金沢学会02 ワークショップ報告 1
「金沢らしいあかり」を考える社会実験報告
     
報告者:大内 浩、金谷末子
 
●大内:こんにちは。早速ですが、ワークショップの報告をさせていただきたます。昨年、金沢の風情あるいは金沢の魅力あるいは金沢の潜在力をもう一度考えるために、夜のあかりということを一つの手段として考えようではないかということでやりました。昨年の報告を顧みてみたいと思います。
(以下、スライド併用)

○昨年はシースルーシャッター、商店街のシャッターをやめてシースルーにして中を見えるようにしよう、あるいは金沢のさまざまなお宝ディスプレイ、現在尾張町で一部地域のかたたちが協力されていますが、そういうことをもっと全面 的にやろうということを最初に提案して、これは一部もう実現しております。あとの三つの夜の金沢の演出計画、およびあかりの回廊計画、実はあかりの回廊計画については県のほうで具体的な委員会を立ち上げられまして、今着々と準備されています。そしてあかりの夜祭計画、以上後半の三つに参考になるような実験をやってみようということで、立ち上げました。  おかげさまで、実は9月の頭に企画を立ち上げたにもかかわらず、関係のかたたち、後ほどご紹介します金沢工大の金谷先生、あるいは石川県も共催になっていただきましたし、市のご協力、北陸電力、金沢工大、非常に多くのかたたちのご協力を得まして、11月の初めに実験をしました。概略をこれからご説明したいと思います。

○趣旨の第一は、夜を楽しみながら歩きたくなる歩道照明というのは一体どういうものか。二番めに金沢の中心軸である広坂通 りにふさわしい照明とは一体何なのだろう。あかりの演出は市民に受け入れられるだろうか。そして、金沢らしさをあかりで演出するための方法には具体的にどんなものがあるのだろうかということを考えることで始まりました。

○アンケート調査をしたところ、377サンプル、非常に多くのかたたちからアンケートを頂きました。若干アンケートの属性をご紹介しますと、年齢分布は非常によく分布されていて、20代の方、30〜40代の方、50代の方、うまく分布されています。男女比も、こちらが女性でこちらが男性ですが、構成としてはいいものです。ただ、職業分類については、県のかたと市のかたに若干頑張っていただいたこともあって、公務員が一般 的にいうと多すぎるかもしれませんが、これはあまり気にしなくてもいいのではないかと思います。

○広坂通りの歩道照明で具体的にどんなことをやったかということを、現場においでになられなかったかたもおられると思いますので、映像でご紹介します。

○まず、広坂通りの現状についてどういうふうにお考えかということですが、非常に薄暗く寂しい雰囲気だというお答えが半分で、暗く危険な場所があり問題だと。やはり、金沢の非常に重要な動線であり軸線でありながら、少し問題を抱えているということを皆さんも考えていらっしゃるということがこれではっきりします。

○具体的に何をやったか。実は、本当に実験なものですから、それほど特殊な器具というよりも、ある程度既存のもので使えるものでありながら、現状のものとは違うものを考えました。一つはライトポール型照明、それから低ポール型にルーバーがついた照明のもの、それから低ポール型の照明で、これは下から木が映っております。それから、床置き型の照明。床といっても本当に低い床ではなく、足元のひざ辺りの照明で、横にあかりがくる照明です。その四つを並べてみて、アンケート調査をしました。

○ちょっと私たちが想像しなかったことが結果として分かりました。今の四つのタイプのどれを好ましく感じましたかということと、好ましくないという感じを両方聞いてみたのですが、見事に四つに分かれました。こんなにきれいに分かれるとは、集計してみてびっくりしました。

○結論ということでは、四タイプの照明好感度は有意差がほとんどないということで、意見が分かれるということです。

○ただ、少し年代別、男女別に見ますと、これも有意差をどのぐらい取るかというのは、若干判断が難しいところがありますが、あえて若干違いそうなところを見てみると、20代の方が少しここのライトポール型照明を好ましいと感じているとか、あるいは50〜60代の方はどうなのか。あるいは、逆に嫌だというかたは、50代の方で好ましくないと考えたかたもいらっしゃるし、20代の方はむしろ床置きが好ましくないと感じたようですが、全体の印象を結論的に申し上げますとこういうことになります。

○照明タイプの好感度というのは、少なくとも年齢層ということでは差が出ないということです。あまり決めつけないほうがいいと私は考えました。

○一方で性別ですが、若干差が出ます。例えば女性は低ポール型ルーバーつきについては、これを好ましいというふうに考えたかたがあまり多くありません。男性は逆に、ライトポール型照明のほうを好ましくないと感じたとか、そういうようなことで、男性はむしろ床置き型照明を好ましいと感じたという差が出てまいりました。

○男性は床置きタイプ、女性はライトポールタイプをお好みのようです。ただ、特に女性は低ポール型ルーバーつきタイプを好まないということが、はっきり出ました。この辺はあとでまた、照明の専門家でいらっしゃいます金谷先生にコメントを頂きます。

○職業別では、公務員の方は大体ばらけているのですが、非常に差が出たのは商店街の関係者です。広坂商店街にとってのあかりでもあるので、商店街のかたがどういうお考えかということが非常に気になっていたのです。

○商店街の関係者は、低ポールのルーバーがついたものを好み、ライトポール型照明は少し目線より高いのですが、その照明をあまりお好きでないようです。これは多分、商店のあかり、あるいは現存の照明との関係がありそうですが、これも後ほど金谷先生に解説いただきたいと思います。

○光源です。皆さんご存じだと思いますが、日本の今までの道路照明というのは、水銀灯、場合によっては光源が弱い昼白色のものが使われています。今回は電球色、明るい温かみのあるものを比べてもらったのですが、圧倒的に電球色が好ましいということをお答えになりました。

○ということで、光源は圧倒的に電球色を好まれるということです。

○街路樹のライトアップにつきましては、いろいろな批判もあります。中には、植物に対してかわいろそうだというコメントをお書きいただいたかたもおられますが、全般 的に見て、「町並みが美しく映えていいのではないか」「柔らかなあかりで照らされて落ち着いた雰囲気だ」というふうに書いていただいたかたが、けっこう多いです。

○ということで、一般的に街路樹ライトアップというのは、今のところ好評であるというふうに考えていいように思います。

○低い位置からの照明ですが、これについていろいろ議論もあります。少し急ぎますが、ほどよい明るさで華やかなもの。実はあとで結論のところで申し上げますが、今までの街路照明、道路照明というのは、車との関係がありまして、ほとんどが非常に高い位 置から照明が当たっております。これは、車にとっては均質なあかりが必要なのです。車を運転されるかたはご想像いただければ分かると思いますが、道路に濃淡がありますとでこぼこが見えないわけです。ですから、車にとっては非常に均質なあかりが必要なために、できるだけ上に上げて均質なあかりを要求するのですが、果 たして我々が楽しく歩くということに関しては、そういう種類のあかりが必要かどうかということを逆に確かめてみたいために、今回わざと少し低めのあかりをご用意したわけです。結論は次になるわけです。

○低い位置からの照明はほどよい明るさで落ち着いた雰囲気だ、あかりの列が町並みを美しく感じさせるという意味では、皆さん比較的肯定的に受け入れられているということが分かります。

○市役所前に幾つかの違うタイプの照明器具を用意して、比較していただきました。

○ここに六タイプあります。いろいろなタイプの比較的低いものを用意して、好みを聞いたわけです。

○そして商店街ですが、これも分かれてはいるのですが幾つかの特徴があります。

○市役所前の6種類の屋外照明の人気度ですが、5、6、3、4。あとで画像をお見せしますが、商店街の人気は3が強いということです。年代別 も幾つかにばらけています。

○年代別、20歳代には5、50〜40歳代には2、50〜60歳代には6ということで、好みが少し分かれました。これは具体的なものですが、20歳代から支持を得ているというのが、こういう石で非常に低いタイプのものです。これが金沢にはいいよ、しかも和風で、あとでまた申し上げますが、和風のあかりが金沢にふさわしいと答えていただいたかたが、ものすごくたくさんおられます。30〜40代はこういうタイプ、そして50〜60代の方はいろいろな事情があるのかもしれませんが、少し腰高ぐらいの高いタイプのものをお好みのようです。

○金沢に基本的にふさわしいと思う照明器具について、落ち着いた和風のデザインということを支持されるかたが非常に多かったのですが、ただし批判的なかたもあります。夜の町並みの演出など要らないというかたもおられますし、エネルギーの無駄 遣いだというコメントを書いたかたもおられますが、その中にはコメントで、場所に合わせてケースバイケースではないかと。確かに広坂通 りにはこれかもしれませんが、ほかには別のあかりの演出が必要ではないかという意味で書かれたかたも、けっこうおられるということです。

○気に入った照明器具です。

○こんな順番で、若干の違いですが、有意の差がつきました。

○実はオブジェを金沢工大の先生がた、金谷先生はじめほかの研究室のかたたちにたくさん提供していただき、オブジェを置いて、皆さんでそれを評価していただくということをしてみました。そういったイベントとして、せっかくだから一回限りに終わらせないでイベントとして定期的に行ってほしい、恒久的に演出装置として考えてくださいということで、皆さん本当に楽しんでいただいたようです。具体的にどういうものかということを、画像でお見せできると思います。これは実は広坂商店街のかたたちに、それぞれの店先に工大のかたがたの作品を展示していただきました。本当に商店街には積極的にご協力いただいて、ショーウィンドウの中に置いておいていただきました。

○もう一つ、市役所の広場の前にもっといろいろな意味の実験的なものを、若い人たちの作品を並べるということもしました。

○これは存在感もあって、このピラミッドが好ましいという人気がすごくあったようです。これはペットボトルを使ったあかりですが、これもなかなか評判もよかったように思います。こういったイベントというのも、これから何らかの形で支援すれば、学生たちも喜ぶし、いろいろな形がありうると思っています。

○最後に、金谷先生とも話した結論です。少し長いのですが、従来の高い位置からの道路照明ではなく、今回のような比較的低い位 置からの歩道照明の在り方は多くの市民からの支持が得られたので、今後の道路照明の施策において採用することを期待する。低い位 置からの歩道照明ということです。低い位置からの歩道照明の高さや形状についての好みは分かれるが、控えめでシンプルなものにしてほしいとの希望が強いことが分かった。照明の場所や目的に合わせて、最適なものを選ぶための仕組みづくりが必要である。三番めに、あかりの種類は圧倒的に電球色が好まれることが判明したので、今後は道路や公園などの公共空間においては、昼白色ではなく電球色の照明を採用することを提案するということです。四番め、照明器具の形状やあかりの雰囲気に金沢らしさや和風を期待する声が強いが、その具体的な内容については今後多くの分野の専門家によって研究開発を行い、金沢が和のあかりのメッカとなることに期待したい。五番め、今回のようなあかりの社会実験を実験に終わらせずに、町全体のイベントや恒久的なものにしてほしいとの希望も多く寄せられたので、今後は官民協力した組織を立ち上げることを提案するということをまとめてみました。ご専門の立場で金谷先生からコメントを頂けるとありがたいです。

●金谷:環境心理の実験に、人との距離とその関係というのがあります。それは随分古い研究ですが、パブリックな会議やそういう関係の場合には3mや5mと随分距離が離れますが、だんだん人との関係が親しみを増してくると対面 する距離も近くなりますし、対面ではなく横に寄り添うという形になってまいります。
今、大内先生のほうから提言の一番めで挙げていただきました、比較的低い位 置からの歩道照明というのがありますが、低い位置というのは言い換えますと人との距離、あかりとの距離を随分近づけた場合にどうなのかということを検討した実験です。このあかりとの距離ということで、最初に4種類が25%ずつで、それぞれ特に特徴がなかったということでしたが、これは従来のパブリックなライティング、いわゆる5mや7mという道路照明に比べて、やはり身近に感じるような距離感の光に多くの人々が関心を持っていただいたということが、まず一つめの結論です。ただし、あかりとの距離が近づいてくると、人でもそうですが、いろいろな細かいディテールが分かってきますので、より上質な光の質を演出しないといけないということになってきます。
道路照明の場合、先ほど大内先生がおっしゃいましたように、路面の明るさが問題となります。道路灯の場合ですと距離の離れた場合でしたら路面 の明るさを主体に考えていけばいいわけですが、近づいてくる光の場合は、それだけではなく、顔の明るさ、光の色、照明器具から出てくる光の強さなど、それぞれの細やかな光の質を、より厳密に規定していく必要があろうかと思います。そういう点では、光の距離が近い照明器具に対して80%以上のかたに肯定的なご意見を頂いたわけですので、これからより具体的に特性のガイドラインというものを決めていく必要があろうかと思います。
三つめになりますが、昼白色よりも電球色ということが出てまいりました。金沢の市民のかたが帰られる時のお帰りなさいというあかりであったり、あるいは県外から来られたかたに対してのもてなしの光の色だと考えてみますと、白っぽいシャープな光よりもややはんなりとした温かみのある光色が、やはり金沢にふさわしい光の色だということが言えようかと思います。
それから、先生のお話の中で男女差がはっきりしたものがあります。女性の場合にライトポールは好感度が高かったのですが、ルーバーつきの照明器具が好感度が低いというお話がありました。これは私どものほうで、それぞれの照明器具の路面 、あるいはそこを歩いている人の顔面の明るさ、照明器具の輝きの測定をしました。その結果 から申し上げますと、女性が好んだライトポールの場合は、向こうから歩いてくる人の顔の明るさというのが、この照明器具の中で最も明るい状態になっております。それに対し、ルーバーつきが好まれなかったというふうに出ていますが、これは一ルクス以下の0.5ルクスという随分低い照度値になっております。
2〜3年前に武蔵工大の小林先生がおやりになった実験で、歩道照明に関しての実験がありました。その中で、男性と女性で歩道の明るさについてどういうふうに有意差があるかという実験が行われたのですが、そのときに興味深かったのは、男性は暗めの明るさで満足していたのですが、女性の場合には明るい歩道照明を望んでいるということが、データとして明らかになっております。そういう点から申しましても、やはり女性が夜安心して安全に歩けるという意味では、ある程度の明るさを確保するということが非常に大切ではないかと思いますし、高齢者のかたが夜歩かれるということからいっても、鉛直面 照度、あるいは路面の明るさが適切に設定されることが必要ではないかと思います。
光色のところで言い忘れましたが、低色温度のより温かみのある電気色のほうが好まれるという結果 が出てまいりました。これは高齢者にとっては、非常に大切な特性なのです。高齢者の場合にいろいろな実験をしてまいりますと、青白い光というのは同じ光の強さでもよりまぶしく感じるという実験結果 が出ております。そういう点から申しましても、やはり高齢者の方々が安心して楽しめるという意味でも、低色温度の光、そしてやや光の強さを抑えた照明器具が大切ではないかと思います。
最後に申し上げたいのは、先生のお話の中で光のオブジェを随分出していただきました。今回380名近くというたくさんの方が社会実験に参加していただきましたが、今回これだけたくさんの方がお集まりいただいたのは、社会実験だけではなく、広坂商店街の商店の店内の非常に重要なショーウィンドウの中に、学生たちが作成した照明器具を点灯していただいたからです。そういう意味では、社会実験、オブジェ、照明器具、その組み合わせによって双方に非常にいい効果 が出たのではないかと思います。この機会に、広坂商店街の皆様に特にお礼を申し上げたいと思います。どうもありがとうございました。


金沢らしい明かりの提言 提言

1)従来の高い位置からの道路照明ではなく、今回のような比較的低い位置からの歩道照明のあり方は多くの市民からの支持が得られたので、今後の道路照明の施策において採用することを期待する。

2)低い位置からの照明の高さや形状についての好みは分かれるが、控えめでシンプルなものにしてほしいとの希望が強いことがわかった。照明の場所や目的に合わせて、最適なものを選ぶための仕組みづくりが必要である。

3)あかりの種類は、圧倒的に電球色が好まれることが判明したので、今後は道路や公園などの公共空間においては「昼白色」ではなく、「電球色」の照明を採用することを提案する。

4)照明器具の形状やあかりの雰囲気に「金沢らしさ」や「和風」を期待する声が強いが、その具体的な内容については今後多くの分野の専門家によって研究開発を行い、金沢が「和のあかり」のメッカとなることに期待したい。

5)今回のような「あかりの社会実験」を実験に終わらせずに、まち全体のイベントや恒久的なものにしてほしいとの希望も多く寄せられたので、今後は官民協力した組織を立ち上げることを提案する。
  
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