第8回金沢学会

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全体会議

全体会議

議長:佐々木雅幸氏(同志社大学教授・文化庁文化芸術創造都市振興室長)










(福光) おはようございます。早くからお集まりいただきまして、ありがとうございます。また講師の先生方には、昨日も大変お世話になりました。また朝早くからお集まりいただいております。よろしくお願い申し上げます。そして山野市長には、公務ご多用の中、ありがとうございます。よろしくお願い申し上げます。昨日、非常に白熱した分科会を三つやっていただきました。若干時間が足りなかったという感じを皆さんお持ちだと思いますので、今日は全体会議の中で、ぜひご意見を出していただきたいと思っています。できれば、何か課題がもう少し明確に浮かび上がるとありがたいと思っているところです。それでは、ここからは佐々木議長に進行をお願いいたします。よろしくお願いいたします。

(佐々木) 皆さん、おはようございます。今回、来年で20 回目になると福光さんから言われて、いや、そうではないでしょうと。2000 年から第1 回を数えたので、2020 年まで、つまり、まだ少し先があると思ったのですが、プレから始めたら、ちょうど来年が20 回だということでした。
 振り返ってみると、そのころちょうど経済同友会の40 周年記念事業をどのようなものにしようかということで、相談を受けていました。安江良介さんという金沢の知識人が、「金沢というまちは、世界に先駆けて21 世紀の都市の在り方を問う『金沢ラウンド会議』というのをやるべきだ」ということを言われたのです。それが経済同友会40 周年記念事業ということだったはずですが、急になくなりまして、「どうしようか」と福光さんが言ってきたので、僕は「できることなら自分が研究テーマにしている『創造都市』という会議ならやれます」と言いましたら、ではやってみようという話でした。
 第1 回のプレシンポは1998 年3 月にやりまして、その2 日後に私はボローニャ大学に留学しました。ちょうど世紀の変わり目で、ヨーロッパで起きていることを1 年間ウォッチして帰ってきたのです。それで、クリエィティブシティズというのは絶対に世界的潮流になるに違いないという確信を持ったものですから、「福光さん、これをまず10年やってみよう」と言いました。しかし、もう10 年を超えました。その間に起きた出来事というのは実にドラマチックで、今、隣に山野市長が見えておられますが、昨年、金沢市で「ユネスコ創造都市ネットワーク世界会議」を開催しました。それは冒頭、山野市長が発言されましたが、実は金沢市は3 年越しで誘致しました。昨日、話が出たように、国際会議というのは3 〜 7 年の仕込み期間が要るということですが、文字通りそうでした。当然、ライバルが出てきます。今の時代ではやはり中国です。そのときは世界69 都市のうち60 都市余りが参加するということでしたが、現在、そのネットワークは世界116 都市に広がっていまして、恐らく数年先には150 〜 200都市ぐらいになる可能性があります。文字通り世界的なネットワークになりまして、金沢同友会はその世界の流れに先んじて2001 年に第1 回会議を開催しています。
 ユネスコの場合は116 都市をカバーして54 カ国ですが、国内にはユネスコ以外にも、創造都市のネットワークに参加している「創造都市ネットワーク日本」というのができまして、現在のところ、都道府県も入れて85 までいきました。この呼び掛けは横浜の林市長と山野市長が代表でやられまして、そういった意味で、この会議というのは日本国内、アジア、ユネスコといったところに大変大きな歴史的なインパクトを与えてきた会議だと、あらためて感じているところです。これは私の個人的な思いですが、そろそろ世代交代してもいいかなと思っているところです。昨日は、まさに「ネクスト・ステージ」ということで、約20 年で到達したその次をどのように展望していくかということの中で、比較的近い未来と、やや距離がある未来の両方が議論されたと思います。順番を変えて、第3 分科会から振り返ってみたいのですが、これは宮田さんと徳井さんのお二人でじっくりと仲良く語っていただいたわけですが、AI というものがどこまで人間の生活や都市の在り方、あるいは産業を変えるのかという話でした。とりわけ私にとって面白かったのは、アーティフィシャルインテリジェンスではなく、オルタナティブであったりエイリアンであったり、異質なものを抱え込むというか、異質な思いがけないアイデアを取り込んでいくという能力がAI にあるというところが大変面白くて、一方で、3D プリンタでレンブラント風の絵画ができるとなると、第2 分科会で議論した工芸はどのような影響を受けるのか。
 例えば久世さんの癖を学んだAI が久世さんを超えるものを作れるのかとか、全く新しいものづくりの世界を開くかもしれないと考えると、金沢らしいAI というのは確実に存在するし、AI というのは、ある意味ではその時代の横断的な新しい技術だけれども、地域には縦軸に蓄積した文化のストック、あるいはスキル、あるいはマテリアルとプロセスがあるので、それを上手に編集していけば、必ず金沢らしいAI、ものづくりとまちづくりができるはずだというようなヒントを得ました。これは、近未来としてはなかなか楽しい話です。私どもが生きているかどうかは別にして、そのようなことがあります。
 そして第2 分科会では、あえてローマ字の「KOGEI」にこだわった世界展開をするということで、先ほどのユネスコ・クリエィティブ・シティズ・ネットワークは、七つのジャンルのうちクラフト&フォークアートというのを分野として申請したので、金沢市はクラフトの創造都市だということになっていますが、クラフトというと水野先生が言われたように、ちょっと安物っぽいということがあるので、どちらかというと芸術性の高い、アートに近い新しい工芸という形にしています。しかし、久世さんに言わせると「工芸も困るよね。もっといい名前あるだろう」ということで、久世さんは「造形作家」と言われています。そういうそれぞれの考え方が示されて、外舘さんが実に見事に、海外における現代の工芸、特に金沢や石川の作家たちの活躍ぶりをお話しくださって、「Hands-on Art based onMaterial and Process」と、なかなかうまい英語になっていると思ったのですが、そのような、さまざまな世界展開の可能性について、ここは豊かな土壌があると、あらためて確認できたと思います。
 そして第1 分科会は、まさにそういったオリジナルなコンテンツ、あるいは文化土壌を踏まえた上で、質の高いMICE を金沢的MICE と呼ぶとしたら、それはどのような仕掛けや装置、そして具体的な空間で行われるべきかというような議論が展開されました。浦さんの方からは、金沢歌劇座を中心にした文化ゾーンというのがいいのではないかという思い切った提案もあったわけです。実は私は文化庁の京都移転を担当していて、それでばたばたしているわけですが、金沢には工芸館を移転するというのを前文科大臣の馳さんのときに決めていただきました。ただ、その後、大臣も替わりましたので、やや風向きがなえてきていますから、地元で頑張らないと確実にいきません。それで京都も、私は全国に応援団を頼みました。東京の人たちはやはり冷たくて、東京から離れることにものすごく抵抗があります。ですから相当腰を入れて、金沢移転の意義、そこからどのように現代展開するか、そして工芸館を含める金沢の文化ゾーンをどのように再構築するかという、かなりしっかりした提案をしていって初めて実現するものだと、あらためて思っています。うまくいけば2020 年「国際工芸サミット」を金沢・石川でやり、
その前段として2018 年「東アジア文化都市」事業も、主に工芸を
中心とした展開でいくという流れでいくと、スケジュール的には
非常にうまくネクスト・ステージへのアップ(助走)ができると
いうことをイメージしながら、この後、議論を展開していきたい
と思います。福光さんから「冒頭は短く」と言われていましたが、少ししゃべりすぎました。特に第1 分科会と第2 分科会は、司会をしていただいた両先生がほとんどしゃべれませんでしたので、最初に少し、それを補っていただこうと思います。まず、大内先生からお願いします。

セッション報告
セッション@「金沢的MICE の推進」
報告者:大内 浩 氏(芝浦工業大学名誉教授)

(大内) ありがとうございます。私も朝、下手くそなパソコンでぽつぽつとしましたので、少し見にくいかもしれません。このセッションはMICE ということで、そのこと自身は皆さんご存じですので説明はしませんが、一般の観光と違うということが非常に重要な点で、それゆえに特有の対応や戦略が必要になるということが、昨日あらためて分かったということが大事なテーマです。このところ金沢は一般の観光客の方たちが新幹線開通等々でたくさん押し寄せて、現場は本当にご苦労されていると思いますが、MICE の場合、もう少し長期的・戦略的にやらなければいけません。矢ケ崎先生から、MICE のうち、コンベンションというのは医学・工学・建築・科学分野が5 割ぐらいを占めるというお話でした。それから今、佐々木先生からご紹介いただいたように、中国が相当な勢いでこの分野を開拓しようとしています。オーストラリアなどもかなりのことを考えていて、その進出が予想されます。日本もいろいろなところでやっているのですが、圧倒的に抜きん出ているのがシンガポールで、そこからも何か学ばなければいけません。大体、全体で500 人未満の会議が多いわけですが、先ほどもお話があったように、国際会議の誘致というのは3 〜7 年、場合によっては10 年越しぐらいの準備期間がどうしても必要です。ある意味、オリンピックや万博を誘致するのと同じぐらいの準備期間が必要ですので、そのためにはスタッフが充実していかないとどうにもならない、その場の対応では何ともならないということを、昨日もご紹介いただきました。「オール・イン・ワン開催」という言い方がありますが、会場があって、宿泊もできるし、それから昨日はセキュリティのことを矢ヶ崎先生が言われて、確かにこれからはセキュリティというのは重要だということで、横浜の場合には、パシフィコ横浜が非常に優れているというご紹介がありました。シンガポールは「水エキスポ」ということで、かなりいろいろなことを展開していますが、やはり、その土地に有意なテーマに特化していかなければいけないということで、そういう意味では、金沢は地場産業、あるいは伝統技術、さらに「金沢かがやきブランド」といったようなテーマを軸にしていくのが、本来あるべき姿だと思います。必ずしも、とんでもなく大きい規模のものをやることが目的ではありませんし、金沢の場合には、分散型の開催というのが十分可能です。これについては、私たちも実際に今までも関与してきましたし、その開催が非常に可能で、その魅力を発揮した方がいいのではないかというお話があったと思います。それから森本福夫さんは、今日もまだお隣におられますので、私のまとめでは不足だと思いますので、後でぜひ補っていただきたいのですが、昨日はインバウンドのMICE に関して、海外から来られる方たちのことについて中心的にお話しいただきました。これは、まだまだ未開拓の分野がたくさんあるということでもあったわけです。具体的に何かというと、例えば企業の方が、顧客や従業員、株主の人たちに対して提供できるご褒美がインセンティブというわけで、お金を提供するということももちろんあるかもしれませんが、旅行をご褒美として提供するというのが大変重要なことになっているようです。具体的に何をするかというと、行った先で表彰式をする、あるいは表彰パーティーをする、あるいはその地域の魅力について、みんなでチームを組んでチームビルディングで学習しながら一体感を醸成していくというようなことが中心のようですが、同時に、それが中心になって、さらに観光や食事、買い物などを楽しむというのがMICE の、特にインセンティブタイプの旅行の中心であって、決して観光ということが先に来るわけではないということです。ですから、観光地があるということだけで企業がMICE の候補地を選択するわけではなくて、むしろMICE のために、企業にとって何がメリットになるのかということが非常に重要ですし、それに対して現場が充実した対応をしてくれるかどうかということが非常に重要です。これが世界的に競合しているわけです。今まで森本さんが具体的にいろいろと関与されている中では、日本の場合には「和風」「アニメ」というキーワードでそのようなコンテンツを外国の人たちに紹介すると、やはり人気が高いということでしたが、僕は本当はこれに
「工芸」というものが加わっていかなければいけないと思っています。金沢は、その上品さを大切にしながら、上級クラスのインセンティブを狙うべきだろう、この分野のプランナーを養成していくことが非常に重要だということを、昨日、お話しいただきました。もう一つは、実はスポーツの話です。私も今まで認識が浅かったのですが、金沢武士団のオーナーでいらっしゃる中野さんから、スポーツというのはこれからの大変な成長分野であると同時に、実はこれはまちづくりそのものだということです。今まではスポーツ施設というと、教育的な配慮もあったり、いろいろな物理的な配慮もあって、郊外の少し不便な所に立地させていたわけですが、これは明らかに時代遅れの考え方で、スタジアムやアリーナというのは多機能複合型であり、そして民間活力を導入していき、さらに街中立地であって収益力をしっかりつけていくということを中心にしながら、スタジアムやアリーナを考えるという時代に来ているということです。さらに、プロもアマチュアも含めて、健康づくりということにこれから皆さんの大きな関心があるということで、その成長分野として、まちおこしとして、公共も力を入れてスポーツ分野に注力していくというのは、大変重要なことです。
 ただ、アリーナでいうと、実際にはスポーツだけでは成り立たないわけで、現状を見ると、コンサートなどの開催が7 割ぐらいを占めていて、スポーツは実は3 割ぐらいということで収益力などを維持しているわけですから、逆に言うと、そういうことが可能なアリーナを考えなければいけないということです。そうすると、収益力や、さらに家族連れ、特に女性にターゲットを絞って、女性が来やすいようなアリーナやスポーツスタジアムを考えていかなければいけません。そのためにも街中立地というのは必須条件です。昨日はアオーレ長岡をいろいろと紹介しましたし、話題になっているわけですが、駅前の非常に便利な所で、雪国のことを考えて外に出ないで駅からつながっており、その立地や、機能、使用条件(24 時間使える)など、さまざまな注目すべきことを学んで、金沢はその先を行かなければいけないということだろうと思います。「金沢武士団(サムライズ)」は、健康づくり、あるいはツーリズムの分野でも金沢に貢献していきたいという熱い思いを、昨日、中野さんから話していただきました。
 もし時間があれば後でご紹介したいと思いますが、金沢歌劇座について、1962 年の建物だったと思いますが、これをどう改修するか、あるいは建て替えるか等々が一つの大きな話題で、建築家の浦さんに、複合機能型の施設とし
て改装するとどうなるかというシミュレーションもしていただいたということです。以上です。

(佐々木) ありがとうございました。それでは水野先生、少しお疲れかもしれませんが、まとめではなく個人のご意d見でも結構ですので、お願いします。

セッションA「KOGEI の世界展開―石川・金沢を拠点に―」
報告者:水野 一郎 氏(金沢工業大学教授)

(水野) 疲れというより、昨日は発言する機会が取れなくて欲求不満なところもあります。新幹線が来て、金沢をどうやって駅周辺で表現しようかといったときに、金沢の地場産業としての伝統工芸産業があります。石川県にもあり、石川県全体で36 品目、経済産業省が指定している伝統的工芸品というのが10 品目あります。そのようなもので駅を金沢的、石川的に表現しようということで飾りました。そのときも含めて、金沢・石川を表現するものとしての工芸をやったのですが、その後、国立工芸館が金沢に来るということが決まりました。時の勢いみたいなものがあって、石破大臣の言や馳大臣の言、それから知事が要求したとか、市長さんも乗ったということで、いろいろな風が吹いて急に決まりました。決まった途端に、今まで工芸というと石川・金沢を考えていたのですが、そのレベルを超えて日本の工芸をどうしたらいいのか、あるいは世界に日本の工芸を持っていくにはどうしたらいいのか
という国際性などの問題に来ました。これが工芸関係のネクスト・ステージだと問題提起したわけですが、その中で、テーマとしては国際性に絞って一挙に行こうではないかということを議論の中心にしました。久世先生からは、先ほど佐々木さんが造形家とおっしゃったように、「工芸家でも陶芸家でもない。造形家である」
ということの真意として、やはり土が持つ性格、それを焼くことによって生まれる新しい性格を突き詰めていくということはインターナショナルなアート行為だというお話がありました。だから世界に通じるのだということです。美大で後輩たちに教えていることも、そのことで教えているのだという話もありました。外舘さんの方からは、日本の現代工芸の作品が世界中に出ているという実情を見せていただき、一方、伝統工芸もまた世界中に出ているということでした。すなわち、世界から見ると金沢・石川の工芸は、伝統工芸も現代工芸もフラットな形で世界に出ているという発言がありました。それは、久世さんの土とか、焼くとかということと同じように、素材に伴う工芸性という言葉で表現されましたが、何か新しい評論、新しい美意識、価値観といったものを感じました。ということは、われわれが工芸をこれからやっていくとしたら、その美意識や価値観というものの評論の世界を、われわれ自身が持たないといけないと思います。いかにしてそれを国際的に広めていくかというときには、非常に大事な要素ではないかと思いました。林田さんの方からはいろいろな話があったのですが、一番印象的だったのは、新しい市場を形成していくために努力しているというお話です。新しい旦那衆をどうやってつくるのかということも含めて、金沢が工芸の一つの市場として成立するといいなということを本当に思いました。
 伝統工芸的なお店、ショップ、骨董店が金沢にあります。「金沢美術倶楽部」というのもあるのですが、コンテンポラリーな工芸に対してはそういうショップがほとんど見られません。これは21 世紀美術館でやっているコンテンポラリーアートもそうなのですが、市場を形成していないので、金沢に来て手に入れる、購入するという外国人たちを引っ張るだけの力がまだないのかなと思っています。それが、今度のネクスト・ステージとしては必要な要素ではないかということを感じていました。
 金沢が、これから国立工芸館が来ることを提起としてネクスト・ステージに向かった場合に、「工芸のことなら金沢へ」ということが日本的なレベル、世界的なレベルで成立する中で、そういう作品を生み出すこの地域、それを評価・評論していくこの地域、市場として成立していくこの地域というネクスト・ステージを見つめていきたいと思います。同時に、2017 年に「鷹峯フォーラム」が開かれます。2018 年に「東アジア文化都市」事業が行われます。工芸サミットも来ます。2020 年はオリンピック・パラリンピックで、文化プログラムで「金沢、頑張ろう」と言って
います。そのテーマの一つにも工芸がなるのではないかと思っています。そういう意味で、いろいろなイベントが続く中で、ネクスト・ステージを推進することができるのではないかと思っています。そのようなことで、少し議論を進めてきました。

(福光) 今、水野先生から市場の話が出ました。世界に発信するには、マーケットが金沢にないというのが非常に大きな課題になろうとしていまして、今ここに来ていただいているギャラリストの本山陽子さんが一つ提案をしてくださるということです。では、本山さん、お願いします。

(本山) はい。よろしくお願いいたします。
(以下、スライド併用)
 昨日のセッションを受けまして、ネクスト・ステージの一手として、工芸のアートフェアを金沢でというご提案をさせていただきたいと思います。セッション2 におきましても林田先生が、工芸が世界展開するためには国際的な評価を受けることが重要であり、展開拠点へと石川・金沢が育つには何が必要かという投げ掛けを頂きました。また、今、水野先生の方からも、マーケットの重要性ということを言っていただいております。早速、アートフェアというのは何かというと、ギャラリーが3
〜 7 日の会期に一堂に集まって作品を展示・販売する催しです。作家にとっては新作の作品を発表する一つの個展の機会でもありますし、コレクターやディーラー、バイヤー、キュレーターといった人々にとっては市場の動向を探る情報交換の場です。また、さまざまな情報が発信されますので、エデュケーション(教育)の機会にもなっています。昨今、世界中でさまざまなアートフェアが行われています。スイスのバーゼルやマイアミ、香港でも行われていますし、昨日、外舘先生からいろいろなご紹介も頂きましたが、アートフェアへ行くということ自体が一つの文化的なエンターテインメントアクティビティになっているという現状があります。ファッションであればパリコレ、インテリアデザインですとミラノサローネといったもの、そしてカンヌの映画祭のように、一つのクリエーティビティを目的とする世界からの動因が誘発されて、それがまた市場を形成しているというのがアートフェアです。金沢において工芸のアートフェアを企画する背景としましては、もちろん工芸のまちとしての認知は非常に高まっているわけですが、販売される市場としての力はいまだに小さいという
現状があります。世界に通用するマーケットの場をこの金沢に創出することが創造都市としての機能強化にもつながりますし、作家さんがつくって、展覧会を行って、見せるので終わるのではなく、文化の経済活動の循環を一つ完結させる仕組みを金沢
が持つことが必要だと考えています。昨今、「おしゃれメッセ」から「KOGEI フェスタ!」へ、また「かなざわ燈涼会」から「金沢21 世紀工芸祭」へと、金沢に
は数年蓄積されてきたノウハウがあり、それを統合的に生かす場というのが醸成されつつあると考えています。金沢で工芸アートフェアを行う目的としては、金沢が市場のハブとなることでマーケットのまちになり、また、世界に開かれた工芸のプラットフォームになることにより、販売の拡大や、イニシアチブを取ることを目指します。もちろん、これは下に書いてありますように蓄積されてきた伝統工芸、産地工芸、また、21 美に代表されるような現代アートとしての工芸という多面性がある金沢でしか実現し得ないフェアを開催し、魅力を発信することにつながると思っています。
 金沢で工芸アートフェアを行う効果としましては、実力のある国内外のギャラリーや業者、ブランドを招へいして、アートや工芸の活発な販売取引や商談がその場で展開されます。この場には、もちろん現代アートだけではなく、産地工芸も参加するという形です。国内外から、意識の高い顧客やバイヤーだけではなく、さまざまな美術館関係者やデザイナー、建築家、メディアなどを呼び込んで、金沢のまちの活力を上げることにつながります。さらには、若い優秀な作家たちが金沢に定着するという強い動機付けにもつながります。さまざまなマッチングが行われて、伝統工芸や産地工芸の活性化など、文化経済におけるさまざまな波及効果が考えられます。
 昨日の外舘先生のご発言の中でご紹介いただいた感じがありますが、現在、世界で工芸に特化したアートフェアというのは、イギリスのアーツカウンシルが主催する「COLLECT」、シカゴで長年続いている「SOFA」、昨日から韓国で始まっている「ク
ラフトトレンドフェア」などがあります。外舘先生が昨日おっしゃっておりましたとおり、日本においては、まだ工芸に特化したアートフェアが開催されていません。
 アートフェアを開催する一つの形態の事例として、ホテルで展開されるホテル系のアートフェアという形態があるので、ご紹介します。ご覧いただいているようにホテルのワンフロアを貸し切って、各部屋をギャラリーにして作品をセッティングし、
その場で販売します。住空間に類似したところにアートが展開されることで、お客さんにとっても非常に親しみ深い、面白い展示ができるという効果があります。現在、ホテル系のアートフェアが日本の状態になじむのか、全国で毎年6 カ所程度のホテルで開催されているという現状もあります。昨日のセッションを受けまして、金沢だからこそできる一つの自己発信型のトレンドフェアでもありますし、それに付帯す
るサイトビジットとして、クリエィティブツーリズムで作家さんの方に探訪するといったようなこともできます。世界展開の一つとして、マーケットを金沢に、そしてプラットフォームとしての金沢ができるならば、さらに発展していくのではないかと思いますし、AI が支えるところも、もちろんビッグデータの活用というのはありますが、その気付きを与えることや、人とAI のクリエーティビティの応酬のようなお話もあったので、金沢でかつてないジャンルの工芸の技法や素材が創出されるよう
な可能性さえ感じました。以上の提案を、ぜひご検討いただければと思っています。ありがとうございました。

(福光) ありがとうございます。いいご提案を頂きました。最後の方でセッションの三つのテーマをみんなくるめていただいて、大変力強いプレゼンテーションでした。ここから佐々木議長に戻しますが、外舘先生が昨日、「SOFA」の話などをいろいろとされたので、金沢でマーケットをつくる可能性についてというところから始めていただければと思います。

(佐々木) 少しだけ私もコメントします。今、本山さんが言ってくれた中で二つほど思い付いたのですが、イギリスにはクラフトカウンシルというのがあるのです。ですから、あれはアーツカウンシル主催ではなく、クラフトカウンシル主催です。もし金沢や石川県でアーツカウンシルをつくるなら、少しひねってアーツ・アンド・クラフト・カウンシルでもいいですね。それから最近、ユネスコ・クリエィティブ・シティズの評価ポイントとして何を注目しているかというと、創造都市事業が持続性を持つためにはフェスティバルだけでは駄目で、フェスティバルとフェアを上手に組み合わせるということです。フェスティバルというのは、例えば税金や民間の資金を当てて事業をやるけれども、経済活動で回収しません。フェアがあって初めて回収されるわけです。その循環をうまく作ることです。ヴェネチアビエンナーレが100 年続くというのは、アートマーケットと結び付けているからです。それができれば金沢はかなりリードできるかなと思います。では、外舘さん、お願いします。

(外舘) 昨日、ばたばたと画像をお見せしましたが、美術館や大学など、私が関わってきた展覧会の中にさりげなくというか、比較的早い段階で「SOFA」を紹介しました。なぜ「SOFA」の写真をあれほど撮りに行ったかというと、呼ばれるのです。3 〜 4 日間の会期中にレクチャーシリーズというものが行われていまして、会場の建物の一角に三つぐらい講義室があって、そこに世界各国からキュレーターやクリティック、あるいは作家が呼ばれて、テーマを決めてレクチャーするのです。教育活動と「SOFA」はセットであるということです。それで私も、日本の工芸について話してくださいと言われて出掛けていって、いろいろな写真を撮ってきたということです。
 非常にコアな工芸の関係者を育てると同時に、会場に高校生の団体や中学生の団体など、フェアにふさわしくないかのような団体が時々来ています。これは「SOFA」の実行委員会が意図的に学校団体の見学を誘致しているのです。もちろん、高校生や中学生は1000 万円のチフリーの器など買うわけもないのですが、中学生や高校生たちに見せておくことで、将来の市場を形成するとか、あるいは広く工芸の見聞を深めるとか、さまざまな長期的ビジョンの下に教育活動をして、そしてコアな工芸関係者の交流の場、販売ということが一体になって3 〜 4 日間、集中的に空間として盛り上がるのです。ですから世界各国から買い手も来るし、見るだけでも見たいという人たちも来るし、もちろん地元の人が潤うということもありますので、地元も応援しています。会期が近づくと、そこら中に「SOFA」のポスターが貼られ、バナーが下がると言いますか、地域を挙げて世界から招へいするという姿勢が漂うフェアなのです。例えばシカゴの場合には1994 年以来の歴史がありますが、そのようなことを金沢でやる意義ですが、金沢には最近、現代の工芸を紹介するギャラリーも三つ四つできてきているのです。私も金沢に来ると必ず寄ります。ギャラリー点さんやガレリアポンテさんもそうですし、銀行が空間を提供している面白いところもあります。
 そういう若い人たち、あるいは今活躍中の工芸作家のものを金沢市内で見ると、金沢というのはもともと歴史があ
るので、若い人たちの作品と歴史が直結して受け止められます。若い人の作品を見た足で石川県立美術館に行く、あるいは九谷焼の方に足を伸ばすなど、現代と歴史が一続きで地域として見られる格好の場が、金沢のアドバンテージだと思っています。工芸館が移転してくるということも、まさにそこにメリットがあるのではないかと思っています。現在、いわゆる一般的な美術、あるいは骨董まで含めたものは「アートフェア東京」や、関西の方でもホテルを場所にしたものがありますが、これだけ日本に工芸作家があまたいるにもかかわらず、工芸に特化したフェアが開催されていないのは非常に不思議なくらいです。では、どこでやると一番面白いかというと、その筆頭として、金沢というのは歴史ともつながりやすいという意味で、非常に意義があるのではないかと考えています。以上です。

(佐々木) 手が挙がっているので、宮田さんと徳井さん、もう少し待ってください。
(久世) 宮田さん、すみません。本山さんから力強いアイデアが出てまいりました。学生たちを指導していて最も気遣うのは、どうやって飯を食わせるかということです。荒唐無稽の実験や冒険をさせておいて、さあ、どうやって生活するのかといったときに戸惑うのです。指導する側も戸惑ってはいけないわけでして、やはり何らかの準備をしてやる必要があります。先ほどの企画の中にエデュケーションというのがありましたが、教育の一環の強力なバックアップになるだろうと予測します。
 もう一つ大事なことは、要するにマネジメント教育です。特にアートやクラフト関連のマネジメントを、もっと濃厚にカリキュラムの中に取り込む必要があると思います。私は学長職を7 年やっておりましたが、初期の段階からマネジメントの重要性を説いて、いろいろな専攻に働き掛けをしました。ただ、作家で満足している教員というのは、意外とそういう方法論に疎いのです。触ってはいけないように思っている連中も中にはいます。やはり、その道筋をきちんと系統的に、大学の組織として作り上げていく必要があると思います。
 これは卯辰山工芸工房もそうですし、県の九谷焼や輪島塗の工房のあたりでもぜひ、そういうものを取り入れていただきたいと思います。若干の講座はあると思いますが、もう少し具体的に踏み込んだ現場研修のようなことも含めてやるべきだと思います。その体験の場としてもいい空間が定期的に行われると、まさにエデュケーションです。それと同時に、市民に対する教育というのは失礼ですが、周知といいますか、時代とともに工芸の概念も変化します。
 国立の近代美術館ができたのは1952 年です。まだ工芸館はありませんでした。その後、1963 年に京都の近代美術館ができます。ここは東京の初期のころの近代美術館に近いものも含めて、近辺の、特に京都という土壌、今の金沢のような状況だったと思いますが、そこでの工芸もたくさん集めています。戦後、変化したいろいろな新しい工芸分野のアートに近い、ちょうど際の部分のものを収集して、特徴のあるコレクションをつくっています。その辺は、東京の工芸館とは若干違うわけです。東京の場合には1977 年に工芸館ができました。これはあくまでも近代美術館の工芸館ですから、まさにアートと工芸の際どい部分も含めたものを明快に表に出して集め出しています。初期の段階
には、工芸やデザイン(インダストリアルデザインやビジュアルデザインなど)なども含めた収集をしたり、いろいろな工法をするということでした。
 それも、時代とともにどんどん変化しています。私の昨日のスライドの中でも若干付け加えたのですが、1960 年代から1970 年代にかけて、工芸的な素材で表現する新たなアプローチというのがアートの方から出てきました。要するに、素材の面白さ、加工技術の素晴らしさなどを導入して、金工の場合には「メタルワーク」という言い方、陶芸の場合には「クレイワーク」という言い方、染め織りの場合には「ファイバーアート」というような表現で、爆発的に新しい工芸が生まれました。今はそれこそIT の世界で、いろいろな器具、道具を使った新しいものができています。
 そのようなものが金沢に来て、どのような展開をするのか。まずは、現在の工芸館のコンセプトというか理念を、ぜひ一般市民にも周知していってほしいと思います。そうしないと混乱します。伝統工芸だけが来るような印象を持っ
ている方が私の周辺には大変多いのです。そのような偏りがないように、穏やかに、いい議論を進めていけるような場を作っていただきたいと思います。失礼しました。
(佐々木) どうもありがとうございました。私もその辺を危惧していて、近代美術館の工芸館は当然ですがアートの目配りがきちんとあります。そのような点で、石川県に単なる伝統の工芸だけの工芸館が来るのではないというところはとても大事なことで、その意味でいくと、明快なコンセプトづくりは民間でもやっていかなくてはいけませんし、市民サイドでもやった方がいいと思っています。少し心配される向きもあるので。

(福光) 今、久世先生がおっしゃった「食えるようにする」というのは大変大事で、クラフトビジネス創造機構とい
うのは食えるようにする機構でして、いろいろと苦労しています。そういう意味ではマーケットの話は、金沢市という行政では営業や販売というのは触りにくいのですが、外殻でうまくレイヤーを引けばマーケットのマネジメントも多分できるだろうと思いますので、非常に重要なことだと思います。「KOGEI」というアルファベット表記というのは、伝統工芸から現代アートの話まで、みんな混ぜた定義にしないとなかなか難しいので、その意味でアルファベット化するということは大変有用だということも思います。ちょうど、そこに大樋長左衛門さんが来ておられます。マイクは届きますか。彼は現代アートと工芸の両方をやっておられますので、一言だけ。

(大樋) いきなり振られて何を言ったらいいか分からないのですが、今、工芸館のことなどが金沢ですごく話題になっていて、そう思って東京に行くと、ほとんどの人が知らなくて、聞いてみると、文化庁移転も京都の人は熱烈的だけれども、中にいる人たちはあまり行きたくないというような話を東京で聞いたりします。みんな、それぞれに言語が違うような気がするのです。マスコミの人と美術を評論する方々と作家が、みんな交わらない言語でしゃべっているような気がどうしてもしてしまっていて、大切なことは、金沢にいる人は、金沢に工芸館が来ることでこういう得があるというようなことは封印して、金沢にあると世界の人や日本の人にこれほどメリットがあるということをもっと僕らの方から強く発信した方が、恐らく金沢にできるということに対する期待感が上がってくるのではないかという気がしています。
 工芸というのもすごく厄介な言葉の意味を秘めていて、世界の人と僕たちが言う工芸と、金沢の工芸というのは若干違っているような気もしています。金沢の21 世紀美術館などもそうですが、工芸という言葉を大切に使って、僕たちは工芸に対してこう思っているということを世界に広めながら、僕たちもそれに乗っかっていくというのが流れなのかなという気もしています。
 福光さんからマイクを頂いたのですが、何を言ったらいいのか分かりませんでした。全然ずれていたらごめんなさい。失礼します。

(佐々木) どうもありがとうございした。今、大樋さんが言われたように、本当に東京は冷たいのです。もちろん京
都も金沢も、地元のために工芸館や文化庁が来るのではありません。世界に向けた新しい工芸の展開のために、金沢
がふさわしいから来るのだということにしたいのです。市長さん、そのあたりはどうでしょうか。

(山野) 今日はお招きいただきまして、ありがとうございます。直接のお答えになるかどうか分かりませんが、先ほどの「食えるようにする」という話につなげていければと思います。実は今年2 月、国土交通省に呼ばれまして、「観光立国ショー
ケース」というのに金沢が選ばれました。外国人のインバウンドのモデル都市として、金沢市と長崎市と釧路市の3 市が選ばれまして、国土交通大臣から直接任命書をもらいました。大臣からははっきりと「5 年間、この3 市だけしか選ばないので、そ
の代わりにアイデアを出せ。アイデアを出したら、できる限り観光庁を含めて国土交通省で応援する。その成功モデルを6 年目以降、全国に広げていきたい」とおっしゃっていただき、使命感と責任感を大変強く持っています。今は当たり前のことをいろいろと提案して応援してもらっていますが、何か金沢らしいことができないかとずっと思っているときに、5 月か6 月ごろだったと思いますが、「鷹峯フォーラム」
の主催者にお越しいただいて、今から思うと林田さんだったのかもしれませんが、「鷹峯フォーラム」を、今年は東京でしたが来年は10 月1 日〜 11 月26 日に金沢で行う。いろいろな方に来てもらって、海外からもお客さんを引っ張れるというお話も頂きました。「観光立国ショーケース」の絡みの中で予算を持ってきて、海外から工芸のバイヤーやマスコミの方などに来ていただくことによって、決して金沢だけの作家
さんの作品ではないと思いますが、そのようなきっかけにならないかと考えています。翌年に「東アジア文化都市」事業がありますので、プレ大会などと言ったら「鷹峯フォーラム」の方に怒られます
が、われわれからすれば、その弾みをつけるためにも、「鷹峯フォーラム」を金沢市として一生懸命応援するだけではなく、「観光立国ショーケース」の枠組みの中で海外からそのような方たちをお呼びして、インバウンドにつなげていけないかという思いですぐに担当部署と話をしました。10 月にヨーロッパに行きました。イタリアのJICA だったと思いますが、ミラノ事務所を訪問したときに、「金沢はこれほどすごい工芸がたくさんあるので、イタリアを含めたヨーロッパの人は大変関心を持っている。ぜひ、われわれもお手伝いしたい」というご提案も頂きました。そのときにご提案いただいたのは、バイヤー、小売、マスコミの3 者を連れて行ったらいいということです。この3 者を連れて行って、金沢に来てもらって、そのときは「鷹峯フォー
ラム」という発言はしませんでしたが、いろいろと見てもらって、その方たちとマスコミも絶対に必要だということで、ヨーロッパの富裕層に向けて発信することによって、金沢を含めた日本の工芸作家さんの作品が世界に発信できるきっかけのお手伝いになるというご提案も頂きました。国交省の方にご理解いただいて、応援してやるよというところまで持っていくことによって、新たな市場を作っていければと思っています。

(福光) ありがとうございました。要するに、「鷹峯フォーラム」がありますので、それを期して金沢で工芸アートフェアを行って、マーケットを作っていくスタートとすればいいかなと思っています。今、市長さんは、ショーケースの
方の予算組みなど、多分、頭の中でいろいろ考えられておられると思いますが、そういうことを総合的に編集すると、金沢に工芸のアートマーケットができるスタートの年ということになるかもしれませんし、また、そうしないと工芸館が来たことのブースターにならないと思います。

(佐々木)今のはJETRO のミラノオフィスの話ですよね。どのような形で金沢に、かなり富裕層も含めた方々をお招きするかということで、これは昨日、森本さんがハイエンドなMICE ということを言われていましたが、森本さん、このあたりはいかがですか。

(森本) 昨日、ハイエンドというお話をしました。今、市長がおっしゃった「観光立国ショーケース」は、私も今回お話しするという役割を仰せつかったものですから、ネットでプリントアウトしました。約70 ページの大作で、非常によくまとまっていました。その中に、今後どのようにMICE のインセンティブを招致するかというようなことがありました。実は私は数週間前に1 日ほど休みを取りまして、金沢をずっと回ったのです。今回のこともあって少し勉強しようと思ったのです。そのときに、ここはと言ったら失礼ですが、東京は黙っていても大体インセンティブが来るのです。ところが、そうでないところを、これも語弊がありますが、どのように売るかというような目で、私は仕事をしているビジネスマンですからそのような目で会場を見たり、市内を見たりしたわけです。そうすると、ここは京都に似ているけれどもだいぶ違うな、もっと上品だな、格式があるという印象を持って帰ったわけです。これも余談ですが、昨日、私は疲れてしまって、部屋でマッサージを取ったのです。マッサージのおばさんと1 時間ほどしゃべるのですが、これも楽しみなのですが、その1 時間の間、そのおばさんはとにかくハッピーではない話ばかりするのです。ここでは詳しくは申し上げませんが、このようなことがあった、あのようなことがあった、兼六
園のトイレでこのようなことがあった、駅の構内でこのようなことがあった、万引きの現場を目撃したと、ほぼ1 時間、私は「それは大変。いや、困ったでしょう」とずっと聞いていて、かえって肩がこりました。
 実はそのようなことが起きるのです。それは非常に予算の少ない、少し言葉は悪いですが、ロワーなクラスのインセンティブを誘致すると必然的に起きるわけです。低いインセンティブ、安いインセンティブというのはどうしても大量に来るのです。ですから、大型のインセンティブは金沢では狙うべきではないというのが、昨日お話ししたことです。その中でどういう団体を狙うべきかということですが、そうするとハイエンド、高い方の端の層のインセンティブのグループを狙うべきです。あまり大型ではなく、100 名からマックス300 名ぐらいでしょうか。そのような、マネジャークラスに対するインセンティブというものを狙うべきではないか。しかも安売りをしてはならないと思います。観光地としてポピュラーになってきますと、インセンティブのグループも方々に連絡して、とにかく安く、安くというようなことが必ず起きてくるのです。そうすると業界が疲弊します。つまり、もうからないけれども、ただ忙しくてやっている。これは、絶対に金沢は避けるべきだということを思ったわけです。その方が付加価値も高まります。一言で言うとビジネス的に商売になるということです。従って、現地のホテルや観光業、土産物屋などがビジネスとしてそれをエンジョイされるだろうということで、それがハイエンドというようなことを申し上げたわけです。以上です。

(佐々木) 中野さんはいかがですか。

(中野) このたび、私どものようなスポーツの分野に、この歴史の深い金沢で視点を当てていただいたことを、本当に感謝いたします。うちの選手たちは3 部にいるのですが、1 部からほとんど声が掛かりました。しかし全員が残りました。監督も残りました。監督も1 部の5 チームからオファーを頂きました。恐らく給料は倍になったと思います。しかし、なぜ全員がこの地に残ったのかと、ある選手に聞いたのです。このまちは職場と会社に行ったりするだけのまちではないということを言った若い選手がいました。どういうことかと聞くと、僕たちはバスケットプレーヤーだけれども、バスケット以外に非常に癒されたり、文化が豊かだったり、趣味を生かせたりするということでした。当然バスケットプレーヤーですからバスケットに集中しなければいけないということがあるのですが、やはり人間はそれだけでは生きていけません。他に趣味を持っていたり、絵を見ることを趣味にしている選手もいました。それが、本当にここは充実していて、子どものいる選手もいるのですが、子どもの教育のためにここにいたいという人もいました。そしてすごいことが起きています。うちの監督は奥さんとお子さんがいて、お子さんは大変優秀で医者を目指し、今、高校に行っているのですが、来年の8 月に越境留学で、奥さんと一緒に買ったばかりのマンションを捨ててこちらに来ると言っています。私も、妻は今、市役所に勤めているのですが辞表を出してしまいまして、来年の4 月からこちらに住むことになりました。
 これから試合会場を造っていただけるなら、金沢の歴史やルーツ、アイデンティティを大切にした試合会場でやらせていただきたいと思っています。これはヒントになるかどうか分かりませんが、韓国と定期戦をやっていました。チャンピオンシップで衛星生中継をするということで、相手が静岡のチームでしたので、静岡で会場を探したのですがなかったのです。そこで、こちらのメンバーだったとお聞きしたのですが、川勝知事のところに行きまして、いよいよ会場がなかったので、グランシップというオペラホールを貸していただけませんかと言ったのです。川勝知事は大変驚いたのですが、僕がなぜそのような発想をしたかと言いますと、武道館でコンサートをする発想の真逆を考えてみたのです。韓国の人たちは、1 万5000 人の試合会場で試合をやります。私たちは3000 人しか入らないのです。ところが、やってみると、韓国の方が「こんな素敵なところで試合ができるとは思わなかった」と言っていました。
 当日、知事は議会があって行けないと言ったのですが、議会の途中で抜け出して来てくださいまして、これは本当に素晴らしい光景だということで、静岡はサッカーどころですが、これからはバスケも応援するということで、草薙にとてつもないアリーナを造ってくださいました。どちらかというと、アリーナを造るというより、7 割方が文化的な活用をしている中で私たちが試合をさせていただき、そこにもしお客さまが県外から来たときに、相当スポーツの印象が変わると思います。着てくるものも、ひょっとしたらおしゃれな格好をして試合を見に来られるお客さまが出てきたら、とても素敵だと思っています。昨日少しお披露目しましたが、秋田の女性は2 月ごろは長靴で雪の中を来まして、ぱっと服を脱ぐと本当にスタイ
ルが良いのです。そしてハイヒールに履き替えて、さっと会場に入っていきます。試合会場だけではなく、スタンドがおしゃれなのです。例えばあるおばあちゃんは、ものすごくおしゃれをして3 人でいらっしゃったので、75 歳ぐらいの3 名の女性に「今日は前座試合のお孫さんの応援ですか」と言ったら「何を言ってるの。○○選手の応援に来たのよ」と、すごいおしゃれをして来られるのです。
 スポーツではありますが、そのようなまちづくりで、金沢というまちの試合会場がそういうふうになったら非常にうれしいと思っています。少し話が長くなりましたが、よろしくお願いします。

(福光) 今、素敵なハイヒールに履き替えるアリーナの話が出ましたが、この間、経済同友会から市長さんに、コンベンションホールの立地についてご提案をしました。浦君にスケッチをしてもらっていて、僕たちは昨日見たのですが、市長さんに見ていただきたいので、浦さん、お願いします。

(浦) 昨日お見せしたのですが、本多町の歌劇座を改築するというご提案が同友会からもあったということで、課題はいろいろとあると思いますが、それに即して描いてみました。
(以下、スライド併用)

 参考としたのは「アオーレ長岡」という隈研吾さんが設計したものです。かなり大きな施設です。アリーナに市役所機能が付いて、あとは半屋外のものも付いています。非常に特徴的なのは新幹線直結で駅から歩いて3 〜 5 分というところで、たくさんの利用者がおり、非常に稼働率もいいというようなところです。これは金沢の敷地です。歌劇座と、想定としてはいろいろなあれはあるかもしれませんが、一応、金沢ふるさと偉人館の土地を想定しています。おおよそ、これぐらいの敷地の中の納まりということです。今、想定しているのは、先ほどのアオーレのアリーナ部分とほ
ぼ同じ大きさのものと、若干小さめの国際会議室ということで、この2 室にいろいろな付帯機能を付けて、とりあえず地下1 階が駐車場という想定です。アリーナの方は、この後少し改修があったようで少し数字が違っているかもしれまんが、きちんとした席で可動のものも含めておおよそ3500 席、それに普通の椅子をアリーナに入れると、シアター形式で4400 席、ボクシングのように真ん中にステージを置く形で5300 席というのが、公式のホームページに載っている数字です。約5000 人が入るというイメージです。延べ面積は地下の駐車場も入れると1 万9850m2 ということで、21 世紀美術館が駐車場も入れて2 万1000 〜 2 万2000m2 の間だったと思いますから、規模感からすると大体同じ感じになると思います。大体これぐらいの大きさです。そのイメージ的なものです。21 世紀美術館とスケール的には同じような形です。
 これはフォーエグザンプルとして見ていただきたいのですが、金沢のまち並みに合わせて、格子というか、木虫籠(きむすこ)のような木のイメージが外に出てくるのはどうかということで、今は歌劇座がかなり後ろに行って、その前の駐車場がかなり気になるわけですが、景観的にはかなり変わる感じがします。
 これはアオーレのアリーナの使用例です。先ほど約5000 人というお話をしましたが、大体このような規模感で、可動の椅子席を置くとこのようなイメージで、これが4300 〜 5300 席という内容です。左側は、収納していた椅子が右側に出てきたイメージです。国際会議場の使用例としてはこのようなもので、もう少し広い国際会議場になると思いますが、このようなものが併設されているということです。以上です。

(佐々木) どうもありがとうございました。先ほど中野さんが言われた静岡県のグランシップは磯崎新の設計で、もともと鈴木忠志さんが演劇を専門にするホールとして造られました。しかし、私も行きましたが、かなり多目的に使えるのです。
 考えてみるとアリーナというのは、例えばイタリアのヴェローナアレーナでも野外オペラもやりますし、演劇やオペラとバスケットなどというのは、結構親和性がありますよね。今のお話を聞いてどうですか。

(中野) アオーレの補足をしますと、今から13 年前に森市長から「中野さん、アルビレックスを新潟市から長岡に持ってきてほしい」と言われ、駅から10 分ぐらいのところのアリーナは3000 人入るのですが、そこでしたらやりませんと言いました。駅前に50 年前の古い体育館があって、1500 人入ればいっぱいだったのですが、そこでやらせてほしいと言いました。その理由は幾つもありました。朱鷺メッセという試合会場までは若干距離があります。それから、ビッグスワンという4 万人入るところも若干距離があります。さらに帰りは一斉に出ていくので、駐車場から出るのに何と1 時間半かかります。これは最大のネックだと思って、駅前でやらせてくださいと言いましたところ、今では毎回5000 人のお客さまで満杯になります。半径50km 圏内から電車で来られるのです。皆さんお酒を飲んで、楽しそうに帰られています。
 やはり駅の力というがあって、恐らくこれからは富山、隣の福井からもお客さまが来て、お子さんと来た方が明日学校があるとなったら、試合が終了した後に即電車に乗って帰られる。これは来る気になると思います。アンケート調査をしたのですが、実際にそのようなお客さまはとても多かったです。駅の力を活用することは、これからのアリーナ構想の中に必要かなと思ったのが一つです。
 先ほどの大内さんは、私どものエグゼクティブアドバイザーをやっていただいていまして、デザイン全てを大内さんにやっていただいています。「エグゼクティブ」というのは「ぜいたく」という意味があるそうですが、本当にぜいたくだと思います。いわゆる文化と共有。
 私は44 歳まで家紋職人でした。今は58 歳ですが、私のような家紋職人が突然プロバスケットの社長、アルビレックスの社長、リーグの社長をやれというのは、地球がひっくり返るようなことでしたが、実は、オーナーからは「あなたの文化的な感性を生かした会場づくりをしなさい」と言われたことが、その職に就くきっかけでした。補足で申し上げました。

(佐々木) どうもありがとうございました。かなり具体的な話も出てきました。
 では、ここで話題を変えて、宮田さんと徳井さんの昨日の話を、今日は工芸も出ましたが、お願いします。

セッションB「AI が支えるまちづくり」
報告者:宮田 人司 氏(株式会社センド代表 クリエイティブ・ディレクター)

(宮田) 1 時間20 分ほどお話を聞いてきて、この前の話が面白くて、そちらに口出しをしたいぐらいですが、昨日の話を振り返りながら話をさせていただきます。先ほど、本山さんからもAI のお話を頂いたりしました。
(以下、スライド併用)
 前の会議でも紹介させていただいた、僕が関わっているsecca というものづくりの会社がありまして、これは彼らがついこの間発表した作品です。前にもお話ししたとおり、seccaのクリエーターのチームは、ほとんどの製品を3D-CAD でつくっています。これも、先端の3D-CAD でなければつくれない造形で、この形自体は3D プリンタで出力したものを漆で仕上げています。このよな形ですが、これは3 辺が同じように見えると思うのですが、実は1 辺が本漆といわれるもので、国内5%以下といわれていて、1 辺が中国産の漆、もう1 辺は漆にしか見えない塗料で仕上げられています。最後は人間の手できれいに磨くので、ほとんど見分けがつかないのです。これはいわゆる、本物とは一体何かという問いかけのようなもので、実際に漆の産地の職人さんが見ても、どこの漆か分かりますかと言われて、皆さん大体間違えるのです。本当に分
からないのです。このようなものも、secca はつくるプロセスから全てデジタルで
つくっているので、ほとんど記録していけるのです。そのプロセスをずっとためていくことで僕が何を実験しようとしているのかというと、彼らの頭で考えたものを一つ一つ形にしてきて3 年ほどたつのですが、先ほど佐々木先生が「金沢らしいAI」とおっしゃっていましたが、secca らしいAI というのがつくれるのです。彼らがまさにつくりそうなものを、AI が100 パターンぐらいわれわれに提示してくれて、
作家はそこから選ぶということができるのではないかという実験を考えています。先ほど本山さんがおっしゃっていたAI との工芸では何ができるのかという一つの実験のようなことをやり始めています。
 もともとが彼らの頭の中にあったもので、そのプロセスを全て記憶していったところから導き出された造形というのは、secca の新入社員ではないのかという気がしていて、そういう働いてくれる人格をつくれたら面白いと思っています。
 話が少しそれましたが、昨日徳井さんと、いろいろとお話しさせていただきました。徳井さんは、昨日も少しご紹介させていただきましたがもともと石川県出身で、人工知能の研究者というか表現者というか、僕がすごく尊敬している方です。昨日も徳井さんが研究されているたくさんの事例や、取り組まれていることなども見せていただきながらお話ししていただきました。
 昨日は話題には出なかったのですが、今がどのような時代かと言いますと「人工知能とブロックチェーン」という言葉を聞いたことがあると思うのですが、人工知能とブロックチェーンによって、あらゆる業種や私たちの生活に、30 年に1 度のパラダイムシフトが起きている時代だと思っています。インターネットが1990 年代ぐらいから一般的になり始めて、ちょうどこの会議が始まった1997 年というのは皆さんがインターネットを使い始めていたころだと
思いますが、1997 年というと、日本でインターネットを使っている人たちはまだ500 万人といわれていました。回線の速度も、アメリカと日本の間がまだ128Mbps という時代で、今は数テラとかになっていますが、まだそういう時代だったのです。携帯電話もまだPHS で、32Kbbs ぐらいのものを使っていた時代なのですが、そこから約20 年たって、今、このような時代になってきました。昨日、徳井さんからもお話がありましたが、人工知能というのは実は歴史が古くて、1950 年代から研究されてい
ます。その中で、今回人工知能が注目されているのが3 回目のムーブメントといいますか。

(徳井) そうですね。第3 次人工知能ブームといわれています。

(宮田) はい。そことブロックチェーンというのがちょうど同じタイミングで来ているので、ブロックチェーン(分散型台帳)というのはインターネット以上の発明といわれている技術ですが、そこに来て人々は、新しいテクノロジー で価値観というのもだいぶ変わってきている時代だと思います。インターネット以降、われわれはあらゆる価値観を見直すべきときが来つつあるのかもしれないとも思っています。
 例えば、これは昔の皆さんの机の上だと思うのですが、電話やアドレス帳、いろいろなツールなどがあったりして、普通はこのような机だったのが、今は全部
ここに入ってしまっているのです。さらに、そこにスマートフォンに人工知能が入って「ご用件は何ですか」と聞かれるような時代が来るとは誰も思っていなかっ
たはずですが、皆さん結構すんなりと受け入れていると思うのです。こういう想像もしていなかったような時代を今われわれは生きていて、実は皆さん人工知能をこれほど身近に普通に使っています。Amazon にしてもGoogle にしても、テスラという会社が人工知能で車を走らせていたり、自動運転がこれから恐らく来るだろうといわれていますが、石川県では多分、日本で唯一、自動運転の実験をやっている地域だと思います。乗り物も、昔は馬に乗っていたのが、車輪が付いた人力車のようなものになって、次に車ですが、あえて言うならば人が運転する車です。これが海外では自動運転の車になって、これもAI が運転する車というふうになってきています。ワシントンD.C. では、実際に運転手がいないバス(Olli)が走っています。こういう流れはどんどん加速していくだろうといわれていますし、これを皆さんが使うようになれば事故も起きないまちになっていくのだろうと思います。
 もう一つ面白いのは、「シェフワトソン」というワトソンとIBM が開発した人工知能です。人工知能が作った料理のレシピがたくさん公開されていて、これは実際に人工知能が考えたレシピを基に人間が作った料理です。結構おいしいらしいです。人工知能が、この人ならこういうものが好きだろうというようなところの判断まで研究していけるだろうと思います。金沢は「食のまち」といわれているので、このような分野も研究していくと面白いのではないかと思います。
 よく、10 〜 20 年後に約47%の人の仕事がなくなるといわれています。なくなるのであれば、なぜ人々は自らの仕事をなくすようなテクノロジーをつくるのか、よくよく考えたらおかしい話ですが、実は人々の仕事が全て奪われていくのではなくて、47%の時間でよりクリエィティブに生きるためにやっているのではないのかということです。人々は今、よりオーガニックな生き方の方向に向かっているような気がしていまして、テクノロジーというのはそのために存在しているのではないかと思います。昨日、徳井さんのお話をいろいろ聞いていて、AI というのは人間に気付きを与えてくれる存在だというお話をしていました。人間が考えたことではないからこそ、それを人々がくみ取って、「こんな考え方もあったんだね」ということも実際に起き始めています。では、金沢で何かしていくとしたらどのような分野で何をしていったらいいのかというお話も、昨日少しさせていただきました。それで、人工知能とクリエィティブで世界一を目指していったらいいのではないかと思いました。例えば、人工知能というのは本当に守備範囲が広くて、あらゆることを判断させたりすることができるので、行政のアドバイザーに人工知能を入れるということもできると思いますし、先ほど佐々木先生がおっしゃっていた「金沢らしいAI」というのも、研究してみればすごく面白いテーマかなと思います。ですから、金沢にAI とクリエィティブの研究所を設立してしまおうと、私たちは昨日確信しまして、この活動をぜひやっていきたいと思います。これは恐らくどこでもやっていなくて、どこにも存在しない今のうちに始めることが重要なのではないかと思います。人間が思考停止してしまうシーンというのが最近すごく多いように感じています。つい最近どこかのニュースで、野菜が高くなったから給食をやめますみたいな話があったのです。あのとき、実は僕たちの会社はすぐにそこの行政に連絡して、支援するという話をしたのです。行政から来た返事は「判断できない」というものでした。そこの思考停止は一体何なのだろう、そのような判断は、人工知能ならすぐに「こうすべきだ」ということを言ってくれるのではないかと思いました。
 そのようなことも実際に起きていて、例えば行政やまちの何か重要な局面で判断しなければいけないときに、一つの参考というか、意見として聞いてみるのは、もしかしたら、よほど人間よりいい判断をする可能性があるのです。そのようなことも研究していきたいと思いますが、徳井さん、どうでしょうか。

(徳井) 最初の、クリエィティブと人工知能のラボをつくりませんかというご提案に関してなのですが、今回、第3次の人工知能ブームだというお話があったと思います。第1 次、第2 次とどのように違うのかというと、第1 次、第2 次の人工知能というのは、論理や知識を扱う人工知能でした。ロジックの世界、左脳的な世界というのでしょうか。それが今の人工知能でディープラーニングが発明されたことで、より右脳的な感性の世界や、感情の機微、揺らぎなど、これまで人間にしか扱えないと思われていたことが扱えるようになってきました。もちろん、扱えると言っても完全に人工知能が理解しているわけではないのですが、あたかも理解しているかのような振る舞いをします。そこに、たまに間違いがあったり、人間なら絶対にしないような反応をすることで、人間がそこから気付きを得るという話を、昨日させていただきました。今まで人間しか持っていないと思われていた機微や感性が一番象徴的に現れているものとは何だろうと考えたときに、やはり、日本の伝統工芸や伝統芸能が端的に現している日本人ならではの感性ではないかと。そう考えるとAIと金沢(伝統が息づいた土地)の相性はすごく良くて、他の土地では絶対にできないような新しい人工知能の使い方や、昨日、伝統工芸と伝承工芸は違うというお話もあったと思うのですが、伝統の中にAI という新しい技術を導入することで、新しい伝統や芸能、工芸が生まれてくるきっかけになり得るのではないかと思っています。
 そのときに大事なのは、どうしてもAI を使って何か人の代わりにやらせる、省力化するというということに意識が行きがちなのですが、AI につくらせるのではなくて、AI と人がつくるのだという意識を持って取り組むことが大事なのかなと思います。
 例えば、狂言を学習させたAI と狂言師が実際に舞台の上で競演してみるとか、加賀友禅のラフデザインをAI にやらせてみて、それを実際に加賀友禅の技能を持った方が仕上げていくなどといった形で、新しい取り組みができるのではないかと思っています。先ほど「食わせるのが大事」というようなお話があったと思うのですが、実は人工知能の世界も同じ問題に当たっています。僕のような者は人工知能の世界ではかなり異端で、普通はビジネス方向や省力化というところに行きがちなのですが、僕自身は表現、あるいは人間の創造性をどのように人工知能で拡大していくかというところに意識があります。しかし、そのような理想を持っていたとしても、それで食べていくのはすごく大変で、皆さんGoogle やFacebook などに就職してしまうという現状があって、そういうときにこのようなラボがあったら、世界中から人が集まってくるのではないかという気がします。

(宮田) 世界中から人が集まりますね。本当にその分野が正しいと思っていて、そのようなことができる場所がないので、みんなシリコンバレーに行ってしまうのです。ここに本当に世界中から英知が集まったらすごいことだと思っていて、AI とクリエィティブのラボで唯一の存在になっていくというのは、世界に対するものすごいメッセージだと思うので、やっていくべきだと思いました。以上です。
(福光) 以前、創造都市会議で提案して珍しく宙に浮いた感じになっているのが「21 ラボ」という概念でして、市の方でも「価値創造拠点」をつくることにしてあって、デッサンがあまりよくできないままになっている話がありますが、それがだんだんAI の話になってきたら、なるほどということで、世界から人が集まりそうな感じは大体分かったので、そのような方向でもう一度、再編集したらいいと思っています。
 もう一つ、人間のパートナーがAI だと考えていかざるを得ないわけで、もう少しロボットのようなものになってくると、例えばアルファ碁が、碁の名人として肖像のようなものができれば擬人化されて、そのような存在が本当にあるようになっていくのでしょうけれども、secca も作者が2 人いてつくっているでしょう。しかし、AI も入ってきた場合、secca という作者がいるような格好になりますよね。

(宮田) そうですね。

(福光) それは、実はチームなのだけれども、一つの著作権を持っているような時代に行くのかなという気がしています。その意味ではAI は、かつてろくろが発明されたときのように、人間にとってのクリエィティブな素晴らしいツールなのかなという気もします。「21 ラボ」の進化版としての「AI ラボ」というのは、金沢にあってもいいかなと思います。

(宮田) はい、ありがとうございます。

(佐々木) かなり時間も押してきましたが、まだ一言、二言お願いしたいです。竹村さん、どうですか。

(竹村) 今ほどありましたAI のまちづくりについては、これだけ進化していっている状況なのですが、都市計画の現状というと、まだまだビッグデータやSNS を活用して、観光の分析など、いろいろな時系列的な分析をやっている状況です。都市計画自体が非常に学際的で、総合的に関連するので、目的に向かって最短距離でできるというのには、もう少し時間がかかるのではないかと感じます。今お話のあったように、今後の技術の進歩がどこまであるか想定できませんが、都市計画の思想や哲学などの最終的なところは人間が判断・決断したいと思っています。AI を使って人がつくっ
ていくという姿勢で取り組むというのが、当面のことかなと思っています。
 もう1 点、MICE のところでユニークベニューの話が出ました。
先ほど本多町のコンベンションホールの話が出ましたが、ユニークベニューというのはその名のとおり、その地域にしかないユニークな会場を発掘したり、造ったりするということです。歴史的な建造物を活用したりリニューアルしたり、あるいは新しいものを造っていくというようなことだと思っています。本多町の話も非常に面白く、いい案だと感じました。昨日、金沢の場合は、誘致会議のときにオンリーワンというよりまちなか開催、分散型がいいのではないかということで、九州の成功例がありました。ポイントとしては、時空を超えてつなぐというか、時空をつなぐというのが大
事かなと思います。特に金沢というのは歴史的な厚み、奥行き、歴史的な重層性というのが魅力ですから、それぞれの、さまざまな時間の歴史的な遺産に現代(平成)の知恵やセンスを吹きかけて造ってはどうかと思います。
 実際に金沢城公園であれば、江戸というものをベースに五十間長屋や玉泉院丸庭園など、平成の新しいものを造っていますし、しいのき迎賓館であれば、大正の建物をベースに平成のものが加わっています。あるいは21 世紀美術館のように平成の傑作があったりと、非常に歴史的な厚みを持ったものがいいのではないかと思います。
 昨日はルーブルの話が出ましたが、やはりルーブルでもガラスのピラミッドを造って、その下がものすごく現代的、機能的、効果的、効率的になっているわけです。こういうのは普通に造るよりも、例えば国際コンペなど、世界中の知恵を募って造っていったらいいのではないかと思いました。もう一つは空間、時空の「空」の方ですが、これらの拠点というのがあるので、点・線・面で言うと拠点の「点」を魅力アップして、拠点と拠点をつなぐルート、回遊性というのをしっかりと持たせるべきかなと思います。全体のゾーンとしての舞台として整えて、それが相乗効果を出していく。これはかなり時間がかかるので、しっかりと舞台を整えて、ネクスト・ステージにつなげていけばいいのではないかと思いました。

(佐々木) 鈴木さん、いかがですか。

(鈴木) 金沢青年会議所の本年度理事長の鈴木でございます。青年会議所として次のステージに進むために何をやっていくかということを、少しお話しさせていただきます。まず、昨年11 月にわれわれの方で「JCI 世界会議金沢大会」を開催させていただきました。ここにおいでの多くの皆さまから、ご支援、ご協力を頂きました。本当にありがとうございます。世界会議金沢大会には、世界各国109 カ国から2200 人の外国人の方、全国各地から6000 人の日本人、合計8200 人の方にお越しいただきま
した。そのときは開会式や閉会式をスポーツセンターでやったり、産業展示館でやらせていただくのにシャトルバスで巡回したのですが、そのシャトルバス代だけで何千万円というお金を捻出して支払いましたので、街中に国際会議場やアリーナがあるということは大変ありがたいことだろうと、そのとき思いました。その世界会議は「Feel the impact of KANAZAWA」という、金沢のインパクト(魅力、文化、食、伝統工芸など)を金沢で感じてほしいというテーマで開催させていただきました。その際に、青年会議所でずっと行っていた「燈涼会」という事業を、世界会議のときにも開催しました。浦先輩にも、いろいろとご協力を頂きました。ありがとうございます。
 金沢の工芸と食を掛け合わせたり、町家と工芸を掛け合わせたりと、魅力と魅力を掛け合わせて新たな価値を作るということを目的とした事業ですが、海外の方、日本の方から大変好評でした。その中の意見で多かったのが、「金沢だからできるイベントだね」「金沢がすごく似合っているイベントだ」というふうに、お褒めの言葉をたくさん頂きました。これは、金沢の風土がそうさせているのではないかと思います。
 私のいとこが卯辰山の工芸工房を出て、今、千葉の方でガラス作家をやっていて、別に千葉のことを悪く言うわけではないのですが、千葉のまちも市民も非常に冷たく、工芸に対して支える姿勢も全くないということで、近々金沢に引っ越してきたいと言っていました。それは、やはり金沢に工芸を支えてくれる風土があるから、金沢というまちと市民が支えてくれるからということでした。そういう中でわれわれ青年会議所としては、この風土を守るために、しっかりと次世代教育をしていきたいと考え
ています。今年、にし茶屋街で「にしのいろは」という、子どもたちに金沢の伝統・文化を発信して体験してもらう事業を開催させていただきました。金沢の風土を守るための次世代教育というものを、青年会議所は今後やっていき
たいということと、「燈涼会」を「21 世紀工芸祭」に移管させていただいて、今は金沢市さんと一緒にやらせていただいています。2020 年のオリンピックイヤーに向けて、しっかりと文化発信のコンテンツに育てていきたいと思っています。以上です。

(佐々木) どうもありがとう。

(竹村) 鈴木さんがコンデレをやって、世界会議の誘致までに7 〜 8 年かかっているのです。しかし、今、金沢にあれほど大きい会議を引っ張ってくると、JC は200 人メンバーがいて自前でお金と時間を使って誘致活動をしているけれども、本当に今、金沢で1 万人規模で外国人が何千人となると、そのような組織がどうしても必要ではないかと思うのです。コンベンションを引っ張ってくるときには、昨日、先生方がおっしゃっていたように、ノウハウや専門知識などが全部集まった組織がないと、なかなか難しいかなと思っていたのです。彼らの誘致運動を見ていて、大変だなと思っていたものですから。

(福光) 先ほど言い忘れていたのですが、MICE のときに質問しようと思っていたのですが、今の金沢のコンベンションビューローがどうのこうのではなく、今おっしゃったように、これからのMICE を金沢でやっていくとして、理想的にはどのようなコンベンションビューローというか、営業部隊、運営部隊が常設にあればいいかというのを、森本さんや中野さんにお聞きしたかったのです。何かお考えがありましたら。

(森本) インセンティブのお話だけします。私どものお客さまというのは、インセンティブの団体を連れてくる主催者、およびその旅行を扱っている現地の旅行会社などで、そういうところからわれわれに引き合いが来ます。その場合、大体彼らは行くべき目的地(デスティネーション)を選ぶのを、金沢に限定しません。国としても限定しません。
例えば最近引き合いがあったのは、東京と上海とシンガポールを考えているなど、大体それが最初です。社内でも、どこへ行くということが決まっていないので検討をするのです。そのために何を検討するかというと、その場所にいい会場があるかどうか、いいサービスのできる組織あるいは会社があるか、そして価格的な条件という三つがポイントです。国を比較し、都市も比較します。その他に、日本に来るのだけれども、東京と金沢と大阪だというケースがあります。そういうときも同じようなこ
とで、われわれのところへ来るのはRFP(Request For Proposal)で、提案を求められるのです。あるいは値段を比較したいということでRFQ(Request for a quote)が来るのです。そこで今おっしゃったように、提案書を出すときに、先方はこのようないい会場で、このようなことが実際にできるのだな、運営についてはこのようにするのだと、オリンピックは大変大きなイベントですが、そのように、デリバリーといいますが、実際の運営をする組織やスタッフ、経験、中身などを提案しないと、先方は判断のしようがないのです。つまり、もしそのような提案を金沢ができれば、金沢が勝つわけです。そうなってくると、今ちょうどおっしゃったように、そのような機能ができる会社や、一般的に大型ではPCO(Professional Congress Organizer)、言うなれば国際会議屋ですが、そのような協会は日本にもありますが、そこおよび、インセンティブのあまり大きくない団体の場合ですとそれを扱うDMC(Professional Congress Organizer)、つまり目的地(金沢)のいろいろなことをマネー
ジすることのできる会社が必要で、今後の金沢の問題点というか、やらなければいけないことというのは、PCO やDMC などの、いわばソフトを提供できる機構というか会社が問題だろうと思っています。

(中野) 実は、bj リーグのときに顧問になっていただいた方に、ソニーミュージックの取締役の方がいました。彼は、1 万人規模のアリーナでないと行かないという嵐やEXILE を扱っていて、仙台でやったときには95 億円の経済効果があって、福井でやっていらっしゃるそうなのですが、そのときもかなりの経済効果があるのだけれども、金沢に行こうと思っても会場がないので諦めていますと言われました。それは非常にもったいないと、そのときは率直に感じました。それと、先ほどのアオーレを補足しますと、稼働率が90%を誇っているのは、米沢さんがおっしゃっているように、
ある部隊がいます。この人たちがパイプ役として、民間のイベントや行事をする方たちと一緒にそこをサポートするのです。これは本当にいい仕組みです。また、会場がいっぱいなとき、例えば水曜日の夜にイベントをしようと思っ
たらバドミントンの会が入っているときに、駄目ですと言うのではなく、両者をお見合いさせます。お互いの相乗効果のようなものを生ませて、こちらの時間は私たちが使い、この時間は僕たちがこのスペースでやりますということで、ほとんど断らないのです。それが90%の稼働率につながっているということです。そのような部隊を作ってしまうのです。これはNPO ですが、90%だったおかげで、私はスポーツ庁に呼ばれて発表させていただいたのです。やはり、稼働率はとても重要だと思います。

(佐々木) 浅田さん、ずっと聞いておられましたが、一言あるでしょう。

(浅田) DMC もしくはコンベンションビューローの、世界の成功的な事例を二つお伝えしたいと思います。一つはラスベガスで、ラスベガス・コンベンション・アンド・ビジターズ・オーソリティという組織があるのですが、ここはラスベガスのホテ
ル全体から9%の宿泊税を取って、その48%をコンベンションセンターの運営に回しているのです。ラスベガスには三つの大きなコンベンション施設があり、合計で100 万m2 です。これの運営をするというのと、あとは年間82 億円を使った全米もし
くは全世界のプロモーションを行うという原資に、9%宿泊税のうちの48%を充当しています。もう一つ、私が面白いと思っているのはハワイ・ツーリズム・オーソリティ(HTA)というところです。昨日からずっと議論を聞いていてどうしても引っ掛かると思っていたのは、観光立県と文化立県、観光立国と文化立国など、観光と文化というのは絶対に相容れないというのが前提になって第1・第2 セッションがあると思って聞いていました。このHTA が面白いと思っているのは、地元の人にしかできないアレンジをするというワンストップの窓口になると同時に、文化を継承していくことに半分ぐらいの労力を使っていまして、例えば、観光客が目の前で落としていった5 ドルが、ハワイの文化を守るためにどのように使われているかという啓蒙ビデオを作ったりしているのです。そのことによって、観光客に来てほしくないと思っている地元の人たちとの間を取っています。HTA は世界中のDMO で一番成功していると私は理解しているのですが、金沢にもDMO、それも観光の誘致もしくはMICE の誘致だけではなくて、文化を守るという側面を持ったものが必要かなと思います。もちろん、観光協会が登録しているのは存じ上げているのですが、9 月に勉強会をして、なかなか厳しく、ハードルが高いと思いました。オリンピックまでに、ちゃんとしたDMO について勉強する必要があるのではないかと思っています。(佐々木) ありがとうございました。今出たホテル税は、サンフランシスコはホテル税が美術館や文化支援に回って
います。私は今、文化庁サイドから観光庁との連携を考えていますし、新しい行政はその方向に向かうと思います。
 市長さん、ずっとお聞きになって、最後にお願いします。

(山野) 今、浅田さんのお話を聞いて思ったのですが、観光と聞くと何となく非日常を体験するというイメージがあ
ります。もちろん、そのような側面もあると思います。アラスカに行くなどはそうかもしれませんが、異日常、自分と異なる日常というものを体験する、もしくは見るという表現になるかもしれませんが、そのようなところも、実はすごくあるのではないかと思っています。新幹線で金沢はにぎやかになったといわれているのは、間違ってはいないのですが少し違和感があって、新幹線という、金沢の文化や工芸、魅力を発信するツールを得ることができたので、より多くの方が知ることになったり、来ることができるようになりました。大切なことは、金沢というまちがしっかりとしていることです。東京や大阪や九州といった多くの方からすれば、決して非日常ではなく、あくまでも日常の金沢があって、それは遠くの大阪や九州の方からすれば異日常と感じていただけるから、評価を得ているのではないかと思います。また、一義的には、ここで生活される方の日常がきちんと担保されなければいけませんし、磨きを掛けていくことが必要だと思いました。

(佐々木) そろそろ終わりますので、米沢さん、最後に。

(米沢) 私は今日、いろいろとヒントを頂きました。創造都市と金沢学会は、創造都市で生まれたアイデアを、ワークショップをつくって、まちの中で実験して効果を確認して、市に提言したり、新の装置として設置してきました。
それが最近、ワークショップがつくれないような状態があったのですが、今日の全体会議で、もう実験の時代ではなく、2020 年までをネクスト・ステージとすれば、すぐにやらなければいけないことが三つ、四つ見えてきましたので、創造都市会議の委員会で煮詰めて、一つずつ実行していき、組織を作り、そして、やはり民間でやらないとスピードが間に合わないと思っています。もちろん行政の協力は得ますが、民間中心で組織を作っていく、主導してやっていくというのが大事かなと、あらためて実感しました。

 

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第一日目  12月8日

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