■ゲスト講師 コーディネーター
●川勝平太氏 ●田中優子氏 ●水野一郎氏
欧米人が江戸風景を絶賛
●水野氏
 まず、私の方から問題提起としまして、日本の多くの都市の都心が過疎化していっている問題があり、北陸の都市も全部そうですが、その都心が何とかして元気を持つにはどうしたらいいかということをテーマとして出しました。それに対しまして最初、田中さんの方からスライドで江戸の風景をいただきました。屏風、木版の本、広重の浮世絵などです。そこに描かれたシーンは大変に遠景、中景、近景というのでしょうか、あるいはディテールとクローズアップというのでしょうか、そういうさまざまなシーンが出てくるわけです。いずれも大変に生き生きとして美しく、しかも屏風も木版も浮世絵も大変にデザイン的におもしろく、斬新な手法であり、読みとりのテクニック、シンボルの挿入など大変にすぐれたデザインでした。要するに、都市の風景を楽しむと同時に、都市から明らかに文化が生まれているという状況を説明していただいたわけです。
  その後、川勝さんから、田中さんのスライドを引き継いでいただきました。江戸には欧米人が幕末から明治維新にかけて来るわけですが、そのときに日本の江戸の風景を大変に絶賛した。それは美意識にあふれていたというだけではなくて、大変に清潔な都市であり、社会的な礼儀、社会的な生活というか秩序ある都市ができていて、あるいは、庭園都市であったとか、そういうことを含めて欧米人は絶賛したわけです。
遊びの心が大切でないか
一方、日本人は産業革命を成し遂げた欧米の都市へでかけるわけですが、煙のたなびくあの工場群、産業革命を成し遂げたあのパワーに圧倒されて日本人は帰ってきました。欧米人と日本人は互いに反対のものを評価しあって、日本は明治維新に突入しました。それ以降130年間、日本の都市は、経済的に成功することのために働いてきた。それに対して欧米の人たちは、江戸の都市の文化や遊び、それこそ都心(みやこごころ)を評価してきたという逆転現象のような話がありまして、今の日本は経済的な成長を達成したので、もう一回、江戸のときと同じように遊び、文化、出来事などを含めて、そういう都心(みやこごころ)の都市をつくるべきではないかということをご提案いただきました。
  それからもう一つのテーマは、都心に住む(都心居住)についてです。近代の自我というものが日本に入ってきて、プライバシーとか個の自立が言われてきて、だんだん郊外の住宅が閉鎖的な環境をつくってまいりました。それにならって、非常にオープンな生活スタイルをしていた都心の住居もだんだんクローズになってきました。人間関係が希薄になってきて、地域コミュニティがだんだん崩壊していき、そういう日本のよさにほころびが見え始めた、もう見えているという話でした。そういうクローズなものをもう一度オープンにして、人と人とが交流し合うというところに楽しみがあるのではないか、そういうところに生活の価値観を変えなければいけないのではないか、今は個の自立というよりも、むしろ利己主義に近いという話が出てまいりました。田中さんの横浜の上がりがまちの家のこととか、近所の人が気軽に入っていってお話をして、また気軽に出ていくという、昔みられたような日常の交流の場がなくなってしまったということをいろいろお話しいただきました。
  そのようなことから、都心の空間というのは結局、都心(みやこごころ)の空間をつくるということでいくのだろうと思いますが、ライフスタイルなり住宅なり歩ける道づくりなりいろいろ変えようということは、今の都心の姿から考えるとがらっと変わらなければいけないということが出てくるわけです。そうすると、今のイメージでは都心をどう活性化するかということではなくて、全然違う姿として創造した方がいいだろうということですので、そうすぐにできるわけではない。要するに、20年、30年、50年かかるかもしれません。そういうことに対して少しずつでも挑戦していって都心を変えていく、その積み重ねができるかできないか、そのことが大事で、そういうことができる都市とできない都市が出てきて差がはっきりしてくるだろう。日本の人口が増えない中で、そういうことができた都市に人が集まってくるという状況が生まれるだろうということが出ました。
  結局、都心(みやこごころ)を持った人たちがその都市の都心にどれだけいるか。その都心をどれだけ支えているかということが、都心をいきいきさせる力量 になるのではないかということが結論でした。