全体会議
   
 

 

  
(大内) ありがとうございました。菊川さん何か、若手のお立場で意見を代表して伺ってもかまわないでしょうか。

(菊川) では、若手を代表しまして。先ほど水野雅男さんが「行政と決別すべきだ」みたいなことをおっしゃっていました。実は私は「街ゼミ」にも参加して一緒にやっていたので、非常に裏切られた気分なのですが(笑)、ある意味二つの意味で僕は正しいと思うのです。
 一つは、先ほど立川さんがおっしゃっていましたが、多数決は面白くないと。しかし、行政というのはやはり多数決なのです。議会制民主主義の中で多数決でものを決めていくというのは、やはりこれは基本になっているので、そこでやっていくというのは、構造上面白くなくなってしまいます。行政マンでも面白い人はいるのですが、やはり組織となると面白くなくなるのだろうと思います。
 それと、私は金沢と縁もゆかりもなくて、今、金沢に来ているので、外者なのですけれど、けっこうこの地域の人たちというのは、本当にこの地域のことを愛しているのですけれど、これからもっとほかの地域と競争していくとか、福光さんもおっしゃっていましたが、地域圏というのですか、もう少しいろいろな所と結びついていくことで考えていかなければいけないときに、行政区分というのはあまり関係ないのです。したがって、人の流れや経済活動というのはもっとボーダレスですが、行政というのはどうしても行政区分の中です。そういう二つの意味で、行政とある意味区別をしていくというのは大事だと思うのです。
 しかし、武村局長もおっしゃっていましたが、やはり「市民力」といったときに、もう一方でうまく自立的に回っていく仕組みというときに、やはり住民の立場からも自分がペイしたものに対して何か帰ってきているという実感がないと、ファンドのようなものもそうだと思うのですが、単なるドネーションではないはずなのです。何かそれによって自分の気持ちが充腹されたり、何か自分の生活が充腹されたりということが・・・。これはヨーロッパではもうスタートしていて、日本の一部の自治体でもスタートしているのですが、1%法というのがあります。自分の納税、例えば100万円納税しているのであれば、そのうちの1万円については使うことを決める権利があるということで投票できるのです。それは、NPOやまちづくりをやっている一つのいい提案に対してお金を出すことを決めていけるという。そういう仕組みができれば、これは行政が決めるのではないのですが、行政の制度を活用して民間の金の流れを作るというやり方だと思うので、そういう工夫はできると思います。
 それと、あとは行政の仕組みという意味で言うと、「住民票」という制度がありますよね。ある先生がおっしゃっていたのですが、やはりこれから金沢駅に新幹線が来るとか、相当物理的な時間・距離などがなくなってくると、私も将来こちらで子供を育てたいので、子供の住民票はこちらに置くけれども、職場の住民票は別の所とか、都市の持っている機能によって住民票の区別をしたいというのがあります。例えば教育の行政サービスを受けられる所にはその分のタックスをそこで払いたいし、自分が安全について行政サービスをつけているのであったらそこにお金を払いたいという機能別の住民票のようなものがあれば(笑)、そうするとその都市が一体何を売りにしているかということが出てくると思うし、私は将来制度化すべきだと思います。そうしたら、ますます地域間は競争していくし、ユニークなまちづくりがしていけると思うのです。今、一個しか住民票を置けないというのはおかしいと思います。
 その中で金沢はどうかというと、私にとってみれば、すごく敷居の高い町だったのです。一方で面白くして敷居を低くしようみたいな話だと思うのですが、私はもっと敷居を高くすべきだと思います。この町は相当おしゃれでないと、知識・教養がないと入れない町だと。例えば金沢検定もこの間ありましたが、金沢検定の何級を持っていないと、ひがし茶屋街には一歩も入れない(笑)。独立国家のように全部そういうところにパスポートがあって、金沢検定をぱっと見せると、「どうぞ、どうぞ」と。3級だと10年早いみたいな、そういう敷居をあえて高くすることによって、先ほどの団塊の世代の目の肥えた人たちが集まる。
 そしたら何も、例えば観光客を何万人呼んでこなければいけないということではなくて、質の高い人が100人来ればいい。今いろいろな動きをされている中で、そういうアプローチもあるのではないかと思いました。すみません、行政の私が無責任な発言でした。

(大内) 別にそれでいいのですよ。今、菊川さんと小原さんに「一緒になって何かやれ」と言ったら何かやりそうかなと思っていました(笑)。実は青年会議所の竹村さんもおられるので、まさに青年会議所などは、若手の経営者として、ある意味ではいろいろなしがらみを離れて、いろいろなことをやるべきグループではないかと思います。何か実例なりご紹介を頂ければ。

(竹村) はい。竹村でございます、よろしくお願いします。私も先ほど武村さんからお話しいただいた職人大学校の一期生で、私も職人でして、石屋であります。木造文化の中でどうやって頑張ろうかということも含めて考えているわけです。青年会議所としましては、いろいろ考えていまして、よくありがちなのですが、都市の遺産という「遺産」というのは残されたものということでそれはいいのですが、「財産」と変えていくと、昨日飛田さんがおっしゃられましたが、だれの財産なのだろうということを、多分考えていかないといけないだろうと思います。それが金沢市民のものなのか、日本国のものなのか、世界遺産として登録するのであれば、世界の人のためのものなのかということによって、多分仕掛けの方法や手法が大きい枠としては変わってくるだろうと考えております。
 当然「大きい目標で」ということであればそれでいいのですが、そのときに今の町が変わっていかなければいけないコンテンツが多分幾つかあって、それを変えていくためにはどうすればいいかを考えると、条例を変えていくとか、法律を変えていくというものと、民度を変えるというものと、それから三番目が自分で勝手にやってしまうというこの三つだろうと思います。
 法律・条例を変えていくというのは、それほど難しいことではないと思うのですが、民度を上げるということになりますと、かなり時間と労力がかかってくると考えております。まさしく青年会議所も今そこを一生懸命やっているわけですが、実際に金沢市は校下や消防団、青年団がすごく強くて、コミュニティーは現在しっかり機能しています。ただ、これがもう10年ぐらいすると、婦人部など、おじいさんおばあさんの世代が抜けていかれたときに、かなり弱体化をするであろうというのが予想されています。
 先日、うちも葬儀があったのですが、近所のおばさんの方がどこに何があるか全部分かっているという状況で、そんな中でこれをどう変えていくかというと、やはり一番最初に出た三角の真ん中にあった「教育」というところに、僕は帰ってくるだろうと思います。ただ、ふるさと教育ということは大事なのですけれども、その前に、この金沢が一体何ででき上がっていて、我々がどうしてこの町に住んでいるのかという本質の歴史とか、そこの部分も含めて、ふるさと教育の中に入れてやっていかなければいけないだろうということで、2006年度は金沢青年会議所はそのあたりに注力をして頑張っていくということです。金沢の魅力の一つとして、今年から時期を選び「金沢夕暮れまつり」というイベントを張らしていただきましたが、夕暮れ時の美しさというのを来年ももう一年頑張って実験をしてみたいということでしたので、内外に発信していければと考えております。以上です。

(大内) ありがとうございました。米谷さんにぜひ、バンカーとしてのお立場から、必ずしもそうではなく、それを離れてくださってけっこうなのですが、昨日からずっと議論を聞いていただきましたので、ちょっとご感想なり、コメントを頂ければ。

(米谷) 昨日から大変白熱した議論を頂きまして、本当にありがとうございます。同友会では去年から本格的に兼六園を中心とした金沢の文化財、および白山の世界遺産登録という、とんでもなく高いハードルに挑戦をしております。しかもこれは大変に時間のかかることだと思うのですが、その中でやはりいちばん大事なことは、先ほどからいろいろと議論も出ておりましたが、やはり「市民力」という部分、あるいは「県民力」と申しますか、その中には物質的な部分、あるいは精神的な部分、あるいは文化的な部分、そういうものがあるわけです。そうした運動の中でつくづく感じますことは、やはり、いかに文化、あるいは歴史的なレベルを市民、県民が上げていくか、まさにそこに尽きると思っております。その中から県民の熱意と申しますか、理解、そういったものが生まれてくるのではないかと思っております。
 金沢学会では美しい金沢、あるいは金沢の風格といったものを過去2回議論をしてきたわけですが、小原さんから先ほどそこに人、人柄、「優しさ」というテーマを頂いたのは大変面白いのではないかと思っております。金沢のいわゆる人情といいますか、人柄、ホスピタリティー、そういったものをやはり今後は伸ばしていくべきです。
 面白さという部分について米沢さんも言っておりましたが、利家は「傾(かぶ)き者」であったわけですから、そこへ原点を求めて、まちづくりに面白さ、「傾く」というのをテーマにしていっても面白いのではないか。やはり金沢の町というのは「出会い」、「ふれあい」、そしてもう一つ「間合い」というものがあってしかるべきではないかと思っております。
 
(大内) ありがとうございます。さすがシニアな大先輩のご指摘で、ちょっと引き締まってきましたが、一あたり皆さんからお伺いしたのですが、時間を若干頂きましたので、もう一言ぜひということでご発言があれば受けたいと思いますし、フロアからでもぜひ何かご発言なさりたいかたがおありでしたら、お手を挙げてくださってけっこうです。
 松本さん、昨日からずっと参加していただいて、「まち博」、もしよかったら。

(松本) この間ちょっと倉敷へ行っていまして、大原さんにお会いしましたが、そのときにいわゆる「シビル」という言葉と「行政的NPO」というキーワードを頂きました。やはり市民参加のソフトは市民が作っていくものですから、ハード的なものは山出市長のもとで随分整備されてきたわけですから、今日のお話を伺って、そういうことを強く感じた次第です。

(大内) 白石社長がおいでではないかと伺いましたが、何かぜひよろしければ、ご遠慮なさらずに。

(白石) 昨日は一日しっかり聞かせていただきましたが、今日は今着いたばかりなのです。やはり共通しているのは「市民力」というところではないでしょうか。もうどうしたらいいかということは、ほとんど出尽くしたように思いますので、後はとにかく実行あるのみというところなのですけれど、基本的には一人一人の力だと、それに尽きると思います。すごく簡単ですが、そんなふうに思いました。

(大内) ありがとうございます。佐々木先生、何か。

(佐々木) 私、竹村さんが言われた「誰の財産か」ということは、改めて金沢の都市遺産を考えるときに、はっきりさせたほうがいいと思いました。ちょっと話が飛ぶのですが、10月の終わりに韓国、ソウルの国際シンポジウムに呼ばれました。それはソウルに新しい、非常に大きな国立博物館が新装オープンしたのです。それはかつて朝鮮総督府の建物を博物館に使っていたのが、評判が悪いのでそれをいったん壊しまして、それで数年間かけて造ったのです。
 ご承知のように今年は日本降伏60周年の年で、タイトルが「日本降伏60周年」と書いてあって、ちょっと嫌だなと思ったのですが、博物館のオープニングの会議でしたので。外国人は私とフランスの学者とアメリカとイギリスの4国から招かれて、それぞれが基調スピーチをやったわけです。そのあとフロアからもかなり質問がありまして、今、日韓関係は相当悪いでしょう。ですから、私もかなり緊張していたのです。そのときにある聴衆が、「フランスと日本の代表の方は、韓国から持ち出した文化財をいつお返しになるのですか」と聞かれたのです。それでドキッとしまして、幸い司会がフランスの方に先に答えを求められたのです。
 やはり文化大国だけあって大したもので、「韓国も含めて世界の優れた文化財は人類普遍の価値があって、人類普遍の価値があるから、これを科学的に調査し、破壊されないようにして次の世代に伝えることこそ使命です。これは民主主義の力がなければ絶対にだめです」。戦争など何かで破壊されたり、タリバンが壊したりしましたよね。「フランスはまさに人類に先駆けてフランス革命で民主主義を確立した国だ」と。おたくは最近でしょうと、そこまで言わなかったのですけれど(笑)、要は優れた文化財というのは人類普遍の価値があるということなのです。私もそうだと。金沢という都市遺産は金沢市民だけの財産ではない、これはやはり世界の21世紀の都市が直面する都市の在り方を考えるうえで世界的な遺産なのだという打ち出し方ができるかどうか。つまり、人類普遍の価値があるかどうかです。そういう考え方というか、そういう見方、それは今はやりのグローバルでありローカルであるというか、そういう意味でいけば、金沢の市民力というのはまさにそういうレベルを求められているということを、私は今、竹村さんの話から刺激を受けて考えました。どうもありがとうございました。

(大内) 水野先生、最後にお願いします。

(水野) 金沢の町中に彫刻がパブリックアートとして180ぐらいあるのです。その彫刻がその場所にふさわしいかというと、決してふさわしくないものがあるし、きれいに置いてあるかというと、きれいな環境でないことがあるのです。それは、何か我々の町の美意識として、こんな町をつくってきたのだということが、それを調べると分かるわけです。
 どこにどれだけ彫刻があるか、彫刻マップというのを作ったのです。そういうのを作ってみたり、建築マップというのを作ってみたりしたのです。ベルリンに行っても、パリへ行っても、自分の都市の建築という本が必ずあるのです。そういう建築マップを作ってみたり、お庭マップも作ってみたりしたのです。そうするといろいろなストックがあることは分かるけれども、「うまくないな」ということもかなりあるのです。
 それから、私が作ったのではないですが、面白いマップでお地蔵さんマップというのがあって、お地蔵さんマップを持って歩くと金沢はいろいろ点検できるのです。何かそういういろいろなマップを作って持ってみるということ、自己確認を自分の町でしてみる、都市遺産として自己確認してみるということがまず必要なのではということが一つあります。それは必ず検定にもつながる話かと思いますが、要するに自己確認をもう少ししてみればどうかと思います。
 例えば植木屋が金沢はどうのこうのと言うけれど、本当に樹木マップでやってみると、どの程度分布しているのか、いい木、見るだけの価値のある木がどれだけあるのかとか、そんなのもあっていいのではないかと思います。さっきのお菓子屋さんマップとか、お酒屋さんマップとか、そういうのもあるかと思います。
 もう一つは、それを支える職人たちが、まだ健全に生きていられる、生活していられるかどうかをもう一度調べてみる必要があると思います。先ほど武村さんから建築の職人大学校の話が出ましたが、私は運営委員会で入っているのですが、今度、修復コースというものを作ったのです。その修復コースに私の建築の設計者の仲間、建築家を何人か入れているのです。去年2人卒業して、今年3人入ったのかな。要するにそうして修復の勉強を建築家のプロがもう1回始めているのです。
 そんなふうにして少しずついろいろなプロを育てていくという、そういう土壌のようなもの、職人を育てていくという土壌のようなものが、歴史遺産をもう1回再評価する意味でも必要ではないかと私は思います。ですから、マップとか、職人とか、これは非常に大事なところであろうかなと思います。

(大内) ありがとうございます。1時間半をもう超えましたので、そろそろこのあたりでおしまいにしたいと思うのです。
 私の方でまとめるといっても、皆さん大変多彩な方たちなので、とてもまとめるに至らないと思うのですが、大きく分けてポイントは三つあると思うのです。一つはやはり、私たちはもう一度金沢が持っている美しさ、優しさ、あるいは金沢が持っているさまざまな資産、ストックというものをもう一度再評価していくことをやはりやるべきだろうと。
 それは必ずしも行政に頼むという時代ではないわけで、私たちはむしろ、この金沢方式という言い方もあるのですが、私たち関心ある、心ある人たちが自らの責任でもって行動し、市民の力で、あるいは産業界の方もおられれば、行政の方たちもおられますが、それぞれの裃(かみしも)を脱いだ形で、それぞれ一市民としてそういう活動に携わるべきだという立場をこの会議では貫いてきていると思うのです。そういう意味で、そういう活動に私たちは改めて金沢をもう一度再評価して、ストックを見直すということをやはりやるべきであるというのが第一点確認されたのではないかと思うのです。
 そのときに、必ずしも今までの関係者だけでやるというのはまずいわけで、外の方たち、あるいは外国の方も含めて、いろいろな方の力も借りる必要があるし、あるいはそういう方たちから、場合によってはきつい忠告をされることも必要だろうと思います。そういったいわば新しい外からの助言なり、外からの忠告を基にして、また発奮して、金沢市民が新しいまちづくりのストックを発見する、あるいは手法を開発していくということに、私たちはいろいろと工夫しなければいけないという時代に今来ているのではないかということも確認されたのではないかと思うのです。
 そして、そういったさまざまな活動を私たちはバックアップしていく。これは無責任に、単なる「好きだから」「面白いから」ということよりも、ある種の継続性を持たなければいけないと思います。責任と継続性ということを考えながら、地味なものもあるかもしれませんが、着実にある一定期間を続けて次世代にそれを受け渡していくという責任が、今、私たちにあるのではないかと思います。
 大きく分けてその三つのことについては皆さんのご意見が確認できたのではないかと思うのです。今回の「都市遺産の価値創造」というのは、そういった三つのプロセスを経てはじめて新しい価値創造が多分生まれてくるのではないかと思います。
 この創造都市会議はまたいろいろと続いていきますが、一つの問題提起というか、新たな視点からの検討が今回できました。皆さんの長時間にわたるご協力を頂き、非常につたない司会でありますが、今回のまとめとしてはここで閉じさせていただきたいと思います。ご協力ありがとうございました。


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