第2セッション「KANAZAWA BAND」
     
進行:佐々木雅幸(大阪市立大学大学院教授)
   


(福光) 宮田さんが2年前ぐらいから、金沢をもっと面白くして人をもっと集めるにはインターネットテクノロジーが必要であると。基調スピーチにありましたように、これも合わせ技です。インターネット関係のパワーというのをもっと強くしても、合わせ技のバランスは崩れないという感じがしておりまして、いろいろとその後、研究していただいたのですが、非常に面白いところまでつくられたということですので、今日はそれを見せていただきながら、議論していただきたいと思います。最初に佐々木先生受けていただけますか。

(佐々木) このセッションは私がコーディネートをすることになっております。このセッションは、音楽の続きではなく「KANAZAWA BAND」の「BAND」は、ブロードバンドなどのバンドで、ネットワークの話になります。
 先日、平田オリザさんから、一度新しい実験をするから来てくれと言われて、大阪大学に行ってきました。ロボットと人間が20分くらい芝居をやるのを見てくれというのですが、面白い会話が成立するのですね。
 これからいろいろな実験が行われてくる。それで、いろいろな媒体といいますか、メディアといったものが、合わせ技のまさに新しい一つの技術の軸になってくるので、この「KANAZAWA BAND」というものの可能性を事例として、このセッションでは話をしたいということです。

(福光) 会場にNTTの平原本部長が来ておられます。NGN(Next Generation Network)の話ですが、12月からでしたか。3月から金沢でも? 金沢からではなくて全国でですか。

(平原) 既に東京、大阪などでやっています。だんだん、地域、地方に展開していく中で、金沢が3月から。

(福光) 3月から金沢でも使えるようになるということです。NGNというのは、ネクスト・ジェネレーション・ネットワークというものの頭文字だそうで、要するに超ブロードバンドということだそうです。1秒間に最適環境で1ギガぐらいのデータ通信がされる。そういうインフラの整備が背景になっていくだろうという時代の話であります。それでは、宮田さんからお願いいたします。

 宮田人司

 では始めさせていただきたいと思います。「KANAZAWA BAND」のバンドは、欽ちゃんバンドのバンドではなくて、ブロードバンドにちょっと掛けているということです。昨年も少しお話しさせていただきまして、ちょっとおさらいというか、何を話したのか思い出していただきながら。インターネットを通じていろいろなコンテンツを発信していったらいいのではないかというお話をさせていただいたと思います。(以下スライド併用)

●こういった効果が見込めるのではないかというようなお話をさせていただきました。その中で、去年の金沢創造都市会議で、インターネットをどうやって使っていくか。、情報発信する側のわずらわしさなども、非常に問題であろうと。例えば、今日ここで商店の方が売りたいものがあって、それをややこしいパソコンを使ってどうのこうの、そういった面倒くさいことというのも、実際今の問題としては結構あるのです。どこか業者さんに頼まなければいけなかったりと。そういったことも、もっと簡単にできるのではないかという研究もいろいろさせていただきました。
 そんなお話をさせていただいた中で、去年、金沢21世紀美術館の秋元館長にいろいろお話をさせていただいて、何か美術館でできることもあるのではないかというお話もいただいていました。その中で、今年、美術館の方で、新しいソフトウェアのデモンストレーションをやらせていただいたこともありましたので、それを事例にお見せしながらお話しさせていただきたいと思っております。

【ビデオ上映】

●今、アニメーションを見ていただいたのですが、これは今年10月から、先ほどお話が出た金沢21世紀美術館でやっているアートプラットホームという、美術館が町中に飛び出そうというもので、私の方で出品させていただいた作品なのです。
 ここで何を作品と言っているかといいますと、iPhoneという携帯電話機が今年発売になりました。去年お話しをさせていただいたときはアメリカで発売になっていたのですけれども今年日本でやっと出ました。このデバイスは非常に面白い機械なのです。というのも非常に自由度の高いサービスや、新しいアプリケーションが提供できるのです。美術館にこのiPhone用のソフトウエアをアート作品として、私は今年出品させていただいたのです。

●まず、これで何をやったかというお話です。携帯電話市場に革命を起こしたAppleのiPhoneですが、これは今ワールドワイドに展開されています。このソフトウエアとして、memory treeというアプリケーションを開発したのですが、この金沢21世紀美術館でのアートプラットホームのイベントでの発表が世界で初めてのリリースになりました。

●これは何なのかといいますと、「memory tree」という名前からちょっと想像が付くかもしれませんが、人々の思い出をアーカイブしていくアプリケーションです。思い出というのが、いわゆるインターネット業界でいうコンテンツですね。コンテンツを思い出という言葉に置き換えたところが、一つ大きな「みそ」になります。この思い出と置き換えたところで、人々が、今までのサービスと何か違うと感じ取っていただけるかなと思って、このアプリケーションをまず発表したのです。
 思い出というのは、僕が今ここで話しているこの瞬間。この瞬間も、今は過去になりますね。これはもう思い出だと思います。その思い出を、iPhoneで写真を撮って言葉を書いて、アーカイブしていこう。これをまず金沢の町で始めました。

●この操作方法などをこれからご説明します。一つの大きなコンセプトは、これはモバイルデバイスなので、いわゆる携帯電話と同じようなもので、まちに出て体を動かして情報をキャッチしよう。要は、家にいてパソコンだけで情報を取ったりするのではなくて、もっと体を使ってフィジカルに情報発信をしたり、情報を取ったり、そういったことで参加してくださいと。これはアート作品なので、皆さんの手で作品が少しずつ出来上がっていきますよと。要は言い換えれば、まちのデジタルアーカイブ。これをみんなに参加してもらってやるというようなコンセプトです。

●このmemory treeというのは、今、この場所が非常に重要なキーポイントになります。この場所での出来事を思い出としてアーカイブしていくアプリケーションです。操作方法は、ほぼジェスチャーだけです。この「今」という瞬間から、これから始まる未来に向けて、世界中の思い出をアーカイブしていこうという、いわば運動みたいなものですね。ずっと先の未来にこの場所で、自分の子孫がもしここに来たときに、その思い出を見ることができる。これは非常に夢のある出来事になると思いますので、これに皆さん参加してくださいということで始めました。 ジェスチャーだけという、非常に簡単なインターフェースがユーザーの方々にも非常に喜んでいただきまして、これは後ほど、実演してみたいと思います。本当に、三つのアクションだけなのですね。

●このアクションのお話をする前に、このiPhoneという機械には、加速度センサーというセンサーが入っています。加速度センサーというのは何かといいますと、向きとか方向とか、そういったものを感知するセンサーです。実はこれは、iPhone以外の機種にも搭載されています。日本の携帯電話にも、もちろん一部の機種には入っています。もっと分かりやすいところで言うと、万歩計とか、デジタルカメラの手ぶれ補正とか、そういったものも実は加速度センサーを使っているのです。しかし日本の携帯電話には搭載されているのですが、今まであまり、これが有効であると思われたことがなかったのです。

●あるリサーチ結果からすると、加速度センサーが必要と答えた方は1%しかいないと。ところが、このiPhoneというものが出たとき、みんなこの加速度センサーを面白がったのですね。これはやはり、そのソフトウエアのアイデアですとか、そういった新たな使い方というのもうまく提案して、それをユーザーがちゃんとキャッチして、理解した、これが非常に大きかったと思います。私が今回作ったこのアプリケーションも、インターフェースは加速度センサーというものを前面に押し出して使っています。

●まず思い出を撮るという行動です。この画像が実際のアプリケーションです。ちょっと小さくて見づらいかもしれませんけれども。思い出を撮るというのは、これは普通にカメラの機能が付いています。ちょっと一枚、写真を撮らせていただきます。これが今の瞬間を切り取ったもの。要は写真と一緒ですよね。写真というのはこの今の瞬間を切り取る機械なので。
 そしてこの写真が僕の今の思い出なので、これをインターネット上のサーバーにアップロードする。通常これをアップロードするという方法は、パソコンに写真を取り込んで、何かソフトを立ち上げて、それでどこかに登録するというような、結構今言っただけでも幾つかの面倒くさい手順があります。今回私が作ったこのアプリケーションは、それをどうやってそこまで持っていくか。これは非常に簡単で、これも一つのジェスチャーなのですが、思い出を、僕は「飛ばす」という言い方をしています。英語版ももちろん出ているのですけれども、それは「fly」という言い方をしています。これはどうやってやるかちょっとご覧に入れたいと思います。 今ビュンと音がしました。この音と同時に、今データがすべて飛んで行きました。これがもう、インターネット上のサーバーに格納されたのです。
 そして今この場所というのを記録しています。GPSでここにタグが埋め込まれて、この場所を記録して、この人が誰で、この人の思い出なのですよ、これは何時ですよというのが、今一瞬にしてサーバーに入りました。そして今この空間、目に見えない時空に、思い出が漂っているという演出をしています。要は、見えないこの辺に、本当に何百年前からの思い出というのが、本当に脈々とあるのだと。それを、今度はこのiPhoneでキャッチしましょう。
 キャッチするというのも、先ほど体を動かして情報を取ろうというお話をしましたけれども、この場所にいてこのmemory treeというソフトを持っていれば、この辺に恐らくあるのだなと。そうすると、今音がしました。これで情報をキャッチしました。そうすると、今の出来事はここに表示されています。これは後でちょっと画面の方でもお見せしますが、これは今の会場の様子です。これは本当に今インターネット上にアクセスして取ってきたものなのですが、今のジェスチャーは非常に分かりやすいジェスチャーで、まず一つ復唱しますが、「撮った思い出は飛ばす」「ここにある思い出はこれでキャッチする」この二つの動作。これは非常に分かりやすいので、本当に今まで、ちょうどこれをリリースして1カ月ぐらいなのですが、世界中のいろいろな方々から、非常にここは面白いし分かりやすいという評価をいただいています。
 要はたったこれだけの操作で、いつの間にか現在から未来にかけての、町と人々の記憶というのがアーカイブされていく。去年、町の記憶を市民の手でアーカイブしていこうというお話をさせていただいたのですが、これは僕は一つの回答だと思っていまして、これだけ手軽にアーカイブの事業というのに参加できるというのは、非常に意味があると思っています。
 仕組みですが、このmemory treeというソフトには、いわゆる時系列レイヤーに分かれた見えない地図というのがサーバー上に用意されているのです。そこにこのmemory treeを使ってみんなの記憶をマッピングしていく。そしてこの作品は、とにかく私はこのプラットホームを提供したので、みんなの手で作り上げていってくださいというメッセージなのです。
 町には記憶があって、そして人々の記憶というのは、その町のどこかと必ずリンクしています。例えば誰かと一緒に歩いた坂道だとか、子供のころに仲間と遊んだ空地だとか、これからどんどん作っていけることなのですね。そして、さまざまな記憶というのが人々にはあるのですが、これを僕らは「思い出」というふうに呼んでいます。その思い出という言葉で投げかけたところで、世界中の人々の心に響いたのだなと。この作品は、記憶をこういった形でビジュアライズしながら、共有して、人々と町の記憶をリンクさせていく。いつどこでどんなことがあったか。それは時を超えて、どこかで誰かと将来つながっていくかもしれない。こういう期待感というのも少しにおわせているのです。

●今ご覧いただいたバージョンは、思い出を同じ場所で共有するというものです。今週末にこれの新しいバージョンがリリースされるのですけれども、それにはどんな機能が付いているかというと、Same Timeという、同じ時間を共有しようという、新しいコンセプトが追加されています。これは最初リリースした当時は、そんなにユーザーの数がたくさんいったわけではないのでこの機能を付けていなかったのですが、今は世界中でリリースされて、今、世界中でユーザーが5万人を超えたのですかね。それでこの機能を初めて付けたのです。これは世界のまさにこの時間、世界中でこれをやっている方々がいます。時差もありますので、今、朝の国もあるわけです。僕は子供のころに非常にこういうことが好きで、今、僕がこうやって家でご飯を食べているときに、世界のどこかではどんなことが起きているのかなとか、すごく気になっていたのです。それを見ることができるソフトウエアとして、新しいバージョンがリリースされます。

●これも同じように、この図が今のこの場所で見るというものなのですが、もう一つここに時計のマークがありまして、これを押すとSame Timeというモードに切り替わります。これを同じように振ります。今、音がしました。そうすると、これは1万kmここから離れているということです。ここにGMTマイナス6時間と表示されています。これは完全に海外ですね。これは朝の、この近くで言うと、日本時間の8時半に1万km離れたところのほぼ同じ時間の出来事です。こういうものがここに表示されます。ですから、見ていてはっきり言って飽きません。
 簡単に言うと、例えばAという国で飛ばされた思い出が、ほぼ同じ時刻にBという国で、これを使っていらっしゃる方がキャッチすることができるというようなものです。要は記憶と時間のキャッチボールというのが、本当にこれだけでできてしまう。
 このソフトウエアには、メモをする機能もありますので、新たなコミュニケーションというのを創造していけるだろうと。エリアコミュニケーションと言っていますが、伝言板的なものです。ただ、ここから先、例えばmixiなど、ああいったもののように、ここにレスポンスを書き込んだりなどというものは僕は付けていません。何となくそういうことをやってしまうと安っぽくなるような気もしますし、一期一会的なことをここでやっていまして、その儚さとかそういったものを、ユーザーの方が感じ取ってくれればと思っていたのです。そうしたら、今回iTunesというところで配布しているのですが、世界中のユーザーの方々がこれを使った感想を書いてくれるのです。感想を書いてくれた方々の文章を読むと、これがアート作品であるということを皆さん理解してくれていました。それと、この儚さというものも非常に理解してくれて、要は、その場所に行かなければ見えないというところまでしか今公開していませんけれども、その場所に行かなければ見られないだとか、自分の思い出をそこに置いてくるだとか、そういった行為に対して、非常に称賛していただきました。
 僕は今回このSame Timeという新しい概念を出したときも、この写真というのはいつでも見られるわけではなくて、その時間しか見られないのです。ですから、面白い写真が例えばここにあったとしても、今という瞬間しか見られない。それを保存することもできないのです。要は人の記憶なので、他人に保存されているのもちょっと気持ち悪い話になってしまいますから、本当に今という瞬間だけ共有できるというようなコンセプトになっています。

●このmemory treeというのは、iTunesストアで、世界62カ国で同時にリリースしました。こういった形でダウンロードできるようになっているのですが、もちろんこれは本体でもダウンロードすることができます。

●今ちょっとご覧いただいた一連のものなのですが、ではGoogleストリートビューというものが最近ありますね。それとの比較なのですが、Googleストリートビューというのは、数千億という莫大な費用を投じて作りました。それで、世界中の話題を集めたのですが、このmemory treeというソフトは本当に僕らだけの最小限の費用で、Googleストリートビューは道までなのですけれども、僕らは人の、家の中と心の中まで入ったと。これはGoogleにもできないことで、Googleより僕は価値があると思っています。
 それでGoogleの場合は、車が走りまわっているのです。天井にカメラを何十台も付けて、ずっと走っているのです。なので、言ったら騙し撮りみたいなもので、クレームもかなり入っているらしいです。「自分の家の前が映ったから消してくれ」など。僕らは、ユーザーの方々に任意で送ってもらった写真です。ユーザーの方はその写真を消すことももちろんできます。なので、Googleとの違いというのはそこです。これはやはり、世界中の人々が面白いと思ってくれて、同じようなことを感じてくれて、任意に作ってくれているマップなのです。ですから、そういう意味ではGoogleストリートビューよりも今後非常に価値のあるサービスになっていくだろうと、思っております。
 ここで、リリースから約1週間でどのぐらいの人々が使ってくれたのか。1週間62カ国で、1万枚の写真がまず送られてきました。世界中のmemory treeを使って送られてきた写真の一部をちょっと、簡単にビデオにしましたので、ご覧いただきたいと思います。

【ビデオ上映】
 
 今ご覧いただきましたように、本当の世界中の方々が使ってくださっていまして、いろいろな顔の方々がいらっしゃいましたね。それで、非常に僕は、自分で作っておいて何ですが、結構感動しまして、日本初のコミュニティ系のサービスでこれだけ使われた例というのは僕は今まで知りません。そういった意味でも、非常に興味深いソフトを僕は自分で作ったなと思うのです。
 皆さんこのソフトをインストールしてすぐには、何のソフトだか最初分からないと思うのです、インストールした世界中の方々というのは。ですから一番最初に送られてきた写真というのは、ほとんどが自分の足の写真なのです。これは世界共通だそうです。びっくりしましたけれども。ほとんどが最初自分の足の写真を送ってこられて、その後、だんだん違うものが送ってこられるようになったのです。欧米人の方々というのは、ほぼ、大体が自分の顔だったり、家族の顔だったり、子供の顔だったり、人を撮って送ってきました。これも面白い調査結果だなと思うのですが、欧米人というのはとにかく被写体を、そういった人物に絞っています。今、顔の写真がすごく多くて、しかもみんな出来すぎなぐらい、いい写真が多いのです。
 そして日本から送られてくる写真は、ほとんどが食べ物の写真なのです。今日食べたご飯なのか、今日作った料理なのか分からないですが。ですからそれは、ブログでもやはり顕著です。日本はすごくブログの数が多いのですが、ほとんどが、今日の晩御飯みたいなブログが多いのですね。それだったり建物の写真だったり。やはり日本というのは結構物など、そういったようなものが好きなようです。写真から結構いろいろなことが見て取れます。生活様式なども、非常にこの写真は価値のあるものです。先ほどのGoogleの話ではないのですけれども、このmemory treeは本当に家の中まで入りましたから。それで今、世界62カ国で中東系の国とかもちろんあります。中東系の国の家の中なんて、僕はあまり見たことがなかったのですが、このmemory treeのデータベースの中にはそういったものも全部入っています。中東系の、しかも今iPhoneを使っていらっしゃる方というのは、それなりの家の方なのかなと思うのですが、とにかく家のリビングがとんでもなく広いのです。家の中に、ものすごい調度品みたいなブランコがぶら下がっていて、そこに家族で座っている写真など、今まで僕があまり見たことがないような写真もたくさん送られてくるようになりました。
 
●次ですが、今、実際ウェブを表示しています。一番上が本当に「今」ですね。僕が今、会場で撮った写真です。リアルタイムの思い出というのが、ウェブで表示されるようになっています。これが、今日の15時50分なので、本当に数分前です。こういったページというのは、通常は一般公開はしていないのですけれども、今日この場だけちょっと、お見せしています。
 Google Earthというソフトウエア、Googleのサービスがあるのですが、そのGoogle Earth上に、ここで撮られた写真というのを、私の会社の解析用に作っているGoogle Earth用に載せたソフトがあるのですが、それをちょっとご覧いただきたいと思います。これは非常に面白いので。少し起動まで時間がかかりますけれども。

●今起動しますと、Google Earthは金沢に合うようになっています。金沢21世紀美術館ですね。この金沢21世紀美術館で、10月5日から金沢で配付が始まったので、今、カレンダーが8月になっていますから、ずっと10月まで持っていきます。そうすると、金沢の町で10月5日から少しずつ使われ始めました。現在に至るまでを時系列で、このピンク色のがmemory treeで撮られた写真が思い出として置いてこられた場所です。どんどんこのように増えていきます。この画面をちょっと引いてみましょう。これも今金沢の町で、これだけの方が参加してくれていると。これをもっとどんどん引いていきますと、日本になっていきます。ちょっと面白いので、これを元に戻します。
 memory treeがリリースされていない状態に戻りました。日本全国の大きさにもっていきます。そうすると、同じように時系列を動かしていくと、今、日本中でこれだけ。ここに書いてあるのは、思い出を置いてくださった方のメッセージですね。さらにこれを世界にもっていきます。世界中で回していくと、意外な場所とか、こんなところでも使っているのだとか。やはり、このあたりすごく多いのですけれども。ちょっとここに、寄ってみます。ここで、これが、同じ場所に置かれた思い出がたくさんあるとこういうふうに出るのですが。場所でこのように見ることができると。大体、どこの国かということが分かります。いろいろな写真があります。この辺は多分最初の、試し撮りみたいな感じのもので、これは学校か何かでしょうか。こういった形で見られるようになっています。何かメッセージも付いていますので、いろいろ。これも見ているとかなり飽きないコンテンツでして。これはアメリカでしょうか。
 このように世界中のいろいろな出来事というのが、ここにどんどん今、格納されていっているようなものになっています。本当は長くお見せしたいのですけれども1個ずつ、とてもではありませんですが、今数十万枚になっていますから、お見せできないのがちょっと残念です。プレゼンテーションの方に戻ります。

●こういったシステムをうまく、この金沢学会の場を借りて、この町でどういったことができるのかというのを、先日、近江町市場の方に取材に行かせていただきまして、こういった、本当に簡単にいろいろなことをアーカイブ、情報発信していけるシステムを使って何ができるのかということを、考えてみました。

●これは情報発信側にも受信側にも非常にお手軽なシステムになりますから、そういった意味では双方の利益になっていくものになるだろうと思います。
 先ほどのmemory treeを、近江町市場スペシャルエディションという形で作ったものですが、ではこれで、例えば市場で朝、魚を仕入れてきて、お店の方が、「今日はこれが安いよ」とか「これがお買い得ですよ」とか、「お勧めですよ」というものを、先ほどみたいにパチッと写真を撮っていただく。これは本当に簡単にボタンを押すだけです。押しましたら、この緑のボタンを押すなり、先ほどみたいに振るなり。この振るという行動に抵抗がある方はボタンを押してもらえばいいと思います。朝、ちょっと濡れている手で振った瞬間に飛んで行って、ぶっ壊したということになったら、ちょっと僕は責任が取れないので、一応こういうボタンも用意しています。ここに日付や時刻は自動的に挿入されます。これはサーバー側の方で、例えば端末というのを固定させておいて、この端末から飛んで来た情報というのは、必ずこのお店のページに自動的にアップロードされます。ですから何も考える必要はないです。要は、何かずれたりだとか、そういったこともない。で、本当にオンタイムに、例えば朝の安売り、お買い得はこれだったけれども、昼はこれになったなどというのも自動的に調整されます。ですから非常にお手軽であると。

●ここで投げられたこの情報というのは、もちろんiPhoneだけでサービスするわけではありません。要はiPhoneというのは、非常に送信する側が楽ちんにできるので、今たまたまこれを使っているだけです。ですから、これ以外の携帯電話でも、もちろん同じことというのはできます。
 今、たまたま事例でいくと、iPhoneで投げた情報というのは、例えば携帯、テレビ、インターネット、もちろんiPhone、スマートフォンといわれるもの、何でもこういった形で自動的に、そのデバイスに合わせて生成されて、受信側は何のストレスもなく見ることができるというところまでを、先ほどの振る操作なり、ボタン一発でここまで自動的に持っていくというようなシステムがmemory treeなのです。もちろん、MacやWindows、WiiやPS3など、ゲームコンソールでも受信することができると。

●ここから先、どんな可能性が考えられるか。一つは広告配信ですね、もちろん。このユニークなポイントとしては、地域や期間を限定した広告配信というのが可能で、不特定多数の個人に対して確実に広告を届けることができると。もう一つはメッセージの配信です。これは例えば、全ユーザー向けにもできますし、ある特定の方というのももちろんできるのですけれども、これがメッセージです。スライドでは今度memory treeでやるものを事例で書いてありますが、例えばフォトコンテストで、世界中の方々に、未来に残したいものを撮影してくださいというメッセージを問いかけようと思っています。そうすると、このメッセージを受け取ったユーザーの方というのは、自分だったらこれを100年後に残したいという写真を撮ってアップロードする。それをみんなで共有するとか、そういった広がりというのが考えられます。

●ではこのmemory treeというアプリケーションの正体は実は何なのかと。今これはすごく情緒的に、人の気持ちに訴えかけるような手法で、今はアート作品としてやっていますが、実はこのmemory treeというのは、時間と場所を司る高機能なメディアブラウザだと思ってください。要はこんなことができます。場所と時間を特定した情報配信ですとか、場所と時間を特定した写真や音楽配信ですとか、動画配信。いわゆる、ここで再生できるもの、メディアというのは、すべて時間と場所を特定して配信することができます。ですからあともう一つは、場所と時間を特定したコミュニティサービス。このようなことが可能となっています。

●僕らが今回これを作ったのは、もちろんサーバーのシステムが非常に重要なのですけれども、それと今一連ご覧いただいたユーザーインターフェース、これが非常に重要なポイントなのです。
 そしてこの裏側で、実は動いているシステムというのがあります。この裏側で動いているシステムというのは、実はDaRuMa(Database for Rescue Utility Management)というテクノロジーで、もともとは災害時の情報共有のためのデータベースなのです。いわゆる災害が起きた場合というのは、その情報には必ず位置情報というのが含まれます。この研究をしていた団体というのが、独立行政法人防災科学技術研究所、もう一つは産業技術総合研究所でした。この二つがもともと研究していた、位置情報を災害時に的確に表示するというシステムがあったのです。ただ、実はこれはそんなに使われていなかったのです。ほとんど知っている人というのもいらっしゃらなかったのです。たまたまうちの会社の博士が、この研究にかかわっていまして、僕がこういう位置情報を使ったようなコンテンツをやりたいという話をしたら、実はこういったものがあるので使ってみたらどうだというお話をいただいて、それでサーバーに組み込んでやってみたところ、非常に有効であったと。

●今このiPhoneにはGPS機能というのが付いているのですけれども、僕らはiPhoneのGPSそのものは実は使っていません。一瞬、ここのiPhoneで取ったGPS情報というのはサーバーに送るのですけれども、サーバー側では実はこのシステムがそのGPSのデータをくみ取って、独自の解析の方法でタグを付けて埋め込んでいる形になっていますから、要は単純にiPhoneのGPSのデータをそのまま送っているわけではないのです。
 こういった災害時のデータベースがありますから、万が一災害が起きた場合というのも、それに対応できるようになっているのです。今、キャラクターが出てきて、降りてきましたけれども、災害のときにはちゃんと役に立つと。あのキャラクターが消防士の格好をして出てくるわけではないのですが、そういったときにも実は対応できるぐらいの堅牢なシステムが実はバックで動いています。そういうのが非常に安心感というか、そういうものがあると思います。

●ちょっと簡単にまとめます。基本のコンセプトは、今ちょっと冒頭からのお話をおさらいしていくと、この金沢という町に興味を持って足を運んでもらうための手段だと思っています。要はインターネットで完結するわけではなくて、僕は今回このソフトというのは、今までの無機質なインターネットというものへのアンチテーゼだと思っているのです。要は、どこにでも情報が取れる。それはもちろん便利で、いいことなのでしょうけれども、もうインターネットが出現して10年以上たって、もっとこういったモバイルデバイスというのが何のためにあるのかといったら、家にいるときは家の電話を使っていればいいわけで、外に出て何かをするというときは、もっと体を動かして、どこかに行って、その情報というのを持ち帰ってもいいし、そこに置いてきてもいいし。そこに置いてきたデータというのは、誰かがそこに来てまた見てもらったりなど、そういったことはこれからどんどん重要になっていくと思うのです。
 例えば僕がこの金沢で、幾つかの写真をここに置いてきて、友達に「ちょっと金沢まで行ったらそれを見てこい」と。そうしたら来る人は絶対いるのです。東京の町でもやはりそれはいます。このソフトを作ってやはり1週間ぐらいたって、非常にうれしかったのは、1週間ぐらいだし、そんなにまだ人の思い出というのは見られないだろうなと思ったのですけれども、銀座の町を歩いて、表参道を歩いたら、もう使っている人が結構いらっしゃって、その瞬間に「おっ」とやはり思うわけですよ。つい先週末も、表参道にH&Mという洋服屋さんがオープンしたのですが、そこにたまたま行って、誰かのがあるかなと振ってみたら、大樋年雄と出てきたのです。大樋さん、ここまで。しかも本名丸出しなのですよ。「大樋さんありがとう」と、すぐメールしました。その帰りに銀座に食事に行ったのですが、銀座8丁目辺りで振ったら、また大樋年雄と出てきて(笑)。それがすごく面白くて。これはやはり、これを持って外へ出ないと、この面白さというのは伝わらないのです。この金沢の町でも、僕は金沢はやはりコンテンツの町だと思っていますから、そういったことはたくさんできるだろうなと思っています。
 とにかく、そういった意味で、市民参加型の未来に向けてのアーカイブというのは、知らず知らずのうちにできていくと思っています。とにかく簡単に情報発信することができますし、手軽に情報をキャッチすることもできると。伝えたい情報というのを確実に誰かに届けることができる。こういったことが、この金沢という町で、インターネットを使って何かをしていくということに対しては、非常に重要なポイントだと思うのです。
 ちょっとおまけですが、もし何かあった場合というのは、緊急情報掲示板として機能する。僕は、このmemory treeの延長上でこれを考えるというのは非常に重要なことだと思っています。なぜかというと、人間というのは慣れが必要なのです。常にこういったものを使っていらっしゃるというときは、自然とそういった情報というのが手に入れることができると。僕も今回これをiPhoneで、いろいろな段階を経て新しい機能を追加したりだとかをやっているのですが、やはり人間というのはどうしても慣れが必要で、少しずつ慣れてもらって、memory treeもインターフェースを少しずつ少しずつ変えています。ユーザーというのはそれをちゃんとくみ取ってくれて、慣れてきてくれているのですね。ですから、例えば先ほどの思い出を飛ばすとか、キャッチするとか、あまり今までのインターネットのサービスでは、そんな言葉は聞いたことがなかったと思います。「何だよ、飛ばすって」と。これは英語版と日本語版が出ているのですけれども、英語版のマニュアルにも、「memories fly」とか、「catch the memory」とか、何かそういう書き方をしているのです。最初、これは外国人の人は何を言っているか分かるかなと思ったのですが、ちゃんとそこは分かってくれました。
 こういった形で、たまたまmemory treeという事例でお話しさせていただきましたけれども、まとめとしては、こういった市民参加型のアーカイブというのを、どれだけ将来的に重要になっていくかということ。その方法をどれだけ簡単にして、参加していただくか。やはりこういったものというのはたくさんの人の手で作っていくというのが、非常に意味のあることなので、一般のかたがたが参加できるもの。あと、先ほどちょっと事例でお話しさせていただいた近江町市場のように、お店用にカスタマイズしたもので情報発信をしていただいて、キャッチするものは本当に一般の方々が手にしているような、あらゆる機器でキャッチしていただくということをやっていきたいなと思っています。こういったことをやっていくことによって、金沢という町に興味を持っていただけて、どんどん足を運んでいただけるというふうになっていくのであろうということを期待しながら、私のプレゼンテーションを終わらせていただきたいと思います。ありがとうございました。
 
(福光) ちょっと皆さんそこにしばらくいてください。こういう話を初めて、私は何回も聞いているので大体分かったのですが、素朴な質問がいっぱいあると思うのです。ずらっと、どなたでもお出しいただきたい。例えば、もちろん動画でも大丈夫に、当然なるのでしょうね。

(宮田) もちろんです。

(福光) それから、ひゅいっとやったら、その場所にいっぱい写真があったら、いっぺんに何枚も下りてくるのですか。

(宮田) 今は、限定的に10枚下ろすようになっています。ただ、これはいろいろな条件だとかそういったものを付加していくことができるので、あらゆることに対応できると思います。

(福光) それから、近江町市場というバージョンが考えてありましたけれど。いろいろ、もう一つ分からないということがたくさんあると思うのですが。

(黒川) いいですか。何となく質問さえずれているのではないかと心配するのですけれども。全部理解していませんので。 送るというのは、例えば自分のホームページであったり、サーバーとかに送れますか。

(宮田) それは、今できるようになっていません。というのも、今データはすべて一元管理していますので。

(黒川) では、誰と誰という、特定の人との交信はできないのですね。偶然性ですね。

(宮田) そうです。同じような例でいくと、ロンドンのデザインチームでAirsideというチームがいるのです。今非常にヨーロッパでで売れているデザインチームで、彼らが先週日本に来たのです。そうしたら、やはりそういう方々だけあって、みんなiPhoneを使っていらっしゃるのですけれども、全員僕のソフトをインストールしているのです。これも本当に偶然で、「お前が作ってるのかよ」と言われて。

(黒川) もう、iPhone買います。

(福光) 決してiPhoneの宣伝をやっているのではないので。加速度センサーは、その他の、例えばdocomoさんでも新型には加速度センサーが付いているようですし。先ほどのようにボタンを押すようにソフトが作られている場合はボタンを押せばいいので、ひょいっとやらなくてもできるということですから普通の携帯で全部使えると、そういう意味でございます。どうぞ素朴に、質問がありませんか。皆さんお分かりですか。

(黒川) もう一つ。僕は実は、若いデザイナーなどのためのプラットホームを経営していまして、DESIGNTOPE.netというのですけれど。そこにDESIGN TODAYといって、世界中にいる若いデザイナーに情報を、「今ニューヨークの町でこんなかっこいいおしりの女の子いたよ」と写真送ってもらうとか、そんなふうにあちこちから集めるようにしているのですが、なかなか集めるのが大変なのですよ。だから、これを利用はできないでしょうかね。ひょいっとね。

(宮田) いや、できると思います。もちろん、いろいろな意味でカスタムというのもできますし。例えばデザイナーバージョンとかいうのも作ると、あっという間に。デザイナーコミュニティみたいなのを同じことでやってみると、多分すぐ広まると思います。

(黒川) できますか。もう本当に、もう同時に。今世界中で起こっているデザイン、広い意味のデザインですけど、町だとか、電車とか。いろいろなところで見た感動するもの、デザインを、すぐその他位置で見られるようにしたいと思いながら、不可能だったのですが、可能性が出てきましたね。

(宮田) そうですね、当社にある専用サーバーがあって。そこに先ほどのGPSのデータですとか、端末の情報ですとか、かなりセキュアな状態で集積されているという。ですから、例えばこれをサーバーごと、どこか別で運営するというのも、もちろんできる話なのですけれども。

(黒川) ありがとうございます。

(大内) ちょっと質問だけれど、これは、当然写真を撮るときに、ご自分が納得をしてサーバーへ上げるわけですよね。だから、その限りでは恐らく肖像権とか問題にならないのだけれど。変な話、盗み撮りをして上がっちゃったと、いうようなことでトラブルというのは今はないのですか。

(宮田) 今のところ全然ありません。僕もやはり懸念していたのは、例えばそういった肖像権のトラブルもそうですし、公序良俗だとか、そういった卑猥な写真だとか、心配していたのです。ところが、これはアート作品だと僕は言っているではないですか。しかも、そこの場所に置いてくると言った瞬間に、誰もそういうことはやらないです。僕もサーバーの中を毎日、そういったものがないかというのはうちの社員が見ていたりなどやっているのですけれども、今のところ1つもないです。やはり、言い方次第というか。

(福光) それは、私がiPhoneを持っていて私がぱっと上げたら、逆に私だと分かるのですか、上げた人。

(宮田) はい。分からないにもかかわらず。通常だとニックネームは自分で好きなように付けることができるのですね。大樋さんは本名でしたけど(笑)。
 要は、本当は分からないし、かなり匿名性は高いのですけれど、ところがそういうことというのは、なかなかこういった、例えば自分の思い出だとか、そういった演出を今回施したじゃないですか。そう言った瞬間に、そういうことというのはしないもので。今、参加者は5万人ぐらいですけれども、まだ一人もいらっしゃらないのです。
 5万人というのも、非常に僕は面白い数字だと思っています。これは端末を特定しているではないですか。例えばmixiというサイトは1人で幾つもIDを持っていますよね。それで10万人と言われてもちょっと眉唾くさいのですけれども、これは本当に、リアルに5万人なのです。その人たちが1日、例えば10枚写真をアップロードしてきただけで、もう大変な数になるのです。

(黒川) 何秒かで自動的に消えるのですか。

(宮田) その場所に置いてこられた写真というのはずっと残ります。

(黒川) ずっと残るのですか。

(宮田) ええ。あと、Same Timeというのがありましたよね。それは1時間だけ見られるのです。

(黒川) 映像のごみだらけになりませんか、地球上。

(宮田) そうですね。今これは最新10枚だけというのが見られるようになっていますから、その場に例えば1000枚置かれても、最新の10枚だけがここに表示されると。本人はいつでも見られます。

(黒川) ああ、そうですか。

(宮田) この中に、機能として、ここを押すと、マイメモリーという、ここは自分のアルバムになっています。ここは自分の言葉と写真というのがいつでも見られる状態になっています。

(黒川) まあ、あまり美しい映像がないのですけれども、美しい映像しか拾えないというふうな設定はないですかね。

(宮田) それは、判断するのが難しいですよね。

(黒川) どうも何か、ごみみたいな映像ばかりでしょう、今見ていると(笑)。

(福光) それから、もちろん、例えば21世紀美術館の企画展のある展示室の作品の前で振ったら、説明が降りてくるというのも、当然できますよね。

(宮田) そうですね。ただ精度が、やはりGPSなので。なかなか、難しいところがあるのですが、将来的にはかなりピンポイントでいけると思います。これも今かなりGPSの電波をちゃんと拾うところだと、1m間隔ぐらいまでいけるのです。

(福光) 1m差。高さは?

(宮田) 高さも取ることができます、実は。標高差というのは。

(福光) ビルの何階というのも、差は出るのですか。

(宮田) 確実に出るかというと、それはちょっと疑問ですね。そこは別のテクノロジーがあって、IPアドレスで判断するというのもあるのです。あまりやるとちょっとFBIやCIAみたいになるので、今はやっていないのですが。

(黒川) そこに置いてあるというのは、具体的にどういうことなのですか。もう少し説明してください。映像がそこにあるという意味は。

(宮田) 要は、例えばこの場所がありますね。ここは緯度経度で言うとピンポイントになるではないですか。それで今、僕がこの場所にいますというのを、まずこのiPhoneが判断します。ここで僕が今、思い出を撮りましたと。その情報とともに、サーバーに、緯度経度と写真と言葉というのがぽーんと飛んでいくのです。それが、今までだと、結構しち面倒くさい作業が必要だったのが、これで終わると。

(黒川) ああ、そうか。なるほど。GPSがあるからね。なるほど。ありがとうございました。

(佐々木) 今の話を聞いていて、やはりこれは、アートプロジェクトで取り上げているというのが一つの、今のところ成功しているところかなと。つまり、やはりそれぞれアート作品として写真を撮って投げているという感じがあって。そのあたり、このアートプラットホームという場と、テクノロジーが結びついたあたり、秋元さん、どのように。

(秋元) そうですね、今、改めて宮田さんのプレゼンを見ていて、ああこういうことだったのかなみたいに、私自身も振り返っています(笑)。昨年お会いして、いろいろお話をしていて、面白いアイデアを持っている方だなと思って。今年、金沢の町を舞台にして展覧会をやりたいと、ある場みたいなものを喚起する展覧会をやりたいと。そこの構成要素として、やはり非常に人というのが多くかかわってくるので、人をフューチャーするようなものをやりたい。リアルにはあるアーティストたちがやっているので、もう少し別な形で、「宮田さんバーチャルな形で何かできませんか」というふうなことをお話ししていて、その中で、memory treeというようなことを考えていただいたのです。
 アートプラットホームのような、展覧会のタイトルにしたあたりとかも、非常によく、うまくちゃんと全部消化していただけていて、素晴らしいなと思ったのですが、通常は、駅にいたら入ってくる電車の方が主役だと思うのですね。例えばこれがひかり号だとか、通常そちらの方が主役。例えば作品だって、そちらの方が、特急つばめなど、まあ分からないですけれど、そういうものの方だと思うのです。今回それぞれのアーティストに依頼したのは、字と図で言えば、字に当たるようなものというのが、そのまま作品化できませんかと。それ自体ができるだけ仕組みとして開いている方が面白いので、つまり通常作品というのは閉じたものだけれども、それが将来的に何か、いろいろなものとアクセスできるような、そういう仕組みを考えてくださいと。
 その一つの回答として宮田さんが出したのが、このmemory treeという概念みたいな、OSに近いようなソフトだと思います。アート作品から始めたのが良かったなと思うのが、私は常々思っていたのだけれども、OSに近いソフトというのはある種の必ず思想性のようなものがあるのだと思うのです、本当は。作った側がどれだけ意識しているかどうかは別としても、ある見方なり考え方なり、哲学性みたいなものが、実は組み込まれてしまっていると思うのです。それに沿ってあとはわれわれが、でも字の方に回ってしまうので、あまり意識せずに、その中で遊んでいくというか、その中でやり取りをする。今回、そこの部分を私自身が、いろいろなソフトでいつも思っていたのが、ある、字に当たっているようなものの不自由さみたいなものとか、それがどういうふうに出来上がっているのかというのがよく分からないし、そのあたりを確認してみたいというのもあって、宮田さんとやり取りをしていったのです。それもあって、アート作品としてというふうなお願いをしたのです。
 佐々木先生が今言われたみたいに、あるプログラムができていく枠組みとして、アートというのはこういうふうにも使えるだろうと。先ほど後半の方で、宮田さんがいろいろなアートの展開みたいなものを、もっと機能単位でいろいろご紹介していましたけれども、そこから先は、まさに、例えば商品紹介をしていくとか、あるエリアの情報を瞬時にゲットしていくようなソフトとして展開するとか、もっと災害用のソフトにしていく。それがパッケージされているものとして、例えば金沢のベーシックな情報ツールとしてあるとか、そういうふうに展開していけるだろうと。それは、私などが想定していた以上に、例えばアートがプラットホームになって、そこから何かまちづくりなり、町の何かのところで機能していくというふうなものを見事に展開していただいているので、私としては、いや素晴らしいなと思って見ていたのですが。

(福光) 金沢学会の、何回目、3〜4回前に、空中ポストイットという言葉が出て。金沢を歩いてもらいたいと。で、歩くにも、しかし、説明の表示があったりうんぬんという、結構いろいろな木にもストーリーがあって、それがみんな携帯を持っていると自然に入ってくるといいなという話があったのですけれども。そういう意味ではそういう可能性もあるし、その昔の歴史のストーリーもあるけれども、そこに来た人が、また今のストーリーを付け加えて、また楽しみが出てくる。昔のストーリーと今のストーリーとその場所へ行ったら、両方入ってきて、なお印象深いものになるのかなという気はしました。

(佐々木) まさに、デジタルアーカイブを、空間と時間をうまく制御したということですよね。それで、もう一つは、汎用性ですね。アート作品からさまざまなビジネスとかまちおこしにも、もっていける。そういった意味では、先ほどのテクノが持っている汎用性と違う意味で、ああやはりここにも汎用性があるなと思ったのですけれども。そのあたりは増淵さんなり藤井さ、いかがですか。

(藤井) 今話している中で、「こんな使い方できないの」「あんな使い方できないの」と皆さんおっしゃったではないですか。そういう、自由度がまだあるところが、想像力をわき立たせるというか。使う側の想像力を引き出すというようなものに使えるので。
 今、先ほど館長がおっしゃったように、もうこちらの一方向性を向いているのではなくて、自由度があることによって非常に遊び心が出てきて、アートとしてもとらえられるし、ある種ある人は実用的に使っていくかもしれないし。そういう、遊びの部分がある部分がすごく受け入れられているのかなと思います。それがまた、すごく狭められたある特定の人たちのフィールドではなくて、グローバルな、本当に自由なところでやれているというところが、すごく面白いし、何かわくわくさせる感じがするなと思いました。

(宮田) そうなのです。今おっしゃっていただいたように、やはり狭いエリアのエリアコミュニケーションというのと、グローバルなコミュニケーション、両方を合わせ持っているのです。例えば先ほど作られていた音楽ですが、この金沢に来たら自動的に配信したりとか、僕は音楽配信までやはりやってみたいのですね。この場所に来なければ取れないとかというところまでは、僕は、今の時点でできてしまうことなので。やはり先ほどのテクノも、例えば月に1回ここに来ると新しいのが取れるとか。そうなると音楽配信の新しい形態だとか、コミュニティというのも、出来上がっていくのだと思うのです。

(佐々木) 水野さん。金沢の町家再生でいろいろ取り組んでいるではないですか。そこにこれを適用できる、うまく使えるのではないかな。

(水野雅男) そうですね、どういうふう
に使えるのか、まだイメージが湧かないのでごめんなさい。でもすごく面白いと思いました。遊び心でつながるというのが面白いなと私は思いました。

(佐々木) 例えばその町家で、町家改修をいろいろな人の手で始めたと。そのプロセスはずっと写真がアーカイブされますよね。今度それを見た、別のところでまた別のことが起こりますね。幾らでも何かこれ、わいてくるような感じがしたのですけどね。どうぞ。

(水野雅男) 長いスパンで考えると、何年もで考えると、ある町家がどういう使われ方をしているかという、そういう履歴が残っていくというのも面白いなというふうに、今思いました

(秋元) プライベートな、個人的な、フィジカルに1人の人間がやっていけるような形にまで落としこんでいるので、通常は閉じた情報みたいなものが、それがそのまま見れてしまうわけですよね。だから多分、通常例えばテクニカルな部分などは、町家再生とか、非常にあるテクニックとして、なかなか伝え切れないものとかあるじゃないですか。ああいうのなど、やっている作業の細かな部分とか、そういうのは意外とアーカイブしていくと面白いし、それがそんなに面倒な作業はなく、まさにポンと振ればどんどんたまっていくので、そういう意味では、今までのハウツー本で越えられない壁は、結構簡単に越えていけるのではないかという気はします。

(宮田) まさにおっしゃるとおりで。僕は今、会社の近所で今まさに作り始めているビルなどがあるのです。ビルというのは壊されてしまうと、その前に何があったのか思い出せないのが結構ありますよね。この間まであったビル、ああここは取り壊しになるのだという話を聞いたので、そこをまず写真を撮っておいたのです。もうなくなりましたが。今、作っている最中を撮っているのですけれども、これだけ見ていただいても結構面白いのです。
 その写真も、実はiPhone自体のカメラというのは、そんな大した機能というか性能ではないのですね、200万画素だし。だから、そういうものを撮るのだったら、それこそdocomoの携帯電話の最先端のもの、今何百万画素とかあるではないですか。それでやっていった方が、全然きれいなアーカイブが残せます。僕が今回iPhoneでやったのは、たまたま要件を満たしていたというだけなのです。だから、別にiPhoneにこだわっているわけではないのですけれども、将来的にはそういったもので、すべて同じように手軽に対応できるようにやっていきたいなと思っています。
(大内) コメントが三つあります。一つは、アーカイブというと、今までさまざまないろいろなところにあるアーカイブというのは、ある一つの論理的体系が、それがいいかどうかはともかく、そうしてあって、それを基に整理されているわけですけれども。こういう形のデータの集め方というか、あるいは今の若い人たちのデジタル世代というか。そういうものとは関係のないところで積み重なっていきますから。ひょっとするとそこから、今までとは全く違うものの見方であるとか、整理の仕方というものが生まれてくる可能性が一つあるということです。
 それからもう一つ、メモリーというのは自分がいろいろなところにメモをしたりすることも含めてですけれども、これは何のためにやっているのだろうかということを時々考えるのです。何かを記録したり覚えるためにやっているということもあるけれども、一方で、忘れていいためにやっているという世界もあるわけです。つまり、記録ということをしているわけですから、もうそのことは知らないというか、どこかに記録をしておけば、そのことについてはもうこだわらない、つまり過去を忘れていいというためにメモリーがあるという側面も実はあるのです。そこが、これで何か変わらないかなという楽しみが一つある。
 三番目のコメントは、お年寄りの話ですけれども、私も97歳のおふくろを抱えていて。皆さんよく、私もそのうちそうなるとね。人間の記憶というのは、直前の記憶というのは忘れてしまうけれども昔のことは覚えているという、妙なものがありますよね。よく、お年寄りの人たちは過去の話になると延々としてくれるけれども、ほんのちょっと前に何をやったかというのをわれわれもどんどん忘れていくという。ああいう人間の持っているのは多分、本質的には、将来も変わらないかもしれないけれども、何かそういう人たちに対するアシストの機能を持てるのかもしれないなというのを思いました。

(山口) 逆に今、展覧会のイメージがいろいろ頭の中で膨らんでいるのですけれども。宮田さんはこれは、残せないというのが大事というふうにおっしゃったと思うのですけれども。例えば作品集みたいなことを残すことはできるのですか。

(宮田) この写真を基に。今ソフトウエアのノーティスに、要はこの写真の、僕らが権利を主張したりすることは一切ありませんと。これを勝手に何かに使うことも、出版したりとか、というのはないです。ただ、memory treeのPRだとか、研究目的に利用することはありますと書いてあるのです。だから、何かの形で僕もやってみたいと思っているのですけれども、どういう形でできるかというのはまだ分からないです。そもそもこのソフトを作ったきっかけというのは、もちろん秋元館長とのいろいろなお話があって、僕なりに考え抜いた上で、人の思い出話が一番面白いコンテンツだなというところから始まっているのです。

(福光) 今、山口さんの発言は、アーティスト側からの。

(山口) はい、アーティスト側の、表現する方の。

(宮田) これを使って、例えばアーティストが何か表現をするとか、そういうことですか。それはもう、お好きなように、どうぞ。

(山口) だから例えばそれは、一つずつエディションによっていろいろできるわけですよね。対象者をこういうふうに限定するとか、使用者を限定する、エリアを限定するというやり方をすれば。

(宮田) できてしまいます。 あとは、写真というのがメインになるでしょうから、先ほどおっしゃった肖像権だとか、そういうもののクリアは、どうなるか分からないですけれども。

(平原) NTT西日本の平原でございます。前、福光さんから少し概要を伺っていたのですけれども、実際聞いてみるとよく分かりました。大変興味深く聞かせてもらいました。聞きながらずっと思っていたことは、こういうことをやっていくときのビジネスモデルというのはどういうふうにしていったらいいのだろう。今現在どういうふうにやられているのかなというのもあるのですけれども、そこはちょっと気になりました。教えていただければと思います。

(宮田) 別に言い訳ではなく、今アート作品なので、ビジネスになっていないですね。こういったサービスというのは、多分大きくは二通りあって、一つは数を集めたもの勝ちというのがありますね。例えばmixiがそうだったと思うのです。もう一つはやはり広告だとか、そういったことになってきます。僕らはその両方というのは、放っておいてもいくと思っているのです。数もどんどん今集まっていますし、数が集まれば広告価値というのは出てきますから、その両方は放っておいてもいくと思っているのです。それ以外というのはやはり、今いろいろご覧いただいたような、長期と短期で、もちろんビジネスモデルというのはあると思うのですけれども、短期で言ったら例えばこのシステムというのをソリューション、一つあると思います。それで、長期で言ったら、やはりもう一つ、先ほどの冒頭の話のように広告だとか。
 ユーザーから今、お金を取るつもりは今のところないのです。ここから配信する先ほどの、いろいろな、ここに配信するコンテンツですとか、そういったところでやっていこうと思います。というのも、今までのコンテンツ配信とはちょっと違うものになっていくと思っているのです。要はエリア限定だとか、そういったことが非常に簡単にできる。あと時間も限定できます。ですから、媒体の価値としては、そういったところを前面に押し出して、ビジネスというのを展開していけばいいのではないかというふうに思います。単純に、今たまたまiPhoneをフューチャーしていますけれども、僕がやりたいのは、やはり家庭なのですね。テレビだとか。それこそNGNのお話がありましたけれども、これから本当にどんどんギガビットになっていきますよね。そうすると配信できるものというのも、リッチにどんどんなっていくというのも、もう目に見えていることです。僕はやはり、入っていきたいのはここなのです。ここをやはり、今回のNGNも、場所というのはある程度特定できるというか、一つ特徴ではないですか。ここに対してもピンポイントにコンテンツを配信していくとか。僕はもともと、アニメーションを作ったりとか、そういったデジタルコンテンツを作っている人間なので、自分の作った作品を届けたい人に届けるための方法は何かないかとずっと考えていたのも、実はここの延長上にあるのですね。

(平原) 参考になりました。ありがとうございました。

(早田) 石川県産業政策課長の早田でございます。今日初めて宮田さんのソフトを見させていただきまして、そんなことまでもうできるのかといいますか、こんな手軽に人々の記憶というものを周りに、いろいろな場所に置いてこられる、もしくはある時間帯に全世界のものを見られるという、恐らくユーザーから見ても非常に興味深いコンテンツだと思っています。先ほどビジネスモデルというお話がありましたけれども、ではそれを、その地域の人たちが、今後どう、広告として使っていくとか、ピンポイントにどう情報発信をしていくかと、そこの地域の振興といいますか、使うユーザーがそれを持ってまたビジネスとしていくというのにどうつなげていくのかというのが、すごく関心を持って見させていただきました。
 その中で、今、あるターゲットを絞って、場所を絞ってメッセージを配信していくというビジネスモデルを一つ紹介されました。それは恐らく、先ほどの、近江町市場へ行って、振れば、そこのお店がやっている、撮った写真や履歴、過去のものを見られるというのがあるとは思うのですが、逆に、では近江町に行かない人たちが、近江町で今、私が例えば寺町に住んでいます。寺町にいながら、今の近江町の最新の情報であったり、最新の安売り情報とかを知るには、逆にどうしたらいいのか。その辺のつなぎをぜひ教えていただきたいなと思いました。

(宮田) 今おっしゃったご意見はもっともで、僕らが一番最初に悩んだのはやはりそこなのです。要は、本当に意味での今あるような共有というのがあるではないですか。例えば、友達リストみたいなものなどという機能は、作ろうと思えば本当に今日の夜にでも付けられる機能なのですね。それは、付けた瞬間に割と当たり前のものになってしまうので、今回の、今アート作品として提供しているバージョンにはわざと付けていないのです。これを、では例えば、近江町市場の何とかという魚屋さんがあって、僕はここがごひいきだといったときに、ごひいきボタンを押すと、それはずっといつでも見られるというのはもう、すぐにできてしまうことなのですね。

(立岩) 大変面白く聞かせていただきました。特にこれだけいろいろとハイテクで便利になってくる中で、時間と場所を限定するとかいったやり方が、逆に可能性を広げられるのかなと。また、佐々木先生のお話にもあったのですけれども、先ほどのご当地音楽などとも絡めて、発信していくようなことができれば、大変面白いかと。試みとして、ICチップを埋め込むようなことも、例えば観光施策などではあると思うのですね。そういったことが、もっと手軽に、これを使えば。例えば著名人の方が金沢を訪れて、「こことこことここに自分は記憶を置いてきたよ」と。それをまた、たどっていくような観光の在り方であるとか。そんなことも、非常に、本当に面白い技術だなと思って聞かせていただきました。

(宮田) ありがとうございます。この間これを持って秋葉原に行ったら、多分何人かの仲間でやられていたと思うのですけれども、オリエンテーリングみたいに、「ここでこれを見付けて、次にここに行け」とやっている方がいたのです。それで、ああ面白いことをやっている人がいるなと。これは本当に、ユーザーの使い方ですよね。僕も、ああなるほどと思って、六本木のミッドタウンに行って、地下に石のオブジェがあるのですけれども、それの写真を撮って、「これがどこにあるでしょうか」というのを、写真を置いてきたのですね。そうしたら、1週間後ぐらいに、またたまたま同じ場所を通ったので、そういえばと思って振ってみたら、「見付けました」と写真が載っていました。

(佐々木) この話は、幾らでも続きそうなのですが、時間なので。ずっと音楽とこの新しいメモリー、こういうものをつないでいくということが、次のセッションにまた何か受けていただければありがたいなと思います。どうもありがとうございました。


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