第7回金沢学会

金沢学会2014 >基調スピーチ

ワークショップ報告

ワークショップ報告

 

 

 

 


インキュベーション事業「GEUDA」について
宮田人司氏(センド代表取締役)

昨年の創造都市会議で、私の友人でもある孫泰蔵さんに来ていただきまして、この場でインキュベーション事業を始めるというお話をさせていただきました。GEUDA(ギウーダ)という聞きなれない発音の名前ですが、サンスクリット語でサファイアになれなかったくず石のことで、近年の科学技術の発達で、ある熱量を加えることでサファイアになることがわかりました。そういう思いを込めてこのGEUDAという名前をつけまして、今年の4月から事業を開始しました。ロゴマークは大変有名な方に作っていただきました。こういった事業を始めまして、今日はその報告をしていきたいと思います。
2014年4月から開始しまして、今は7人くらいの人材をインキュベートしております。分野としてはITからものづくりまでという部分で特化してやっています。いろんなマスメディアとか、いろんなところから取材をしていただきました。全国からも注目をされておりまして、北海道から九州までいろんな地域から視察に来ています。
この施設があるのは、とても趣のある古い建物です。ソニーモバイル関連のイベントなども開催しています。ここからたくさんの若者たちが巣立っていこうとしているわけですが、どのような活動をしているのかと言いますと、1年間の時間をあなた方にあげますというコンセプトです。その期間について、住む場所、働く場所、食事、すべて我々が面倒を見ると。例えると相撲部屋みたいな感じだと思っていただければいいと思います。毎月、研究資金も支給します。1年あったら何とかなるだろうというスパルタの面もあるんですけど、そんな中で切磋琢磨しながらやっています。これは世界でもあまり例がないインキュベーションの仕方です。この模様を全国紙のMacfanで連載し、誌上で毎月紹介されています。
1階がワークスペースで2階はカフェになっています。カフェはそこで働いている若者たちの食事を提供するところで、一般の人たちも入れるようになっています。まちの方々の声も聴きつつ、それをアイデアに生かしていただきたいということで開放しています。このカフェは月曜日が定休日で、ハヤシライスしか出していません。
今日は成果としまして2人に来ていただいていまして、非常におもしろいものづくりをやっている人間です。2人も工業デザイン出身なんですけれども、陶芸や焼き物の器の世界に革命を起こそうとしています。今まで見たことがないような手法とものを研究して作っていまして、「GEUDAの中から生まれた新たなものづくり」を紹介させていただきたいと思います。

上町
私たちはSECCA(セッカ)という会社を作りまして活動しています。北陸で起業したので、雪花をモチーフに名前を付けました。メンバーですが、代表の私とこちらにいます柳井、私たちのものづくりを客観的に見ていただいてビジネスアドバイスをいただけるように宮田さんに入っていただいています。
簡単に私たちが会社で、どのような仕事をしているかを紹介させていただきます。私はニコンでカメラを中心に光学機器のデザインをしていました。これはニコンワンといって、ニコンが50年ぶりに新規格で作ったカメラですが、これを5年半かけてやらせていただいて、いろんな賞を頂くことができました。
柳井は日本ビクターという会社にいたんですけれども、木の振動板を業界で初めて採用して、評価を頂いています。
私たちはそういった過去の経験を生かしまして、これまで培われてきた技術と先端技術を掛けあわせて新しいものづくりの取り組みができないかをやっております。今回紹介したいのは大きく分けて2つあります。ジャンルを問わず新しいものづくりをやっている事例と、新しいアプローチで作ったものづくりというものを紹介させていただきたいと思います。
まず、ジャンルを問合わず新しいものづくりということで、とある醤油蔵さんから新しい醤油ビンを作りたいという案件ですが、ガラスのビンを新規に起こそうと思うと、結構な検証と試作をするにも費用が掛かってしまうんですけど、3DCADでイメージの共有をして、容積比計算なども3DCAD上でできるので、何パターンも用意したうえで、それを3Dプリンターですぐ出して、醤油を入れて、この素材では食品には使えないんですけれども、試作で醤油を入れて出してみて検証しながら、最適なデザインを検証していく。3Dプリンターによって最短の時間でそのようなことができるという事例です。
この写真は名古屋の造形作家の作品で、数字から割り出される必然的な形をずっと研究されています。それを10年以上模索しても、全然思い通りにならないと宮田さんのところ相談が来てこちらでやらせていただいたんですが、3D・CAD上でそういったフォルムを作ったところ初めて思い通りにできたという、うれしいコメントを頂きまして、それをせっかく金沢でやるので、伝統工芸の金箔を貼って、新しい工芸品を作ってみようということでできた事例です。こちらは、作っても作っても売り切れてしまう人気の作品になっています。
続きまして、ギターを作ってほしいという依頼だったんですけれども、私たちの青春時代には欠かすことのできない、JUDY AND MARYというバンドがあったんですけど、そこで活躍していたタクヤさんが当時のギターを基に3Dプリンターでしか作れないものはできないかという依頼がありまして、先ほど見ていただいたかわいいグラフィックなどを抽出しまして、3Dプリンターでしかできないような構成にまとめて、こちらも作る前にCGを起こしてタクヤさんに見ていただいて、これはいいねということで、弾きやすさなども検証しながら3Dプリンターで出力してから、ギター職人に仕上げてもらって実際に番組で引いてもらいました。


柳井
 こちらの器は、私がはじめて3Dソフトを使ってデザインしたものです。3D・CADを使って形状データを作った後、切削機と呼ばれるドリルが動いて、削っていく機械なんですけれども、そちらを使って原型を作ります。石膏を使って、原型をくるむような形で型を作ります。その中に高圧で粘土を入れ込むと、こんな造形のものができます。人の手では作ることが困難ななめらかな造形がCADを使うことで実現できた一例です。日本や海外でも評価を受けています。
 こちらは今年制作したものですけれども、砂漠ですとか雪の吹き溜まりのイメージをモチーフにして作った器です。備長炭のエッジと、ふわっと消えていく造形はCADでしかできないものです。ただし、面などの最後の仕上げは手作業で職人さんがなくならない一つのポイントだと思っています。自分で最後に面を決めていくのは手でやっています。そのほかにも、プロトタイプですが3Dプリンターで実物を作ってサイズ感や使いやすさなども検証しています。重ねて収納できることを大前提に、美しい器を制作しています。CADの特徴としましては、断面の形状もチェックできますので、肉厚や容積、重ねたときに干渉する部分の確認などもすぐにできます。
 こちらは、陶磁器のほかに、ほかの伝統素材や技法を組み合わせた事例です。金沢という工芸都市に集まる様々な技法があると思うんですけど、こちらはガラスによく使われるサンドブラストという表面を削る機械で、釉薬の表面を削りまして模様を作ったりですとか、磁石を陶器に仕込んで鉄のコースターにくっつけた杯など、新しい組み合わせに挑戦したりしています。これはタンブラーに漆を塗ったもので、金属質に漆を塗ることで今までにない質感を表現したりするなどしています。
 これはタイルですが、組み合わせをCAD上で行いまして、サイズ感ですとか壁面に装着するときの難易度も事前に確認して構造上もあらかじめチェックできるというところが便利ですね。
 こちらはシャンデリアの事例ですけれども、鉄フレームのパーツに焼き物で作ったビーズのようなものを通して製作しているんですけれども、直径が1m50cmあるものなので、重さや配線、組み立てる順番もCAD上でシミュレーションしながら作成しました。
 これは出産祝いとして作った杯です。両親から息子へ杯を交わすまでの20年をプレゼントとして盛り込んだ事例なんですけれども、単にものを作るだけではなく、演出も含めて提案したものです。
こちらは既存の器の再定義ということで、汁椀です。本当に使いやすいのかということを考え直した実験的な試みなんですけれども、握力の弱い方でもさっと持てる構造、指がかかるということをポイントに形状を検証した形なります。
これはあちらのテーブルに置いてあるんですけれども、未来への工芸の挑戦ということで、3Dプリンターで出力した生地に直接漆を塗って仕上げたものです。今は食品の器には使えない状態にあるんですけれども、この先改良していく過程を見越して制作しています。実際、この素材は漆が乾かないという問題があるんですけれども、そこらへんも含めて、今後研究を重ねていきたいと思っています。

上町
今まで紹介させていただいた器を、最近になって実際に使っていただく場を与えていただきまして、そこで感じたことなどを紹介したいと思います。
こちらは、今まで作ってきた器の中から料理人のイメージの合うものを選んで使っていただきました。柳井も会社を出てからずっと器を作ってきましたが、一流のシェフに料理を盛ってもらえることがなくて、盛られたらいいなという妄想だけでやってきたんですけど、実際に盛られたときに、自分の想定していた以上の使い方に驚き、発見がありました。それと同時に、使いやすいと思っていたところが、デリバリーする方の使いにくい形状になっていたりなどの反省点はありまして、使いやすくてなおかつ魅力的で、お客さんにとってシェフの方の料理が一番映えるキャンパスになるような器にしなくてはいけないなと感じた経験でした。
こちらは、この秋に「銀座の金沢」が東京銀座にできまして、その中の銭屋の高木さんが監修するレストランで使っていただいている器です。これは、片側を方で制御した形で、もう片側に陶器の粘土を打ち付けて、半分制御、半分が手で揺らいだ形にしたものです。食べに行ったときに、普通は和食の料理の味を決めた状態でお客さんに提供されますが、ここでは新しい取り組みとして、お客様の目の前でソースをかけて味を決めるということをされていて、そういった和食のラインを超えたパフォーマンスでこういった器を使っていただけるということで、インスピレーションを受けました。
こちらは先ほどの手法で作ったものに、赤漆を塗ったものです。一般的に陶胎漆器と呼ばれるものですが、釉薬の魅力的な色が再現されました。こちらは金沢でやっている銭屋さんに使っていただきました。通常では、和食ではこんな大きなお皿は使わないんですが、私たちが高木さんの魅力的だなと思っているところは、型を破ったところで新しい和食の出し方を一緒に考えていきたいと言っていただきまして、次こうやってみようというきっかけになりそうです。「ミセス」というとても影響力のある婦人誌にに取り上げてもらいまして、明後日発売です。
今、銭屋の高木さんがフランスに飛び立って、カンヌの催しでお食事を振る舞われているそうなんですが、そちらで使う皿を1月前に作ってくれないかと言われまして、できないんじゃないかと思いましたが、これは試されているんだと思い、作りました。50枚作ってほしいと言われたんですが、型を作るだけでゆうに1カ月使ってしまうんですが、3Dプリンターで表面に食材が載せられる使用にして作ってみようとのことで、まずデザインの共有を色ですとか、フィニッシュの仕上げをあらかじめCAD上で高木さんとやり取りして共有し、出戻りのないデザインをしてこちらの器にたどり着きました。シミュレーションを仕上げて、なんとかフランスに飛び立ったところです。高木さんとやり取りをしていて非常におもしろかったのが、僕らはプロダクト出身で、持つという行為で食材をこぼさないかとか、グラスが持ちやすいとか、そういうことばかり気に留めてしまっていたんですが、はっとされるようなことを言われました。美しいたたずまいでいられる機能を盛り込んでくれと。様式美のようなものが求められているとおっしゃってくださいまして、そういった考え方で器を作るという発見がありまして、その方向に進んだらいいかはっきりして、最後まで仕上げることができました。
今ご覧いただいたように、私たちはこれから金沢という土地にこだわって器を作っていきますので、食というものを身近に感じながらデザインと食を用いて新しいものを作っていこうと思うんですが、金沢でしかできないということを今強く感じていまして、食に関しても、高木さんのようなすばらしい料理人の方がいらっしゃいますし、金沢という土地は、私たちが今登壇させていただいているように、こういう機会を与えてくれる、応援してくれる方がいらっしゃるということで、ほんとにこの土地でないとできなかったと確信しています。この土地の恩恵を最大限に生かさせていただきながら、これからも、ものづくりをしていきたいと思います。

宮田
 今ご覧いただいたように、まだまだ研究途中のものもありますが、彼らの作った器は今年の1月にシリコンバレーに行きまして、オートデスクの幹部に見せたところ非常に驚いていました。日本にこんなものがつくれるのかと。彼らはこういった新しいものづくりを非常に楽しみにしています。海外からの評価は非常に高く、こういった研究は金沢だからこそできたんだと思います。一流の料理人の方と一緒に、使い方を含めて研究していけるような環境をとることができたと。こういったことをGEUDAでは日々行っております。来年の3月で1期は終わりですけれども、第2期もやろうと思います。こういった中で、未来工芸にも力をどんどん入れていきたいと思います。こういったことだけではなくて、バリバリのITのサービスをやっている人もいますので、今度はGEUDAに来ていただいて、その辺の話を少しできればなと思います。


 

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第一日目  12月4日

第二日目  12月5日

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