基調対談
テーマ「都心居住と創造都市」
     
山本理顕
三宅理一
職住分離が日本の都市を壊す 何を生むかが新美術館の課題  

●三宅:金沢は、やはり金沢に来てゆったりとした何かを求める、文化に浸る、あるいは地元の人と建築家やプランナーなどが交じり合うような場所が成立しうるかどうかということが、課題として出てくると思います。

●山本:昨日、ひがしの茶屋街少し見せていただいて、本当にいいなと思いました。ああいうものを見ると、日本の都市計画というか、都市の作り方は根本的にどこか間違ってきたのではないかと思います。一つは、用途地域ということでしょうか。住宅専用、商業専用、工業専用というふうに作ってきました。それによって、結果 的に、人の住む場所が都心からどんどん排除されていったわけです。もともと金沢という都市は、住む場所と働いている場所が同時にそこに存在してでき上がっていたと思います。昨日感じた快適さというのは、そこに人が住んでいる、お酒を飲んでいても、その周りに人が住んでいるという安心感だと思います。それを戦後の日本は忘れてしまった。そういう住み方とは全く逆行するような形で都市を造っていったと思います。

●三宅:日本の場合、やはり住宅公団の指導力が世の中の価値観をリードしたということですね。

●山本:そう思います。一つの住宅の中に一つの家族が入って、鉄の扉で閉めてしまうと完璧なプライバシー、いわば密室ができ上がる住宅が、発明されたのです。公団以降の住宅は、完全な密室を作っていったと思います。そのような密室の中に住むことによって、家族というプライバシーについて教育されていったと思います。そういうものによって都市ができてくるというのは、非常に大きな不幸だったと思います。家族という単位 が一つのプライバシーを持っている、それは、戦後作られていった一つの虚構ではないかと思います。ですから、地域社会を作ろうとするとき、今の住宅の作り方は、マイナスだと思います。家族というのはプライバシーを持つ最小単位 だと思い込んでしまっているので、それでは、外に開くきっかけは全然ないと思います。

●三宅:山本さんは、建築が社会を変える可能性を信じていらっしゃいますか。

●山本:単純にいうと、僕は建築によって変わると思います。今、プライバシーの中に公的権力は介入しないという原則がありますから、ドメスティック・バイオレンスなどが起きても公的権力は介入しない。ですから、十数年間も少女を監禁して分からないということが起きてしまうわけです。それは、住宅の今の造り方に非常に深くかかわっていると思います。

●三宅:しかし、あれは普通の民家だったと思いますが。

●山本:そうかもしれません。ただ、単純にいうと、民家でも、今の分譲住宅というのは、公団住宅を切り分けたものです。基本的な構図は、集合住宅を切り分けたものが個々の住宅としてでき上がっていったのです。

●三宅:そのあたりが、日本の住宅論を考える場合、重要ですね。

●山本:非常に単純化してお話をすると、多分、集合住宅の持っている密室性は、民間の分譲住宅でも保存されていると思います。その密室性というのは、その中で家族という単位 が非常に強いプライバシーを持っていて、隣の住宅とは切り離して生活することができるというものです。ですから、先ほどの少女が監禁されても分からなかったというのは、それは家族というプライバシーを守るためには必要であると多くの人たちが思い込んでしまっているからです。

●三宅:金沢は、それに抵抗する急先鋒だと聞いています。

●山本:金沢の町そのものは、仕事をする場所であり、住む場所であり、そういうものによって都市ができ上がっていたと思います。伝統工芸だけではありませんが、ここの人たちはどういう商品を作り、どういう形で都市を作っていこうかというときに、自分たちがどういう文化をここで創っていこうかということと切り離せません。どういう文化をここで創っていこうとしているかによって、住む場所と働く場所、あるいは趣味の場所、さまざまなものが混在している、かつての金沢は、そういう都市だったと思います。

●三宅:金沢の場合、昔からこの町はクリエイティブで来た、デザインの街であるというものがある。これは金沢独特のカルチャーだと思います。どうしたらいいかというのは、やはりこういうようなクリエイティブなものを作ろうという意思は、例えば金沢21世紀美術館を造るというところからそれなりに伝わってくるわけです。この美術館ができたとき、果 たしてそれに付随する新しいクリエイターたちは、ここに来て住むだろうかということが、次の課題だろうと思います。

●山本:金沢が21世紀美術館を造るということは、かなり大胆なかけだと思います。大体、日本では現代美術ははやらないということが一般 的な相場でした。ただ、世界的な動向でいうと、パリやカッセル、ニューヨークなど、現代美術でもっているような町はいくらでもあるわけです。日本では、現代美術で成功している所はまだあまりないと思いますが、金沢のような知的なインフラがある所で、それが成功するかどうかは、かなり面 白い話です。  金沢の持っている今のイメージというのは、大変しっとりと美しいというものですから、それがこの現代美術の持っている人間の狂気を、あるいは人間の闇を照らし出すというようなものにまでいくとなると、単なるクリエイティブだけではなくて、人間の精神そのものの質の問題になってきます。金沢の人に、そういうようなことを聞いてみたい思いがあります。

●三宅:現代文化のメッセージ性というのは、まさに金沢から発してほしいのですが、金沢は、やる気に満ちた町です。そして、世界の中でもかなり注目されています。古いものを残すという意味では、世界遺産という話が先ほどもありましたが、それと現代文化、現代美術、現代デザインといったものと、両方同時に発信していく素地があるわけですから、ぜひそのあたりで、新しい仕組みづくりをしていただきたいというのが、私ども共通 の願いですね。


  
トップページへ戻る