そのようなところに後援名義のような形でお配りするということで、全体を盛り上げていきます。この3層の構造で文化プログラムを推進していこうというのが戦略です。

 金沢や石川県でおやりになっていることも念頭に置きながら、七つの戦略を挙げています。
 一つは「企業・団体との協働」ということで、メセナ協議会などもありますが、そのようなところとの連携。
 「地方公共団体、芸術文化団体との協働」ということで、これは例えば、各都道府県あるいは市町村単位ぐらいに文化プログラムを統括するようなコミッショナーを置いていただくことを進めていくことがアイデアとして挙げられています。
 それから当然、組織委員会、オリパラ推進本部、関係省庁等々との一体的展開ということで、先ほど少し申し上げましたように、文化分野だけではなく教育、ものづくり、農林水産関係、観光、さまざまな分野との連携を進めていきます。
 それから二つ目のカテゴリーのCDですが、石川県、金沢は特に、人口当たりの高等教育機関が京都に次いで多いのですが、そのようなことも関連して、大学の教員・学生さんにも、十分このプログラムには参画していただこうということです。美術系の大学はもちろんですが、社会科学、人文科学の大学、あるいはものづくりや技術ということでは、理工系の大学なども参画できると思います。そのようなことを戦略して掲げて進めていくということです。
 文化プログラムの推進体制、国が指導するプロジェクトということですが、文化プログラムを国全体で進めていくときの推進体制ということで、オリンピック・パラリンピックの組織委員会、関係省庁、東京都、あるいはその他の内閣官房なども含めて、政府が一体となった推進体制を構築していきます。
 これはだいぶ遅れてしまったのですが、11月下旬に文化機運を盛り上げるための関係省庁連絡会議が発足しまして、議長はオリパラ室の室長で、内閣官房が議長になります。それから副議長はクール・ジャパンの関係を取り仕切っている内閣官房の部局と、それから文化庁の長官ということで、そのトロイカ体制で関係省庁や組織委員会、東京都との連絡会議を発足させました。そのようなところをもってオールジャパンの取り組みを進めていきます。
 そのような流れを見ながら、文化庁には官民から成る実行チームを置いて、民間からゼネラルプロデューサーを招くなどということを進めていく予定です。その実行チームが3層構造の文化プログラムの具体的な文化プログラム認定、あるいは認定のための基準づくり、あるいは国内外への広報・PR、ポータルサイトを構築して多言語機能を付与して、全国の情報を外国にも発信し、その情報を分析できるようなスキーム、仕掛けをつくっていきたいと思っています。
 では、三つパターンがあったうちの第1類型の、国が主導するプロジェクトは、今どういうものを考えているかというと、三つあります。
 一つは「文化プロデュース力のある人材をつくる」ということで、先ほど少しご紹介しましたが、地方創生、社会的価値や経済的価値を生み出すような文化芸術の振興ができるようなプロデューサーを、プロジェクトベースで育成するスクールのようなものをバーチャルでつくります。
 あるいは「新たな『文化×産業』拠点の形成」と、これは非常に青柳長官の思いが強いのですが、世界の誇れるような工芸の拠点、特に伝統と現代の工芸の魅力をコラボ、あるいは融合したような形で魅力を発信し、あるいは産業化にもつなげられるような拠点を形成するというものがあります。
 それから最後に、「日本各地に潜在する日本文化を発信する」。先ほどもご紹介しましたが、例えば全国の国公私立美術館がコンソーシアムを結成して、日本各地の国宝級のコレクションを同時に公開する、あるいはシーズンを分けてシリーズで全部、日本全国がそれに呼応しながら展覧会を開催するようなことです。例えばそれをASEANなど諸外国で巡回させるというようなことを今、検討しているところです。そのようなイメージの国のプロジェクトです。
 文化プログラム関係の文化庁の予算としては、28年度概算要求で177億円を要求しています。これは年末の予算折衝に向けて今、財務省と話しているところです。「主な事項」ということで、「リーディングプロジェクトの推進」は13億円を要求していて、それが先ほど申し上げた国のプロジェクトです。2番目は「国が地方自治体、民間とタイアップした事業」で、従来からやっているような芸術祭に対する支援、劇場での公演に対する支援、世界への発信です。
 ある意味で残念だった出来事は、行革の行政事業レビューで、この「リーディングプロジェクトの推進」の13億円の部分が、オリンピックの便乗予算ではないかと河野大臣に目を付けられて、農林水産省や環境省の事業と一緒に私も出ていって説明して、ニコニコ動画などで映っていましたが、やられてしまいました。結局その「リーディングプロジェクトの推進」という形で、文化庁が新たに大きな予算を取って行うというのは、来年度は難しいという状況です。結局、財政状況が厳しい中で13億円という固まりで、まだ何をやるかは具体的に決まっていないという状況では、認められないという話です。
 あるいは、公式の文化プログラムというのは、そもそも組織委員会の仕事ではないか、文化庁は地方に対する補助事業などを一生懸命やればいいのではないかという議論がありまして、1番については、なかなかこの「リーディングプロジェクトの推進」という形では立てるのは難しい状況にはなっています。ただ、先ほど来ご説明したように、国の主体的な取り組みとしての文化プログラム推進は、もう政府の閣議決定の方針ですし、組織委員会がただ一人で全部のことができるわけはないので、来年からの4年間の、少なくとも文化プログラムの推進について、国としての事業はしっかりやっていくというつもりで、今、予算折衝をしています。従って、既存の枠組みを使いながら国が主体的にやる事業をきちんと予算化して、それで先ほどご説明したような工芸のサミットや、人材育成といったことを、来年度は着手できるように今、予算要求、概算要求の折衝を頑張っているという状況です。
 スケジュール表が一番下の方にありますが、具体的にはリオ大会が来年夏にあり、それでスポーツ・文化・ワールド・フォーラムをキックオフの会議として行います。それの説明を最後にしたいと思います。来年10月19日から22日にかけ、京都と東京でフォーラムを行います。趣旨はもう繰り返しませんが、オリンピック・パラリンピック、ラグビーのワールドカップを契機として、スポーツや文化による親交を深める、盛り上げていこうということで行う事業です。
 国際イベントの例として下の方に書いてありますが、Sports for Tomorrow、あるいはラグビーワールドカップ、障害者とスポーツ・文化、あるいは2020年オリパラ文化プログラム等々のテーマとして分科会なども開いて、世界各国から有識者を集めて大イベントをするということです。全体像としてはこのような形になっています。
 このフォーラムを開催して期待される波及効果ということですが、文化プログラムを、これをキックオフとして全国的に展開していきます。それから、都市の魅力の向上、日本遺産あるいは世界遺産を積極的に活用して、地方創生につなげていきます。このスポーツ・文化・ワールド・フォーラムには、世界経済フォーラムのヤングリーダーも世界中から集まってくるので、そうした世界経済フォーラムと官民との協力によって、芸術文化を新たな産業につなげていく、あるいは海外への積極的な発信を期待しているということです。

(佐々木) どうもありがとうございました。本当はもっといろいろ聞きたいことがあるのですが、とりあえずいったん切っていただいて。
 それで吉本さん、昨年、大変インパクトのある報告を頂いたので、ぜひもう一度という声があり、また登壇していただくことになりました。よろしくお願いします。

(吉本) ありがとうございます。昨年度に続いて今年もこのようにお招きいただき、話をさせていただく機会を頂戴しまして、まずお礼を申し上げます。
 それから、私は磯谷審議官と違って、こちらに暮らしたことはないのですが、昨年以来、金沢との縁が大変深くなっております。昨年以来、多分4回ぐらい来ています。先ほど福光委員長からお話がありましたが、今年はクリエイティブツーリズムというNPOにもお招きをいただき、それから、今日も代表理事の浦さんがおみえになっていますが、NPOの「趣都金澤」の会員にもなり、まさしく金沢ファンになってしまったということで、今日もお招きいただき、本当にありがとうございます。
 このセッションでは、佐々木先生からロンドンの例も参考にしながら、何か金沢ならではのことについて話ができないかということですので、2020年と金沢を掛け合わせるとどんなことが起こるのか、起こったらいいなということをお話ししたいと思います。
 ロンドンの例についてはもう既にいろいろな情報が出ておりますし、それから部数が少ないので円卓だけになりますが、アーツカウンシル東京が一般の方に広く知ってもらうための文化プログラムのパンフレットのようなものを作りました。少しおさらいも兼ねて全体像をお話したいと思います。
 ロンドンでは、2012年に英国全土の大規模なフェスティバルが行われました。この左側がそのプログラムの表紙、そしてロンドン市が主催したものが、右側の表紙のものです。左側の全国展開のプログラムを開けると、ここの全国で主だったものがここで写真とともに紹介されています。左上に“The Great Art Escape”と書いてあります。この下を少し読むと、要するに美術館や劇場ではなく、もういろいろなところでさまざまなことを展開します、芸術が普段はないところでやりますというのが大きな方針として書かれています。
 そして規模等を整理をしますと、4年間のカルチュラル・オリンピアードが北京五輪終了後に始まり、最後のフェスティバルが12週間行われました。件数、予算等は書いてあるとおりですが、やはり重要なポイントは英国全土、1000カ所以上で、今も少しお話ししましたが、さまざまな屋外のスペースなども使って行われました。
 それと、イギリスの文化を紹介するだけではなく、世界中のアーティストにチャンスを提供しました。一人でもアスリートが来ている国は、彼らはそこからアーティストを招いたのです。それも大変重要なことだと思います。そして、オリンピック全体のテーマがインスパイア、若い人たちに刺激を与えるということでしたので、文化プログラムはそれに寄り添った形でテーマが設定されています。
 特にフェスティバルには、もうあり得ない場所でのプロジェクトや、無料で誰でも参加できるもの、オリンピック・パラリンピックのテーマに基づいたもの、世界の代表的なアーティストの作品、新しい作品をたくさん作るということ、予期せぬところで突然文化イベントが行われる、そのようなものがたくさんありました。

 今日はロンドン以外の場所ということで、スコットランドとウェスト・ミッドランズの例を少しご紹介します。
 先ほど佐々木先生からお話がありましたが、先月スコットランド、エディンバラとグラスゴーに行って、関係者に会っていろいろと話を聞いてきました。スコットランドでも全体で言うと4000件ぐらいのものが行われていて、少しまだ資料が整理できていないので英文のままで恐縮ですが、スコットランドでクリエイティブプログラマーを務めたレオニーさんという方にお目に掛かりました。スコットランドの方針としては大きく三つありました。つまりスコットランドのアーティストを、世界中がイギリスに注目するオリンピックの機会に世界中にアピールすること。それから、とにかくあらゆる人に参加の機会を提供するということ。そして三つ目が、スコットランドのイメージというとスコッチウイスキー、ケルトのタータンチェック、エディンバラ城など、もう非常に固定化してしまっていますが、そうではなく、スコットランドというのは実はクリエイティブで文化的に優れた都市、地域だということをアピールしたいと、その三つの方針を立てたということです。
 
 代表例を三つほどご紹介したいのですが、「ピースキャンプ」と呼ばれるもので、スコットランドだけではなく、英国全土の8カ所の海岸で2000のテントが張られました。夕暮れになるとライトアップされて、その中からは静かな音楽、波の音が聞こえて、同時に詩の朗読がずっと流れています。それを朗読しているのはフィオナ・ショウという英国を代表する女優で、その詩は全て愛をテーマにしています。ですから、オリンピックの究極のテーマである平和を考える、スコットランドでは確か2カ所だと思いますが、そのようなプロジェクトが行われました。

 それから「スピード・オブ・ライト」というプロジェクト。少し分かりにくいのですが、左下の写真には人間が薄く写っています。それぞれのパフォーマーが、このために開発されたLEDスーツをまとっていて、リモートコントロールでそのLEDの点滅のスピード、色を変えられます。それを20名ぐらいのパフォーマーがまとって、エディンバラ・フェスティバルの開会式で、小高い丘の上でパフォーマンスを行いました。これはLegacy Trust UKが莫大な資金提供をして、大規模なものが行われたのですが、実はそのLEDスーツも、このために開発され、IT技術とアートが一体になって新しい技術が生まれたということです。彼らはロンドン五輪の2012年秋に横浜に来てパフォーマンスを行いました。

 もう一つ、参加型のものとして代表的なものは、このビッグコンサートがドゥダメルの指揮で、屋外で行われました。これはロンドン2012フェスティバルのオープニングの一つとして行われたそうですが、その中に大勢の子供たちが演奏者として参加しているのです。
 当日は雨が降りました。7000人が来ていたのですが、みんな帰らずにポンチョを着て最後まで聞いたという話を伺いました。これを主催したのはシステマ・スコットランド(Sistema Scotland)という組織で、グラスゴーに事務所があります。事務所といっても元の教会を使っているのですが、そのイベントがBBCで放映されたそうです。そうすると自分の息子・娘がドゥダメルと一緒に出ているということで、地元のお母さま・お父さまはそのことを大変誇りに思い、以来、このEl Sistemaで楽器を学ぶ子供たちがどんどん増えています。今70人の組織になって、私が行ったときは多くの子供たちが楽器の演奏を学んでおり、これは一つのレガシーではないかと思います。オリンピック開催を機に文化を通していろいろな人が参加でき、非常に大きな成果があったということでした。

 スコットランドの場合は、実は2012年の後、2014年にコモンウェルスゲームズという、英国連邦のオリンピックが開催されました。それは、実は2008年から決まっていまして、彼らはむしろオリンピックは予行演習で、コモンウェルスゲームズのときに文化プログラムをいかに積極的にやるかというためにやったということでした。
 今、このコンテンツはなくなってしまっているのですが、サイトが残っていて、幾つか選べるようになっています。例えばWhereというのはどこか場所を入れて、左下のGood forというのは「Kids」などと入れて検索をすると、スコットランドの中のどこでどのようなことが行われているのかを検索でき、先ほど磯谷審議官からもポータルサイトの話がありましたが、このようなものが用意されています。実はこれはロンドン・フェスティバルのときに全く同じようなものができていて、そのフレームを彼らはさらに発展させて作っていたということです。

 もう一つの例は、ウェスト・ミッドランズです。ウェスト・ミッドランズはバーミンガムを中心にしたエリアで、ここでも1万件以上のイベントが行われました。どんなことが行われたかというと大きく四つあり、海外からの作品招聘をしたもの、参加型のイベントをしたもの、地元の文化団体・芸術団体を強化したもの、それと大規模なスペクタクルイベントということでした。
 中でも最も話題になったのは、昨年も少しご紹介したかもしれませんが、ドイツの作曲家のシュトックハウゼンが27年間にわたり作曲したオペラ「光」(Licht)のうち、「光からの水曜日」(Mittwoch aus Licht)が世界で初演されました。というのは、このオペラも全然公演される機会がなかったのですが、その理由は作曲家の指示によって、スコアに全ての演奏家が空中に浮いていなければいけないという指示があります。ですから、倉庫のようなところで行われているのですが、バイオリニストは空中からぶら下がり、声楽が非常に背の高い脚立に乗っています。下の絵は少し分かりにくいのですが、これも空中に浮いて台の上でパフォーマンスをしています。
 この曲の白眉は「ヘリコプター弦楽四重奏曲」というのがあります。4機のヘリコプターをチャーターして、弦楽奏者が乗り込んで、景色を見ながら映像と音が会場に流れる。このようなものなので、今まで一回も上演できていなかったのです。それをオリンピックの機にß、今までにない、once-in-a-lifetime、一生に一度きりの文化的体験ということで、バーミンガムがやったのです。
 もう一つ代表的な例は、Godiva Awakesというのがあります。これは地元に伝わる話を基に、大きな女性像を造って、これが街なかを練り歩くというイベントでした。フランスにいるロワイヤル・ド・リュクスがこのようなものを先駆的にやっています。
 実は自転車でGodivaが乗る乗り物を造って、人力で彼らはロンドンまでパレードをしたのです。その人力でこいでいる人たちは、多分みんな市民だと思いますが、そのようなことによって、地元の文化に対する誇りが非常に高まったと伺いました。
 それからもう一つ、これも大規模な「The Voyage」というもので、これは市民広場のような所で、船のような形をしていますが、これは特別にしつらえたもので、本当の船ではありません。その中でダンスを行うというものでした。
 このウェスト・ミッドランズは非常に詳しい評価のレポートが出ていますが、参加者数290万人で、域外から来た人は16万人、これが多いと言えるかどうかは分かりませんが、ウェスト・ミッドランズが文化的に優れた場所だということが分かり、あるいは市民がシビックプライドを醸成したり、経済効果も生まれています。
 そして全部で1000件ぐらいイベントが行われ、その一覧で一番多いのはコミュニティーゲームです。これがどういうものかお尋ねしたところ、スポーツと文化を一緒にやった市民参加のイベントで、分かりやすく言えば運動会の中にダンスのパフォーマンスも一緒にあるようなもので、これを地域のコミュニティー団体がすごくたくさんやったので、件数が一番多くなっています。実は、これもオリンピック終了後も、それを推進する組織が設立されて、いまや全国展開されており、大きなレガシーになっています。
 右側は非常に細かくて申し訳ないのですが、これが900の文化イベントに協力した団体のリストで、細かく一つ一つどのような団体か分からないのですが、文化団体だけではなく、例えば商店街や地域団体のような、小さな団体もたくさん含まれています。ですから、自分たちが文化イベントを企画し、それに参加するということで、オリンピックに主体的に参加する機会を提供する、これがオリンピックの文化プログラムの大変大きいポイントではないかと思います。
 ウェスト・ミッドランズでもポール・ケインズさんという方にお目に掛かって、彼らが作った短い映像がありますので、それを少しご覧ください。

(ビデオ)
 これがヘリコプターです。
 ダンスイベントがすごくたくさん行われたと聞きました。
 これが最後の写真で少し紹介したシュトックハウゼンのオペラです。これがGodiva Awakesの様子です。
 非常にたくさんの方々にご協力いただいたということが感じられます。この後にずっと団体名が出ますが、こうした方々の協力がなければできなかったということが、フィルムでも紹介されています。

 では、2020年の東京ではどうかということですが、全国展開をするときに幾つかポイントがあるのではないかと最近私は思い始めています。全国展開する最大の意味は、オリンピック競技の大半が東京で行われるのですが、文化を全国展開することによって、どこにいても誰でもオリンピックに参加できる、その窓口、チャンスを提供するというのが非常に大きいと思います。
 それから、文化だったら何でもいいのかという問題が常にあると思いますが、そこはオリンピックの精神にのっとったテーマ、究極の目標は「平和」だと思いますが、そのようにつながるようなことができないか。そして、文化と同時に教育やスポーツとも連携できないか。それから、東京以外の場所で文化を行うときに、海外からの大勢の人、オリンピック競技を見に来た人に来てもらおうとどうしても考えがちだと思いますが、その会期中のインバウンドへの過度の期待には、実は非常に気を付けなければいけないと思います。
ロンドンの例で、オリパラに関連した来英は約80万人、そのうち50万人はロンドンでした。文化プログラムの30%以上が外国の人に来てもらいたいと思っていたそうですが、実際のところ、そのようには結果が結び付いていないという調査が出ています。
 海外からの人たち、地元の人たちで見て、海外の観客が多いのは先ほどのシュトックハウゼンのオペラです。ヘリコプターが4機と、世界初演ですから、やはり海外から来るわけです。でも、他のものはやはり地元の人たちの参加が多いです。つまり、全国展開する文化プログラムのメーンの目標・目的は、やはり地元の人たちだと思います。そしてレガシーは何かといろいろ考えると、結局、オリンピックを経験した人たちが文化やクリエイティブなことを使って、将来の、金沢なり石川をどうやって元気にしていくかということを考える人、あるいはオリンピックで刺激を受け、今までにないような発想でそのようなことを考えられる人たちが育つというのが、一番の目標、レガシーになると思います。
 ここでロンドンの話に戻りますが、終わった後、ロンドン五輪はインスパイアが目標でしたので、果たして私たちはインスパイアできたか。この後の評価をしっかりやるのがイギリスのすごいところなのですが、16〜25歳の1000人を対象に、非常にポジティブな答えが導き出されています。一番下に23歳の青年の話が出ていますが、「オリンピック・パラリンピック競技大会によって、英国人であることを誇りに思うようになった。今まで何にもそんな気持ちを抱いたことがなかった」。イギリスを全然誇りに思っていなかった人が、そう思った。これは各地域で文化プログラムが行われた場合、各地域のことを誇りに思うようになることにもつながると思います。
 金沢で何をやるべきか、そんなことを私はおこがましくて何も申し上げられないですが、少しだけ考えたことを四つ、整理しました。
 あえて「ノー・モア・インバウンド」と言ってしまったらどうか。こんなことを言うときっと叱られるのではないかと私は思っていましたが、冒頭、安宅会長から観光客が増え過ぎて実際困っているというお話がありましたので、もうオリンピックの文化プログラムも、インバウンドを目標にするのはやめるというのを、金沢あたりからぜひ打ち出してほしいと思います。
 今日はおみえになっていませんが、21世紀美術館の秋元館長のお話だと、確か今年は200万人の入場者で、これはすごい数字なのです。ルーブル美術館の年間入場者の数はご存じですか。1000万人です。だから、その5分の1。恐らく美術館の面積は数十分の1、コレクションは数万分の1です。それでルーブルの5分の1の観客を集めているのです。
 ちなみに少し紹介しますと、台北の故宮博物院は430万人で世界7位、ホンピドゥー美術館は380万人で世界9位。2012年調べですが、そのリストに載っている日本で一番多いのは東京国立博物館、150万人です。つまり、金沢21世紀美術館は、東京国立博物館より既に多い人数を集めているのです。ですから、観客数を増やす開かれた美術館をやめて、閉ざされた美術館にしたらどうでしょうと、私は秋元館長に言ったのです。
 ですから、金沢も世界に開かれた都市を恐らく目指されていると思うのですが、閉ざされたと言うと少しあれですが、秘められた都市というか、まさしくクリエイティブツーリズムだと思うのですが、あえてあまり宣伝もしない、でもどうやら面白いものがありそうだ、加賀の国の本物の文化を体験するには、ちょっとお金も掛かるかもしれない、そのようなアピールができないかというのが一つ目です。

 二つ目は、市民参加です。でも、これも金沢市民芸術村の写真がここにありますが、さまざまな形で市民参加による文化は推進されてきました。ボランティア、観客で参加するだけではなく、むしろプロデューサー、市民芸術村の管理自体も市民がされると、これはもう既に世界をリードしているのではないかと思います。

 三つ目が地域の文化資源です。工芸が金沢の代表的なものだと思いますが、他にもいろいろなものがあります。これを活用していくことが、三つ目の大きな方針ではないかと思います。

 四つ目がクリエイティビティーとイノベーション、創造性と改革です。これも21世紀美術館に象徴されるように、既に金沢はやっておられると思います。ですから、私が一番申し上げたいのは、オリンピック、オリンピックと別に騒がずとも、金沢はちゃんとやってきたし、その延長線上で、それをしっかりさらに強化をしていくという路線でさえすれば、全く世界の誇れる文化プログラムができるのではないかと思います。

 ただ、そのときにオリンピックならではということで、少し視野に入れ、重視したらどうかと思うのが、究極の目的である平和です。
 それからオリンピックの価値、パラリンピックの価値は、合わせて七つあると言われています。卓越、友情、敬意、勇気、決断力、平等、鼓舞、このようなテーマと文化というのは、親和性のある部分が随分あるので、そのことによってオリンピックならではの文化が展開できるのではないかと思います。
 そして最後のレガシーは、やはり人材育成ではないかと思います。金沢21世紀美術館も子供たちがたくさん来ているということですが、他にも金沢の創造都市の基本戦略は、確かクラフティズムということで、人材育成が中心になっていたと思います。金沢美術工芸大学は、確か終戦の翌年に設立され、それから卯辰山工芸工房もありますし、金沢職人大学校もあるということで、既に人材育成にもすごく取り組んでおられます。ですから、オリンピックのレガシーをつくる措置も既にあるのではないかと私は個人的に思います。ですから2020年は大きなチャンスになることは間違いないと思いますが、それをぜひ金沢の創造都市の第2ステージの契機にしていただきたいと思います。

(佐々木) どうもありがとうございました。お二人にすてきな話をたっぷり頂いたので、近藤さん、どんな形でも結構ですから、お願いいたします。

(近藤) 皆さま、こんにちは。近藤誠一でございます。
 私もこの会で吉本さんに負けないぐらいの金沢ファンになりました。あまり「金沢、金沢」と言うものですから、家内がジェラシーを感じたらしく、今日はついてまいりました。予定がいろいろありまして、今日は夕方、これが終わったら帰らざるを得ないのですが、先ほど「ちょうど今、カニのシーズンなのに」と言われて、これは惜しいことをしたなと、またカニのシーズンのうちに戻ってきたいと思っています。
 最初に少し一般的なことを申し上げて、あとは金沢に対する期待についてお話しさせていただきます。私は外務省と最後は文化庁で、42年間、宮仕えをしましたが、そこで感じたことを一言で申し上げますと、今の日本を元のような輝く日本に戻すには、キーワードが二つあり、一つは文化、一つは地方です。もうそれぞれご説明するまでもないと思います。そのような観点から、佐々木先生がずっと推し進めておられる創造都市構想は、本当にそれをまさに正面から実現するものとして、非常に心強く思っています。
 その地方都市が文化創造産業で成功するためには幾つかの鍵がありますが、これも私もいつも申し上げているので、新しいことではないかもしれません。私もだんだんネタ切れになってきました。もちろん、地元の強いリーダーシップ、地元の方々のサポート、それからその地にふさわしいものに特化する、そして新しいもの、異質なものもどんどん取り込んでいく、そのような開かれた姿勢があることが、これまで世界を見てきて成功した創造都市に共通していると思います。
 そこで金沢について、私の若干の知識を踏まえてお話ししたいと思います。金沢にぜひお願いしたいのは、金沢の本当の強みを正しく認識した上で、それを戦略的な仕掛けで発信していく、伝達していくということに尽きるのではないかと思います。
 その仕掛けの方を最初に申し上げますと、先ほど佐々木先生からご紹介があったユネスコの創造都市研究センター、このような世界の創造都市研究に関するハブが金沢にできれば、それは仕掛けとして、素晴らしい効果があると思います。しかし、少し時期尚早だというご意見もあったようですし、東アジア地域で他の国も関心を示しているということも聞いております。
 その関連で言えば、ユネスコには世界遺産(有形遺産)と世界無形遺産、記憶遺産という3種類の遺産がありますが、そのうちの無形は、私がたまたま大使をしておりましたが、当時の松浦事務局長のころに日本が音頭を取ってつくった条約であり、コンセプトなのです。能、歌舞伎、紙すきなどいろいろありますが、その無形遺産の重要性を広める拠点を各地につくろう、ではアジアに一つつくろうとなったときに、日中韓が手を挙げ、三つ巴になり、相譲らず。最終的には、では3カ所につくってしまおう。しかし同じことでダブってはいけない、役割を分担して、あるところは研究中心、あるところは啓発・訓練中心、あるところは展示でしたか、そのような分け方をして、一種のすみ分けをして、何とか3カ所につくったという経緯があります。
 それがいいかどうか分かりませんが、かなり人気が出てきているこの創造都市の拠点を東アジアにつくるとなると、やはりお隣の国、あるいは国々も黙ってはいないかもしれません。その辺はそれぞれの特徴を生かしてうまく連携し、文化というのはそのような面がありますから、取り合い、ゼロサムゲームではない、三つがそれぞれ役割分担し、「1+1+1」が3よりも大きくなるような仕組みを考えていくということが、抽象的ですが、恐らく一般の解決策ではないかと思います。
 もう一つの仕掛けは海外、特に日本の、特に金沢の誇る伝統工芸のようなものを評価してくれる外国、私の知り得る限りではそれはフランスだと思います。たまたま私がフランスにいたこともありますが。フランス人というのは大変な個人主義で、日本人と全く違うと思いがちですが、文化芸術に理解度があり、日本の非常に繊細で洗練された、場合によっては最先端を行くような芸術性をいち早く理解してくれるのがフランス人だというのが私の印象です。当然、19世紀末のジャポニズム、浮世絵から大変なヒントを得たフランスの印象派があります。今は第2のジャポニズムの時期に来ているのかもしれませんが、漫画・アニメ・コスプレも、フランス人が真っ先に、斬新性、奥にあるものをかぎ取ったと思います。そのような意味では、フランスは世界中の人が文化の中心と認める国ですから、そことうまく組むのは戦略的に適切ではないかと思います。
 若干私ごとになりますが、青柳長官の発想と非常に似ていますが、私も伝統工芸を何とかして活性化し、新しい市場をつくり、生きた分野として発展させていきたいということで、「匠(たくみ)プロジェクト」という一般社団法人をこの夏に立ち上げました。いろいろなことをやるつもりですが、いろいろな分野の職人、一流の方々のネットワークをつくって、そしてフランスに大きな匠ビレッジをつくります。そこに行くと、日本の伝統工芸、刀の研師や木工の人、人間国宝クラスの方々が常駐しておられて、ヨーロッパにたくさんある日本の古美術品の修復もすれば、新しい制作・販売、ワークショップもする、そのようなことを考えています。アルザスにあるヨーロッパ日本学研究所が大変強い関心を示してくれています。うまくいけば、そこにかなり大きな規模の日本の伝統工芸の、物ではなくて人が集まっている地点ができると思います。それがうまくいけば、日本にもそのようなところを設けたいという夢を持っています。
 そこでまずフランスと申し上げたのは、そのようなことです。実際に日本の、特に工芸というのは、欧米では必ずしもファインアートとは見られず、レベルが少し下だと見られていますし、あちらのクラフトはそうなのかもしれませんが、日本の伝統工芸は決してそうではなく、まさに素晴らしい美術だと思います。そのようなところが今、じわじわとヨーロッパに分かられつつあると思います。少しずつ需要が高まりつつある中で仕組みをつくって、フランス、あるいは最近はイギリスのセインズベリーという美術館も日本の伝統工芸に大変関心を持っていますので、そのようなところとうまく組むことで世界にも発信でき、日本人も「そうか、フランスやイギリスがそんなに関心があるのか」と、目を向けてくれるかもしれません。そういう意味で、ネットワークのセンターをつくり、海外とのある共通のプロジェクト、共同プロジェクトを設けるような仕掛けが十分できるだけのクオリティーが金沢の文化にはあると思います。
 では、何が金沢の正しい強みなのか。当然、今、思い付くのは金沢というブランドです。加賀百万石以来ずっと発達させてきた、この高級ブランドをぜひ維持していくことが必要であろうと思います。新幹線効果も引き続きうまく活用していくこと。それから、他の都市に比べて特に際立っているのが、金沢経済同友会を中心とする財界や地元の方々のご支援です。地元が大事ということはこれまでの話でも出ましたが、金沢の強みは、財界がしっかりとコミットしていただいていることで、これはぜひ今後とも続けていただきたいと思います。
 それらに加えて、これこそ絶対に金沢だというのは、あると思います。それは歴史・伝統に根ざした文化の実力というのでしょうか。金沢の方々、金沢のまちに染み付いている、染み込んでいる歴史と伝統・文化のクオリティーです。これは一朝一夕にはまねができないと思います。博物館に素晴らしい工芸品を集めても素晴らしい絵を飾っても、それはそれで勉強になりますが、しかし、まちをぶらっと歩いていて歴史を感じる、そこに住んでいる方々と挨拶を交わしているときに、何か洗練された文化・伝統を感じる、そのようなまちは日本にはそんなに多くはないと思います。
 まして、文化大革命で文化を壊してしまったどこかの国には、そのようなものはないと思います。物や現代アートはあるかもしれません。でも、1000年の歴史を持った、それが染み込んだまち、それが日々の立ち居振る舞いに染み込んでいる方々が住んでいるところというのは、昔はあったのでしょうが、あの国にはないと思います。ここは絶対にあの国には負けないところだろうと思います。大きな現代アートを作る能力はどうか分かりませんが、こここそ金沢の強みだと思います。ぜひここを維持していくこと、加賀百万石以来のこの素晴らしい資産、まさにレガシーです。これを決して食いつぶすのではなく、これをさらに高めて、より深めていくことが必要であろうと思います。ここにこそ金沢が持てる資源を集中的に使うべきであろうと思います。
 それはより具体的には、一昨年、第7回の会議のときに「クール・カナザワ」というテーマで話がありました。そのときも少し申し上げましたが、クールというのは「クール・ジャパン」という言葉があって、「クール・ジャパン=漫画・アニメ」という発想になりがちです。あるいは、単にお金を稼ぐためだけの文化の輸出のような発想と取る方、実際そのように思っている方もいるのかもしれませんが、このクール・カナザワを今後進めていくとすれば、そのクールというのは、単に見かけ上、格好いいということではなく、伝統に秘められている素晴らしいデザイン、そのデザインの奥にある自然観、宇宙観、美意識といったものが、現代の作品にもあるということが分かる。あるいは、現代の斬新なアイデア・デザインを現代のクリエイターたちが創出したときに、同じものが800年前のここにあるではないかということを見つけ出す能力、目利きといいましょうか、そのようなものこそ、また金沢の強みになるのだろうと思います。まさに、人、目利きを育てていく、これは一朝一夕にはできないかもしれませんが、金沢のように伝統があり、そのような方々が既におられるところだからこそできる、金沢にしかできないことだと思います。
 そのような意味で、インバウンドでドッと人が何百万人か来て、やったやったと、そのようなところがあってもいいと思いますが、私も金沢はそうではなく、閉ざされたかどうかは別として、秘められたというのでしょうか、目利きがここに来る。つまり観光のリピーターが来るのではなく、目利きの体験を自分でやってみる、だんだん深さが分かってくる。現代の作品と21世紀美術館と、何百年前の金沢に伝わる伝統工芸との間に思わぬ共通性がある、関連がある。そこを見いだす能力を磨ける場だというような魅力をつくり、それを発信・伝達していくことができれば、それこそ金沢にしかできない強みになるのではないかと思います。
 そのような古きもの、新しきものにも共通している一種の「匠」の精神、それは煎じ詰めれば、先ほどご紹介いただいた私の発言にも共通します。日本人が持っている自然観、自然をどう見るか。それから美意識、単にきらびやかな色彩、形ではない、目に見えないもの、音の聞こえないものにも素晴らしい価値を見いだし、それをクリエートし、評価する。そのような壮大な宇宙観のようなものがいろいろな作品に表れている、特に工芸品に表れているということが分かること、それを見る目を養うこと、恐らくそこが金沢が大きく重点を置くべき点だと、私は個人的に思うところです。
 一番大事なことは、伝統を伝える作品ではなく、伝統を伝え、それに新しい息吹を吹きかけて、後世に伝えていくことができる人だと思います。文化財も大事ですが、それができるクリエイターこそが、文化にとって一番大事だと考えれば、そのような人を養うこと、目利きを養うこと、そして目利きになりたいというファンを増やすことが、恐らく金沢の進むべき方向の一つではないかと思います。表面的な文化財を見に来るリピーターではなく、匠、あるいは目利きにもう一回なりたい、もう一度研修を受けたい、体験したいという金沢ファンをつくっていくということで、爆発的に人が来るわけではない。しかし、非常にクオリティーの高い人が少しずつ集まってくるようなまちになっていただきたいし、その資格が十分にあると思います。

(佐々木) 何となくシーンとして、もう終わってしまったような感じがありますが(笑)、大変示唆に富んだ意見を3人から頂きまして、私も少し考えながらヒントを得たような点もあるので、少し整理をしながら、質問をそれぞれにしていきたいと思います。
 磯谷さん、先ほど工芸サミットの話で、まだオープンできない要素もあるのだということを言われていました。これまでの議論の中でもそうですが、金沢のコアになる文化資本は、間違いなく工芸であり、これを2020に向けて世界に発信していく場所として、工芸サミットというのは、かなり大きなものになると思いますが、今、審議官というお立場もあるので、お話しになれる範囲で、考えていることをお願いします。

(磯谷) ありがとうございます。それについて話さなければ、私は何でここに呼ばれたのかと、後で皆さんに笑われてしまうのではないかということで、目いっぱい話させていただきたいと思っているのです。
 少し整理させていただくと、青柳長官が金沢市にもお伺いして新聞にもいろいろ報道されおり、先ほど佐々木先生からご紹介があったように、世界工芸サミット、あるいはビエンナーレのようなものをやっていきたいという非常に強い思いがあります。先ほど私からご説明しましたが、文化庁として新たな文化産業の拠点を形成していく中の一つの有力なメニューとして、世界的な工芸拠点を形成していきたいという構想があります。
 予算が、政府原案が12月にもし閣議決定できて、それで国会の審議を経て4月に成立した場合の話として、何らかの形でその世界的な工芸拠点の形成の予算をぜひ計上し、そして実行していくことをわれわれは考えているところです。
 今、国として考えているイメージとしては、一つの県、一つの市、そのような範囲で盛り上げていくというよりも、やはり複数のエリア、県域をまたげるような、日本全国で見たときに、この辺りのエリアはものすごいよと、仮にそれが北陸だとすると、金沢は今、近藤前長官が言われたような、あるいはまさに福光社長や会長さんたちのお話にあったような素晴らしい歴史・文化に根付いた工芸があり、素晴らしいものを持っているところもあります。あるいは、富山であれば高岡などいろいろな特色もあり、福井もまたしかりで、かなり大きな範囲でそれぞれのコアを持っているようなところを、全体として盛り立てていくことを考えています。例えば複数の県を対象とするのであれば、2年に1回ぐらい、幹事県・幹事地域のようなところがあって、そこにその他の地域も協力して、持ち回りのような形で、大きなエリア全体を数年間かけて盛り上げていって、世界的にもそこが注目される地域になっていくようなイメージで物事を考えています。
 それから、金沢として工芸を育てる上でどんなアイデアがあるのかというのは、ぜひ積極的にわれわれにも逆に提案いただきたいと思っています。情報のキャッチボールをしながら、プロジェクトを立ち上げていくことが重要ではないかと思います。来年度からすぐ何か大きなことをドーンとできるなどとは思っていませんし、あまり時間はありませんが、2020年に向けてどういう形がベストなのか、十分、情報交換をしながらやっていきたいと思っています。

(佐々木) 今お話しになったように、キャッチボールをしながら固めていきたいというわけですから、当然、石川県や金沢市で文化プログラムの担当課が置かれて、その中の重要な構成要素として、工芸サミット担当者をまず置くのだろうなと。こちらの方を見て言っているのですが。行政はすぐに向かなければいけないということです。文化プログラムの担当課を、例えば横浜市はもう今年4月にスタートさせています。それから新潟市・県も、去年秋ぐらいから動いていますから、その点では金沢はまだまだ遅れていると思います。体制づくりが一つでしょう。
 キャッチボールを進める上で、どんな文化プログラムの作り方をしていくかというのは、吉本さんに例を出していただいたように、イギリスの場合はアーツカウンシルが中心になり、そのアーツカウンシルは一本ではなく、イギリスの中で四つに分かれていて、スコットランドはCreative Scotlandという名前でした。その単位でできて、これが担ったのです。恐らく、その中心はエディンバラ、グラスゴーという、ユネスコのクリエイティブ・シティの有力メンバーです。ですから、金沢市は、エディンバラとグラスゴーと対等に連携できるわけです。だから、工芸(クラフト)のメンバーと交流するのも大事なのですが、少し視野を広げて、そのような展開にしていったら、いろいろなヒントが受けられるのではないかと思います。
 その上で、ユネスコの創造都市研究センターのつくり方で、これは松浦前事務局長とも話しており、先ほど近藤さんも言われましたが、アジア・パシフィックを対象にすると、隣の国とバッティングするのです。それを避けるとしたら、ユネスコには七つのジャンルの申請テーマがあり、そのジャンルの中で言うと、金沢は世界で初めて工芸で登録、認定されています。ですから、七つのジャンルの研究センターをつくればいいとなると、工芸を軸にした創造都市の研究センターを金沢が置くということが、うまくいくかもしれません。
 地方移転の問題で、工芸館の移転を石川県から出していますが、国内外の工芸のセンターという形にしていって、文化庁が考えているネットワークのハブをつくれればベストでしょう。
 そのときの研究テーマの在り方として私が考えるのは、工芸がたくさん残っているまちというのは、工芸の技もそうですが、工芸の材料とするさまざまな植物や動物があります。つまり、生物多様性に富んでいる地域だと思います。
 同時に、工芸というものは文化多様性を表すわけで、生物文化多様性という概念を実は今年のユネスコ会議の中で提唱したのですが、地球環境を維持しようと思うと、巨大都市をつくっていて生物多様性を失ってはいけないし、特定の大都市に文化が集中して文化多様性を失ってもいけない。恐らく金沢ぐらいのサイズの都市が生物文化多様性を高めるという形で、世界の都市のモデルになっていくことが必要で、それは工芸的なものづくり、工芸的精神なのではないかと思います。ですから、金沢が担うべき研究というのは、国連のSustainable Development Goalsという新しい目標と工芸を結び付けるような議論ができればいいのですが、実はこのテーマは、十数年以上前に石川県が誘致した国連高等研究所のセクションが最初に掲げたテーマなのです。それをずっと続けておられるので、国連のユニット(しいのき迎賓館にある「国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット」)のようなところとの連携も十分に可能になるのではないかと思いますので、何か知恵をうまく集めていって、それで2020を迎えると。
 これは先ほど福光さんと冗談のように話していたのですが、この会議は2001年から始めており、創造都市会議と金沢学会が交互に来ていますから、第8回ですが、15回目なのです。2020というのは20回記念です。そのあたりは僕も世代交代で代わってもいいのですが、20回記念を準備して世界の創造都市や国内外の創造都市、そして工芸のネットワーク、そのようにかなり大きな会議を今からなら準備できると思います。インバウンドの数は要らないので、質の高い会議をやって、それで金沢が世界的にリスペクトされる、そのような方向はどうかなと、皆さんの話を伺いながら思った次第です。
 あと10分弱ありますので、お一人ずつ皆さんのお話を伺って、最後のコメントを頂きます。吉本さんから順に行きましょうか。

(吉本) 私自身は、工芸のことは不勉強で全く知識がないのですが、実は昨日から金沢に寄せていただき、昨夜、今年10月末にあった金沢工芸アート・チャリティーオークションの打ち上げがあるというので、浦さんにお招きいただき、急きょ乱入しました。そこで若い作家の方に何人かお目にかかりました。このような小さいカタログを頂いたのですが、その中には金沢卯辰山工芸工房、金沢美術工芸大学の方などがいらして、写真で見ると実物ではないのでよく分からないのですが、話を聞くと、若い作家の方々が考えていらっしゃることがすごくユニークで、その奥に目指そうとしている、追い求めているものがあるのだなと感じました。
 それで企画をされたのがアートグミという地元のNPOで、なおかつそのオークションを21世紀美術館でやっているのです。公立の美術館で作品を売るのはご法度なのですが、でもそれを金沢ではやってしまったわけです。ただ、そのオークションも売り上げはちゃんと作家に還元される仕組みで、そこに作家を育てるという戦略も裏にあって、すごく優れた仕組みで、面白いチャレンジだなと思いました。これが第1回目で、実は山野市長も来られて、すごく感激されたという話を伺いました。
 公立の美術館で若い作家を育てるということは、いろいろなところがやっておられますが、オークションでちゃんと作品を売っているのは多分、金沢が初めてだと思います。それがまた工芸で始まっているということで、今は金沢市の催しとして始まっていると思うのですが、それも第1回目が行われています。ですので、2020年に向けてこれをすごく大きく育てていけば、工芸サミットにつながるような、あるいは金沢が国際的な工芸の拠点になるようなことにつながるポテンシャルがここにもあるのではないかと思いました。
 もう一つ、今日はスコットランドの話をご紹介しましたが、金沢も当然、海外の都市と姉妹都市提携等いろいろあると思いますが、何かイギリスの経験を踏まえて文化プログラムを考えるのであれば、例えばエディンバラやグラスゴーと、彼らの経験に基づいて一緒にできるようなことを考えるというのも、一つ発想を広げる意味で可能性があるような気がしました。
 今日紹介した「スピード・オブ・ライト」の芸術監督のアンガス(Angus Farquhar)さんという方にお目にかかったのです。彼は横浜でもやったという話をしましたが、日本文化のことをすごくよく理解しているのです。神社のことなどの話をずっとしていて、言ってみれば2020年の東京五輪のときに、究極はまた日本でやりたいと思っているのです。そうであれば、もう今から金沢から彼にアプローチをして、古都金沢でああいう最先端のパフォーマンスを行う、それがロンドンから継承されて金沢で新しい展開になる。そのような国際的なシンボリックなプロジェクトも今から構想する。工芸と併せて、二本柱のようなことを考えられないかと思いながら、先ほどから話を伺っていました。

(佐々木) ありがとうございました。吉本さんは明日も参加されますので、そのときまたたっぷりとお願いします。磯谷さん。

(磯谷) 工芸サミットの件も先ほどお話ししましたので、繰り返しになりますが、ぜひ金沢、あるいは金沢経済同友会を含めてのこの組織から、具体的なアイデアを正直なところ頂きたいと思っています。要するに来年度、再来年度に何か完成したものがバンと出てくるというような問題ではなく、先ほど来、近藤前長官や吉本さんも言われているように、やはりその地域の歴史や伝統、積み重ねがあって、それが花開くというのが文化プログラムの基本だと思っています。何か国が枠にはめた方針を決めて、このようなお祭りをやりましょうということではなく、われわれはその地域のアイデアを頂いて、キャッチボールしながらつくり上げていき、それが2020年以降につながっていくことをぜひやりたいと思っています。
 文化庁としてはそのような意味で、従来の補助金を出すということから脱皮して、国の企画は、まさに地元の方たちとキャッチボールして、そのプロジェクトを組み上げていって、それがレガシーになるということを、ぜひやりたいと思っています。本当に私が今日すぐ帰ってしまうこと自体が問題なのですが、ぜひこれを機会に情報交換をさせていただきたいと思っています。今日はありがとうございました。

(近藤) 工芸の話がずっと出てまいりましたが、マルティン・ハイデッガーというドイツの哲学者が『芸術作品の根源』という本を書いています。一言で申し上げると、彼は、物には3種類ある。それは、その辺に転がっている自然物、人間が作った道具、芸術作品であり、その三つは全部違うのだということを言っています。
 それを読んだ途端に、私は抵抗を感じました。確かに自然物と人間が手を加えたものは、違うと言えば違うでしょう。でも、道具と芸術作品が違うというのは、私は納得できません。日本人は、日常使う道具の中に美意識を込めてきました。茶わん、お箸、ちょっとした置き物。どえらい大きなモニュメントや、大きな絵を描くことだけが芸術ではないのだと。それが日本人をずっとつくってきたと思います。工芸作品というのは茶わんであり、ざるである、従って道具だ、道具にちょっと毛の生えたようなものだという意識がまだまだ世界の人には強いと思いますが、そうではないのだと。日本人はそこに宇宙観や自然観を表してきた、美意識を表現してきた。それこそ、むしろ身近なところ、毎日の生活で美意識を楽しむ。それが日本の文化であり、これからのあるべきものだということを世界に示していく。2020年がそのようなきっかけになってほしいし、そのきっかけを引っ張っていただける力が金沢にはあると思います。

(佐々木) これで第1セッションを閉じたいと思います。どうもありがとうございました。

 

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第一日目 12月10日

第二日目 12月11日

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