第7回金沢学会

金沢学会2014 >第3セッション

セッション3

 

■第3セッション「トップクラスの創造都市」

●コーディネーター  
佐々木雅幸氏(同志社大学経済学研究科教授/文化庁文化芸術創造都市振興室長)
●ゲスト     
太下義之氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング芸術・文化政策センター長)
吉本光宏氏(ニッセイ基礎研究所研究理事)メ)

トップクラスの創造都市とは

佐々木
福光さんや安宅頭取も言われていましたが、かなり全世界的に創造都市のネットワークに参加している自治体が増えています。その中でもメジャークラス、トップクラスを維持することが大事です。それで「トップクラスの創造都市」という、あえて近未来引き続きリーダーシップをとるということを考えてみようと思います。このテーマで、国内外の創造都市に詳しい太下さんと吉本さんと話していくことにしました。
この創造都市会議というのは、2001年に福光さんと山出前市長が私の頭の中で考えていたことを実現していったことから始まりました。2001年から始まった会議が様々な声明を具体化していったという意味では、日本における金沢の創造都市会議はムーブメントの機動力であったと思います。

99年3月にプレ会議をしていますので、かなり長いわけですが、金沢の後を追いかけまして、横浜、神戸、札幌、京都など、つぎつぎと創造都市の関心が広まりました。2007年、神戸と名古屋が創造都市のデザイン分門でユネスコに登録をし、翌年、金沢がクラフトで登録しました。
創造都市の事業を大都市や中核市だけでなくて、農村などの小さなところでも広めようとモデル事業を文科省が始めることになりました。そして、2011年になると日中韓文化大臣会合が毎年開かれるようになり、そこで日本側から東アジア文化都市を提唱することになります。これは直接的には、欧州文化首都というものが1985年から始まっていまして、それにヒントを得たものです。そのような中で、創造都市ネットワーク日本を立ち上げました。
そして、札幌がユネスコ創造都市(メディアアーツ)に加盟し、本年は、東アジア文化都市のスタートの年として、日本は横浜、中国は泉州市、韓国は光州市で1年間を通して文化事業をやってきました。
12月の1日になりますが、ユネスコ創造都市に日本から浜松と鶴岡が参画することになりましたので、この14年の間で、かなり金沢で始まった動きが定着してきたことになります。
来年は、金沢にとっては新幹線が開業するということで、ユネスコ創造都市会議の金沢会議を開催します。世界で69都市が入っていますが、かなり大きな会議になっています。
東アジア文化都市というのは2014年から毎年3都市ずつ選んでやろうということになりまして、新潟と青島と清州市の3都市です。日本では、2016年が奈良、2017年が京都まで内定しています。
振り返ってみますと、金沢の創造都市というのは、そもそも歴史都市と創造都市の2枚看板を掲げてきたという意味で行くと、典型的な歴史・伝統文化を保存しながら、紡績工場を再生する取り組みや、2004年に21世紀美術館がオープンしてから今年で10周年を迎えましたが、毎年150万人程度の入館者を維持してきた現代アートの美術館はほかにはなく、奇跡の美術館と言われています。町の中にも浸透が見られ、先ほどは未来工芸という形で発表がありましたが、秋元館長自らが2年前に「工芸未来派」という企画展にチャレンジされて、現代アートの美術館で工芸を取り上げました。これは前例がなく、高い評価を得ました。
こういったところに、金沢の新しいムーブメントの展開が見られると思いましたし、今日の話を聞いてハイテクを伝統工芸に持ち込んでいって、未来工芸を目指すという2つの流れが、前衛的な芸術と先端アートを伝統工芸にぶつけているということが、金沢でできる、逆に言うと金沢の保有性があるなと改めて思いました。
金沢は毎年のように世界フォーラムをやってきましたので、ユネスコの認定を比較的早く受けました。この会議で提唱してきたことですけども、大量生産大量消費型(フォーディズム)を乗り越える「クラフトイズム」という、これから新しい文化的な生産を生み出す町。先ほどは、未来型のクラフトマンシップといっていましたが、伝統的なクラフトだけではなくて、金沢全体が伝統と未来の両方のクラフトマンシップが息づいているということを世界に発信していくという流れがでてきました。
ユネスコは21世紀美術館ができた2004年にネットワークを作り、7つのジャンルで登録を進め、現在は様々な都市が加盟しています。必ずしも順調に来たわけではなくて、アメリカが分担金を払わなくなったために、しばらく新規加盟の審査が行われず、約60の審査中の都市がありました。これがいっきに今年の11月までに結論が出て、新たに28都市が加わりました。
ここでいくつかの特徴がありまして、例えば先進国で言うと、これまでドイツは1つも入っていませんでしたが、ハイデンベルグが文学や音楽など、ドイツがいっきに3都市入りました。それから、スペインでは美術館で有名なビルバオが入っています。文字通りそうそうたる都市が入っています。アジアでは中国が3都市増えたので8都市になりました。金沢についてもネットワークが広がることはとてもいいことだと思っていまして、数が増えるから埋没するのではなくて、これらの都市と肩を並べて、金沢のよさをどんどん発信していけると考えたらどうかと思います。ネットワーク会議が毎年1回、行われていまして、2008年、10年、11年、ずっと開かれてきましたが、2011年のソウルの会議の時に山野市長が2015年の金沢への招致をアピールしました。この時に日本のほかの都市はそういった考え方がなかったので、日本初の創造都市ネットワーク世界会議を金沢でするというわけですね。
そこで、金沢学会や創造都市会議でも、来年の金沢でのユネスコ総会をどういう風に迎えたらよいか議論してきましたけど、 近藤誠一前文化庁長官がこの会議で言われたのは、「西洋基準の芸術文化に対して、日本人が持つ自然感や美意識を深みを持って世界に発信したらよい」です。特に、工芸や人間国宝によるフランスとの交流が大事だと言っています。ヨーロッパの中では、フランスが文化的な機関を持っていて、金沢が持っているよさを理解できるからです。金沢はフランスパリに匹敵するような文化を、深みをもって発信することが今回大変重要だと思っています。
文化庁としては、2007年から毎年長官表彰をしてきましたので、これらの都市を中心にしてネットワーク会議をします。創造都市ネットワーク日本が2013年1月に横浜で設立されて、初代の代表都市は横浜がしていましたが、現在は45の都市が加盟しており、金沢市が代表都市を務めています。山野市長が代表をしています。文字通り日本の創造都市のムーブメントを金沢が示してきたと思います。
こういう中で、現在の青柳文化庁長官は、2020年の東京オリンピックの文化プログラム、それに先立つ4年間の文化オリンピアードというものにかなり力をいれてやることによって、世界から尊敬される文化大国にしたいと目指しているわけです。
そもそもオリンピックというのは、スポーツのみならず文化と教育が融合したものでした。2012年のロンドンオリンピックの時にもイギリス全土で18万イベントが行われ、4300万人の市民が参画しました。その規模までできるかどうかわかりませんが、日本でも東京だけでなく日本全体でしてほしい。青柳さんは、石川県の知事に「世界工芸サミットを金沢でやったらどうだ」と言ったみたいです。
こうやって文化プログラムなどを日本全体で広げようという風に、実は創造都市のネットワークが担い手になるわけです。このネットワークをアジアにまで広げたらどうだということを現在は考えているところです。このような中で、東アジア文化都市という事業も並行して進んでいまして、2011年から具体的に日中韓大臣会合で事業が確認されています。実はこの2年間、日中韓の3カ国間では歴史認識や領土問題などで首脳会談が1回も開かれていません。ですが極めて例外的に、文化大臣会合だけは毎年開かれています。都市と都市の文化交流や平和について語るということは、大いにやりましょうということになっています。
文化都市について、横浜が1年目にやりました。横浜は創造都市の第一戦としてとらえて、全力を挙げてやりました。例えば、日本のポップカルチャーなどの普及もするし、現代アートをコアイベントとして今年はやるわけです。
11月30日に日中韓文化大臣会合が開かれて、そこで横浜宣言というものがされまして、2015年は新潟市、青島市、清州市となり、都市間の文化による社会問題の解決、そして東アジア文化都市についてASEANにある文化都市との連携を将来目指すということが議論されました。そのほか、文化遺産の保護・継承の問題、文化産業分野での教育の問題、2018年に韓国であるオリンピックと2020年の東京オリンピックの2つのオリンピックに向けた文化交流と共同プログラムを日中韓3国で強めようとしています。
これまで話をしたものをまとめると、現在金沢市が中心になって担っている創造都市ネットワークは世界レベルで見ると、ユネスコの創造都市ネットワークがあり、これが69都市に拡大しました。国のレベルでみると、創造都市ネットワーク日本があって、こちらの方は45自治体になっています。これが東京オリンピックとオリンピアルの担い手になります。合わせて東アジア文化都市、つまり日中間の流れをさらにアジア全体に広げたい。こんな風に、金沢で取り組んできたことと、内外のいろいろなムーブメントというものが、ある意味では2020年を目標年にしてもう一段大きくしていこうと。金沢としては、どういうところを磨きながら、トップクラスの創造都市としてリーダーシップを発揮できるかを3人で議論したいと思います。

吉本
 最近では、オリンピックの仕事の比重が増えています。東京都がオリンピック招致を決めたときに、オリンピックを招致するためには文化が大切だということに気が付きました。当時、東京都は文化政策をほとんどしていませんでした。それ以来、かなり強化をしてきています。その時に作った芸術文化協議会の専門委員に私も太下さんもなっていました。
トップレベルの創造都市ということなので、私からはロンドン五輪の文化プログラムについて話させていただきます。文化プログラムはすごい数が行われ、トップレベルの創造都市の参考になると思います。
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、オリンピック憲章の中にスポーツ、文化と教育を融合させるということが明記されています。実施するときに、実際に開催しなければいけないということも書かれています。クーベルタンの残した言葉に「オリンピックはスポーツとアートのウエディングである」というものがあります。これもあまり知られていないと思いますが、ロンドン五輪の文化プログラムも日本でほとんど報道されませんでした。
実際、100年以上前から芸術が行われていまして、当初は芸術競技である建築、文学、音楽、演劇、美術の5種目でメダルが授与される形で行われていました。このあと、芸術展示というものに変わり、東京五輪の時にも日本最高の芸術を展示するということで様々な催しが行われました。東京国立博物館で日本古美術展という、国宝級の美術を集めた展覧会があったんですが、40万人が来場したという記録も残っています。バルセロナからさらに幅広く展開されるようになり、2012年のロンドンで本格的に実施されるようになりました。
ロンドン五輪の招致の時には、パリが有力視されていてほぼ内定だと言われていましたが、それを覆した要素の一つが文化プログラムだと言われています。
具体的に説明しますと、ロンドン五輪の時は北京オリンピックが終了すると同時にオリンピアードを立ち上げて、4年間ずっとやり続けました。競技大会が行われた前後の12週間をフェスティバルと称して大規模な国際芸術祭を行いました。4年間のイベント総数が18万件、5000件以上の新しい作品を作り出しました。参加者数が4000万人。総予算が120億円ということです。特に重要なのが、ロンドンだけでなく英国全土1000カ所以上で行われたことです。
日本が文化プログラムをやるとなると、日本の文化を世界に紹介しようとベクトルがなると思いますが、彼らはアスリートと同じ204の地域から招聘して、世界中のアーティストにチャンスを提供しました。キーワードは「一生に一度きりの体験をしてもらおう」です。
具体例をいくつか紹介します。
・ロンドン・アイやロンドン市庁舎の壁面でダンスをしている写真、204の移民のポートレートなどを紹介。
 オリンピックの開会に合わせて国会議事堂の鐘が鳴ったんです。この鐘を鳴らすには、すごく厳密な決まりがあるようで、交渉が大変だったみたいです。これとともに、開発したアプリをダウンロードして鐘を鳴らし、作品自体がロンドン五輪の開会を祝福するものになっています。200万人以上が参加したと言われています。
オリンピックのテーマがいろんなアーティストに触発を与えます。海岸でピースキャンプというイベントが行われました。同じオリンピックということで、パラリンピックも紹介します。アンリミテッドという大規模なフェスティバルが行われました。
・写真や動画を紹介。
オノ・ヨーコさんの作品で真っ白のチェス盤があります。これは敵味方がないという、平和をテーマにした作品です。また、世界中から37の劇団が集まり、37の言語でシェイクスピアも上映されました。
ほかにも、ピカデリーサーカスの道路閉鎖を行って、1日中屋外でサーカスが行われたりもしました。
 なぜこれが創造都市かという話を最後にしたいと思います。2012年のフェスティバルの特徴は6つあると言われています。ここに創造都市の要素が皆入っているんです。ありえない場所でのアートプロジェクトは規制との戦いです。無料のイベントも圧倒的に多くありました。オリンピックやパラリンピックのテーマに基づいた作品では、平和だったり環境だったりの提言になります。アーティストもそうですし、前触れなく出現することも規制との戦いだと思いますが、そういうことの総合力として創造都市が生まれてくると思います。
今日紹介した10個をもう少しミクロに見ると、市役所の外壁・観覧車のダンスパフォーマンスはまさに規制との戦いですし、スピードオブライトでは、アーティストの提案でLEDスーツを開発したわけです。その結果、ITの新しい技術の開発が生まれています。オリンピック組織委員会が発表している公式の報告書によると、アーティストのアイデアを実現するために様々なITの技術開発者とのコラボレーションが行われていて、3000件あったと言われています。ある意味、創造産業の育成にすごく役立っています。ワールドインロンドンは寛容性のアピールだと思いますし、国会の鐘を鳴らしたというのは国会が創造性を獲得することができる。これが非常に大きな出来事だと思うんですけど、今度の衆議院選挙で安倍首相が東京五輪の文化プログラムで国会議事堂を開放すると約束してくれたら、必ず自民党に投票すると思うんです。それから、平和を考えるや、ソーシャルインクルージョン、地球環境問題などです。ピカデリーサーカスでのサーカスについてロンドン市の文化部長の言葉を最後に紹介したいと思います。まさに創造都市のエッセンスがここに込められています。「こういったクレイジーなプロジェクトを実現するために、多くの人を説得する必要がありますが、警察等の関係者はオリンピック期間中に交通が順調に流れ、渋滞が避けられるようにしたいと考えていました。でも、私たちは逆を提案しようとしたわけですから、ミーティングで決裂するのは間違いありませんでした。しかし、ここでカギだったのは段階に分けて進めたことです。絶対に合意は得られないとわかっていましたので、1回目は実現の可能性の調査を行ったのです。ミーティングの席についた人にとってすべてがうまくいき、最後まできちんと清掃できるということが非常に重要でした。そのために、輸送、清掃、警備などについて実現可能性を調査したことで、全員がこれは可能だと自信を持ちました。この作業を最初の段階でやらなければ、ゴーサインをもらえなかったでしょう。それから実現までにたくさんのミーティングを重ねてきたわけですが、関与していた多くの関係者が最終的に『じゃあ、次は何をしたらいいの』と意欲的に考え方に変えてくれたのです。どうすれば実現できるか、今までないことをするにはどうしたらいいか。という視点を持つことが成果だったと思います。」という風におっしゃっています。ですので、2020年の東京五輪を機に、金沢から、金沢以外の全国各地でもそうなってほしいんですが、創造都市のレベルが上がったらいいなと思います。

吉本
 欧州文化首都についてと、金沢でどういうチャレンジができそうか一つ提案をさせていただきたいと思います。
 欧州文化首都ですけれども、なぜ紹介するのかというと2つ理由があります。まずは、欧州文化首都をモデルにして、東アジア文化首都という事業が今年からはじまっています。金沢市も全国的なコンペティションでチャレンジされていたと思います。おそらく今後もチャレンジされるだろうと考えると、この事業が直接的に参考になると言えます。もう一つは、オリンピックの文化プログラムが日本全国で2016年から始まります。この時、何をやったらいいんだろうというときに、もちろんロンドン五輪もある種の参考になるかもしれません。けれども、こういった文化プログラムという点では、実は欧州文化首都の方がはるかに高い蓄積があるわけで、こちらの方が参考になるのではないかという2つの理由があります。
 欧州文化首都がなぜ始まったのかというと、当時のギリシャの文化大臣メリナ・メルクーリと、金沢にも何回も来られているフランスの文化大臣ジャック・ラングの提唱で始まりました。この2人がなぜ欧州文化首都を始めたのかというと、2つ理由があります。
 1985年から始まっていますが、EUの統合前です。EU統合を目標とする中で、お互いの歴史的文化的の共通性を確認していこうということがありました。2つ目の目的は、今の目的と相矛盾するようなものです。これからEUという共同体になっていくんだけれども、一緒になったとしても、歴史的文化的背景が違うということをお互いに認識して、尊重しようという目的です。多様性の中の統合という、非常に大人のロジックですね。それを文化を通じて確認するというのが、この欧州文化首都の大きな目的でした。そうはいっても、具体的な事例を紹介した方がいいと思うんで、紹介したいと思います。
 一つ目はオランダのロッテルダムです。ここは2001年に欧州文化首都が行われました。建築のまちとしても非常に有名です。ヨーロッパのどの都市も、中世以降に長い歴史がありますけれども、ロッテルダムは第二次世界大戦で旧市街地が爆破されてなくなってしまいました。ヨーロッパの都市にこういう都市が多いんですけど、かつての市街地を再現する方法と、昔の市街地がなくなったので新しい建築のまちを作る2通りがあり、ロッテルダムは現代建築のまちとして現在は非常に有名です。
ハウスインロッテルダムというプロジェクトがありました。先ほど言った通り、中世の建物や超現代的な建築まで様々な建物があります。特に20世紀にフォーカスをあてて、住宅を24棟選んで、1年間住民には違う場所で生活してもらって、借り上げた住宅をその建物が造られた当時のインテリアに復元して、その後、ここでどういう暮らしが営まれてきたか、市民の暮らしそのものを展示材料にしました。これは、非常に市民の間でも好評で、現在も4つほどがミュージアムとして継続されています。暮らしや生活そのものを展示したものです。
2004年にはフランスのリールというまちで、欧州文化都市が行われました。工業都市で灰色というかまちに彩がありません。なので、まちに彩を取り戻そうというコンセプトを掲げてやりました。1つ紹介しますと、まちなかでオペラをしました。オペラというと貴族やブルジョア階級というイメージがありますけれども、リールのまちは労働者が非常に多くて、オペラを聞く人があまりいませんでした。オペラの文化をまちなかに取り戻そうということで、まちなかでオペラ歌手が歌ったりなど、事業を展開しました。これがすごい結果を生み出します。もともとリールのまちのオペラ座はすごく立派です。2004年の欧州文化首都により市民の賛同を得て、オペラ座が復活しました。
市民は文化から縁遠い人もいっぱいいます。全員が欧州文化首都といって美術館に行くわけではありません。こういう人たちにも美術的な体験をしてもらうにはどうするのか考えて時に、美術館に来てもらうのではなくて、市民が必ず行くような場所に美術展示をすればいいじゃないかと考えたわけです。そこで市民が必ず行く市役所に、ルーブルの名画を飾ればいいということになりました。普通に考えて、市役所に展示すると言ってルーブルが貸すわけはありません。だけれども、市役所が誠意をもって説得していって、湿度管理の問題、照明の問題、警備の問題ですとか、あらゆる懸念を払しょくするように1年間かけました。その結果、何の問題もなく作品を返すことができました。もちろん市民も大好評でした。これが思わぬ副産物を生みました。実は、当時並行してルーブル美術館はフランス国内に分館を造りたいという思いがありました。この分館をどこにしようか考えているときにリールのプロジェクトに出会い、リールは近隣のまちに分館を誘致することができました。ちなみに、分館の設計は、21世紀美術館を設計したSANAAが担当しました。
リールの人たちは勢いづいて、文化に投資することはとてもいいことだと思って、2004年だけで終わらせてしまったらもったいない、3000年までしようということでリール3000を立ち上げ、2年毎ですけど、3000年まで頑張りましょうと力を入れています。こういうことができたのも、文化に対する投資が大きな効果を生むことが実感できたということが大きなポイントとなっています。
続いて、オーストリアのリンツです。人口19万人の中規模都市ですけれども、メディアアートの国際的なフェスティバル「アルス・エレクトロニカ」を開催していることで有名な都市です。2009年の欧州文化首都の時には、ちょうどアルス・エレクトロニカが30周年を迎えました。ちなみに、このアルス・エレクトロニカを参考にして日本は文化庁メディア芸術祭を立ち上げました。また、リンツの近郊でヒトラーが生まれたことから、世界大戦でナチスが多くの事件を起こしたため、この負の歴史をアートで再現しようという取り組みが行われました。チョークで、かつてここで何があったかを書くわけです。ただ、チョークなので人や車が通ったり、雨などが降ると薄れていきます。このプロセス自体が、リンツ市民がかつてのことを忘れていった忘却のサイクルと同じであり、もう一回歴史を直視しなければいけないというメッセージになっています。
2010年、ドイツのエッセンです。ルール工業地帯の中心地です。石炭業や鉄鋼業は、構造的な問題を抱えていますので、どんどん地域の人口は減っていきます。ここで行ったのが、「高速道路の静かな日」というプロジェクトです。工業地帯なので高速道路があり、それを1日止めてしまおうというものです。片車線は自転車専用、もう一方の車線は2万台のテーブルが用意してあり、市民が使っていいことになっています。ただ、何かちょっとした文化的なアクティビティをやる必要があります。料理を作って振る舞ってもいいし、サークルで歌を歌ってもかまいません。すぐに2万台が埋まったといいます。住民からはもう一回してほしいと言われる筆頭のプロジェクトになっています。
 これからオリンピックの文化プログラムが始まっていきます。そのときに「プラストーキョー」戦略を取った方がいいと考えています。ちなみに、ロンドンオリンピックの時もロンドンプラスという観光キャンペーンが行われていました。ロンドンのほかに1都市、2都市足を延ばしてもらおうという取り組みです。ロンドンオリンピックの担当者が2月に東京に来てプレゼンテーションをしているんですが、それを受けて観光庁はロンドンプラス転じてトーキョープラスということを言っています。
ただ、私は逆転の発想が必要じゃないかなと思っています。どういう発想かを考える前に、2020年がどういう状況か考えたいと思います。国交省の予想では、2020年には首都圏の空港の成田・羽田は処理能力が超過するという風になっています。ただ、オリンピックの開催地と需要予測の変化は織り込まれていません。さらに言うと、国が目標にしている2020年に外国人の訪日者数2000万人も考慮していません。現状の数値で伸ばしていって超過しますとのことなので、2000万人では確実に超過します。同時に都内のホテルは、2020年に2000万人の計画を達成したとしたら、都内東京の宿泊需要は377万人分需要超過になるとの予測が政策投資銀行から出されています。
であれば、私は地方都市の空港を活用すべきではないかと考えます。小松空港は国際線があります。国際線が発着する地方空港は多数あります。需要予測から考えて、処理能力がオーバーすると考えられる成田や羽田はこれ以上無理なので、地方空港から入国してもらえればいいんじゃないかと考えています。さらに、イギリスのときと日本が国土構造上違うのは、日本は世界に誇る新幹線ネットがあるということです。今度金沢もネットワークの中に入ってきます。東京都と最短で2時間28分に結ばれます。時間に正確でかつ安全です。これだけの高速ネットワークがあるわけです。ということを考えると、国際線が発着する空港に来てもらって、なおかつその空港がある地方都市に滞在してもらって、むしろオリンピックの試合を見たいんだったら新幹線ネットワーク等を使って逆に東京に通ってもらえばいいんじゃないかと。
だから、目指すべきものはトーキョープラスではなくて、プラストーキョーじゃないかと私は思っています。プラストーキョーこそが地方再生の切り札になるということです。ただ、これをやったとき東京には入ってこれないので、どうぞ地方都市にと言っても、逆に困りますよね。我々も、もしロンドンオリンピックに行くときに、ロンドンがいっぱいなので、どうぞ地方都市に来てくださいと言われたら、どこにいけばいいのかということになるので、そこを差別化するのが文化であり、歴史的な蓄積ではないかと思います。それをいかに提供していくか、いい意味の競争が地方都市で起こる。それがプラストーキョーになるのではないかと考えています。

佐々木
 これまで、宮田さんの発表からずっと流れてきて未来工芸の実験、そしてソフトウェアを重視した大人の金沢、そして世界で初めての木造の都心づくりという新たなるハードウェア、これが目前の新幹線の開業ではなくて、2020年を目標年次に再設定して、金沢がどこまで優位性に持っていけるか、皆さんでもう一度考え直すという形はどうでしょうか。その時に、金沢が持っている強み、今日も出てきましたが、和敬清寂の精神があり、そして長年培ってきたクラフトマンシップがまた新しい形で継承された、またまち並みの中に新しい技術で木造の建物を増やしていく。これを考えたときに、今ずっと紹介されたヨーロッパ基準の芸術文化まちなみではなくて、もっとも日本らしい形のものを金沢が見つける、金沢で体験する。こういった戦略をきちんと持つことがトップクラスの創造都市ということになるし、海外からも俯瞰をもって理解してもらうのが大事だと思います。

吉本
金沢は、今日の最初のプレゼンにあった工芸から新しいものを作りこまれてきているのはすごいなと思います。工芸や伝統的なまちというイメージがあると思うんですけど、そこに21世紀美術館がオープンしているというのはすごい幅の拡大につながっていると思いますし、新しい創造性をこのまちが秘めている象徴的な存在になっている気がします。21世紀美術館の来場者数は年間140万人くらいですよね。世界で最も入場者数が多いルーブル美術館は年間1000万人です。ルーブルが1000万ですよ。金沢が45万人都市で140万人入る。しかも現代美術で。この数字の力強さと言ったらすごいことで、ほとんど奇跡だと思います。
今朝たまたま、21美術館の秋元館長とお話をさせていただいたんですけど、工芸の新しい流れを現代美術館でつくっていくというのは、世界的に見ても非常に珍しいですし、金沢でなければできない取り組みだと思います。
そして、館長曰く、最近調べたデータによると、その100数十万人の方々というのは、おそらく兼六園に来た人がついでに見ているのではないかという見方が多かったということですけれども、実は重なっている人が30%しかいなかったということがわかったということで、まったく別の人たちを引き寄せている魅力になっているとわかりました。そういったところも、金沢がトップクラスの創造都市という世界でどこにもない創造都市を実現できる可能性があるというか、もうその域に入っているのではないかというふうに思いました。

太下
 やるべきことは無数にあると思うんですけど、食文化のことについて話したいと思います。ユネスコの創造都市ネットワークに最近、鶴岡市が加盟しましたけれども、私はずっとアドバイザーをやってきまして、実は食文化というものを海外に伝えていくことがすごく大事なんですよね。
例えば、日本の食材おいしいよという言い方ではだめです。おいしい理由の構造やストラクチャー、パラダイムをきちんと伝えていかないと、特にフランス人のようなロジカルな人には伝わらないと思うんです。
例えば、日本酒はその先陣を切っていけると思います。そんなに高い日本酒を買わなくても、杜氏の名前がラベルに入っているものって結構ありますよね。杜氏というのは酒のクリエイターでありアーティストです。世界中のお酒を見ても、酒のクリエイターの名前がラベルに書かれているものを私は知りません。ワインは醸造所の名前は入っていても人の名前ではないです。ウイスキーもブレンダーの名前を書いてあるケースもありますが、ブレンドは最後の工程です。そう考えると、実は日本酒というのは極めて精巧な工芸品なんです。というようなことを言って日本酒を飲んでいただけると、たぶんきちんと伝わると思います。そういう伝え方をもっともっと工夫していく必要があると考えています。

佐々木
 私はクラフトイズムという言葉をもっと英語やフランス語で発表した方がいいと思うんです。金沢のまち全体がクラフトでできているし、クラフトを鑑賞する力が高く、ものづくりはすべてにわたってクラフトマンシップの感性が行き渡っているんだと。そこに新しいアートと新しい技術が加わってくる。これはほかに日本には存在しないと。あるいは、アジアでもそこまでの域に達していない。ということをどういうふうに広めるかです。
さっきは、地方空港プラス新幹線という戦略が一つ出ましたけど、オリンピックは逆転の発想で行けると思うんですね。東京を使って金沢を発展させるということはいくらでもできます。このあたりをにらんだ中期計画を、創造都市第二バージョンというものを考えるようにしてはどうかと思います。



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