分科会B 「都心のにぎわいと暮らしぶり」
     
永井多恵子
佐々木雅幸
技術と知性と感性を基盤に 文化を核の創造産業時代へ  
●佐々木:永井さんは、世田谷の文化生活情報センターという施設の館長をされています。それは一体どんな施設なのか。今日の「都心居住と創造都市」というテーマとどういう関係があるのかということから始めたいと思います。

●永井:世田谷文化生活情報センターは区民の暮らしと文化の活動の場として、97年にオープンしました。暮らしをテーマとする生活工房と劇場部門が入っていて、この二つが有機的に働いて、豊かな暮らしづくりを応援しようというコンセプトです。

●佐々木:午前中に、近代の都市計画や建築、住宅設計が、地域のコミュニティーよりはむしろ家族に焦点を合わせていて、コミュニティーから閉鎖して、家族をうちに閉じ込めるような、いわば高級住宅がたくさん造られたという話が出たのですが、そもそも大都会になればなるほど個人の孤独、あるいは寂しさのようなものが一方であります。その一方でコミュニケーションを求めていくという流れもあるわけですよね。
アートというものがそういう寂しい一人ぼっちの個人に対してのコミュニケーションのツールとして、非常に精神的に深い創造的なインスピレーションを与えるのではないかという意味で、アートが個人、そして都市、あるいは周辺のコミュニティーに次第に波及していく。そのプロセスが非常に現代では重要なのではないかという仮説が成り立つわけです。そういうことが私は、現代の都市生活の中にあって、文化施設が果 たす大きな役割ではないかと思うのです。その辺はどうでしょう。

■都市生活者の孤独いやす
●永井:おっしゃるとおりだと思います。私どもも月に7回ぐらい、いろいろなワークショップをやっていますが、やはり人間関係を作っていく場だなということは感じています。それも連続したある期間、一つの目的、一つの表現に向かって一緒に過ごすと、そこに非常にある種の人間関係ができてきて、都市生活者の孤独をいやすというか、そういう部分もあるのだなという感じがします。

●佐々木:実は同じキーワードが午前中、三宅先生から出たのです。つまり、金沢が、この伝統の重みのある町に金沢21世紀美術館を作るというのはすごい挑戦だと。うまくいってほしいが、本当にうまくいくかどうか、だれもがハラハラドキドキしているわけですね。そこでポイントになるのは、やはり現代アートのクリエーターがこの町に集まって住めるのかと。どのようにしたら集まって住めるかというときに、文字どおり自分たちを表現する場になるかどうかだと。
だから、自己を表現する場というのが今、求められているのではないか。特にクリエイティブな人々が集まってほしいと思っている場合に、それを表現する場というものがないと、いつの間にか金沢を去ってしまう。あるいは金沢の中で埋もれてしまう可能性があるのではないかと思うのです。そういう自己表現の場を持つという意味で、世田谷で何か工夫をされておられますか。

●永井:東京でも少子化で、いろいろな所に空き教室ができてきているわけです。ここの場をどうするかということです。例えば港区の場合ですが、六本木の俳優座劇場のすぐ横の学校をNPOに開放するとか、行政には産業振興のプランナーたちが集える場所にしたいという皮算用もあるようです。ただ、デザイナーの需要は確実にあるなという気がします。

■21世紀は文化から経済へ
●佐々木:金沢経済同友会は卓越した考え方があって、「文化で飯を食う」ということで一貫しているのですが、普通 は単に文化施設があっただけでは産業化しにくいと思われがちです。しかし、例えば生活工房のようなものがあって、そして都心回帰してくる人たちの流れがある。そういう方々が望む住宅設計やコミュニティーのデザインという点では、新たなデザイン産業は興りうると、つまり、文化からビジネスへいくということはいくらでもあるとことではないかと思います。
21世紀、文化から経済へというアプローチなのではないか、都心再生も同じで、巨大なハードを造って都心再生をするのではなくて、小さいけれども人々が集まって、そこで暮らしを考えたり、新しい暮らしぶりを模索する中からデザインが変わって、産業に結びつく。そういう関係性ではないかと思うのですね。

●永井:新しいコミュニティー・ビジネスが生まれているわけですね。そういうものを支援しようという動きがあります。

●佐々木:コミュニティー・ビジネスという新しいタイプのビジネスが出てくるということですから、デザインもビジネスになるし、コミュニティーを支えるビジネスも生まれるという、そういう広がりでしょうね。そういう意味で、創造産業というものを文化を核にしてという考え方が定着してきたのでしょう。

■羨望の視線集まる金沢
●永井:金沢という所は、文化で非常にある種のイメージを日本中から持たれて、羨望の目で見られている所だろうと思います。今、問題になっているのは、都心にぽかっと穴が空いた問題なのでしょうか。それはそれなりに、それこそデザイナーの方々と行政との工夫で回復できるいろいろな問題があるだろうと思います。そんな動きをどこに落ち着かせるかという展望を、金沢の核になる方々が見据えて、お作りになるということではないかなと思います。

●佐々木:金沢は、大変恵まれた町だと思うのです。つまり、現代美術館という大きなプロジェクトをこの不況の中にやるということで。伝統と現代はどのように市民の間で整理できるのか。あるいは、伝統工芸の最先端なものがやはり世界的な評価を受ける町になるのかどうか。ここのところがとても大きなポイントです。こういう議論ができる町は、恐らく日本の中では京都か金沢ぐらいではないかと思うのです。 ともあれ、来年の秋、新美術館が生まれる。そのときに、これをどのようにしてこの町が受け止めていけるのかということに、非常に関心があるのです。

●永井:21世紀の社会基盤は技術と知性と感性であると主張して、自分のコンセプトをまとめているわけです。そのようになるには、やはり一人一人の支援がないとできないということではないかと思います。

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