第7回金沢学会

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全体会議

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福光
 皆さん、おはようございます。昨日に引き続き、お集まりいただいてありがとうございます。そして、また、今日もご多用の中、山野市長にお越しいただいて、ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 今日は、全体会議で佐々木先生に議長をお願いしますが、議長の方からまた昨日の報告等々を含めて議論を促していただきたいと思います。
 その前に、昨日のワークショップで宮田さんの報告の中にあった未来工芸の立食用のプレートがあります。それがカンヌ時間の夕べに銭屋の高木さんの作品がカンヌで実際に使われた写真が届きましたので、まずそれをご覧いただきたいと思います。
(以下、スライド併用)

宮田
 昨日のワークショップで報告させていただいた、GEUDAの方で頑張っている上町と柳井というものの器です。こういったものです。銭屋の高木さんの方から、カンヌの立食パーティー用に今までにないしつらえの器を作れないかというご相談を受けまして、約1カ月前にこういうモデリングを始めました。これはCGの画像です。
 形を作って、その料理人の方と何度もデザイン思考のやり方で、プロトタイプを作っては見ていただいて、さらにブラッシュアップして何度もやり直していくというやり方で作ってきた器です。こういうカラーバリエーションなどを作って仕上げてまいりました。
 これをどう使うのかというと、われわれの想定としては、立食パーティーで両手がふさがってしまうとどうにもならないので、片手で全てが完結するようにこういう形で使っていただくというものです。ちょうど今日の北國新聞にも出ていましたが、これを実際にカンヌの方で使っていただいたのが、本当に昨夜です。現地から写真を送っていただきました。
 これは実際に使っていただいているシーンなのですが、われわれの想定どおりこういう形で使っていただけたようです。非常に絵になる器になったと感じています。こんな感じで、来年からまたこういうものづくりにもどんどん力を入れていきたいと考えています。ありがとうございました(拍手)。

福光 上町君がそこで誇らしげな顔をしています。
おめでとう(拍手)。例のGEUDAというインキュベーションのセンターと言いますか、相撲部屋の人たちの新しいタイプの工芸でした。お話から1カ月間でこれだけの数を、3Dプリンターを使いながら開発して作っていただいたという。

宮田 実際使えるところまでこうしてやった例は世界でもないと思います。

福光
 そうですよね。特に、シェフの方などの発案で作ったということで、金沢スタイルと言いますか、これが全国に立食のプレートとして普及していってもいいような感じで、工芸の新しいスタイルではないかと思ってとても良い話だったと思います。
 それでは、佐々木先生に議長をお願いします。

佐々木
 おはようございます。山野市長も落ち着かれたようで、一緒に議論するのを楽しみにしてまいりました。
 そこへ昨日の流れをあらためて出しておきましたが、先ほども紹介ありましたように、GEUDAの挑戦は非常にインパクトがあると思います。特に、3Dプリンターを活用した未来工芸の可能性は、例えばユネスコの世界会議でも紹介をすると、あっという間に世界へ広がりますね。非常に良いタイミングで出てきたと思いました。
 今回の会議のセッションは三つありました。一つは「大人の金沢らしさ」で、これは和敬清寂として、全てを見せずに金沢の文化の奥深さを探っていくという見せ方をする金沢にしていくと。
 二つ目は、「都心に木造建築を」、木の質感を生かして先端技術とクラフトワークの結合で、日本で初めて木造の都心をつくろうという提案がありました。また後でお話があると思います。
 三つ目に「トップクラスの創造都市」として議論したのは、この5月に総会が開かれるユネスコ創造都市ネットワークが、この12月1日に発表があったところでは69都市に広がったということです。実は、ユネスコというのは世界遺産が圧倒的に有名なのですが、世界遺産も60台くらいのときは日本のメディアは全く知らなかったのです。ところが、今、世界で1000に近づいているので、やっと気が付きました。そうすると、大変な大騒ぎをしていますが、実は大騒ぎしているほどの意味はあまりないのです。多分、創造都市ネットワークの方が世界を動かします。それが100ぐらいに近づくというタイミングから恐らく真価が発揮されますので、この金沢の会議の意味があると思います。また、2020年の東京オリンピックに向けて文化オリンピアードというものを国がやろうとしている、このときに東京を逆手に取るというか、東京をだしに使うというか、そういう金沢の戦略を決めると面白いなという話が出ました。
 今日は総合討論ということなのですが、例によって、それぞれのセッションの先生方から、まずまとめ、問題提起をあらためてお願いしたいと思います。では、大内さんからお願いします。

セッション報告
セッション@「大人の金沢らしさ」
報告者:大内 浩 氏(芝浦工業大学 名誉教授)

 セッション1は「大人の金沢らしさ」がテーマで、3人の大変ご活躍のパネラーに来ていただきまして、いろいろな議論をしました。本当にそのさわりというか、大事なところだけをご紹介します。
 最初に伊東史子さんから、おもてなしというのは全国で今使われている言葉ですが、おもてなしも大事だけれども、むしろ重要なのは「社交力」だと。例えば会話をする、来られた方と非常にしっかりと会話をするということもやはり重要で、そこにこだわった方がよろしい。ただ、お客さまにしておくということだけではやはり足りないし、それでは金沢の魅力は伝わらないということです。
 あるいは、もちろん観光は観光として、観光でお越しいただいた方をもてなしていくことは大事なのですが、一方で、観光するだけではなくて、「滞在をしていただく」。金沢の魅力というのは、ちょっと来て、ささっと見て帰るということだけではとても分かっていただけないし、滞在していただくのに十分に足る魅力があるわけですから、まちとしてそちらの方にまちづくりをむしろシフトしていった方がいいということです。
 それから、「貨幣よりも時間を」。いろいろな形でこれから新幹線が来ることによって、さまざまな経済活動が盛んになる、それはそれで結構なことなのですが、今、本当に外からお見えになる方、あるいは、金沢に滞在しよう、あるいは、住もうという方たちが何にこだわっているのかは、経済的な価値というよりも、時間をいかに大切にして、しかも意味のある、中身のある時間を過ごすかという、むしろそちらの方だということです。だから、経済界の方たちもいろいろな経済的な潤いを期待したとしても、さらにその奥にある時間の価値を分かった上で対応すべきであるということです。
 それから、「成長よりも成熟を」。実は、特に私たちくらいまでの世代は高度成長の中で過ごしてきて、いろいろなものを作り、GDPを成長させるということにこだわったわけですが、特に今、若い方たちの中には、そういうことに対するある種の反発とまで言わなくても、違った価値観で、より成熟した、より意味のあるものに価値を見いだすというように今、動きつつあるわけです。具体的に成熟とは何かというのは難しい問題ではありますが、そういうことに絞ってまちづくりをすべきだということが1点、伊東様から提起がありました。
 2番目に、柴田文江さんの方から、「デザインとは」というお話がありました。昨日は実際に柴田さんの本当に素晴らしい、私たちも普段お世話になっているようなデザインの幾つかをご紹介いただきました。ある意味で、これがデザインされた、あるいは誰かがデザインしたということをむしろ感じさせないような種類のものが実は良いデザインなのであって、何かこれ見よがしに、これはデザインされているという取って付けたようなものは決してデザインとして優れたものではないのだと、これは本当に考えてみればそのとおりだし、はっとさせられました。
 そして、「新しい魅力をどうして見つけるか」というと、それはどこからか突然生まれてくるのではなくて、例えばまちであったり、あるいは物を作っている方たちの実際の仕事の中から優れたものを見つけていく。実際にデザイナーとしてさまざまな工房でいろいろなことを行われて、昨日は包丁など幾つかのご紹介がありましたが、そういう工房で作っている方たちの中から、優れたものを見つけていく。その見つけ出したものをどうやって伝えていくか、実はそこにデザイナーとして大事な視点があります。同じように、金沢のまちを考える場合には、金沢の一般の方たち、ごく普通の金沢の方たちの市民の生活の中に多分本当に素晴らしい魅力がたくさん隠れている、そういうものを見つけていくという作業をもう一度やるべきだということです。その中から実は、良き魅力が生まれていきます。
 「ユニークなものを作るにはポジティブになれ」という意味は、例えば、昨日ちょっとご紹介いただいた中には、景観のコントロールというような行政施策などがあるわけです。今日も市長さんはじめ行政の方がおいでですが、どちらかというと法制度は、あれをやってはいけない、これはやってはいけないというネガティブなものに走りがちです。それはそれで理由があってそうなっているのですが、問題なのはそっちではなくて、よりポジティブに物を評価していって、優れたものをそこから見つけ出していって、それを評価していくということから実は新しい革新が生まれるのであり、ネガティブな後ろ向きな議論からは出てこないという、これも大事なご指摘だったと思います。
 それから、奈良宗久さんは、地元で茶道をずっと営まれているわけですが、金沢というのは、例えば五代綱紀をはじめ、加賀藩でずっと千利休の心を伝えるお茶が定着しているという意味では、本当に全国でもまれに近い姿があります。その良さをやはり後世に伝えるべきだし、もっとそれを評価すべきです。文武両道と言いますが、武ではなくて、「文化にこだわる」という形で金沢のまちをつくってきたというこの流れを変えてはいけないというご指摘です。
 そのときに非常に大事なのは「和敬清寂」です。静寂は、心を穏やかに、相手を敬うことです。和敬清寂の心は実は茶道の中では非常に重要であって、そういう種類のおもてなしというか、まちづくりが金沢のまちのそこここにあるということが実は大事なことです。そして、「一期一会」の中からそれを大切に育てていくということが、実は金沢に求められていることです。
 その後、いろいろな議論がありました。ここに本当にわずかなポイントだけ挙げておきましたが、共感することで魅力を発見していく。先ほども社交力の話がありましたが、外からお見えのお客さまと地元の人たちといろいろな形で共感していく。あるいは、まちにある種の親和性を感じさせるようにしていく。例えば「21世紀美術館」というのは、昨日も柴田さんからこういう評価がされました。旅行者としてやってきた人も21世紀美術館は楽しんでいますが、同時に、あれで何か住民のような感じにさせてくれるし、あるいは住民の方たちもあそこの現代美術の中で実にそれを自分たちのものとして楽しんでいる姿は、本当に世界にもない良い美術館で、そのことの良さにやはりこだわるべきだと。
 ただ、問題なのは、金沢の魅力を何でもかんでも外から来られた方たちに対して見せたり、解説したりすることだけが大事なのではなくて、ある種の敷居の高さが必要であると。これが奥深さになるわけですが、本当の金沢を知るためにはリピーターとなって、何度もここへ足を寄せる。最後は住んでいただくのもいいのかもしれませんが、そういう「敷居の高さがやはり重要だ」ということです。そういう意味での「奥深いまちの魅力」。このまちには非常に奥深い文化であったり、さまざまな魅力があるのだということを、金沢のまちが特に外から来られる方たちに上手に見せる、あるいは、金沢自身の方たちがそれを再発見するということが重要です。
 具体的な一つの方法として、例えば「静けさ」で持っています。今でも、金沢は全国のこの規模のまちの中では非常に静かなのですが、例えばもっとそれにこだわったまちづくりが考えられます。具体的には兼六園のスピーカーの話です。これは私がちょっと例に出したのですが、新幹線で駅に降りた途端から、駅の放送から始めて本当に静かです。気が付いてみたら、実はこれは大切なおもてなしだったのです。それをそうすればそうするほど、逆に近江町市場のにぎやかさ、あるいは片町、香林坊のにぎやかさ、あるいは、さまざまなまちのお祭りも生きてくるわけです。非常に静かなまちの中で、例えばコンサート、あるいは謡のうねりが聞こえる。こんなまちは多分世界でもそう簡単にできるわけはないので、ぜひ金沢はそういうことにこだわっていったらどうかという議論でした。
佐々木
 ありがとうございました。
 それでは、セッションでお話しいただいた先生方、何か補足とか、また、今のまとめを聞いて、こういうことが少し言い足りなかったとかがありましたら、お一言。どなたでも。
柴田
 言い足りなかったわけではないのですが。先ほど21世紀美術館が非常に人気だという話がありましたが、私も金沢の入り口は21世紀美術館だったのです。奥深さも必要だという話で、私はプロダクトデザイナーなので、私のイメージがあるのです。お醤油をつぎ足すときに使う漏斗のように、やはり間口が本当に広くて、奥の方がすごく深いというのが、私がイメージする金沢のビジュアルなのです。それと同じようなプロダクトの製品でよく言われるのは、PCのマッキントッシュで、Macというのはそうだといわれているのです。というのは、本当に子供も使えるし、本格的にデジタル系の仕事をする人たちも使っていくものがマッキントッシュだといわれているのですが、そういうビジュアルを少し金沢にイメージしました。
 私はデザイナーなので、十分奥深い、奥行きのある金沢にプラス何を付け加えるかというと、やはり「デザインの教育」ではないかと思います。21世紀美術館もあるし、先ほどご紹介いただいた新しい取り組みもありますが、もう一つ金沢には金沢美大という素晴らしい大学があるので、土地に根付いたデザインから、金沢は工房で作った3Dのものがカンヌに行ってしまうような所ですから、グローバルなデザインとどちらにも両足を着いたような形で、まずデザインでそういう教育をしていくことで、サッカーで言うところのファームを育てていくような感じで土地が豊かになっていかないといけないと思います。オリンピックが来たころにそういう人たちがデザイナーになったり、何かを考えたり担ったりするときのために、その辺のデザイン教育にもより力を入れていっていただけると、その漏斗の深さがどんどん深くなるのではないかと思ったりしました。

佐々木
 大人の奥深さを子供のときからきちんと教育していこうと。本当に大事なテーマですよね。うなずいておられますが、いかがでしょうか。

奈良
 大人でということでは僕も、子供のときからということもすごく大事だと思っています。この前、金沢大学付属幼稚園でおじちゃんの教室みたいなことを10日くらい前にしたのですが、やはり普段駆けずり回っているのですが、先生がいつもと違って緊張して1番目に座っていると、子供がやはりきちんとしなければいけないと思って、年少の子供でもきちんと座って正座をしているわけです。それで、年長さんがお運びをして、大人がおじぎをしているという光景は、やはり金沢にしかないというか、他であまり体験できないことなのです。小さいときからこういうことを体験しているのを見て、何かほっとしたなとか、おいしかったなとか。お茶は正直苦いとかまずいとか言いますが、お菓子がおいしいなとかいう記憶はすごく大事だということを思いました。今、柴田さんがおっしゃられたそれを思った次第です。
 あと奥深いということで、たまたま今、東京の方で北陸新幹線のCMをしていて、杏さんという女優の方が出ているのですが、金沢のイメージということで隣の外人に「どうして金沢行くの?」と聞かれて、「奥深いから」と言っているCMが流れています。まさに、東京の人のイメージだと、やはり金沢と言うと奥深いというイメージが定着していると思った次第です。
 昔、とある有名なバレリーナの方なのですが、「バレエというのは普通、高貴な方がするようなものなので、もっと目線を下げて分からない人にも教えることは大事ではないですか」とある番組で質問されたのに対し、「いや、それは必要はない。奥深いという目線で見てもらって、そういう文化をその人自身が見つけにいくことも大事ですよ」という話をしていました。まさにそういうことだと思った次第です。
 静かということも大事だというのを昨日話して、やはり「静と動」という話も私がさせていただいたのですが、例えば、21世紀美術館が動、動きがあるということになれば、横にある大拙記念館は今度は静ということで、静と動は常に混在しています。21世紀美術館の中にも、「タレルの間」というジェームズ・タレルという方の作品があって、入ったら本当の空が見えて、自然の音だけが聞こえるという部屋があったり、常にこういうことが同居しています。
 金沢というのは「伝統と創造」ということですが、そのお互いが同居しながら次の世代に伝わっています。お茶でもそうなのですが、「稽古照今」と言いまして、本当は稽古とはいにしえを鑑みながら、その後に『古事記』にある言葉なのですが、「今を照らす」という言葉が続いていきます。ですので、常に同居している、何となく近いようで少し遠いというところが魅力なのかなと思います。昨日の補足を少しさせていただきました。

伊東
 私も一言だけ。昨日は「おもてなしと社交」ということで、私がきちんと考えていなかったことをご質問いただいたりして、少し考えてみたのです。やはり金沢というとお客さまもたくさん迎える都市なので、金沢と金沢以外という観点でおもてなしという言葉や観光というキーワードが出てくるのではないかと思ったのです。先ほど佐々木先生のお話を伺っていても思ったのですが、これから何か金沢対他の都市というよりも、創造都市の一つの大きなプラットフォームというか、ネットワークの中の横つながりがあることの方が、自分と自分以外という発想よりも、自分たちというプラットフォームのつくり方というのが重要になってくる時代なのかと思いました。
 それは具体的にどういうことかというと、例えば観光地に行くというのではなくて、自分とのつながりがある金沢というまちのどこかのお家に、自分のある意味住みかの延長として訪ねていくというような、対面ではなくて、横にいる人との関係のようなものが、柴田さんがおっしゃっていた共感というようなことにつながっていくのではないかと。そういう循環があれば消耗する関係ではなくて、どんどん与えれば与えるだけ戻ってくるというようなつながり方が非常にいろいろなレベルで起きていると思います。
 昨日言い忘れて水野さんに指摘されたのですが、住まいをたくさん持っていくというようなのが私の理想の老後のイメージなのです。つまり、お金がたくさんあって、素敵なホテルというのもぜいたくだけれども、各都市にお友達がいて、そのお友達同士のネットワークでまた自分の家が増えていくという妄想があるのです。それが昨日もお話ししたヤドカリ・ドット・ネットの人たちの多拠点住居です。自分の家は小さいけれども、みんなで回し合うとものすごく大きなお家を持つことになるわけです。そういう感覚が多分金沢あたりから始まりそうだなという印象を持っています。ちょっとコメントめいたことですが。

佐々木 家の話が出たので、セッションAにいきましょう。

セッションA「都心に木造建築を」
報告者:水野 一郎 氏(金沢工業大学 教授)

水野
 セッションAの報告をします。
 今の家の話もそうですが、私はこれまで金沢というものの自己確認を何回もしてきました。金沢には、江戸時代の町家も商家もまだたくさん残っていて、武家屋敷などもあります。あるいは、明治のころの明治維新政府がやってきたいろいろな対応もあります。それから、大正時代に資本家がたくさん出てきて企業活動を始めるときにいろいろ生まれる建築群、あるいは町家群、商家群があります。もちろん昭和の戦前の建物もたくさんあるという、いろいろな時代のストックがあるのが金沢というまちです。その中には、ただ建築がある、まちなみがあるというのではなくて、そこから明治のときの営み、美意識、価値観のようなものも見えます。昭和の戦前の価値観も見えます。いろいろな時代の価値観がストックされています。ですので、ハードウエアだけではなくて、その中にはソフトウエア、生活がたくさん入り込んでいるわけですが、そういう環境に対して金沢は、日本で初めて「伝統環境保存条例」というのを作ってきました。今もそれが「景観条例」になって、金沢の都心域はほとんどが伝統的環境保存地域に指定されています。すなわち、ある意味で言うと木造の都市であろうかと思います。
 ところが、日本の都市政策としては、特に戦後、戦災で焼け野原になった非常にひどい経験から、何とかして焼けない都市を造ろうというのが、建築基準法なり、都市計画法なり、いろいろな法律で定めてきたことです。都市政策もそうです。金沢の都心もそれに倣って不燃化をするのですが、その不燃化の事業の内容は近代化という事業です。近代化事業というのは、実は不燃化事業だったのです。ですので、例えば自分の小学校が木造から鉄筋コンクリートになると、うちの学校は近代化したという言い方をしました。「おまえのところの学校はまだ木造か」なんて言って、「近代化してないんだな」なんていう話がありました。白山麓の村で役場がどんどんコンクリートに変えたときもそんな話がありました。すなわち、不燃化することは近代化だったというのがあったわけです。
 それからほぼ50〜60年とたってきますと、日本の建築とかまちなみの文化は木造ではないのかということにみんな気が付き始めて、木造に対する研究が進んでまいりました。あるいは、実験も進んでまいりました。いわゆる木造の復権と言ってもいいかと思います。われわれの専門の分野でも、木造、木造というセミナーからいろいろ開かれています。実験のオープンハウスもたくさんあります。
 今日、日本政策投資銀行の古田北陸支店長から「木造都市」という政策の書類を頂いたのですが、そのようにして木造というものがもう一回復権されている状況にあります。昨年の創造都市会議で木造特区というのを少し議論したのですが、今回はもう少しはっきりと、木造建築の都市を推進するのはどうかという具体的なテーマに入ってみようと思い、そのテーマを裏付けるために専門家の方をお呼びしました。木造が地震に強いのかということで耐震構造の後藤先生。新しい集成材で5階建ての集合住宅を造ってしまったという内海さん。それから、都市政策、建築政策のご専門で、元国交省にお勤めでした都市大学の明石先生にその法律的な、制度的なバックアップについてお話しいただきました。
 そして、その三方の発表をもとに建築家の鄭さんの方からコメントを頂きました。その中で少し出てきた傾向について概略をお話ししますと、耐震性については伝統的な工法の木造建築の耐震研究が進んでおり、かなりの地震に耐えるということがいろいろ証明されています。そういうことに対して金沢では耐震診断マニュアルを持っていて、それによって改築のたびに耐震改修をしていくとずっともちますよということがあります。金沢では社寺の耐震診断マニュアルがまだ実施されていないのですが、もしその二つが実施されると日本で最も広範なマニュアルを持った都市になるということです。
 それから、新築物件につきましては、耐震壁の量が建築の設計のときの基準にもうなっていまして、確認申請上必要になっています。ですので、木造の耐震性はもう保証されているわけです。それから、新たな集成材につきましては、今、先端的に各大学なり各建設会社なり、各材木業者がいろいろ実験をしています。その先端的なものがかなりあるので、それを使えば、もう8階建て、9階建てのオフィスビルもホテルも建築可能ですし、学校も可能です。
 能登沖地震のときに輪島の辺りでいろいろ建物が壊れたのですが、そのときに、実は屋根瓦があるから既存の木造建築が壊れたのだという説が流れて、プレハブ業者がそれをもとに売り込みに入りました。それで、われわれは不動産屋などと一緒に輪島に入って、従来どおりの瓦を載せた家でも十分耐震性があるということを言って回ったところ、輪島の震災の復興住宅が瓦の在来木造工法でできました。実は、東北の震災のときにも、津波でやられたときの復興住宅のほとんどがそういう在来木造で復興しています。プレハブが入ろうとしても、非常にやられた所の山林をそのまま使って、地元の山材で地元の大工で復興するということです。要するに復興資金が入ったものが、コンクリート、プレハブだと全部どこかへ行ってしまうわけですが、それが地域内で循環するという作業を起こしたわけです。そういう意味も含めて、木造の価値、在来の価値の維持が耐震性が保証されてくることで可能になったということです。
 もう一つ、木造の都心で非常に大きな問題は延焼性です。火災になってずっと燃えてしまう。明石先生のシミュレーションがありましたが、なぜ木造の都市を否定したかというと、やはり延焼が大きいということです。それに対して、私の方からひがし茶屋街の写真と図面を見せました。それは200年以上そのまま継続しているという木造密集地です。それは地域のコミュニティーに延焼を防ぐ力があれば保たれるという証明です。そういうことも含めて、延焼に対して技術的にさまざまな政策、法律、基準が今できています。例えば金沢の町家でよくある袖壁です。これは隣の家に延焼を防ぐ仕掛けです。それから、今新しいのでは、隣の家に近いガラス窓が破れて火が入るわけですが、それを防ぐための網入りガラスの設置が法律上決まっています。そういう意味で、さまざまな延焼に対する技術も増えてきています。
 そういうことを含めて、ひがし茶屋街の再建のときには、実は延焼を防ぐための政策があまりはっきりしていなかったので、準防火地域というのを外しました。主計町のときは、準防火地域をそのままにしていい、要するにそれでも十分延焼を防げますよということを証明したわけです。ですので、そういう意味で、防災コミュニティーも含めて、都心に木造という可能性がいろいろ広がってきたということが言えるかと思います。
 それで、今回、木造建築都市の推進計画を提案したいと思っています。これについては、実質的にはどんな方法ですればいいか、推進方策をどうしたらいいか、あるいは、特区でいくのか、地区計画でいくのか、あるいは条例改正でいくのかを含めて議論しないといけないことはあります。それから、何を緩和してもらいたいのかなど、そういう研究がまだ必要かと思います。そういう意味では非常に大きなことですが、近未来の金沢の力のために、日本では珍しい最初の木造建築の都市を考えてみたらどうでしょうか。それは多分創造都市ネットワークの中でも特異な個性を持ち得るだろうし、先ほどから出ている奥深さとかクラフトイズムなどの木の文化と絡んで、さまざまな価値観、美意識もそこに埋め込まれていくのではないかと思って、幅広い成果が期待できると思っています。以上です。

佐々木 それでは、セッションのパネリストの先生方から一言ずつお願いします。

後藤
 簡単に3点だけです。一つは、木造の耐震、地震に備えるということですが、地震に備える考え方は、耐震、免震、制震という考え方があります。新しい建物はどれかに特化して設計することが多いのですが、伝統的な木造はこの三つの要素が全部入って地震に耐えるという特性がありますので、耐震だけで評価するとか、免震だけで評価するというわけではないので、総合的に評価すると耐震性がすごくありますよということをまず補足します。これは、木を組む長ほぞとかいう伝統的な技術の下でそういうことが起こっているということを1点補足します。
 2点目はマニュアルですが、金沢というのは実は町家、商家、農家、それから武家屋敷、社寺仏閣と木造の種類で5種類の建物がありまして、それぞれ特性が変わるのですが、町家のマニュアルがあって、社寺仏閣のマニュアルがあればこれを網羅できます。ですので、ぜひ社寺仏閣のマニュアルを作っていただきたいのです。町家のマニュアルは京都が最初です。次が金沢です。今年4月に高山が作りました。ですので、今、高山が最新の町家のマニュアルになっているので、ぜひ金沢は更新してほしいということと、他に先駆けてぜひ社寺仏閣のマニュアルを日本で最初に作ってほしいというのが二つ目です。
 それから、木造の場合、もう一つは維持管理です。どうしてもメンテナンスフリーではないのです。ですので、家を買ってそのままずっと使い続けるというわけではなくて、手を入れていきます。法隆寺は1200年たってもきちんと手を入れて修理して、1200年保っているのです。ですので、家もぜひ愛情を持って手を入れて、必ずメンテナンスをすることによって耐震性をずっと維持します。そのメンテナンスが必ず要るということをぜひ頭に入れてほしいという、この3点だけ補足させていただきます。

内海
 私の方は、比較的新しい木造の5階建てとか、そういう多層になる木造などのお話を昨日させていただいたわけですが、実際、木造建築によって金沢の中心部をつくっていくということに関して、例えば私たちのNPOの活動で、これまで展覧会をいろいろやってきまして、木造でつくるまちなみがこのようになるのではないかというのを実際に模型などで一般の方に見ていただくということを、東京や北海道、九州、名古屋、静岡という都市で開催してきました。やはりそこには専門の方も大勢見に来ていただくのですが、一般の方に対して実際に部分的には実物大のものを造って見ていただくと、これが本当に実現するのだなというのを強く感じてもらえる機会になりました。
 実際、まちなみというのは、個人のすごく知識がある人がつくっていくわけではなくて、ごく普通の人たちがそこに参加して出来上がっていくものですので、広くいろいろな人に見ていただくような機会がもしつくれたらいいなと思っています。水野先生がおっしゃったように、金沢は木造の時代とともに変遷していく姿が残ってきている都市で、そこで新しいものがさらに重なっていくということは、非常にユニークな都市の魅力をつくることにつながると思います。展覧会の風景を写真で用意してきたので、もし可能であれば見ていただけるといいかと思います。
 そういう形で、今、木造建築を都市にという話の背景には、もう一つ日本の森林の状況があります。日本の森林は戦後の政策で、戦中に荒廃した森林を復活させるためにずっと切らずに、建物には使わないということで十分に今育ってきて、ちょうど伐期を迎えて、十分な木材量を出せるように山の方が整ってきています。ここで、都市の側できちんと使うような仕組みをつくることが、森林資源を多く抱えたそれぞれの地方の環境を整えていきます。地方で造る森林資源とそれを消費する都市ということで、地産都消という言葉をたまに使っているのですが、そういうことを金沢のような地方のあるまとまった地域の中で実現することが可能になってくるのではないかと思っています。
(以下、スライド併用)
 これが今年の9月に表参道の方で開催した展覧会の風景です。

水野 東京オリンピックの会場ですね。

内海
 はい、そうです。有明地区というのが主に選手の競技施設が建つ所です。下の方が模型になっていて、正面にあるのはオリンピックが開催された後に、その解体した木材を使ってさらに都市をつくっていくということを提案しています。それが壁面の展示になっています。

 こんな感じです。もう一つの左側に晴海というのがあるのですが、こちらが選手村やプレスセンターなどが造られる地域で、そちらの方は50分の1という割と大きめなスケールの模型です。
 これは木造で観客の仮設のスタンドを造るというのを、会場内で実物大で製作したものです。こういう実物のものを造って、実際にここに100人以上の人が座ってみたのですが、そうやって体感していただくことで、普通こういう仮設のものは今、鉄で造るのが一般的なのですが、木でも十分造れますし、これらをまた大会が終わった後に違う地域に持っていって再利用することも可能になるというお話をさせていただいたりしました。
 これが選手村を想定している建物の模型です。木質化された外壁やその棟をつなぐブリッジなども木で造っていくことができるということで、そういうものを展示しています。これが晴海地区、選手村側の全体の風景です。
 こんな形で少し複雑な床の構成になっているのですが、これは湾岸地域で1階部分を少し持ち上げることで高潮など被害に対応しつつ、その下の空間も日常的に使っていくということを考えました。これが競技施設の模型です。手前がバレーボールのアリーナ、奥の方が体操の競技場になっています。
 これは、選手村だったものを、将来ここに今度大勢の人が住むようになると学校施設なども必要になってくるので、学校にコンバージョンしたらこのようになるのではないかという施設です。あるいは、自転車による交通網を提案しました。こういうものを実際に見ていただくことで、10日間で大体1万4000人くらいの方にご来場いただいたのですが、新聞などでもいろいろ取り上げられて、大きい反響を得ました。
 これは東京を舞台にして行ったわけですが、こういうことを地方で巡回しているときには、それぞれの地方の都市の中である地域を決めて、そこで地元の若手の建築家の方などに参加していただきながらある提案を行ったりしています。それをすることで、非常に身近に木造の魅力を感じていただくことができますので、そういう機会がもし持てればと思いました。

水野
 少し追加しますと、石川県が年間に使う木材の量よりも、石川県の中で育っている杉の木の量の方が多いのです。私たち、昔、子供のときから緑の羽根を日本全国で売っていますが、あの緑の羽根の基金の成果がぼちぼち成木として使えるような状態になっているのですが、切り出す力などがないというのが大きな課題です。

後藤
 金沢が木を使ってまちをつくるというイメージは皆さん何となくいいなと思っていらっしゃると思います。あと、専門的に閉じた領域においては技術的にもそういうことが可能になったというのも今回の提案でお分かりになっていると思います。その辺を専門的なところで閉じて終わるのではなくて、誰もが理(ことわり)のある開発と言いますか、「やっぱり金沢らしいね」という共感するような進め方やイメージを共有できるような仕組みをつくりながら開発をしていけば、非常に先駆的なことになるのではないかと思っています。

セッションB「トップクラスの創造都市」
報告者:佐々木 雅幸 氏(同志社大学経済学研究科教授/文化庁文化芸術制遣都市振興室)

佐々木
 はい、ありがとうございました。
 それでは、第3セッションの方について簡単に振り返ってみます。
 昨日もお話ししましたが、山野市長が、2011年にソウルでネットワークの会議が行われたところで市長サミットが併せて行われたのですが、そこで2015年の会議を金沢でやるということを早々と打ち出しました。2015年については幸い、競争相手が出ませんでした。それで、2013年のボローニャの大会で決まりました。
 この会議に先立って、文化庁でもいろいろなアドバイスをしよう、あるいは支援をしようということで考えています。昨日ご紹介した近藤誠一前長官も、西洋基準の芸術文化に対して、日本人の持つ自然観や美意識を深みを持って世界に発信するという機会にしてほしいと考えておられました。特に工芸や人間国宝というのは、制度的には日本の方が世界に先駆けて進んでいるのです。そういうことでフランスなどの協力を得ながら深めていこうということです。
 実は、日仏自治体交流会議は、前山出市長とナンシーの市長が始められて、今年も高松で実施しました。徐々にこの輪が広がっているので山野市長ももちろん参加されていますが、やはり非常にこの関係が重要になってきていると思います。
 そして、青柳文化庁長官は、先ほどから皆さんから出ていますように、2020年のオリンピックをスポーツだけにしないで、文化と教育の融合した大祭典にしていって、この事業を通じて日本を文化大国にしたいと。これは下村文科大臣も同じです。それで、2020年に金沢で例えば世界工芸サミットをしたらどうかということも出ています。創造都市ネットワークを、文化庁としてはアジアにも展開していくことを考えているということです。その点で参考になるのは、これは吉本さんの方から詳しくお話しいただいたように、ロンドンオリンピック以降、非常にくっきりと文化プログラムの重要性が浮かび上がってきていて、ロンドンだけではなくて、イギリス全土で18万イベントが行われてきました。この規模を日本はできるかどうか分かりませんが、それだけの準備をしていこうということになっています。文化オリンピアードは2016年がスタートなので、準備をするにはあとわずかしかありません。そこで金沢は何をしていくのだという話になってくると思います。
 それから、今年から東アジア文化都市という事業が始まり、中国と韓国と日本の3国の間で一つの都市を選んだ文化交流が始まりました。こちらの方は、来年は新潟、再来年は奈良、その次が京都と、ここまで決まっています。そうすると、2018、2019、2020、このあたりについて金沢市はどうしていくのか。つまり、トップクラスの創造都市としてはこういう事業についてどのように準備をして、確実に選ばれていくということも必要になってくるだろうと思います。
 まとめますと、このような形で、現在、創造都市ネットワークジャパン、日本のネットワークの幹事都市、代表は金沢市がしているわけですので、この利点を生かして積極的に、先ほど伊東さんも言っていましたが、一つのプラットフォームとして活用していくという戦略を持っていかなければいけないのではないかという議論が出たと思います。
 では、吉本さん、太下さん、補足を。

吉本
 3番目のセッションに限ることではないのですが、昨日から参加していて感じていることを3点ばかりコメントさせていただきたいと思います。
 1点目は神戸大学の藤野先生がよくおっしゃっていることですが、「ブレイン・ゲイン」と「ブレイン・ドレイン」という考え方です。ブレインは頭脳で、それをゲインするか、流出してしまうかということです。私が昨日の話でインパクトがあったのは、上町さんと柳井さんの話なのですが、その例がまさしく「ブレイン・ゲイン」の典型だろうなという気がしました。
 昨日、夜においしいカニとしゃぶしゃぶとお酒を頂戴しながら、ちょうどお隣がお二人だったものですのでいろいろお話を伺ったら、確か上町さんは岐阜のご出身、そして柳井さんが確か島根とおっしゃっていたと思うのですが、お二人は金沢美術工芸大学に来るときに金沢に来たと。ここでブレインが1回ゲインしているわけです。その後、ニコンとビクターということで、ドレインして東京に行ってしまったわけです。しかし、また金沢に戻ってきているというのが、最終的にブレイン・ゲインになっていて、しかもそのときに東京でお二人がなさっていた仕事の経験とかノウハウとかいろいろなものを持ち込んで帰ってこられているということで、単なるブレインではなくて、すごく洗練された経験を積まれたブレインが戻ってきています。例えばニコンのハイエンドのレンズはナノ単位で仕上げるそうなのですが、それは最後手仕事らしいのです。そういうことと金沢の工芸は何かすごく通じるものがあるような気がします。それが達成されているというのはすごいなと思います。
 確か、金沢の創造都市会議は2009年に「クラフトイズム宣言」をされていると思うのですが、その理念というのが、「文化とビジネスをつなぐ創造の担い手を育成する、世界を引きつける」ということだったと思います。ですので、先ほどカンヌの報告がありましたが、文化とビジネスをつないであのお皿を作った。そして、創造の担い手は卯辰山工房だったり、美術工芸大学だったりすると思うのですが、お二人はそこのご出身で、最後にカンヌで世界を引きつけていると、こんなシナリオどおりに運んでいいのだろうかと思うくらいです。それがとにかく私は昨日から一番印象に残っていることです。
 最近、都市間競争というのがよく言われる言葉なのですが、これからははっきり言って創造都市間競争というか、都市の創造力の競争になっていくと思います。そういう意味でもこのブレイン・ゲインをどうやって獲得していくかです。しかし、新幹線が来ると、みんな来る方に期待するのですが、そうではなくて、実は流出する方が多いという現状がすごくたくさんあります。しかし、もう既に金沢の特にブレイン・ゲインの方で実績があるので、それをさらに発展させていただけたらと思います。
 二つ目は、そういうことが実現している環境というか、要因は何だろうということです。もちろんいろいろなことがあると思いますが、私は21世紀美術館がすごく大きいような気がします。先ほど柴田さんもおっしゃっていましたが、21世紀美術館があることによって、新しいものを受け入れるとか、クリエイティブなものを受け入れるとか、今までの価値観と違うものを受け入れるという空気感のようなものが金沢にはできたのではないかと思うのです。実際、今まで来なかった人も来るようになっていますし、私も21世紀美術館がなかったら、金沢に何回も来ていますが、多分1回観光で来ておしまいだったかもしれません。21世紀美術館ができたから、昨日のカンヌのああいうお皿ができたという、その間の相関関係は非常に証明しにくいのですが、両者の間には必ず関係があるのではないかと私は思っています。そこも重要なポイントかと思いました。
 3点目は、これも昨日からこの金沢学会に参加させていただいて強く感じることなのですが、今日は市長もお見えなのですが、この金沢の創造都市というのは、やはり経済同友会のメンバーの方々が中心になって動かれていてずっとやられているということで、それがすごくサステイナブルな気がします。これは少し申し上げにくいのですが、私は実は横浜市の創造都市政策も10年以上お手伝いしています。市長がご存じのように中田さんから林さんに替わって、林市長も創造都市を推進するぞということでネットワークに入りすごく前向きに推進していただいています。もちろん行政の理解と行政の推進力がないと創造都市というのは絶対動かないと思うのですが、金沢の場合は経済同友会というところが中心になってこれを推進されているということが、横浜をお手伝いしている立場からすると、すごくうらやましいというか、何か強いなということを感じました。以上、3点です。

太下
 2点お話をしたいと思います。一つは、今ほどの佐々木先生の総括でもありましたし、昨日、吉本さんからもご案内があったとおり、2016年から2020年にかけて文化プログラムがオリンピックの中で行われていきます。イギリスの場合は、それがイギリス全土で18万件行われました。佐々木先生はそんなにできるかなとおっしゃいましたが、人口規模や経済規模を考えると日本はもっとあった方が僕はいいと思います。
 これがなぜイギリスでできたのかというと、実はこの文化プログラムの執行を支えるアーツカウンシルという専門的な組織があったからできたわけです。このアーツカウンシルというのは、最盛期には600人ぐらいの人員がいて、今、非常に財政削減される中でも400人がいるという大企業です。ちなみに文化庁も今、日本版アーツカウンシルというものをつくろうとしています。しかし、これは、残念ながら非常勤の方だけで10名くらいしかいません。恐らくこのチャレンジを幾ら積み重ねていっても、この18万件以上の文化プログラムを霞が関でマネジメントするのは現実的ではないと思います。
 では、どうすればいいのかというと、私は、地域ごとにアーツカウンシルができてくるというのが日本の在り方ではないかと思っています。そういうことを考えると、この金沢に関しては、金沢市とまさにこの経済同友会が中核となって、単に金沢のことだけを考えるアーツカウンシルではなくて、北陸エリア全体を振興していくようなアーツカウンシルを立ち上げられてはどうかと思います。もちろん今までのこの金沢における創造都市の取り組みというのは、さまざまな主体が市をはじめ民間でもGEUDAのようなところも含めて、それぞれに多様な活動をしているという魅力があったと思いますが、そういう活動の一方でどこか強力な中核になる組織をそろそろ立ち上げてもいいのではないかと思います。これが全国で文化プログラムをやる一つのモデルになるのではないか、金沢モデルのようなものを全国に逆に広めていってもいいのではないかというのが1点目です。金沢版アーツカウンシルをつくるということです。
 2点目が、新幹線に関してです。3.11東日本大震災の話からしますと、あのことが起こったことによって、実は日本は必ずしも一つのネットワークではないということがあらわになったと思います。具体的に言うと、分かりやすいのは電力です。東日本と西日本は周波数が違います。そして、もう一つ明らかに分断されているものにネットワークがあります。それは新幹線です。東京駅でほんのわずか数メートル分断されていることによって、北陸、上越、東北のネットワークと東海道、山陽、九州のネットワークが分断されています。これは東京駅でつなげてしまえばいいのではないかと私は思っています。
 例えば金沢視点で見るとどういうことが起こるかというと、新大阪駅発金沢行きの新幹線が新大阪駅に並ぶことになります。関西におけるイメージアップやブランド力の向上に寄与すると思います。ちなみに、東京−金沢は最速で2時間28分ですが、東京−新大阪も同じくらいです。直通で5時間です。直通で乗る人はそんなに増えないかもしれません。今の東京−広島と同じくらいです。ちなみに今、東京−広島は大体新幹線と飛行機半々くらいの利用率だと思います。そこが大事なポイントではなくて、そのように直通した場合どういうことが起こるかというと、金沢と横浜がダイレクトにつながります。同様に、金沢と東海エリア、静岡や豊橋がダイレクトにつながります。そうすると、従来になかった金沢と横浜、金沢と東海エリアとの新たな経済交流、産業交流、または金沢の大学への進学、観光交流、いろいろな新しい流れがきっと生まれるはずです。
 そもそもご案内のとおり、東海道新幹線というのは1960年東京オリンピックのレガシーです。2020年に向けてまた新たなレガシーをわれわれはつくっていかなければいけないというときに、さすがに2度目のオリンピックで、巨大なインフラを造るということは選択肢に入りません。むしろ日本がやるべきなのは、かつて造ったインフラをもっとスマートに、もっとクリエイティブに使いこなしていくという知恵ではないかと思います。もし、この新幹線ネットワークをつないで、そういう新しい経済交流、観光交流を生み出すことができれば、新たなレガシーの象徴になるのではないかと思っています。これが2点目です。これは別に金沢市がやらなければいけないことではないですが。
 あと1点だけ補足をしますと、早速、昨日の金沢学会の記事が北國新聞に載っていました。私が提案した「プラストーキョー」ということも紹介していただいているのですが、少し紹介のされ方が違うので訂正しておきたいのです。この記事の中では、「2020年の東京五輪では、開催地の東京に加え、地方都市も併せてめぐるプラストーキョーの動きが出てくる」と書かれているのですが、私はそういうことを申し上げたつもりはないです。むしろ逆に、金沢であれば小松空港に海外から外国人の方にダイレクトに入ってもらって、そして金沢にステイしてもらって、オリンピックの試合を見たいのであれば新幹線で通って見てもらえばいいと思うのです。ですから、あくまで金沢が主役で、東京は脇役なのです。新幹線ができるということで恐らく金沢の方々は東京の方にすごく視線を向けていると思うのですが、私は視線の向け方が違うと思います。東京の方に顔を向けるのではなくて、海外に顔を向けて、いかにこの金沢がもっと輝くかを考えるべきではないかと思います。これはぜひ補足させていただきたいと思いました。以上です。

佐々木 ずっと聞いていただきましたが、この辺で市長からお話をください。

山野
 いろいろと教えていただいて、ありがとうございます。まず、昨日出席できなかったのをおわび申し上げます。昨日、私は出席できませんでしたが、いろいろと資料も頂き、今日の新聞記事を拝見したり、また、今、皆さんのいろいろなご報告をお聞きして、私がまとめたりする立場では全くないのですが、皆さんがお話しいただいたキーワードをお借りしながら、今の金沢市の取り組みのようなことをお話しできればと思っています。
 まず、セッション@で「大人の金沢らしさ」については、これは伊東さんがすごく分かりやすく、「おもてなしより社交力」を、「観光より滞在」を、「貨幣より時間を」、「成長より成熟を」とお話ししていただきました。僕はこの中で特に「観光より滞在を」という言葉に感銘を受けました。もう少し突っ込んで言えば、「観光より定住」を、もう少し突っ込んで言えば、「観光より生活を」まで、まちづくりにおいては踏み込んでもいいのかな、それが大切なのかなと思っています。
 「大人の金沢らしさ」ということですから、実はこれは水野一郎先生のお力もお借りして、金沢らしい夜間景観をきちんと整理をしていこうと。夜の文化、ナイトカルチャーを充実させるためにも夜間景観が大切だと。金沢というまちはギンギラギンのライトアップをするべきではないと。イベントとしてはそんなイベントがあってもいいかもしれませんが、やはり日常的、恒常的には金沢らしい夜間景観があるだろう、それにこだわっていくべきだということで、水野先生はじめ何人かの先生方にいろいろとまとめていただきました。
 やはり大人の落ち着いた、しっとりとした幽玄なものが大切だろうということで、いろいろと。これは公の建物だけではなくて、民の場所もお借りをすることになりますので、長町の武家屋敷界隈について、もし行ったことがなければ今日の夜にでも足を運んでいただければと思いますが、当然地元の皆さんと何度も打ち合わせをしてご理解を頂き、先月19日から10日間、照明の実験をしました。いわゆる街路灯は大体寒色系の街路灯が多いのですが、いわゆる暖色系のものに替えて、間接照明などを入れていきながら取り組みをさせていただきました。地元の皆さんや当日歩いていただいた方からは大変高い評価を得ていると思っています。一部外したところもありますが、まずは良い評価を頂きましたので、金沢らしい大人の夜間景観を一つ創出できたのではないかと思っています。
 これも観光客の方が見ていただいて、金沢らしいと思ってもらうことも大切ですが、今ほど申し上げたように、住んでいる方たちと何度も打ち合わせをしました。住んでいる方たちが、やはり金沢らしいものにしてほしい、していきたいという思いの中から打ち合わせをして、実験をして、生活されている方たちに、これはいい、これはわれわれのまちらしいとご理解を頂いて取り組ませていただきました。今後は、もちろん民の建物が多くなってきますので、相談をしながら進めていくことが必要だと思いますし、奈良先生や大内先生にもキーワードも幾つか出していただきました。それが静けさや陰影の付いたまちにつながっていくのではないかと思っています。
 セッションAの方ですが、木造建築について水野先生からいろいろご提案も頂きました。後藤先生から技術的なご助言も頂きました。水野先生からもありましたように、いろいろと研究からしていくことが必要ではないかというご助言も頂きました。これまでも去年の3月に「金澤町家条例」を作って、情報を一元化できるような町家情報館を作ったり、いろいろな相談があったら丁寧に相談に対応できる、応援メニューも充実してきているところではありますが、まちなかで特区という表現はともかくとして、こういうことをしていくためにも、建築基準法や消防法というハードルもありますので、その規制緩和が必要であるということは理解をしているところです。まず、どのようなことが可能かをしっかりと研究をさせていただくところから進めていきたいと思っています。
 後藤先生からは、町家のマニュアルは既にあるけれども、社寺仏閣のマニュアルうんぬんというご提案もありました。金沢市は卯辰山麓寺院群や寺町寺院群が伝統的建造物群保存地区として認められていることもありますので、まさに後藤先生のご提案いただいたことは、その重伝建をこれから大切に守っていくためにも、ぜひ取り組んでいきたいベクトルでもありますので、併せて研究をさせていただければと思っています。
 セッションBは「トップクラスの創造都市」です。実は、これも10月に横浜で佐々木先生、太下先生もいらっしゃいまして、私も金沢市、CCNJ(創造都市ネットワーク日本)の代表をさせていただいていますので、いろいろなご報告もさせていただきました。その中で、文化庁としては石川と富山で世界工芸サミットに取り組んでいきたいというご提案を既に長官から頂いているところです。そこは金沢だけではなくて石川県、長官から富山県というお言葉も頂いていますので、富山県ともしっかりと連携を取りながら具体的な形で取り組んでいければと思っています。
 金沢の魅力や個性、強みはいろいろあると思います。全てを打っていくというのも大事ですが、やはり強みを絞った形で発信をしていくことも大切だと思っています。その一つが工芸、クラフトでもあると思いますし、その工芸、クラフトに深み、厚みを与えてくれるのが、先ほどのカンヌでもあったようなまさに器も含めた食文化で、これは新しいことに挑戦するという意味の食文化でもあります。そのクラフトと食文化をしっかりと発信していくためにも、10月に「銀座の金沢」を開設させていただきました。ぜひそこからも金沢の魅力を発信していきたいと思っています。
 最後に、太下先生がおっしゃっていただいた「プラストーキョー」は、僕は横浜の最後の締めのあいさつで聞きましたが、本当に太下先生の「プラストーキョー」という話は目からうろこが落ちる発想だったと思います。あのときはもっと頑固なこと言っていましたよね。オリンピックの年にそれぞれの都市に来て、オリンピックはテレビで見てもらえばいいのだと。日本に来て、金沢へ来て、あのときは金沢だけではなく、いろいろな都市が来ていましたから、それぞれの都市を堪能していただいて、ついでにオリンピック見てもらえればいいし、場合によってはテレビで見てもらって日本を感じてもらうという、それくらい都市の個性に磨きをかけていくべきだというご提案だったと思いますし、大切だと思っています。
 創造都市ネットワーク、CCNJもそうですが、ネットワークが強固になれば強固になるほど都市の個性、魅力にこだわっていかないと、全く意味がないと思っています。同じ都市になってしまったら、一つに行けば十分になってしまいますので、ネットワークが強固になれば強固になるほど、魅力、個性にこだわったまちづくりをしていかなければいけないということを、10月のあのときに、私もそうですが、市長さん、町長さん、皆さん同じ思いで帰られたと思います。今日もあらためてその思いを強くいたしました。
 少し長くなりましたが、私の方からは以上です。

米沢
 せっかく市長がいらっしゃるのでお聞きしたいことがあります。今までこの創造都市会議と金沢学会は、いろいろな提言を受けてワークショップで実験をして、行政に取り上げていただいたり、自分たちでやったりということでいろいろとやってきましたが、新幹線前にやりたいと思っていた積み残しの課題が幾つかあります。
 一つは、福光さんが開会のときに言いましたが、世界にネットワークを持つ外資系のホテル、そして、富裕層は海外からプライベートでジェットでいらっしゃるのですが、残念ながら県内には着陸する空港がないということです。また、運営ソフトは随分高まったのですが、そろそろ物理的に2000人が入るようなコンベンションセンターがどうしてもまちなかに必要だろうということです。あと、今の審議会ではLRTの話が出ていますが、そういうことではなくて、オリンピックまでにもう少し二次交通のことを考えなければいけません。先日、輪島がゴルフのカートに番号とウインカーを付けてまちなかを走り出しましたが、そういうのも含めて今のフラットバスをもう少し拡充するのか、また新たな二次交通を考えるのかという、その辺の問題です。
 もう一つは、21ラボです。これは、ラボといっても、ものづくり・まちづくり研究所というようなものですが、その中で基本的には一つGEUDAが出てまいりましたので、これが一つの実験中と考えてもいいと思います。今の市長の頭の中には、先日からのご答弁を聞いても外資系のホテルという話とコンベンションというのが少し頭の中の構想にあるのではないかということで、その辺を少しご質問させてもらってもいいでしょうか。

山野
 先日、選挙がありまして、選挙公約の中でも外資系ホテルやコンベンションや二次交通というものを具体的な課題として挙げさせていただきました。実は、今年の3月に議会の皆さんに、向こう10年間金沢市が取り組んでいくべき課題として、細かいものもあれば大きなベクトルだけのものもありましたが、その中でも実は外資系ホテルというものを既に挙げています。これもいろいろと勉強をしている中で、外資系ホテルのネットワークを活用することによって海外からの富裕層を呼び込むことができます。また、そういう方たちが金沢に来てお買い物をしてお泊まりになるときは、残念ながら京都や大阪に行ってしまうというお話も具体的にお聞きもしているところですので、そこはぜひ進めていければと思っています。
 既に新聞記事に載ったり、記者会見で申し上げていることですが、実は既に問い合わせのようなものもあります。また、担当部署の方からの幾つかアンケートにお答えいただきました。今、そのアンケートを集計しているところです。その中から意欲のあるところに対して、さらにこれからきちんと打ち合わせをしていかなければいけないと思っています。
 郊外では意味がないとは言いませんが、やはりできるだけ駅からまちなかに近い部分という思いです。これはコンベンションホールもそうですが、その思いで鋭意、机の上で、市役所の中で議論をするところから、外の方たちと今、議論を進めていかなければいけないという段階に入っています。
 コンベンションホールについても、実はその外資系ホテルのアンケートの段階で一緒にお聞きをしたりもしていますが、ここは少し課題があるかなと思っています。また、民間の皆さんのお力、ご助言も頂ければと思っています。
 二次交通ですが、これは既に議会でも申し上げていますからここでも申し上げてもいいと思いますが、私は市長になる前に議員をしていて、いろいろと議論もしてきました。議論は相当なされてきているとも思っています。来年度からは具体的な交通実験に入れればという思いでいます。交通道路管理者や警察や交通事業者や沿線にお住いの方たちにこれから丁寧な話し合いをしていく中で、その具体的な実験に取り掛かることになると思います。当然実験をするには仮説を持った上で実験をしていきますので、今、米沢さんにおっしゃっていただいたように、LRTにこだわるという意味ではなくて、二次交通の充実のためにもそういう方向で進めたいと思っています。実験をすることによって恐らく相当ハレーションが起きるのではないかと思います。そのハレーションをもとにしてまた課題を対話をしていきながら進んでいくという形にしたいと思っています。
 21ラボのことについては、今、具体的に場所とまではまだいきませんが、われわれ内部の表現としては、価値創造拠点という表現で議論もしています。これは議会の方でもご提案もしながら進めているところでもあります。そのままというわけではありませんが、恐らくはそういうベクトルで取り組んでいると思われる都市が既に幾つかありますので、その関係者を呼んで話を聞いたり、視察に行って具体的に話を聞きながら今は進めていきたいと思っています。
 プライベートジェットは場所からいうと芸術村辺りがいいのかなと思ったりはしますが、大変大切なテーマだということはよく分かっていますが、まだ役所の中でも議論をしているというわけではありません。しかし、私も副市長はじめ職員の皆さんも問題意識を持っていることは間違いありません。まだ、具体的な議論を進めている段階ではありませんので、またこれもヒントやご助言を頂ければと思っています。雑ぱくな答えになりましたが。

米沢
 ありがとうございました。こちらでワークショップをしなくても、市の方でほとんどやられているということなので、少し整理整頓ができるかなと思います。プライベートジェットについては、実は例がありまして、ハイアットのオーナーが21世紀美術館にいらっしゃったのですが、着陸する飛行場がなくて大騒ぎしたのです。富山空港に着陸していただいて、今度は聞いたことないホテルばかりで嫌だとおっしゃって、浅田屋へ泊まっていただいたということがあるものですから、やはり外国のお客さまで普段泊まり慣れている聞いたことのあるホテルをどうしても必要となさるので、これも2020年までには最低必要だろうなという気はしています。以上です。

福光
 何か地域のやりとりになって失礼なのですが、要するに、その2020年というのが大変大きなテーマであるということが出てきているのです。太下さん、吉本さんにいろいろ教えていただいて、ついでに東京に行けばいいという、そういう話向きをしていくためにも、多分、今の衆議院選挙でどうなるか分かりませんが、おおむね安定的なことになるとすると、「地方創生」というのが大きな国の課題になります。しかし、その受け皿は地域に知恵がないと駄目です。これは非常にこのまちにとっては大変良い方向の話であって、その2020年に向けての創造都市ネットワークの横展開、特にアジアの中でのクリエイティブアジアという考え方の主たる主幹を目指すという方向が出てきています。
 アートカウンシルのようなものが必要になっているのは、実は21ラボというものがそういうものなのです。それを仮称で「ものづくり、まちづくりの研究所」という名前にしていますが、2020年へ向けて多分それがそれの第1ステップというか、それをつくる目的が多分それになったらいいと思います。それを目指して早くそれに対して行動を起こす。今、市長さんもいろいろとアクションプランを作っておられるので、それを織り交ぜて実現していくというのは、世界の創造都市ネットワークの中の金沢というクリエイティブシティーが一つ格の上の存在になれる大きな試金石ではないかと思いますので、ぜひそういう認識をすべきではないかと思います。
 だから、いろいろなことがみんなそういう動きの中に編集されていくような気がしています。もちろん市だけではなくて、県の力も必要なわけで、総合的に動くべきところに来たなという感じを今回非常に強くしました。

佐々木
 ありがとうございました。どうしてもこういうことを言っておきたいという方がおられると思います。青年会議所理事長の浦さんお願いします。


 そうそうたる皆さまの前で大変恐縮していますが、せっかくの機会ですので。われわれの団体はまちづくりを活動の一環として行ってはおりますが、特に建築の専門家やまちづくりの専門家がいるわけでもない団体です。ただ、今回のテーマである「近未来の活力」というところに関して、来年、世界の青年会議所のメンバーを集わせる国際的な会議をこの金沢市で開催しようと今準備をしています。来年の11月にそれが開催されるわけですが、その中で、通常の会議の他に、やはりこの金沢の魅力を発信する場を設けていきたいと思って今、準備をしています。先ほど出てきておりました近藤前文化庁長官の言葉で、西洋の文化に対して日本の自然観や美意識を持って発信をしていくという言葉がありましたが、まさにその部分でこの日本人の持つ精神性、または金沢であれば禅というものもあります。それをぜひ世界に向けて発信をしていく、そんなフォーラムを今、松岡正剛さんをお呼びして調整しています。また、それ以外にも文化、経済のフォーラムや食のフォーラムも企画をしています。冒頭出てきていた銭屋の高木さんに今、依頼をしているのですが、できれば和食が無形文化遺産になったこともありますし、世界に影響を与えているものでもあります。ただ、金沢の食はいいですよという手前みそ的なものではなくて、できればフランスの三つ星級のレストランのシェフをお呼びしてやりたいなと。高木さんが言われるには、アラン・デュカス級を呼びたいということで今、調整をしているそうです。そういう感じで、われわれとしてできる近未来の活力の部分で、金沢の魅力を他の都市に負けない形で発信をしていきたいと考えています。
 本日のような貴重な機会を頂き、いろいろな機知に富んだご意見を頂けたと思っていますので、またその部分も反映をさせながら構築をしていきたいと思っています。本日は、ありがとうございました。

佐々木 では半田さんと水野先生。

半田
 長時間にわたっていろいろなお話をありがとうございました。レベルからしたら少し低い話をしたいのですが、伊東先生のおもてなしとサービスというお話は、いろいろなことを考えると、これからの日本、また金沢に非常に大事なのかなと思っています。
 私はNHK、BSの「世界入りにくい居酒屋」という番組が好きで見ているのですが、あそこへ行くとおもてなしというよりも、コミュニケーション能力のようなものが海外はすごく高いのかなという気もしています。今、食の話が出ましたが、金沢は一般的に食のレベルが高い、または非常においしいという通説があるのですが、海外から来られても高級な料亭に行かれる人ばかりではないと思います。そうすると、特に海外から来られた方々に対する社交力というか、コミュニケーション能力のようなもの、特に和食のように手の込んだものだと、その素材が何でできているかというのはある程度説明する能力も要るのかなという気がしています。
 それと、昨日、世界に誇る日本酒の話が出ましたが、私もこの金沢の市内でお寿司屋さんとか料亭とか行くわけですが、ワインは結構説明してあるのですが、日本酒の説明の仕方がないのです。カテゴリーもはっきりしていません。冷やにしますか、燗(かん)にしますかくらいしかないわけですが、その辺も何かもう少し和を売るのであれば。会席料理でも、この味にはこの日本酒と勧められるところは金沢には多分1軒もないという気がしていますので、酒どころの金沢ということになれば、そういうレベルも上げていくことがもう一つ奥深いことにつながるのではないかと思います。福光さんの方でもその辺のところをよろしくお願いしたいと思います。

水野雅男
 私は町家の応援団として八王子に出稼ぎに行っています。八王子と金沢の往復をしている生活の中で感じたことをお話ししたいと思います。キーワードは二つです。
 先ほど市長もおっしゃいましたが、生活者を増やすということで、二地域居住の市民を増やそうということです。もう一つは、町家という個人資産をコモンズとして扱おう、共有資産として扱っていく時代に来ているのではないかということです。
 新幹線開通に向けて観光客誘致ということに真剣に取り組まれていますが、ある意味観光客というのは、言葉は良くないですが、まちを食い散らかすような感じかもしれません。そうではなくて、まちを育てる、まちで生活する人をコミュニティーメンバーとして二地域居住で、年間で言うと1週間か10日かあるいは数十日かもしれませんが、金沢で生活する市民を増やす、そういうアクターを増やしていくということです。そういう人たちは、お客さんではなくて、自分たちも市民だという誇りを持って生活すると思います。
 そういうことが新幹線が開通することによって現実味を帯びてくると思います。それを増やすために、確かに夜の魅力を高めることを今一生懸命やっていらっしゃいますが、2時間半で東京まで行けるということは、例えば8時まで食事をしていても東京まで帰ってしまうこともできるわけです。もちろん夜の魅力を高めることも大事ですが、朝の過ごし方をもっとアピールできるのではないでしょうか。私は柿木畠に住んでいるときには、本多の森とかあの辺りを朝散策するのがすごく楽しみでした。それは静かさも感じるわけです。そういうことというのは、生活していないと、滞在していないとできないわけですので、そういうことをもっとアピールしていくべきではないかと思います。
 それで、その町家をコモンズにということですが、私が調査した中で、町家居住者の18%は70歳以上の単身世帯です。ということは、もう10〜15年たつと空き家になる可能性があります。18%、約1000軒あります。今、空き町家が1000軒あります。もう2000軒がそういう危機にあります。あるいは、言い換えれば活用できる資産としてあるわけです。例えば1軒の町家を10人のコミュニティーメンバーでタイムシェアをすれば、2000軒を10人ですから、2万人のそういう二地域居住の市民をつくればいいわけです。そういう形にしないと、個人の資産としてはもう町家は残っていかないと思います。まちなかに住んでいる人たちはお年寄りで、相続を受ける人たちは郊外に住んでいらっしゃいます。まちなかのライフスタイルを求めていません。そういう現状の中では、個人の資産ではなくて、コミュニティーの共有資産として町家を位置付けて、それを管理していくという仕組みをこれから検討していくときが来ているのではないかと私は思います。
 全体は、名称は分かりませんが、町家のコミュニティーマネジメントの組織をつくって、全体を統括してそこに居住者を当てがって調整をするということも必要ですし、防災も大事です。防災は消防団をベースとしてそういうものを新たに組み直していくということもあります。それを維持修繕していくのは、金沢には職人大学校という素晴らしい大学校があり、修復専攻を卒業された方が150人以上いらっしゃいます。そういう方々の技術を生かしていき修復をしながら活用していくという仕組みをつくっていくために、研究というか、調査を進めていくことが必要なのではないかと思います。以上です。

佐々木
 いろいろな方面からご意見が出ましたので、後ほどもう一度市長さんからお話を頂きますが、私も言いたいことが残っています。
 私どものセッションでの話ですが、2020年という日本としてかなり大事なターゲットが今設定されてきています。例えば札幌市は2回目の冬季オリンピックに既に手を挙げました。だから、高度成長の出発点としての東京オリンピックではなくて、成熟社会に入るというその出発点としてのオリンピックなのでしょう。そうすると、そこに合わせた質的な地域の発展戦略、あるいは都市の発展戦略に照準を合わせていかなければなりません。そこで今日出たような奥深い文化の話や、あるいは木造都市の話、例えばコンベンションホールももしできるのなら日本で最初の本格的木造でするとか、いろいろな話が質的な問題として出てくるでしょう。
 実は私は、今、京都府庁の中に分室がある、関西広域連合という一つの自治体で、オリンピックの文化プログラムについて提言を出すように準備をしています。今、知恵を出していく、提言を出していくというその競争になってきていて、そのことで意識的に動いているのは横浜市長と関西広域連合の兵庫県知事や京都府知事です。そのあたりは2020年が東京再集中になったら絶対駄目だと思っています。「地方創生」ということを言っていますが、本当に大丈夫かと。つまり、新幹線というのは放っておいたら必ず東京集中になります。そこのところをきちんと分析しながら、どうやって質的に東京に負けない文化力を持って、東京を使い回すという戦略ができるか。これは日本で初めてのチャレンジでしょうね。これを金沢でやったら素晴らしいです。
 では今、そのためのプロジェクトチームがあるかというと、ないわけです。先ほど出たアーツカウンシルという言葉も大事なのですが、やはり実体が大事です。例えばこの会議がプロジェクトチームに変わるということもあるだろうし、もっと若い世代の方に入ってもらって、そのプロジェクトチームを動かしていこうということを、もうすぐ始めなければいけないのです。2016年から始まるので、もうスタートを切っています。そこにどんなメニューを準備していくのか。2016年から2020年にかけて何を金沢は提言していって、国に必要な財源措置を求めていくかを言わなければいけません。
 そういう中で、例えば2018年、2019年あたりの東アジア文化都市は絶対に取るのだというストラテジーも出てくるわけです。2015年の話はもういいのです。2015年はもう回っていますので、もう少し近未来のところでどのように計画を練り、行動していくかというあたりを、ぜひ意識的にやっていきたいと思っています。


山 野
 ユネスコ創造都市ネットワークの世界会議のことで、一つ決意のようなものを申し上げたいと思います。先般、浜松と鶴岡が新たに日本から入りまして、69の都市が創造都市ネットワークとして認定をされたことになります。当然、次、いろいろ準備をされている都市の方が、日本だけではなくて世界中からもお越しになると思っていますし、その受け入れの準備を今、しっかりとしているところです。
 市長サミットを、市長ラウンドテーブルという表現の中、名称はともかくとして、そういう場も設けていきたいと思っています。僕はいろいろなところでよく言っていますが、この世界会議、金沢会議自体は5月25日から28日までの4日間ですが、この4日間に関して言えば絶対に成功します。なぜかというと、それは、経済同友会の皆さんをはじめ、経済界、民間の皆さんがこれまでも中心になってきてくれているということと、身内を褒めるのもどうかと思いますが、金沢市の職員も大変優秀です。一生懸命やっています。民の皆さんと金沢市とでしっかりと連携することによってこの会議は絶対成功します。
 しかし、大切なのは、この会議の後にどうつなげていくことかと思っています。幸いなことに、この金沢を含めて69都市が既に仲間です。文字どおりネットワークです。まだ、日本にも幾つか手を挙げているところもありますし、関心を持っていろいろ問い合わせがあるところもあります。そういうところとはCCNJの中でしっかりとネットワークをつくっていきたいと思います。この69都市だけではなく、ユネスコのネットワークをうまく活用をしながら、金沢という都市の発信をしていくことが大切だと思っています。そのためには、行政だけではなくて、民間の皆さまのお力も必要になってきますので、こういう会議やさまざまな場面でご助言を頂きながら、また、一緒に行動をしながら進めていければと思いますので、ぜひお力添えのほどをよろしくお願いします。

福光
 市長さんの今のお話は大変力強くお聞きをしました。ありがとうございます。
5月を成功させるという決意をお聞きしましたし、われわれも一生懸命お手伝いをしたいと思っています。
ユネスコの創造都市はもちろん、その後もネットワークを大事にする。今おっしゃったとおりですが、東アジア文化都市の方が結構埋まってきています。佐々木先生も何度もおっしゃっていますが、2018、2019、2020が空いています。間に合うなら早い方がいいので、2018年に金沢がエントリーをすべきではないかと。そうすると、2015年の5月にそれをやって、その次に東アジア文化都市の2018年に挑戦をすれば、2020年のプロジェクトをずっと動かしながら準備していくというステップが切れますので、これは大変重要なことではないかと思いました。ユネスコの連携とまたもう一つ別の多層性の連携になると思います。非常に重要なことだと思いますので、また、お考えいただきたいと思います。

佐々木
 2日間にわたって積み残しの課題も含め、近未来の金沢の活力をどう考えてどう創り上げていくかと、非常に実りのある会議ができたと思います。私も福光さんも十数年ずっと引っ張ってきました。やはりもっと若い世代の方々にさらに世代交代をしていくという意味で、アンダーフォーティかアンダーフィフティの集まり、創造都市のヤングジェネレーションの集まりもぜひ発足なりしていけるといいなとあらためて思いました。近未来ということだと、2020年には今、35歳の方でも40歳になるわけですので、そういう若い方々が金沢の創造都市の担い手になっていくというプロジェクトがぜひ欲しいと思います。
 それでは、宣言にいきたいと思います。福光さん、お願いします。

福光
 2日間の議論を頂きましてありがとうございました。包括的に宣言を書いてあります。この表現の中から具体的なウエート付けをして、またアクションプログラムやワークショップができるようにと思っています。では、私から読ませていただきますので、よろしくお願いします。

-----------------------------「金沢学会2014宣言」読み上げ------------------------------------------------------------------------------------------------

佐々木 
 これで宣言としたいと思います。皆さんの拍手をお願いします(拍手)。どうもありがとうございました。

 


 
 
 



 

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第一日目  12月4日

第二日目  12月5日

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