全体会議
   
■議長
 大内 浩(芝浦工業大学教授)

 

  
世界に向けて金沢の魅力を発信する仕組みづくりや、
クリエイティブな人たちが集まる創造的な環境整備を。


福光●2日目は恒例の全体会議ですので、昨日の3つの鼎談の「うたう」「みる」「あそぶ」という切り口に基づいて議論を進めます。本日は公務ご多用の中、山出金沢市長にお越しいただきまして、本当にありがとうございます。また折に触れてご発言をいただきたいと思っております。全体会議の議長は大内先生にお願いします。

大内●飛田代表幹事から都市間競争について、都市がそれぞれの持っている資産を利用して、行動を実践に移し、積み重ねていくしかないのだということを、ある意味で厳しく指摘されました。都市をどうやって魅力づけしていくのか。旧町名復活、ふるさと教育、電線の地中化、あるいは看板の撤去等々、後ほど市長さんにもいろいろと市の方でも工夫をしていただいておりますので、ぜひ市としての活動についても何かコメントを頂けるとありがたいと思っております。 
 私は2番目の「みる」という鼎談で、香りとITデジタルの世界という非常に面白い組み合わせでお話をいただきました。
 この香りの世界というのは伝統の世界だけではなくて、実は今、最先端の医療の分野でも非常に注目されている分野でもあります。金沢は医療の世界でも大変な蓄積を持っていますので、そういう方たちとうまくコラボレートしながら、金沢が一つの香りという産業を展開していくことも考えたらいいと思いました。
 それから、デジタルアーカイブの仕掛けについては、昨年の金沢学会でも宮田さんからご提案していただきました。せっかく歴史都市がいろいろな試みをしていて、伝統というのは決して何か箱に入れたままではなくて、常に新しいものに挑戦しているわけですから、そういった歩みも含めて本当はアーカイブという形でデジタル化していくことは非常に重要です。
 同時に、若い人たちがこのデジタルアーカイブに参加していくような仕掛けをつくったらどうかということですが、Web上のさまざまな世界に若い人たちが、サイトの上でお互いに情報を交換し、結果的に大変な蓄積になっていってアーカイブを形成していく、そういう時代のチャンスをぜひ生かしたらどうかというお話もありました。

佐々木●江戸時代の金沢、あるいは明治から大正、昭和の時代の金沢、平成から先の金沢の顔をつくっているわけですが、それぞれの文化的な積み重ねの中で一本筋の通った文化の軸があるということが創造都市としての条件ではないかと思いました。さらに軸を高くしていく、アンテナを高くしていくためには世界の最先端にいるクリエイティブな人たちが金沢をうたう、あるいは金沢をどう見せるかという話ができる場を提供しなければいけない、それを市民が楽しめる、あるいは市民が一緒になってクリエーター、アーティストたちと一緒に共同作業として展開していくという新しいタイプのアートプロジェクトが、これから例えば創造都市会議が作り出す新しい歌とか、新しい見せ方とか、香りといったことが議論の段階に来た、あるいは行動の段階に来たのではないかという感じを持っています。

水野●都市間競争の中での経済力や個性といったものについての議論ではなく、主に市民の創造力みたいなことが議論の中心であったのではないかと思います。「うたう」にしても「みる」にしても「あそぶ」にしても、今までないようなものを組み入れていこうではないかという話だったかと思います。
 創造力ということは、結局ここから生まれる物づくりだったり、事づくりだったり、営みだったりに反映するわけです。その新しいことというのが都市や町を刺激するというのは、昔からいろいろな民俗学で「まれ人来る」というのがあって、変な人が来て、そこで何か起こしていって、その村や町を大騒ぎにさせて去っていく。そして、去っていった後に何かものすごく印象的なものが残ってくるという経験が都市にはあるわけです。そんな意味でいうと、香りの話も、歌の話も、それからコンテンポラリーアートの話も、金沢に今までなかったようなものがやってきそうだという状況で、それを迎えて市民がどう応えていけるかというところに新しい創造力をつくろうではないかということが話題の中心だったように思っております。
 
最初の「うたう」という部分で、佐々木先生がクリエイティブなクラスの人たちが住みたくなるような町、あるいはそういったクリエイティブの人たちが寄ってくるような、それに対して金沢の町が応えてくれる、そういう町でなければというような話があったので、その辺のところを、例えば金沢がそういうクリエイティブな人たちに応える要素というのはどういうものがあるのでしょうか。

山口●ヨーロッパの中では今、それこそクリエイティブクラスの人たちが大挙して住んでいるエリアがベルリンなのです。ベルリンはもちろん東ベルリンのエリアがまだ家賃が少し安い。それから、廃屋みたいになっていたものが格安で借りられるということもあるのですが、もう一つ大きなもので、現代アーティストたちにとっては必要なものは、鉄工所とか機材みたいな、要するに東京だとホームセンターにしか置いていないような木材やネジなどが使える場所があるということなのです。
 私は本当に水野先生がおやりになった金沢芸術村というのは、あそこはとにかく24時間使えるわけですから、24時間使える、出入りができるということと、それから、その素材を提供できるような、中小企業も含めて「こういうものだったら芸術家に使わせてもいい」という企業主がいるということを知っていただければ、アーティストは幾らでも来るような気がいたします。

佐々木●今の流れからいきますと、やはり京都で海外のクリエイティブな人たちが選ぶ場所というのは町家なのです。京都駅や京都タワーなんかはつまらないのです。やはり京都の歴史がぎゅっと詰まっていて、そこで職人が物づくりをしていたわけです。その雰囲気が大事なのです。そういうものを感じ取って新しい創造に向かうわけです。
 金沢は京都と並んで、その点ではとても条件が満ちていて、ただし、町家というものの使い方のソフトのところが、保存から活用する方向にどのようにうまく使っていくかというところですね。これがこれからの検討課題です。例えば21世紀美術館というのは、まさに1つの広告塔としてはすごく大きな力がある。そういったもので集まってきた人たちが次に町の中で展開していけるような形が必要です。

秋元●どうやってクリエイティブな方々を金沢に引き込むかというところなのですが、既に有名になっている方を引き込んでいくというのはお金がかかるわけです。そうすると、いかにクリエイティブな場をつくって、金沢で有名になってもらって外に出るかということになろうかと思います。クリエイティブなものができるということは、大体常識を超えているからできるわけなので、よく分からない場所というか、空白地帯みたいなものを小さくてもいいから、あまり失敗してもやけどしない程度の投資規模のものを幾つか細かくつくるわけです。10個のうち1個、ずば抜けたものができればよしというぐらいの構えができるかどうかというのが非常に大きいだろうと思います。

福光●金沢コンシェルジュというのは、去年の金沢学会のときも構想を出しておりまして、つくらなければいけないという話になっています。それと実は宮田さんがこれから説明されるアーカイブスと全部がつながったナビシステムを作るべきだという話になっているのです。実際にいろいろとやろうと思って取り掛かると、非常に初歩的なところでいろいろと面白いことがあって、どういう構成で誰が運営するような方式にすればいいかとか、そういうところでまだいろいろと意外に熟慮が必要だったりして、面倒なこともいろいろとあるのです。

宮田●やろうとすると、では誰がやるのだとか、どうやって作るのだとか、結構面倒くさいことがあるのです。それは技術的なこともそうですし、それを運営していく方策というか、それも実は面倒くさいというのがあります。いま動画配信市場というのが活性化してきています。今後、インターネットのコンテンツの主役の一つとして、動画が大きな役割を占めるということは確実とされています。金沢というのはもともと非常にブランド力がある都市だと思っています。実際にコンテンツが大変豊富で、楽しいことや美しいものがたくさんあるのですが、この金沢という大きなブランドを使って、集客力の動画のコンテンツを作れるのではないかと思います。これを例えばどこかがコスを負担して作ると、これは大変莫大な費用がかかるというのは目に見えていることで、大体ここでIT企業は失敗するのです。そうではなくて、楽しむということが一番大事だと思うのです。一般に参加する方々もそうですし、運営する側もどれだけ楽しめるかというのが、これを継続していく一つのキーになると思っています。最初はありきたりのものも含めて、とにかく地元であらゆるコンテンツをまず作って、ケーススタディを見せていくというのも非常に重要だと思うのです。

山出●もともと金沢という町は保存と開発、伝統と創造、昔があって今がある。こういう二面性とか多様性、水野先生はいつも「バームクーヘンみたいな町です」とおっしゃいますが、そうすると金沢のイメージというのは一言で言えるのだろうか。金沢はどういう言い方が一言でぴしっと来るかといったら難しいのです。小京都といっても、金沢は別にお公家の文化でもないし、古都だといっても、京都や奈良や鎌倉から見たら歴史は浅い、一言でイメージを言うということは大変至難の技だと、そこがまた金沢の面白さかなと思っています。どなたか金沢の町のあいまいさということを述べていらっしゃいましたが、確かにそうかなと思ったりもしていまして、また先生方からいい呼び方があったら教えてくださればと思っています。



米沢●金沢で若い女性の声楽家と篠笛をやっているアーティストが二人いるのですが、片方が着物で、片方がドレスだったのです。それで何か違和感があると相談を受けていて、それで、牛首紬の友人が、何とか紬の洋風の展開はないかということで、縫製とを紹介して、牛首紬のドレスができたのです。するとベルトはやはり今までのものでは合わなくて、水引にして、ネックレスも水引で作った。プレタポルテは駄目だけれども、オートクチュールならこの牛首紬の生地は可能性があるということで、織機のもっと幅広い機械を作ったら、ひょっとしたら世界に通じるような素材になるかもしれないと言っていました。何か一つやってみることによっていろいろな展開や発見がありました。 

山出●クリエイティブな人々の存在があって初めて町は良くなる。それではそういう人材がいる条件は何かというお話が先ほど出ました。やはりその町の教育、文化、医療、そして環境といった。快適な基礎的な条件をきちっと整えておくことが一番大事なのではないかと思いますし、その仕事が僕の仕事だろうと実は思っているのです。佐々木先生は寛容性という表現をなさっていました。僕はこれによそから来る人の謙虚さをぜひ加えさせてほしいのです。例えば、僕は今きれいな町をつくりたいと思っていますから、看板の規制や道路標識を小さくするといったことをしなければなりません。しかし、地場の企業の人たちは協力的ですが、外部からの企業にはあまり協力的でない方もいらっしゃる。ですから、そのまちを知った上で謙虚であってほしい。僕はこのことを本当に強く主張したいと思っています。僕は職員に、協力してもらえないなら、場合によっては僕が東京へ行くとまで言っているのです。そうしなかったら町は良くならないとつくづくと感じています。

八木●私も地元というか、家の近所で食事に出掛けると、美大を中心とした学生のバイトの方は多いのですが、やはり昔ながらの飲食店、チェーン店ではない飲食店のご主人は非常にそういうバイトさんを大事に扱って、この金沢の町自身が学生や外から来た人たちを育てられるような環境にありまして、うちの会社にも、金沢ではない場所から金沢の大学を出てたまたまうちの会社に就職した一など、全く金沢ではない所に生まれ育ってうちの会社で働いていただいている方もいます。これも、金沢の人だけで会社をつくっても面白くなくて、実は適当なバランスで外の人の血があるということが非常にわれわれのまた産業の活性化につながっているわけです。
 実は一時期、大失敗をしまして、合理化に基づいて、東京の支店の人員を全部東京の人にしたのです。これは大失敗で、金沢の企業なのに金沢のミッションとか、われわれの企業のミッションが分からない人間だけで支店を構築したというところに非常に問題があったのです。そういう時期がありまして、やはり適当に人員のバランスが取れていなければいけないわけでしょう。金沢を知る人も必要ですし、金沢を学ぶ人も、そして知らない人もいるというところに面白さがあるのではないかと感じました。

半田●金沢のコンテンツはどういうものがあるのかと思って検索エンジンを使っていろいろと見てみたわけですが、金沢の人から見ても満足できないし、これだと金沢に行っておいしいものを食べようとか、そういった人にとっても非常に親切なものは一つもなかったのです。コマーシャルベースになるとバイアスが掛かったりして、本当に信じられるのかどうか疑わしくなるし、数にしても説明にしても不満足が多いことが分かったわけです。 私自身も国内や海外へ旅行に行くときは、最終的にはインターネットで地元の人の情報などを非常に参考にするわけですが、こちらから発信するだけではなくて、やはり例えば東京から新幹線で来られた場合に、旅行経験者がどんな旅行をしたかとか、どういった所へ行ってどういうものを食べたかとか、そういう2泊3日滞在日記みたいなものが載っているサイトは結構多いのです。それは旅行のコース、行く所、どういった所で食事をするのかということで非常にわれわれも参考にするので、ぜひともこちらから発信するだけではなくて、金沢に来たことがある人の、率直な気持ちみたいなものも含めて、ウィキペディアのような形で自由にいろいろな分野で金沢の人も書き込めるし、外からの人も書き込めるようなものがあれば、非常に金沢からの発信や逆ストロー現象といった部分ではいいのではないかと思います。
 もう一点、今いろいろとお聞きしていると、われわれが知らないいろいろな分野で金沢で面白いことが起こっているのですが、インターネットを使えばこういうものがあると、そういったもので総合的な金沢のコンシェルジュとか、ポータルサイトみたいなものがぜひとも必要なのではないかと思います。検索エンジンを使ってキーワードを入れればいろいろと分かるわけですが、あらゆるものの情報が得られる入口のようなものが一つ、どうしても必要なのではないかと感じました。

大内●ありがとうございました。だいぶ時間も押し迫っていて、佐々木先生にまとめに近いようなことをご用意いただいているようですので、よろしくお願いします。
 
 


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