金沢学会プロジェクト報告
「香林坊界わいの賑わいづくり」
 ― 広坂通りオープンカフェ社会実験 ―
     

報告者:水野雅男
 
それでは最初に、オープンカフェの社会実験についてご報告したいと思います。
(以下、スライド併用)

●ちょうど2年前にも一度、オープンカフェの実験をしました。それは、問題提起としまして、公園や緑地の中に飲食施設がないのはどうなのだろうかという問題提起から、中央公園の入り口の所でオープンカフェの実験をしました。その結果、行政側が中央公園の一角にカフェを設けようという動きになったことは、皆さんご承知のことと思います。

● 今回はもう少し別の視点で、道路空間を別の形で、歩行や通行以外に使えないか。特にオープンカフェとして使った場合にどうなるのかということが、問題提起としてあります。それについて、国土交通省から活動助成金が出るということがありましたので、当開催委員会が主体となり企画提案したところ、見事当選しましたので、今回の社会実験になりました。

● 目的として、広坂通りにおいてオープンカフェを開いてみようということです。なぜ広坂通りを選んだかということですが、一つは金沢市内の中で最も街路樹が生い茂っていて緑豊かな空間であること。そして、歩道の幅員もある程度確保されていること。三番めには、車道が三車線あります。金沢市内の中でも、三車線の車道がある所は数少ないわけです。三車線ありますが、一方で通行量はそれほど多くないので、若干の車道の通行規制をかけることができるだろうということです。もう一点は、広坂通りは金沢市が「アートアベニュー」と称しておりまして、美術館と連動した空間にしたいというねらいがあることです。そういう空間である特性を生かせるということで、ここをオープンカフェの社会実験の対象としました。

●これが対象区域です。兼六園、金沢城公園で、ここが広坂通りです。そして、金沢21世紀美術館があります。この美術館側の歩道の部分を実験対象区域として、ここでオープンカフェを開催しました。

● 現状では歩道が6〜7mありますが、その所にこういうふうにパラソル、テーブル、いすを置きまして、オープンカフェとするということです。実際には延べ45mぐらいですが、そこに隣接して飲食店、喫茶店、和菓子屋さんなどがあります。その三店舗に協力してもらうだけではなくて、左下の写真のように移動カフェにも出店してもらいまして、三店舗と移動カフェからデリバリーするスタイルにしました。今年の8〜10月の3ヶ月間、毎週の土日祝日の延べ29日間を開催予定日として、12時から17時までの営業としております。

● 実際にやってみましたところ、いろいろな方に利用していただきましたが、特徴的なことは、車いすの方もそのまま店に入れることとか、あるいはここに乳母車が2台ありますが、乳母車を押した方もスッと入って腰掛けて、お茶を飲んだり休んだりします。もう一つ特徴的なことは、犬を連れた方はなかなか入る店がないのです。これはすごくありがたいという方も、何人かいらっしゃいました。じっくりと腰掛けて、本を読まれる方も多々見られました。

● 今年の特徴ですが、9〜10月の週末ごとに毎週雨が降りました。ですので、29日間を予定していましたが、実質営業できたのは17日間です。その中で1430人のかたが来店し、お茶を飲んだり食事をされたりしました。利用者の内訳を見ますと、金沢市民が44%で、県外客が39%ありまして、かなり観光客が多いのです。その中でも、金沢21世紀美術館にいらっしゃって、ここに立ち寄ってくださる方もいらっしゃいましたし、これと連動して、アナザームーブメントというイベントが10日間、美術館の開館一周年に合わせて開かれまして、市内の15ヶ所にギャラリー展示を行って、町を回遊してもらうイベントがありました。そこにいらっしゃった方も、かなりこの中に含まれております。グループ形態で見ますと、友人が32%で、家族連れが25%、夫婦お二人でお茶を飲まれる方も21%いらっしゃいました。
 もう一つ、「都心でどのくらい滞在しますか」あるいは「滞在しましたか」ということをお聞きしましたら、3時間以上いらっしゃるという方が60%いらっしゃるということで、カフェもそうですが、町中でゆっくり過ごそうというお気持ちで、いらっしゃる方が多いことが見られます。
○お茶を飲んでくださった方に印象を聞いておりますが、やはり居心地がいいということを感じ取っていらっしゃいます。この棒グラフにありますように、風が感じられる、木陰が気持ちいい、季節感が感じられる、背後に人通り、前面に人通りがあるということが、心地いいこととして指摘されています。マイナスイメージとして、騒音がうるさいとか、排気ガスが気になる方以上に、外でお茶を飲むことの心地よさを感じていらっしゃるということです。
 もう一点、幾つか質問した中で、「今後、この社会実験をどうしたらいいですか」ということをお聞きしましたところ、「もっと別の場所でもオープンカフェの実験をしてみてください」というご意見が55%で、「カフェ以外の道路空間の使い方について、社会実験してみたらどうですか」という指摘が45%ありました。

●今回、歩道空間にオープンカフェを設置するわけですから、自転車がそこに入ってこられると危ない、危険であることから、車道一車線に規制をかけまして、自転車はここを通ってもらうことにしました。そうすることによって、お茶を飲んでいただく方にもゆっくり過ごしていただこうということです。この走行レーンを走った方の77%は、安全性が高まっているとか、あるいはカフェの横を通る心地よさ、快適さを感じていらっしゃいました。

● この企画に連動して、レンタルサイクルもやりました。これは、大学生を中心とした「街ゼミ」というNPOグループに企画運営を任せました。放置されて廃棄する寸前の自転車を譲り受けて、それを修理したりデザインしたりして30台用意しまして、それを無料で貸し出すということです。このようなことじ灯籠など、いろいろなデザインのものを用意して、ちょっと楽しそうなものという形でデザインしてもらったわけです。それで、レンタルサイクルターミナルをカフェの一角の空間に設けましたし、それ以外に東茶屋街、横安江町、そして犀川沿いの合計4ヶ所のレンタルサイクルターミナルを設けまして、どこかのレンタルサイクルターミナルで借りて、ほかのレンタルサイクルターミナルでも乗り捨てできるようにしております。そうすることによりまして、約300人の方に利用していただきました。

● つまり、単にお茶を飲む空間を提供するだけでなく、町中を回遊してもらって、そのあと、あるいはその前に、お茶を飲んでもらうということで、こういうことをやりました。

● もう一つの仕掛けとして、アートオブジェ、音楽のレンタルをしました。左下のここに並んでいるのはCDですが、廃棄するCDを集めまして、山蓄さんに協力していただいて譲り受けまして、それをオブジェとしたということです。それから、ブースを設けまして、クリエーターの方、あるいは町中の商店主のかた30人に、美術館や町中を散歩するときに適した音楽を選出してもらいまして、それぞれiPodの中に音楽を入れて、それを無料でお貸しすることもしました。ここにある自販機にiPodを入れまして、そこから選んでもらってそれを貸出しするという仕掛けをしました。

● 実際にiPodとマップをお渡しして町中を回遊してもらいますが、このようにカップルで音楽を一緒に聴いて散策して、そのあとでお茶を飲むとか、あるいはカフェでお茶を飲みながら音楽を聴くとか、そういう過ごし方をしていただいたわけです。

● こういう社会実験をやったわけですが、沿道の商店の方々がどのように評価したかということです。にぎわいが感じられたとか、おしゃれな雰囲気で今までの町のイメージとはちょっと違ったと。都会的で、にぎやかな雰囲気だったという意見が多くありました。
 オープンカフェによって、歩行者の流れは変わったかどうかということですが、そんなに変わらないということです。若干美術館から出ていらっしゃる方もいるでしょうけれど、基本的には兼六園から香林坊に流れる歩行者の方が多いわけですから、基本的にはそんなに変わらないでしょうと。
 ただ、今回の社会実験の成果をどのように活用すべきか、反映すべきかということですが、オープンカフェをやってみて、非常に町の雰囲気が変わったので、継続的に開催したいということでした。自転車走行レーンについては、今回のように設置すべきだという意見もありますし、そこまでやらなくて、車道は規制しないで、自転車を降りて押してもらったらいいのではないかということでした。
 三店舗について協力してもらったわけですが、「今後どうしますか」と聞くと、三店舗とも何らかの形でオープンカフェをやってみたいということでした。ある店は、店の前面のファサードを変えて、オープンカフェにふさわしい形にして、週末だけでも営業してみたいという意見もありました。ですから、始める前と比べて、随分、店の意識が変わったと思われます。

● 最後に今後の展開についてですが、2年前の社会オープンカフェの実験と今回の実験をやってみまして、まずオープンカフェの居心地のよさを、市民の人たちが体感されたということで、広坂通りアートアベニューの空間特性を向上できたのではないかと思います。それから、本開催委員会とNPO団体の共同体制の有益性というか、実効性が検証できたのではないかと思います。
 それを受けて、今後どうするかということですが、一つは広坂通りの別の場所も含めて、オープンカフェを継続営業すべきではないかと思われます。例えば、中央公園の近代文学館のわきがありますが、そこをバス停と一体的になったカフェということでできるのではないか。あそこのバス停は、いつも人が混み合っていまして、通行するのも非常に不自由な状態なので、近代文学館のわきを少し開放する形で、そういうことができるのではないかと思われます。あるいは旧県庁敷地の暫定利用と連動したカフェ、あるいは能楽資料館が来春に開館しますので、それと一体的なオープンカフェという形で、幾つか候補地がありますので、来年以降も、できればそういう形で検討というか、社会実験としてもう少し取り組んでみたらどうかと思います。
 もう一点は、だれが運営するのかということですが、今回やったようにNPO団体や学生の団体、あるいは市民も巻き込んだ形で共同体制をとれればいいと思います。今も、にぎわい回廊の南町辺りでオフィスアートというのがありますが、それとも連動させた形で、オープンカフェやアートを一緒に運営できるような組織を立ち上げていくことが必要なのではないかと思われます。
 以上、簡単ですが。社会実験の報告を終わります。
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