第5回金沢学会

金沢学会2010 >第2セッション

セッション2

第2セッション「学生よ集まれ」

●ワークショップ報告 
松本 浩平氏(金沢経済同友会幹事)
●コーディネーター  
水野 一郎氏(金沢工業大学教授)
●パネリスト     
小原 啓渡氏(大阪市立芸術創造館館長/(株)アートコンプレックス代表取締役)
松田  達氏(松田達建築設計事務所代表、建築家)

 

 

 

 

 


金沢は、日本海側で唯一学生流入率プラス。2000億円の市場

(米沢) はからずも第2セッション、第3セッションのテーマに第1セッションからつながったので自分自身でもちょっとびっくりしているのですが、ご存じのとおり、金沢に学生が3万1000人近くいます。金沢の人口からすると非常に高い数字なのですが、ただ、学生の皆さんがなかなかまちなかへ出てこないということで、本年、金沢市では「学生のまち推進条例」というのをわざわざ作ったほどなのですが、今日は、若い人たちをいかに都心に集めるかというテーマで水野先生にコーディネートいただいてやらせていただきたいと思います。では、お願いいたします。

(水野) 金沢の都市圏に3万1000人の学生がいるいて、それから17の大学・短大・工専をはじめ高等教育機関があります。さらに専門学校を加えますとかなりの数の学生たちがいるのですが、その存在感が少し見えないなというのがこのセッションの始まりでした。金沢の学都としての歴史みたいなものを考えますと、実は一向宗というのもある種のイデオロギー、思想革命でございまして、その後の前田家の時代も学術・文化については極めて高いものを残してきております。そして、明治以降もさまざまな思想家、あるいは学者、あるいは文学・絵画・建築はじめさまざまなところで活躍する人材を輩出してきております。そういう意味では、学都の歴史も450年続いているかと思っています。
 そういった学都のテーマと今回の全体のテーマの都心とをどう結び付けるかはなかなか難しいのですが、一つ学生という切り口で見てみようということです。そういう意味では、第1セッションに比べて、もう少しリアリティのあるというか、現実的な話題になろうかと思います。
 議論をしていただく方をまずご紹介したいと思います。最初に、地元の経済同友会の幹事であります松本浩平さんの方から、学都としての学生の現況みたいなものをお話しいただき、松本さん自身がさまざまに学生に対して働きかけている部分もありますので、それについてご報告をいただきたいと思います。併せて、金沢市が今取り組んでおります学生に対する推進のことについてもお話しいただこうと思います。
 それから、パネラーとして小原さんにお願いしたいと思いますが、今までのこの会議でも紹介されていますが、大阪の都心に非常にエネルギーあふれたアートイベントを数々展開しておられます。若者を引きつけ、参加させ、そして生の体験をさせて卒業させていっている、味わわせているという、非常にうらやましい限りです。私どもの金沢では17の大学・短大があるのですが、それらが連合してどこかを占拠するがごとくにぎやかになったなどということはあまり知らないわけでして、そういう意味からいうと、その辺のことを少しご報告いただきたいと思っております。
 3番目は松田達さん。建築家です。大変若い建築家ですが金沢出身です。建築ラジオで学生たちを集めて、あるいは若手の建築家を集めて、いろいろな建築に関する情報、あるいはコミュニケーションをとっておられるようです。今ここでは金沢の17大学・短大の学生などと言っていますが、そうではなくて日本中から学生を集めてしまうなどという仕掛けもしているようですので、その辺のご報告もいただきながら、金沢と学都と学生の間について考えていきたいと思います。

(松本) 私の方からワークショップ報告ということで、金沢の現在の調査を基にしました学生を中心とした現状をご報告申し上げまして、そして当社が取り組んでいる部分についてご紹介、ご案内をさせていただきたいと思います。
 先ほど菱川さんから広告会社について大変辛らつなご意見をちょうだいいたしましたが、私、地元で広告を生業にしている者でございまして、愛、誠実さを持って広告に取り組んでいる会社もあるということでよろしくお願いいたします。
(以下スライド併用)

出向かいない理由は交通費、都心に魅力がなくなったこと
 まず最初に、広域の金沢を上空から見た地図をご覧いただきます。大学が12校、短大が5校、県立看護大学、先端大学院大学、そして小松短大、石川工業工専は地図の外になっておりますが、大学が12校、短大が5校、そして工専が2校、石川県内には合わせまして19の高等教育機関があります。内灘の医科大、白山市の金城大学の方は海沿いですが、海沿いの方には少ないですが、見ていただければ分かるとおり、環状大学ということで環状線に沿って大学が分布をしています。大学が郊外化して、現在このような分布になっているところです。

 この19の高等教育機関の学生数をご紹介をしたいと思います。現在、ちょっと数字は丸めてありますが、19の高等教育機関に3万1000名の学生が学んでいます。うち石川県の出身者が37%、1万1500名、残りの63%の2万名弱が県外出身者という分布になっています。北陸三県、石川県の両隣を合わせますと北陸三県で約6割、1万8000名の学生という分布です。これに先ほど水野先生からもご案内がありましたが、専門学校が県下35校ありますが、こちらに約4200名の学生がいますから、大体3万5000人ぐらいの学生が県下に学んでいるということと、これも少し雑ぱくですが、その学校にかかわっている教職員の皆さまを合わせますと約4万名がいわゆる大学、高等教育機関、それから専修学校にかかわる人々ということで、人口に比しましても学校にかかわる方々が非常に多いということが分かると思います。
 学生がもたらす経済効果ということで、2009年度の学生生活実態調査というものを基に当社の方で推計を出しました。まず、ざっと申し上げますと年間の消費額が3万1000人に対して約320億円、一人当たり1年間に約100万円です。自宅生と下宿生ということで分けておりますが、自宅生が大体月額5万7500円、それから下宿生が11万1700円で生活をされています。特に下宿生の食費は月額で大体2万2300円、交通費は月額4300円ぐらいです。交通費に関しては、学生のアンケートとリンクしてくるところです。感覚的に、学生諸君はこれぐらいの経費といいますか費用で生活をしているということで認識をいただければと思います。
 次に、学生の生活意識について申し上げますと、金沢市が2010年の4月に「金沢市における学生のまちの推進に関する条例」というものを制定し施行しておりますが、その条例を施行される前に、「金沢市学生のまち推進検討懇談会」というものを立ち上げ、金沢市在住の学生を対象に行った意識調査アンケートを基にお話ししたいと思います。今回のセッションのテーマにかかわるところを大きく抽出しました。
まず、「生活面で困っていること」として挙げられているのが、

 1.「生活必需品などの購入に費用がかさばる」
 2.「生活費を維持するためにアルバイトをせざるを得ない」
 3.「公共交通の運賃が高い」
 4.「交通が不便である」
 5.「余暇の時間を過ごすための有益な情報の入手が困難である」
 6.「入居費・家賃が高い」
 7.「緊急の場合に相談する人がいない」等々と続いております。

それから「学生が望む支援」ですが、
1番目が「生活必需品の購入に対する支援、学割などを行ってほしい」
2番目に、これは困っていることにダイレクトにつながっておりますが「公共交通の充実をしてほしい」。3番目に「インターンシップ、就活に対する支援」。4番目に「住まいに対する支援」等々が続いています。

先ほどの大学が郊外化をしたというところで、学生諸君が「金沢の中心市街地に行く頻度」、そして「どういう思いを持っているか」というところですが、金沢の中心市街地に出かける頻度としまして一番多いのが月に1〜2回であります。月に数回以下というのは8%で、半数以上の方が月に1〜2回しか中心市街地の方に出ないという結果が出ております。では、なぜ学生が中心市街地の方に出向かないのかという理由ですが、1番が、「バス代や駐車場の料金が高い」。2番目「あまり用事がない」。3番目「遠くて不便」。4番目と5番目は似ている部分があるのですが、「周辺で買い物が足りている」、それから「中心市街地に魅力がない」、これも非常に辛らつな回答ではあるのですが、今の学生生活というものを端的に表しているのかなと思います。
 次に、果たして金沢で学んでいる学生諸君が「金沢に対してどのように思っているのか」というアンケートの調査をご報告申し上げます。
 「金沢は学生にとって魅力的か」という問に対しまして、「ややそう思う」とお答えになられた学生が54%、「どちらとも言えない」から「あまりそう思わない」「全く思わない」を含めますと約4割の人間が金沢のまちに対してあまり魅力を感じていない、すなわち学生生活と金沢というものがあまりリンクをしていなということが分かるように思います。
 「学生にとって魅力のあるまちとは何ですか」という問に対して、「学割など学生への生活の支援が充実している」というのが1番。それから「生活がしやすい」「安全・安心に暮らせる」。それから多分金沢に対してという思いがある学生の回答でもあると思うのですが、「都市としてのブランド力や魅力があること」につながっているところが、学生諸君の現状であるというように思います。
ここからは、当社として取り組んでいることについてお話し申し上げたいと思います。
 金沢は四高の流れをくむ金沢大学を中心に、多くは単科大学ですが、自然発生的に大学が集積しているということで、地方都市としては非常に稀有な都市であるというように思います。そして、金沢はこういった背景を持って学生を受け入れるポテンシャルが高いということ、それから歴史に裏打ちをされた学びの成熟度が高いということ、そして日本海側で唯一学生の流入率がプラスの地域であるということ。それから、大学は地域によって大きな産業であるということで、先ほど学生の消費に関してお話を申し上げましたが、大学の運営費等々すべて含めますと年間2000億円程度の金額推計になります。2000億円の産業といいますと、非常に大きな、地域における経済効果を発生させている一産業群ととらえることができるのではないかと思います。
 そういうことを前提に、この地域におけるキーワードというのは、学都金沢であり、これからのキーコンテンツは、やはり大学であり、学生というのが大きなコンテンツになるのではないかと考えます。
 そういったものを背景に、私ども2002年でありますが、そのままダイレクトに『學都』という雑誌を発刊しました。目的は、学都たる金沢・石川の歴史を学ぶ、これからの学び、そしてまちの在り方を考える。それから大学というもの自体が文部科学省直轄で、地域とのかかわりというものが薄い部分がありますので、まずは地元の方々にそういったものを知っていただく、認知をしていただく。それから産学官の連携ということも言われて久しいところではございますが、そういった連携の交流の促進の一助になればということで、こういった情報発信を始めました。
 この秋で40号を迎えまして、さまざまな提言と提案を行わせていただいておりますが、その中で提言、提案をするだけではなくて一つ事業として展開した案をご紹介したいと思います。
 2006年ですが、「学都屋台食談」というものを開催しました。ちょうどこの年が四高(第四高等学校)設立120年でして、記念事業の一環として「学都の心再び」というテーマで、金沢の中央味食街、ちょうどラブロの裏の佐野家のあります、その裏手になりますが屋台街がございます。5〜6人入るといっぱいになるような屋台なのですが、そこに金沢の大学の学長先生、それから地元の経済人の方々に一つ一つの屋台に講師として入っていただいて、そこに金沢で学ぶ学生を招き入れて、人生観であるとか職業観であるとか、それから金沢で学ぶ意義というものを酒食を共にしながら語っていただくということをスタートしました。
 規模は小さいのですが、いろいろな効果が得られたというように思っていまして、まずは普段なかなかまちへ出てくる機会のない学生に対して、その中心市街地、しかも金沢の方でもなかなか行ったことのない、足を踏み入れたことがないような、いわゆる屋台街であるのですが、その地域に学生に、まずまちなかへ出る機会を与えて、そういった場を知ってもらうということ。それから、大学に行っていても学長先生にお目にかかるというのはほとんどなくて、それこそ入学式と卒業式で祝辞を聞くぐらいかというところだと思うのですが、学長先生であったり、それから企業のトップの方々と直接お話をする、まさにライブの場を提供するということ。それから各大学から参加をいただいていますので、大学の学生同士の交流というものが芽生えていきました。
 模様としてはこういった形でありまして、屋台でそれぞれにいろいろお話ししていただいているのですが、さまざまなものを掛け合わせることによって地域の潜在的な個性が顕在化をしたり、他の地域にない力になるのではないかということで、本年5回目を開催させていただいたところです。

 聞くところによりますと、昔、四高生というのは、まちなかに下宿をしていて、そして食事に行っても、「出世払いでいいよ」というように食べさせてもらっていたというところも聞いておりますし、昔の金沢というのは学生を育む気風というのがあったというようにも聞いております。そういった金沢のまちというものを、せっかく金沢で学ぶ学生諸君に感じていただければということで、こういったことを企画して開催をしております。
 もう一つ、学得サービスということで、これは金沢まちづくり協議会と一緒になって今年の春に新入生を対象にパンフレットを作りまして、新入生の大学生にまちなかを知っていただこうと、まちに出てきてもらう機会を創出して体験をしてもらう。体験をして楽しんでもらうことによってリピーターになってもらう。学生の早い段階から金沢のまちを知ってもらって楽しんでもらうということでマップを作って、その加盟しているお店で学生証を提示していただくと若干ではありますが割引になったり、食べ物屋さんでは普通盛りが大盛りになったり、一品無料で出たり、そういった学生に対しての優遇サービスということで開催をしました。

 それから最後になりますが、先ほどお話ししました金沢市の「学生のまち推進条例」というものがこの4月に施行されまして、もう既にいろいろな取り組みをされていらっしゃいます。「金沢学生まちづくりコンペティション」や「金沢大学都市フォーラム」、それから「まちなか学生まつり」は木倉町で学生主体でイベント、お祭りを開催されたり、先ほどご紹介をした屋台食談を若干変形をしたものですが「まちなか夜塾」ということでいろいろな金沢の文化人や経済人とまた酒食を共にして、まちについて認識を深めていただくというような取り組みもされているということです。
 少し時間をオーバーしてしまいましたが、私の方からワークショップの報告とさせていただきます。ありがとうございました。

学びの成熟度が高い金沢
(水野) 17の大学・短大と言いますが、多くは戦後できた学校です。それらがほとんど郊外に立地しました。それから都心にありました金沢大学や女子短大というのも郊外に移転しました。都心にいなくなったということですが、ここで言う都心というのは、大体旧市街地を指しているというように考えていただいて結構かと思います。ですから、東の界隈から武家屋敷から、あるいは犀川を渡った西の方も含めて都心と考えていただいて結構かと思います。そういった旧市街地と縁がなくなってきたということです。一方、郊外は、先ほど報告がありましたように、それぞれに学生街を形成しておりまして、そこで下宿、飲食、物販等が充足している状況かと思います。その辺のことがお分かりいただけたかと思います。
 それで「都心」というテーマをこの会議では以前「みやこごころ」というように読み替えて、要するに、何か面白い魅力的なものがあるところというように読んできました。郊外というのは、よく考えてみますと、日本中、戦後できた同じ時代のまちで、都市計画整理法なり、建築基準法なり、道路設計基準なり、学校の設計基準なり、すべてが画一的にできたまちです。そういうまちの中に学生たちがいるということもあろうかと思います。
 小原さん、そのような金沢の状況であることを今説明したわけですが、ご報告をいただきたいと思います。

(小原) 私の長男が今年大学を卒業しました。今度は長女が大学に入ってくるということで、学生が家族にもいるというところで意外に身近な話です。僕も何度かこの学会へ呼んでいただいているので話がかぶるところがあるかと思うのですが、どういうことをやっているのかだけご説明して本論の方に入っていきたいと思います。
 まず、アートコンプレックス1928というのは、京都の古い近代建築をつぶそうとしていたところを、もったいないではないかと、古いドーム型のアールデコ調の近代建築を再生していこうということで、京都も学生さんが多いので、学生さんの劇団、エキジビション、ファッションショー、ダンスイベント、演劇、ショーなどいろいろなことを展開しています。
 大阪市立芸術創造館はインキュベーションセンターです。ダンス、音楽、演劇などの方たちが練習をしたり、あるいは音楽の練習スタジオや録音スタジオがあったり、まさしく若い人たちを支援していくようなところです。
 この写真はクリエイティブセンター大阪といいまして大阪にあります造船所の跡地が廃墟になっていたのですが、先ほどの1928ビルもそうですが、廃墟が好きなものですから、4万平米ぐらいある廃墟を何とかアートで再生できないかということで、二つのドックがありまして、土日だけですが中も外も使ったようないろいろなイベントをやっています。

 昔、実寸大で船や橋を設計していた場所もありまして、ここでファッションショーをやったり、美術のインスタレーションをやったりしています。
 徐々に改装していき、1階と2階の床を抜いただけなのですが、劇場を造ったり、ギャラリーと言えるほどのものではないのですが、ギャラリーやカフェ空間を造って、外も使えますので、外でもカフェをやったり、スタジオではクラブイベントやコンサートを週末にやったりしています。
 そのすぐ近くに旅館の空家が出まして、その旅館をアーティスト専用の滞在施設にしようということでアーティスト・イン・レジデンスと言うのですが、旅館を自分たちで改装しまして、アーティストが安く長く泊まりながら、そこで制作するという施設をやっています。

 これらが、いま大体やっている施設なのですが、プロジェクトが好きなものですから、ほかにもいろいろなプロジェクトをやっています。
 最近では、ラブアタックプロジェクトです。フランスのアーティストを大阪に呼んできまして、作品を川に浮かべるということで、割と人気がありました。今年も、もう一回出せというリクエストでまた出します。
 DOORSというイベントは、ワークショップが最初は38ぐらいだったのですが、今年は210になりまして、210のワークショップを集めたフェスティバルをやっています。参加費500円でいろいろなワークショップを受けられるということです。実はこの後、明日から仙台でもDOORSが始まります。明日ここから直接仙台の方へ入ります。
 学生さんに関係するようなものでしたら、爆都大阪というのですが、爆裂都市という意味で爆都なのですが、インディーズ系の若い人たち60人ぐらいの人たちを集めまして、とにかく無作為にぐちゃぐちゃの状態でやるというようなことも毎年やっています。
 あとナムラアートミーティングというのは、どちらかというと音楽ではなくてアート系のイベントなのですが、これも名村の造船所の跡地を使い、今メガアートに凝っていまして、メガアート系の作品をやっています。
 とにかく僕の場合はコンプレックスという考えが好きなものですから、いろいろなことをコンプレックスにしています。大きな倉庫にスクリーンを張りまして、前でスクリーンを見ながらのライブイベントもずっとやっています。
 最近やっていて割と面白いなと思うのは、マンガミュージアムが京都にあるのですが、そのマンガミュージアムの壁面を使いまして、カスタマイズした映像を映写しています。これを来年度、インターナショナルにコンペティション形式にして、プログラミングはうちでやりましたが、そのプログラミングを開放して、いろいろなアーティストに一つのキャンパスを利用していろいろな映像を発表してもらおうかなと思っています。もともとまちの中にプロジェクションしていくということをずっとやっていまして、それの延長です。パブリックアートが非常に好きなものですから、先程のアヒルが当たったというのもあるのですが、彼はギリシャのアーティストですが、今年11月にまたやります。実はこれは25mあるのですが、こんな大きいものを置いたら駄目だと警察に怒られまして、なぜ駄目なのかというと、道路から見える。車を運転している人がわき見をするだろうと、わき見して事故を起こすから駄目だと言われました。かなり交渉したのですがどうしても駄目だということで、国立国際美術館の前の広場だったのですが、結局どうしても出せなくて、小さい子の作品の方だけ置かしてくれるということになりまして、ほかは駄目だということになったので、大きなやつは名村の方に持っていこうかなと思っています。パブリックアートをやるときはいつも警察との協議になるのです。何とかその辺を、もう少しアーティストがやりやすいような形にしてほしいと橋下知事に頼みまして、「まちはキャンパス構想」というものを立ち上げていただいて、金はないから行政ができるのは規制緩和だろうと、それはいいだろうということで、今年からパブリックアートに対しての規制緩和を少しずつ行政の方でもしていこうというような動きもあります。

 昨日長崎から10時間ぐらいかけて車を運転して朝大阪に着きまして、そのままサンダーバードに乗ってきたのですが、ちょうど今ノンバーバルパフォーマンスというイベントの作業をしています。ノンバーバルパフォーマンスというのは何かといいますと、言葉のないパフォーマンスなのですが、これを18年間ずっと赤字だったハウステンボスがHISさんが入られて今年黒字になったということで、ハウステンボスでやらないかという話があったので、では行きますということで、新幹線で行くと高いので、技術者を7人ぐらい連れて車で打ち合わせに行って、それで夜また車でテンポスから帰ってきたのです。
(ビデオ上映)
 どんなものかというと、皆さん、ご存じかと思うのですが、東京で「ブルーマン」というのをやっています。「ブルーマン」はニューヨークのブロードウェーで18年ぐらいロングランしています。韓国でもナンタというノンバーバルパフォーマンスがいまして、それが13年ぐらいロングランしています。今では4カ所ぐらいでやっていまして、年間一つの劇場で30万人ぐらい人を呼んでいるというような、言葉がなくても、日本語が分からなくても、英語が分からなくても楽しめるものを作って、ロングランでずっとやっていくというプロジェクトです。

 最近、中国や韓国など東アジアの方たちがたくさん来られるということで、その人たちに対する夜の楽しみとして、今ビジットジャパンなどとものすごく盛り上がっています。今年国家戦略を提案しろという政策グランプリというコンペがありまして、そこでこういうことをずっと定着させていくのが大事なのではないですかということを言いましたら、それで準グランプリを頂きました。それで国の支援などをいただきながら、こういうものを定着させていこうと言っているところで、トライアウト公演というのを何回かやって、そうしているうちにテンボスで年末から1カ月やれるようになりました。1カ月やって、また大阪に帰ってきまして約1カ月の公演をする。そういう形で何とか無期限のロングランに入りたいということをやっています。

 いろいろなことを同時に進めているのですが、「小原さんは一人でいつも何かやっていますが大丈夫なのですか」とよく言われるのですが、僕の場合は立ち上げるのが非常に好きなのです。立ち上げるとすぐに若い人たちに任せていくと。「誰かやらない?」「やります」と言ったら、「はい、どうぞ。やって」と言って、とにかく若い人たちにどんどん任せていくということをしています。
 ボランティアスタッフをうちはサポートスタッフと言うのですが、サポートスタッフが非常に多いのです。若い人たちがほぼ無償で、交通費ぐらいは出すときはありますが、何十人もいろいろなイベントに集まってくれまして、その子たちが、ただ1回のイベントに来るのではなく、「次、何するのですか」という形で、逆に向こうから声を掛けてくれる。「次、こんなことをやるよ」と言ったら、「じゃあ、それも行きます」と、またその子たちが新しい友達を呼んでくる。そのようなサイクルができていまして、若い人たちの力を借りながらやっているというのが現実です。
 学生というのは、僕は兵庫県の出身なのですが京都の大学へ行きまして、普通だと卒業すると地元に帰ってしまうと思うのですが、僕は京都に残って居ついた。なぜ居ついたのだろうと考えると、やはり、まちが持っているポテンシャルというか、ここには何か可能性があるのではないかというものを感じさせる感覚だったのかなと思い返すのです。その中の一つに、僕が大事にしているのは、ワクワク感というか、よく分からないのだけれど何かワクワクする感覚というものがまちにあると、そのワクワク感というのは、ちょっと得体の知れないものだったり、水野さんがちょっと控え室でおっしゃっていましたが、非日常なものとかがワクワク感というものを醸成していくのかなと。そういうものがまちの中に何となく香っていることで、僕は文化というのは何かということを定義しますと、いろいろな要素が混ざりあって、そのいろいろな要素がいろいろなように化学反応を起こしたりしながら醗酵して、そこから出てくる匂いだったり熱だったり、この匂いや熱が文化なのではないかなと思っています。そういう意味で、いろいろなものが集まってくるという多様性ということをものすごく大事にしています。

 アートという定義は私の場合は非常に広くて、クリエイティブな活動であればすべてアートと言っていいのではないかと自分の中ではとらえて、多様性のあるというか、今の若い人たちも十把一からげにできないというか、学生といっても、いろいろな嗜好を持った人、いろいろな趣味を持った人、いろいろな興味を持った人というように本当に多様化していると思うのです。多様化の中でどういうワクワク感を作っていくのかが一つのポイントなのかなと私は思っています。私の場合は面白い、興味のあることはとにかくどんどんやってみる。斬新的なことを挑戦的にやっていく。失敗してもいいではないかと、面白いことをどんどんやっていこうよという雰囲気を常に出すようにしていまして、こんな仕事はこの子には無理かなと思いながらもどんどん渡してしまう。ほとんど全部渡ししてしまうというような状況で、どんどん任せていくと、その若い人たちというのは、なぜか任されると、もちろんつぶれる人もいますが、何とかそこからやっていく人というのはいるのです。
 皿回しという芸があって、それはいい悪いは別としてですが、皿を最初に回すのはちょっと難しいので、皿を回すのはおれはやるわなと言って皿が回る。これが回りだしたら、「ちょっとこれを見ておいて。これをやっておいて」と言って若い子に渡して、次の皿をくるくる回し始める。これを回し始めたら「はい、次誰かやらない、これ」と言ったら誰かがやる。次の皿を回し始めて「誰かやらへん?」と言ったらまた回す。だけど一応ざっとは全部の皿を見ておいて、やばそうだなと思ったら、「こうした方がいいのではない?」というように教えると、「そうですか。こうですね。ああ、回りましたね」みたいな、そのようなことを繰り返し繰り返し若い人を巻き込んで日々やっているわけです。「300円黒字が出ました」という子がいたら「良かったな。すごいな」という中からどっと広がっていくものがありまして、そういうワクワク感を醸成していけるように、大人が「これは無理やで」「これは難しいで」「これは駄目やで」とあまり言わずに、どんどん煽っていくとよいのではないかと思っています。

(水野) 小原さんの周りにいる学生たち、非常にビビッドな雰囲気が伝わってきます。皿回しのカリスマみたいな感じですが、すごいですね。それでは、松田さん、お願いします。

(松田) 今日は情報を発信する場所、情報と場所ということについて少し触れながら、今の学生の状況ですね、特に私は建築をやっていますので、建築の学生がどういう状況にあって、それが例えば金沢でどういうことが可能であるかということを幾つかの事例を紹介しながら考えていきたいと思います。
 一番最初に、「この人は誰だろう」と思われている人が多くいると思います。僕は建築家なのですが、ほかの方と少しだけ違うところは、都市計画の勉強を、一番最初に都市工学科というところで都市計画の勉強をして、それから建築に移って、その後、パリに行く機会があったので、そちらで研修をいろいろしてきたのですが、そのときにパリの都市計画研究所でフランスの都市計画を学んで日本に帰って来ました。都市と建築、その両者を願わくばつなぐようなことをやれればいいと思っております。
 今日は、三つのことを話したいと思っています。まず、建築がイベント化しています。これは意外な感じで、建築のように、そこにあるものが実はイベント化しているのではないかという話。それから地方都市化の話。これはまさに今日の趣旨と一致するような話だと思います。それから、先ほど水野先生から言っていただきましたが、建築系ラジオという試みです。これもまた地方都市から地方都市へという流れに乗った試みの一つでもあります。
 まず、建築がイベント化されたのはどういうことかといいますと、これは仙台の「デザインリーグ卒業設計日本一決定戦」というイベントです。2002年から続いていまして、これは東北大学や宮城大学など仙台の大学が幾つか連合しながら、学生と先生が協力しながら作り上げているイベントで、要するに建築の卒業設計の甲子園です。その場所が、せんだいメディアテークという伊藤豊雄さんという建築家が設計した建物です。伊藤豊雄さんは、分かりやすく言えば金沢21世紀美術館の設計者の妹島さんの師匠に当たる方です。ここで行われていました。ただ、数年してあまりに規模が大きくなってきましたので、今、展示はせんだいメディアテークでやって、本選そのものは東北大学のホールでしています。
 全国の4年制の大学を卒業するときに皆さん「デザインリーグ卒業設計日本一決定戦」に応募するわけです。その数が今700くらい集まっていまして、恐らく全国の学生が一番注目しているのは3月のこのイベントです。学生で展示する人が700人ですが、実はこのイベントの数日間に3000〜4000人くらいが仙台に集まります。これは結構大きな効果だと思います。審査員の方々が予備審査をして、その後、本選に移ります。ここにも多分1000人くらい入るのですが、これだけだと埋まりきれず、外側で中継を見ているとか、そういう壮大なイベントが建築界で毎年行われています。これが今建築界で最も大きな学生のイベントということが言えると思います。

 実は仙台に続けと各地でイベントが発生してきました。その一つが「建築新人戦」というイベントで、これは2009年からスタートしました。関西でやっていまして、1回目が京都、2回目が大阪でやっているのですが、これは建築学生の秋の祭典みたいな形で、卒業設計と違うのは3年生までの作品で勝負します。卒業設計とはもう少し早い段階で、ある意味の日本一を決定します。建築新人戦と呼ばれているわけです。今年、私はゲストコメンテーターのような形で呼んでいただきまして、原広司さんの設計した梅田スカイビルで公開審査が行われました。このときも、2年目にして500くらいの作品が集まりました。スタート2年目にして仙台に近い規模の大会になりつつあります。これは仙台のノウハウを知っている人がたまたま大阪に来たということで、こういうイベントをやったらどうか。ただ、仙台と同じでは面白くないから3年生までのイベントということでやりましょうと始まりました。

 応募登録の段階で既に仙台を上回って800ぐらいあったそうです。1年生から3年生までなので数は多くなるのですが、来年に向けて、アジア一決定戦のような形で、中国、韓国も誘ってやろうという形で急成長しているイベントです。これも会場が非常に広くて、ここに数百人の人たちが集まって審査をします。さらに、それをツイッターなどで実況する人も現れるのです。学生たちはとにかく誰が1番になるのか、作品を出している人も気が気ではないという感じで見ているわけです。これが学生のイベントとしては、恐らく今年の秋の一番大きなイベントでした。今の建築界で、次第に巨大イベントがある種機能しているという状況を物語っていると思います。

 地方都市からの発信ということなのですが、今度はこれと同じような形で、もう少し小さい、地方都市でもこういうことができるよという形で、幾つかのイベントをやっています。いろいろなところであるのですが、新潟三大学合同卒業設計展というのは「Session!」というタイトルで2008年から始まって、私も2年ぐらい審査員として呼んでいただいて、こちらに行って毎年審査をして、それからシンポジウムをします。まさに1年目は地方都市の可能性というテーマでシンポジウムをやっていました。建築系の大学だと石川県もやはり三大学で、建築学会に類するところがあるということで、割と近い状況であるのです。
 テレビ局のホールを借りて展示し、100作品くらい集まったのですが公開審査という形をとります。こういう形でやったときに、新潟の三大学の建築の学生なのですが、 熱がこもって一致団結してイベントを作り上げようという気運が非常に大きくなってきて、学生も仲が良くなってくるというイベントです。あともう一つ、自分がかかわったものだと名古屋の「でらa展」。名古屋弁で「でら」というのは「とても」という意味です。とてもいいものを集めようというイベントで、全国規模でやっています。開催場所が重要だと思うのですが、せんだいメディアテークであったり、大阪の梅田スカイビルだったり、金沢にはもちろん21世紀美術館があるではないかと、どうしてそこで、こういうイベントをやらないのだと最近思っています。

 規模としては大きな試みではないかもしれませんが、小さなことから少しずつ始めていることがありまして、ご存じの方がいるかもしれませんが、CAAK(Center for Art & Architecture, Kanazawa)というタイトルで2年前、今日いらっしゃる鷲田めるろさんと一緒に4人の建築美術関係者で立ち上げたものです。これは都市建築美術を横断する開かれた場所を作りましょうということです。
 今はスタッフも増えて、人数が多くなっていますが、寺町で町家を借りて、築90年ぐらいのところを自分たちで改装していろいろなイベントを始めました。でいろいろな人をレクチャーに呼んだり、自分たちで料理を作って交流会を行う。町家の一種の使い方としてもこういう使い方があるのではないかということでレクチャー&パーティーをしています。
 もう一つ別の町家、横山町の町家でも展覧会やビデオアートミーティングをやっています。アートインレジデンスに近いことは、われわれの町家でもやっています。外国人も結構来ます。
 では、全国の学生でどういうことが行われているか。建築学会が毎年やっているアーキTVというイベントがありまして、秋に24時間建築テレビみたいなものをします。そこで全国学生団体会議というのをやりました。そこにまた呼ばれまして、一体今全国の学生は何をやっているのか。大学以外で何をやっているのかと調べたときに、先ほどのCAAKも入っていますが、いろいろな学生団体があって、それぞれいろいろなことをやっているのです。そのイベントがたまたま大きくなると仙台みたいになる。仙台もこの中に入っています。

 こういう学生の動きをうまくつないでデザインしていくと、何か新しいものができるという状態はすぐそこにあります。あとは誰がどうやってつなぐかというところにあると思います。さらにそれを内容から分析して、こういう可能性があるのではないかという話もしました。
 もう一つ、建築系ラジオの試みについてお話ししたいと思います。2年前2008年に4人の建築批評家、金沢創造都市会議にも一度来られていると思いますが、五十嵐太郎さんと南泰裕さん、山田幸司さんと私の4人で始めたものです。建築系ラジオというと、最初は意味がよく分からないのですが、iPodのポッドキャストを用いた形の新しい音声建築メディアです。音声建築メディアというと割とまじめにやっているかと思いきや、かなり意表をつくことをいろいろやっています。

 これが実際のホームページです。一度、実際にどういうことをやっているのか流して聞いてみたいと思います。これはiTunesでポッドキャストの画面です。
 先ほど建築新人戦の話がありましたが、せっかく行ったので、これは取材をしなければと思って新人戦の先生方に話を聞きました。大阪であった新人戦の先生方にいろいろ話を聞いて、一体新人戦がどういう意図でどのようにして生まれてきたのかを聞いて、大体20〜30分の番組にしています。これはかなり早くから配信していまして、新人戦が終わってすぐ、ほかのどのメディアがまだ配信しない頃からに、一番先に自分たちで新人戦がこうだったよということを配信しました。

松田 達建築計画事務所 公式HP : http://www.tatsumatsuda.com/

建築系ラジオのポータルサイトのホームページ

 建築系ラジオのポータルサイトのホームページです。毎日配信されるようになっていまして、大体500ぐらいのコンテンツを既に配信しています。毎日というのは意味がありまして、例えばこれまでの建築雑誌は大体月に1回。それから今ツイッターなどがありますので、それはほとんどリアルタイム。毎日というのは、その中間的なものなのです。最近いろいろ大きくなってスポンサーにも付いていただきまして、建築系ラジオについて誰かがつぶやいたときに、それもすぐに出るというように、動きが早いホームページになっています。
 今度「建築家はあきらめろ」というイベントを企画して年末の12月19日に行うのですが、これは恐らくほかの分野でも例えば「デザイナーをあきらめろ」とか、「○○になるのをあきらめろ」というようなイベントをやると、みんなすごく反応すると思うのです。これは別にみんなにあきらめろというわけではなくて、本当に建築をやりたいのだったら、こういうイベントに参加して、それでもあきらめない勇気を持ってほしいという気持ちもありつつ、でも建築学科を卒業しても違うことができますよという、最近新しく生まれてきたような流れについても取り上げて一種の討議にしていきたいと思っています。
 これがiTunesで配信されていて、先ほども2〜3分の地下鉄の話が出ましたが、われわれもこれを配信して大体学校へ行くまで、通勤するまでの20〜30分の間にこれを一本聞いていただく。そのために毎日配信しています。
 これは音声で建築を伝える新しいメディアです。最近学生がなかなか本を読まないのではないか。でも聞くことはできるでしょうと。それから今までメディアに取り上げられなかった建築界のさまざまな声を拾い上げていきたいと。これは一種の音声情報アーカイブになっていきます。伊藤豊雄さんであるとか、セシル・バルモンドであるとか非常に有名な著明な方から無名な学生の声も全部取り上げています。それからもう一つは、地方都市でいろいろなイベントをやっているのです。地方都市から地方都市へ情報を流したい。それから最新メディアの実験としてポッドキャストを利用していて、半年以上毎日配信を繰り返しています。これが一種のムーブメントになってきまして、これはある大学でやったまだ初期のころのイベントです。このころから数十人くらい集まってきています。
 建築専門書店でやったときの討議は、実はお酒がありまして、先ほども三次会とか言いましたが、いい加減にやっているわけではなくて、お酒を飲んでいるときにしかできない話をその場で流してしまおうと。これはどのメディアも、やはりまじめな話と裏話というのがあるはず。裏話のうちの配信できないものはともかく、配信できるものはその場で僕たちは流してしまうと。そこでしかない本当に面白い話を流すということで、結構建築の学生がいろいろ見てくれて、今視聴者で1万人近くか、もう少し超えていると思います。運営スタッフも40名を超えて合宿をしたり、大小さまざまなイベントを催します。それから展覧会も「建築女子展」。「建築女子展」というと結構学生が注目して、何だという形でツイッターなどで話題になって、賛否両論ありながらも、女の子だからこんなことができるのかと言われながらも、大学3年生の女子が展覧会をする。これも建築の専門書店の一番中心的なところで展覧会をやって、われわれがそれをバックアップしました。

 最後に一つだけ、自分のやっているプロジェクトです。一番最初に飛田代表幹事から二次交通のお話が出ていたのですが、少し関連する話で、学生を中央に集めるということと非常に関係していますので少しだけ紹介させていただきたいと思います。「フラックスタウン・熱海」というタイトルで2009年に行ったプロジェクトです。新交通システムPRTというものがあります。これはLRTではなく、LRTより新しい形の、まだ世界でどこも実現していない、来年あたり初めて実現される個人用の公共交通機関です。熱海は非常に土地の起伏が激しいところで、老人は自分のまちでもタクシーを使ってしか動けないという高齢者の問題もあり、観光地としても昔のようなところまで栄えてはいない。では、どうするか。これはエレベータ会社からエレベータやエスカレータなど交通システムを使って何かやってほしいということを言われたのですが、いろいろ考えて、これはエレベータやエスカレータを使うだけでは駄目だと。新しく乗り物(交通機関)を造ろうと提案しました。東芝と書いてあるのですが東芝エレベータさんから来た話ですが、初めて乗り物の設計というのを自分でやりまして、これが新しい熱海の交通システムです。

 ロープウェーで駅からまちの一番端っこをつなぎます。なぜかというと、熱海は端っこまで行くと戻ってこられない。回遊性がない。だから。それを造ります。そうすると、熱海を自由に移動することができます。時には車的になって、それこそ毛細血管のようにまちの端っこまで自由に移動することができます。
 ステーションがあって、熱海ですので足湯があったり、既存のまちをほとんど変えずにその上を使い、例えば建物の屋上の方に駅ができます。
 これはイギリスのシステムで、実際にPRTシステムというのが実現されようとしています。イギリスは恐らく来年、それから、マスダールシティというのがアラブ首長国連邦でありまして、そちらももうすぐ実現します。恐らく日本でPRTを使った計画を提案したのはこれが一番最初のはずです。ロープウェーにもなり、水上も移動することができるような新しい乗り物を提案することで熱海を変えていきましょうという計画をしています。

 これが全景というか、さまざまな動きをする乗り物一つが既存のまちを開発せずに変えていくということを提案しようとしています。ありがとうございました。

(水野) 小原さんと松田さんから、さまざまな学生のための仕掛けですか。まちとかかわりあい方、あるいは市民とのかかわり合い方、多くの事例を見せていただきました。それを聞くたびに、金沢は17の大学・短大がありながら、郊外にずっと散在させているだけで、都市との交流というのでしょうか、金沢という都市は一向宗の時代から江戸も明治も大正も昭和もあるという歴史的重層性のある数少ない日本の都市です。そういった多様な価値観、そして21世紀美術館のような新しいものもあるという、その多様性を学生たちが十分に味わっているのかというと、そうでもなさそうだ。それから今ここにいるわれわれ自身がどれだけ学生と交流しているのだと、向き合って話し合ったことがあるのか、酒を飲んだことがあるのかなどと言われると、私はたまたま学校の先生をしているからありますが、多くの方はないのではないかと思います。そういう意味で言うと、地域も市民の方も、それほど学生と向き合っていない。学生の方も積極的に向き合ってこないというような状況が生まれているようです。
 最後に松田さんと小原さんに幾つか質問をしてみたいと思いますが、やはり学生たちが集まってくるためには、例えば先ほど第1セッションの方でソーシャルメディア、ソーシャルコミュニティの話がありましたが、何かそういう共通メディアみたいなものがありながらでないと来ないように思うのですが、その辺はいかがですか。

(小原) そうですね。ちょうど大阪市の方で市長重点の企画を今やっていまして、ソーシャルメディアフェスティバルというのを来年立ち上げる予定になっています。要するに、ユーチューブやツイッターもそうですが、そういうものだけを使った市民参加型のイベントを今企画を進めていまして、新しいメディアというのは非常に有効ですし、すごい広がりも見せています。
 ただ、サポートスタッフ等とのかかわりにおいて一番大事なのは、僕は人と人のつながりだと思っていまして、僕も一緒に物を運んだりも当然します。僕はいつも思うのは、ただ単にボランティアスタッフやサポートスタッフを募集するのではなくて、例えば具体的な仕事をいつも頼むことです。例えば着ぐるみに入ってくれる人、誰かいないかというような。あまりぼやっとした仕事をすると、その子たちも自分が何をしたらいいのか、自分の居場所や仕事をつかみきれなくて、来るのだけれども何となく居場所がなくてすぐ散ってしまうということも何度もありまして、そういう意味では、一人一人をきちんと見て、一人一人に具体的にいろいろなことを頼むというように僕はしています。もちろん、ソーシャルメディアを使った一種のバーチャル的なコミュニケーションというのもあるのですが、実際に会って人と人とがつながっていくということも非常に重要なことなので、来年企画しているソーシャルメディアフェスティバルに関しては、ソーシャルメディアを使うのだけれども、そこで人が動くとか、人が触れ合う、出会うというところにそれを持っていくような企画を今進めています。

(水野) 愛と誠実につながりますね。
 もう一つ聞きたいのですが、そういう刺激を受けた学生自身が立ち上げてくるというようなことはどうでしょうか。

(小原) 実際、うちのスタッフというのは全員入社試験をやったことがないのです。募集もしたこともないです。99%そういう子たちですし、当然、僕の周りのアート関係の人にもそういう子たちを全部紹介していくのです。もちろん、そういう現場というのは少ないのですが、そういう子たちが仕事に就いていくという例がかなりあります。仕事としてやっていく子もいるし、小さなプロジェクトだけれども、それを派生させてやっていく子たちもたくさん出てきています。

(水野) 金沢の場合は、市民芸術村でそういう試みをやっているのですが、学生中心というわけではなくて、一般社会人も含めてやっているのですね。そういうことの成果を金沢は知ってはいるのですね。ですから、そういうのを活かせるといいですね。
 松田さん、パリに滞在されていましたが、パリの学生運動というのは一時ものすごい運動をしていましたが、パリの学生たちはどうでしょうか。

(松田) これは建築に限ったことで言いますと、建築の場合は結構自分たちで立ち上げる場合が多いのですが、学生がうまく何かを作り上げて何かイベントに至るというのは、パリの場合はそんなに多くはなかったと思います。僕もしばらく学生をしていたわけなのですが、学生は人を動かすということよりも、自分たちが今やっていることにもっと深くのめり込んでいくというか、そういう違うはあったかと思います。僕はどちらも良いと思うのですが、日本の場合、イベントを組織するのは結構うまいなというように感じます。

(水野) 先ほど現状報告の中で、交通費や下宿代など学生のサポートの場の話がかなり出ていましたが、それについてはいかがですか。

(松田) それは一番大きなところで、先ほどの建築新人戦にしても、学生の話を聞くと、続けていくのがだんだんつらくなると。なぜつらいかといいますと、楽しいのだけれど、集まって打ち合わせをするための交通費が大変で、そういうところで結構障害があります。交通費といっても、ちょっとどこどこに行くまでに数百円かかる。だけど、それが学生にとっては一番障害になる。それにサポートがあると結構いろいろなことがスムーズに動くようになっていくのではないかなと思います。

(水野) 今、金沢は「学生のまち推進条例」で、学生とまちをつなげていきたいと。特に金沢がいろいろストックを持っている都心に学生が来てほしいなと思っているわけです。一方、そういう枠組みとは別に、学生たち自身が本当に楽しめるのかどうかを含めて、学生たちともう少し付き合ってみて、本当に都心で学生たちが楽しいことができるのかどうか。逆に言うと、先ほどの小原さんではないですが、学生たちの方からぶくぶくとわき上がってくるようなエネルギー、ふつふつと出てくるような発想、そういったものをわれわれがくみ取って、いかに実現してあげるかというサポートが必要ではないかと思います。
 そのサポートについての根拠というのは、先ほど報告がありましたように、学生たちが320億円消費しているとすると、その1%でもかなり大きな金額です。そのくらいの投資をしてもいいのではないかと私自身は思えるわけで、何か学生をサポートするということは学生たちから起き上がってくるような、われわれがブログやツイッターも含めた情報の中でいろいろなことをやりたがっているだろうということは何となく気が付いているのですが、何をやりたがっているのかなというのもまだつかみきれていない。そんなものをつかみながら、都市、この地域全体が学生とどうかかわりあっていくかというか、学生とどう一緒に遊んでいくかということに近いかもしれませんが、その試みが要るのではないかと思っています。
 時間が来てしまいましたので、この辺で終わりたいと思います。どうもありがとうございました(拍手)。

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