まとめの報告

大阪市立大学大学院教授
佐々木雅幸



佐々木●まとめというよりは新しい問題提起も含めてちょっとだけお時間を頂きたいと思います。
 今回、「都市間競争」というテーマを掲げたのですが、私からしますと、今日ずっと、今出た話もそうなのですが、やはり創造都市というのが世界的に大きな注目を集めるようになって、創造的な人たちをめぐる競争というのが今の新しい基調になっているだろうと思います。日本の場合はいろいろな課題があって、例えば少子高齢化の問題とか、地球環境などがあるのですが、この中で創造都市論というのが世界都市論やコンパクトシティ論、持続可能都市論との関係で、その中心に座ってきていると思います。
 20世紀から21世紀の過渡期には世界都市現象というのが大きなテーマでしたが、今や9.11の事件以降は、「世界都市」というフレーズよりは「創造都市」というフレーズの方が世界的に広くなっておりまして、都市をめぐる研究やシンポジウム、あるいはこうした会議も、大体「創造都市」ということをテーマにやるようになりました。例えばバルセロナという都市が創造都市だろうというのは皆さん共通するわけです。そのときに都市再生のバルセロナモデルと言った場合は、こういう場で市長さんもお出ましになり、民間の方やいろいろな人たちが集まって議論をしていくというのは、一種インフォーマルだけれどもパブリックなそういうスペースになっていくというやり方だろうと思います。こういったことを大事にしていきたいと思っています。
 それから、例えばアメリカのサンフランシスコも創造都市です。これは昨日から申しましたように、世界で一番ゲイが活躍している町で、そのゲイのもたらす創造性、それから町の人たちは寛容性ということを大事にしているということがあってアメリカでも注目されているわけです。
 世界的に見た場合に、こういった創造都市をめぐる議論というのは、今から20年ぐらい前にヨーロッパの欧州文化都市から始まり、それから創造産業という文化産業の領域に関心が広がり、そして、アメリカでは先ほど言ったような創造的コミュニティという議論があり、日本では知識創造産業という野中郁次郎先生などの議論があるわけです。私もよく議論している相手なのですが、アメリカのリチャード・フロリダが「創造階級論」というのを出して、創造人材をめぐる都市間競争がこれをきっかけにして大変注目をされるようになりました。これはたまたま私が出席したオランダのアムステルダムの都市ガス工場の改装したアートセンターの中で議論していた模様です。
 アメリカではクリエイティブクラスがどんどん百年間に増えてきたという話があるのですが、そこで昨日から言っていますように、フロリダが言う都市間競争の3T(タレント・テクノロジー・トレランス)をめぐる議論で、ここで言うトレランスというのは、ゲイが持っている創造性を許すというか、ちょっと尖っている人たちも許すということで、金沢でいえばさびた鉄の塊があってもいいだろうということなのでしょう。もちろん今日、市長が言われたように謙虚さも必要で、寛容性を持つということと謙虚さが大切です。たまたま今日まとめのペーパーを頂いたときに「雅量」という言葉があって、金沢は寛容性より雅量という言葉の方がふさわしいと思いました。
 昨日から出ている議論なのですが、やはり今、世界で新しい産業群として注目されるのが創造産業という分野です。この分野は、個人の創造性、才能、スキルを源泉として、ある意味では知的所有権をきちんと確立した上で産業的に展開する分野で、こういう産業群があるわけです。金沢でもデザインとか、あるいはさまざまなファッション産業ということが一つのターゲットになってきていると思います。これを体系的にやったのがロンドンの「クール・ブリタニア」で、ロンドンでは創造産業が大変今、都市経済を引っ張っていく、雇用の面でも、生産額の面でも大きなものになってきています。
 こういう流れの中で、ユネスコが創造都市のグローバルネットワークというものを2004年から提唱しています。これはまた後で詳しく言いますが、例えば私が留学しておりましたイタリアのボローニャは音楽、先ほど山口さんが言われたベルリンはデザイン、それから、昨日お話に出たシルク・ドゥ・ソレイユが活躍しているのがモントリオールですが、ここもデザインです。アメリカではサンタフェという小さい町だけれども、非常にアート活動が盛んな町が加わっております。
 私はボローニャにいたのでボローニャ型のまちづくりというものを金沢でもいろいろと紹介をしてきましたが、そのときにやはり金沢というのは職人的物づくりを時代に合わせて展開していったというところがありまして、こういった人たちが金沢にも来てくれたのですが、彼らは基本的にオペラをしているのです。オペラというのは創造的活動のことを指す言葉で、そのオペラをベースにして例えばオペラハウスもあるわけで、ボローニャはユネスコ音楽都市という形で展開していったときに、この職人のオペラがベースにあって、オペラハウスはベルディやロシーンが活躍した時代からずっと続いていて、そこにジャズがあったり、現代音楽が出てきているし、あるいは音楽博物館などもあります。こういうことで、今、ユネスコ音楽都市として認定をされてきております。
 金沢も創造都市会議というものをやりながら、伝統と創造、あるいは新しいものと古いもの、そういったものをうまく組み合わせたり、あるいはそこに生まれるコンフリクトを上手に新しい力に発展させたりしてきました。芸術村もそうですし、21世紀美術館もそうだったし、昨年から始まっているファッションウイークもそういった流れの中にあって、これはある意味では創造産業を美術館からまた核にして展開していこうという流れだろうと思います。日本では金沢が先陣を切ったことに対して、横浜がすぐ後を追いかけて2004年からやってきまして、横浜の場合は市の中に創造都市事業本部を作って、創造都市推進課を置いています。この事業の中で、五十嵐さんもご存じのように、BankARTというのが出てきたわけです。この創造都市の流れで昨年、市長にもご尽力をいただいて、日本の中で創造都市を考えている15ぐらいの都市のネットワークを作ろうということで、金沢の代表になって愛知万博でクリエイティブジャパンという事業をやったことがあります。
 世界的に見ますと、先ほど言ったようなユネスコが提案している世界の創造都市のネットワーク、ここにどのようなスタンスをわれわれは考えていくか。今のところ、アジアではユネスコの創造都市はまだ存在しません。ただ、上海も申請を考えていますし、神戸と名古屋が申請をしています。大阪でも考えていますが、どういった都市が認定されるかというと、創造都市にふさわしいこういった会議があるだとか、あるいは特定の幾つかのリーダーたちが集まって実験的なプロジェクトをしているといった実績がやはり大事になってきています。
 私は10月にボローニャとモントリオールとサンタフェの代表を大阪に集めて、秋元さんにも出てもらったのですが、国内の関係の創造都市を考えている都市の政策担当者にも集まってもらって会議をやったのです。そのときやはり都市間競争を超えて創造都市の連携を考える時代に入ってきているように思います。やはり金沢というのはそういう連携のプラットフォームを提供していくことも、金沢自体を創造都市にしていくという話と併せて、そういう段階に来ているのではないかと思います。そんな意味で創造都市を発展させるための創造都市の連携を、ユネスコのネットワーク、あるいは国内でそうしたことを考えているような都市が集まるような会議というのは、ある段階でこの創造都市会議自体もそういう広がりを考えていく段階に来ているのではないかということで、問題提起にしたいと思います。

大内●ありがとうございます。この会議そのものの役割、あるいはこの会議の行くべき姿についても問題提起をいただきました。
 時間になりましたので、この辺りで終えたいと思います。私の方で司会としてまとめるほどのことはありませんが、一つだけ、いつもこういう会議で思い出す金沢についての言葉がありますが、それは地元の方はよくご存じの言葉ですが、「百工比照(ひゃっこうひしょう)」という言葉です。百の工みを集め、比べて照らしてみるという場を金沢が提供し、そしていろいろなことをやってごらんなさい。そして、出来が良かったらそれを褒めてあげ、場合によってはそこに資金の提供もしますよということを前田藩がずっとやってきたことが今のこの加賀の文化的蓄積をつくっていったわけです。
 議論していただいた一連の話も、ある意味で今の時代にふさわしい形で百工比照ということを挑戦しなさい、あるいはそういう仕掛けを作りなさいということを皆さんからご提案いただいたのではないかと思います。かつて前田藩がやったときには、ある意味でお殿様の世界が百工比照のルールを作ったかもしれませんが、今の時代は市長がルールを作るわけでもないし、あるいは特定のある権威のある方が作るという時代ではありません。むしろみんなで百工比照のルールを作っていくわけです。
 そのルールの作り方についても私たちはいろいろと工夫をしなければいけないわけで、その過程でどうやってこの金沢にふさわしいパブリックインタレストといいますか、日本の社会というのは今まで公の世界と私の世界という2つの世界しかないのですが、本当はまちづくりということからすると、その中間というか、違った形で、いわば志を同じにする人たち同士の間であるルールを作っていくことが必要ではないかと思います。先ほど市長が、なかなか外から来てくれる方に中のルールを理解してもらえないという悩みもおっしゃっていましたが、これはまさに私たちが仕掛けとして未成熟だからだと思います。
 やはり町や私たちの仲間たちが水準を上げていくためのルールというものを作らなければいけない。それを非常に大事にみんなで仕掛けを工夫しながら作っていくということが結果的にいいまちづくりにつながるわけで、その辺のことについてはまだまだ、例えば新しい時代のデジタルの世界についてもまだルールが確立していないわけで、私たちはまだそれについても工夫をしなくてはいけないということが今日明らかになったかとも思います。やはり百工比照というのはまさに金沢オリジナルな非常に大事なコンセプトだと思いますので、私は今後とも大事にしていきたいと、あらためて皆さんの議論から感じた次第です。
 
 
トップページへ戻る