まとめ討議
■進行
 佐々木雅幸


(佐々木) それでは2日めの討論を始めたいのですが、昨日金沢21世紀美術館を舞台にして大変美しい夜景の中に私どもは居たわけです。金沢の新しい景観を形成して、金沢らしい風情や風格がもう一つ加わったわけですが、一方で今日議題にしておりますように、金沢の町の顔でもあるような香林坊、武蔵界わいが、場合によると一気に空洞化していく、あるいは空き地になってしまうという危機があると。新しい要素が加わった一方で危機もまたあるということの認識の上で、風格ある都市としての磨きをかけるための提案が二つあったわけです。一つは、公共空間という形で都市構造を変えながらコンバージョンの意欲を引き出す、そしてもう一つは、大家と店子の間の家守という伝統的な制度を現代に生かしながら、このコンバージョンを促進して、具体的にはeAT KANAZAWAで活躍されている宮田さんのようなクリエイティブ・ビジネスというものを、金沢の町の中に登場させていくと。
 これを一気に実現したら、恐らくまた金沢というのは新しいモデルを生み出すわけですが、このテーマについて先ほどからうなずいておられます三宅さん、いかがですか。どのような感想をお持ちでしょうか。

(三宅) コンバージョンというのは東京でも今、非常に盛んになっております。金沢のいろいろな事例を拝見しまして、いわゆる香林坊から武蔵が辻の方に行く道と、裏側にあるものとではまた違ったポテンシャルがあるような気がしています。私自身がいろいろ住宅等々にかかわっていて、金沢の資産がいわゆる商業建築だけではなくて、近代和風といわれるような、昭和の非常に質の高い住宅をかなりストックとして持っていると。それも恐らくは、データを持っていませんが、空き家率は高くなっているのではないかと。そういうものの利活用というものを視野に入れていくと、恐らくこれはちょっと違った意味でのインキュベーションの材料になるような気がするので、そこに多少関心があるということを1点申し上げたいと思います。

(佐々木) どうもありがとうございました。いわゆる金沢の町屋も含めた問題も視野に入れるということで頂きました。川勝さん、どうですか。昨日の夜、着かれたので。

(川勝) 夜の21世紀美術館がとても美しいということを皆様がたから聞いていたのですが、ともかく金沢というのは江戸文化が日本に残る代表的な町です。その江戸文化というのは、近代、西洋を相対化できるような文化的財産だと思うのです。それがここに生きていると。それを対置するということは金沢は非常に得意だったのですが、それをなかなか超えるといいますか、両方を弁証法的に統一し続けるということはなかなか難しかったのです。しかし、21世紀の美術館はベネチアで賞を頂いたということが端的に示していますように、グローバルな価値を持つポストモダンですよね。それが入ったというのは、非常に大きいと思います。東京は日本における近代を代表するものですが、それを超えるポストモダンの美術館が最も伝統的な空間の一角に入ったということで、これは金沢にとってはとてもいい財産になったと思っています。
 先ほど大内先生と水野先生から、都市のデザインについて、なかんづく香林坊から武蔵の中心街をどう活性化させるかということで、素晴らしいデッサンが提示されました。そこでミラノやニューヨークの写真をご提示いただいたのですが、ミラノにはミラノ大学がありニューヨークにもコロンビア大学があります。また、ミラノには金沢では城に当たるドーム、大きな大聖堂があります。ニューヨークにはセントラルパークがあると。こちらには、セントラルパークと金沢城が両方あるわけです。ただ、残念ながらせっかく四高としての伝統のある金沢大学が、どこかに行ってしまったわけです。
 人をどういうふうに入れるかは、一つには町の人々がそこをどう使うかということと、もう一つは観光客だといわれています。やはり出入りする人が重要です。恒常的に居なくても、ある一定期間そこにとどまる人です。例えば金融機関なんかそうだったと思います。一定期間そこに赴任されて、そこに居ると。そういうものとしては、やはり大学でしょう。これが出ていったというのが大きいです。だから、その人たちをどう戻してくるかということですが、いったん出ていったものをなかなか戻せないので、金沢学会がこれは産官学の金沢の地域創造をどうしていくかと。まさに地域創造学部の育ての親である佐々木先生がここにいらっしゃるわけですが、その地域創造大学院大学のようなもの、あるいは金沢大学のそういう新しい学科のようなものが、そこの場で具体的実践をしながら学んでいかれるというものがあればいいと。つまり、その町の中に学会があるというです。
 いろいろな事例があると思います。パリにもオックスフォードにもありますが、小さな町としてはベルギーのルーバン大学にもあります。普通の町の建物が学部のある種の研究科になっていたりするわけです。そこに学生がしょっちゅう出入りして、遅くまで勉強している、そうすると、議論をゼミナールが終わったあとでもやっていきたいとなると、コーヒーを飲みながら、あるいはお酒を飲みながら、食事をしながらということになります。また、それは彼らのファッションを伴います。旧来の大学が出たということは、言ってみれば西洋近代です。日本の近代は西洋近代を入れるための大学ですから、それがいったん外においでいただいたと。
 そして今度、21世紀美術館も一角にできた。そうしたものを活性化し、生かしていくための知的実践的な、しかも学習しながらやっていくという組織が中に入っていいと思うのです。ですから、観光客をどう入れていくかということはどこでもやっています。新幹線も来るし、世界遺産ということも視野に入っていますから、これはいけると思いますが、具体的に中心街を生き生きとするにはやはり若者が来たほうがいいと。あまり風紀が乱れないように、もともと全体として風格の高い町ですから、大学院あるいは社会人教育も含めた大学院というようなものを産官学で支えていくと。これは金沢大学と連携すると。あるいは金沢大学の1学科として作っていくと。それは産官学の新しい試みとしてその辺りを使っていくと。これは町の中に大学がある、あるいは大学の中に町があると。町をタウン、かりに大学人をガウンと。昔はガウンを着ますからね。ガウンとタウンが一体となるような町として香林坊から武蔵までをイメージするというのも、一つの考え方だと思います。それは金沢学会や大学が共同で家守になって、そこを研究施設、同時に住宅施設、それからまた実践の場としてやっていくと、にぎわいが戻ってくるのではないかという感想を持ちました。

(佐々木) 昨日の議論にさらにもう一つ厚みが加わったような提案を頂いたのですが、ここから先はもうオープンでいきたいと思います。どなたでも。はい、どうぞ。

(木虎) 今、非常にアカデミックなお話なんですが、昨日、小松先生から家守というかなり具体的に進める素晴らしいご提案がありました。私もそのあたりを実際に、私は建物の設計という仕事ですので、そういう仕事の流れから、問題はどういうところかというのをお話ししたいと思います。
 皆様がたご承知のとおり、金沢市というのは行政の非常に手厚いコンバージョンに対しての施策があります。これは昨日もお話ししたように、こういう「建築コンバージョンの事例集100」という中にもご紹介させていただいているほどです。私もこちらに来るまではいわゆる建物の所有者だけの補助かと思いますと、入居者にまで補助されるということで非常に素晴らしい。逆に言えばそういった環境が整った中で、本当にコンバージョンを進めるには何がいちばん大事かと。
 先ほどからお話が出ていますように、やはりいちばん大事なのはビルのオーナーの危機感だと思います。やはり今埋まっていない状況をどうすればいいか。これは端的にいえばテナントを見つけてきて入れるというのが真っ先の解決ですが、やはりそう簡単にいかない状況に対しては、コンバージョンというのは非常に大きな手法だと。
 ところが実際コンバージョンをするに当たりまして、今、家守の役割というお話がありました。言ってみれば企画の段階で事業そのものの収支をまとめる、そして実際にその建物の調査をして設計する、そして工事もし、さらには次にテナントを集めてくる。そのテナントというのも実際に受身である。テナントというのは一般的には受身ですからいい話が来たら乗ろうというのですが、昨日のお話のように、宮田さんのような非常に積極的なテナントもあります。しかし、そういったもろもろ、でき上がってからさらに住宅の場合は入居者の管理、建物そのものの管理をすべてやらないとコンバージョンというのは成功しないわけです。このそれぞれに関してはやはりそれぞれ専門のかたがいらっしゃいますから、その知恵を借りてケースバイケースで篤志会ということで解決しなければいけない。
 ただ、共通しているのはそういったことを全体をまとめる仕事、コーディネートの仕事が非常に大変であると。実は大変なんですが、逆にそういったものに対して世の中の報酬といいますか、そういったものがきちんと整備されていない。そこら辺は現実に東京のほうでもコンバージョンがありますが、それを主体的にやっているのは結局設計事務所が一部やっていたり、あるいはオーナーの中のインハウス的な技術者集団、あるいは施工会社、それぞれ何らかの形でそういった大変な仕事に対して、経済的な裏づけを持って仕事を進めているわけです。
 そうしますと、やはりいろいろお話を聞いていますと、そういう困難な仕事に対して私はあまり官に頼るばかりではだめだと思うのですが、やはり民の中でそういったものについてどういうふうに支援していくのかということが、一つ非常に大事ではないかなと。それは例えばこういった状況ですから、何か一つプロジェクトを成功させなければいけないという気持ちはよく分かるのですが、それが点でぽつんと終わってしまってもどうにもならない。それをいろいろな形のケースで成功させるには、やはりそういった人間を育てていかなければいけない。育てるにはやはりそれなりのシステムが要ると。そこが大きな問題ではないかと思っています。
 一方、点のコンバージョンが成功しても、それを線のコンバージョンにしなければいけないといったときに、非常に魅力あるテナントが入ったとしても、これが長続きするかといったことは、やはりもう一つ町のインフラ整備、水野先生からご提案があったような、交通政策とかいろいろな意味でなかなか難しいと思いますが、やはり緑の環境、いわゆる地球環境問題も考えたそういったこと、そういった対策をやはり公の手で少しずつ進めていくというのは、非常に大事ではないかなと。
 それからもう1点。三つほどお話ししたいと思っていたのですが、一つは今度はそういったものができ上がったときに、地域としてそういったものを維持管理していくシステムです。これは実は昨年もちょっとご紹介させていただいたのですが、丸の内では大丸有エリアマネジメント協会、Ligareという名称でNPOの集団なんですが、これがやはりその地域の環境や活性化のためのイベントや交流、コミュニケーションを図る、そういったことで活動しており、協賛会社やボランティアに支えられています。いわゆる官と民の中間的な役割ではないかと思っております。小松先生のお話の中でもそういったお話がありました。やはり具体的にこれは次のステップだと思いますが、そういうものをやはりやっていかなければいけない。
 そんなところですが、最後に一つ私が建物でリニューアルやコンバージョンということをやっておりますと、非常に大きな問題は、コンバージョンというのはやはりしょせん小手先の話ではないかなと。いわゆる建物のストックというものに対してどういうふうに考えるのかということがあります。金沢でも非常に古いもの、これも古ければいいというのではなくて質のいいものをいかに保存させるか。そうしますと、コンバージョンをかりにしましても、あと何十年使うのだろうと。そもそも建物ができたときにこの建物はどういうふうにこれからメンテして、どういうふうに生かしていくかという視点というのが、私はやはり日本の世の中に少し欠けているのではないかなという気がしております。
 そういった意味で、昨日非常に素晴らしい21世紀美術館を見せていただいたのですが、やはり私どもがいつもお客さんに言っていますのは、建物ができたときからもうすでに寿命というものは始まっているのだよということですから、当然建物の長期修繕計画などを作りまして、必要なときに予防保全ということをして、建物の質を維持していく中で当然いろいろなコンバージョンに対応できるのではないかと。困ったときのコンバージョンではないですよというような言い方をしております。以上です。

(佐々木) 包括的な問題を頂いたのですが、いかがでしょうか。永井さん、何かソフトな話を少し頂けますか。

(永井) この金沢学会のお話というのは非常に面白くて、これはホームページか何かで英語で開いておられますか。知恵はやはり世界へ開く時代かな、借りる時代かなっていうふうに思うのですね。最近どういうわけか銀座や東京の青山辺りも、ディオールとかグッチだハッチだと。どういうわけか世界に名の通ったブランドというのは、ソニーとか電気製品にはあるのですが、日本はなかなかそういうファッションのようなところに名が通らないのです。ひょっとしたら海外の人の目から見れば、この金沢のストックというのは素晴らしいものに見えるのではないでしょうか。
 日本の企業から見ると終息の美学が今盛んなのですが、今一つあそこでやっていてうまくできるかなという危機感のようなものがあって、収支の姿を想像するとなかなかぴんと来ないというようなことがあります。確かに空き空間を出していただくというのは、非常に素晴らしいアイデアなのです。オーナーのかたがたは積極的にこういうことに協力していただけるのか、あるいはこれを出せば、もしそこの土地に非常に資産、価値があればもう少し上のほうに高いものを建てていいとか、何かそういうものなしにOKができるのでしょうか。あの通り自体、とにかく家守のようなものが進出して、ここにはすごく可能性があるということを、まず見せないといけないと思うのです。あと、どうしてもだめだったら、私はいろいろな金沢に点在しているパブリックな事業というのが、アンテナショップ的に前に出ていくしかしかたがないのかなという感じがしています。
 昨日もちょっとプライベートでお話ししたのですが、普通の人々が享受できる、だれでもが享受できるものというのは、道路と図書館なのです。図書館も多分素晴らしいものがおありになると思うのですが、街角図書館みたいなもので人を集めるとか、風格がちょっとないかもしれませんが、漫画とか、あるいは映像産業の基地、それからこれは金沢の特徴で昔ながらの伝統あるもの21世紀美術館に代表されるようなもの、本当に素晴らしいものをお作りになりましたね。私もジャーナリストとして、すごい決意をなさったなと。何か30億円ぐらいの資金があって、この美術館が閉じる時代にああいうものを今開くというのは、金沢ってすごいなと感心していて、しかも早くも公益法人に指定管理者をお命じになって、いちばん早かったのではないかと思って、うらやましく思っているのですが、あれはいけると思いますね。
 ですから、金沢の21世紀アートミュージアムのさらにアンテナショップを前に出していくとか、ぼんと前にすごいものを出していって、ここはいけるぞと。それから、車のことはあるのですが、日曜日ぐらいは完全にストップして、昨日も申し上げたアート・フリーマーケットのようなものにして、とにかく早いところにぎわいの可能性があるのだというところを見せていかないと、なかなかあそこに出ていかないのではないかなと思うのです。
 金沢のこの問題は、私が20年前に水野さんとご一緒に1時間の番組を作ったころからあるのですよね。本当になかなか展開ができないのだなと改めて思うのですが、しょうがなかったら山出さんが自らおやりになるしかないのではないかなと、そんな感想を持ちました(笑)。

(佐々木) 市長さん、お願いします。

(山出) こういう会ができるというのは、大変いいことです。金沢は昔から非常にまちづくりに関心があって、僕なんかにとるとうるさいのですが、うるさい人がたくさんいらっしゃるといいなと、本当にそう思っているのです。今、水野先生が武蔵と香林坊の間を開こうよとおっしゃって、パブリックスペースをできたら作ったらいいねというお話がありましたが、いちばん近い時期に可能になるのは武蔵が辻、横安江町商店街だと僕は思っているのです。今の横安江町商店街はかつての活気を失った商店街ですが、あそこの空間といえば東別院でしょうし、東別院の前に、旧の石川銀行を取得して今、公園にしていますので、ここはちょっと行き着けるかなと思います。今度は近江町市場をやります。近江町市場の、今ある北國銀行の左側に広場を作りますが、ここも国道に面しますので、そういう意味でいいかなと思っています。ただ、武蔵と香林坊の間にはちょっとスペースがありませんので、そういう意味で私的な空間をパブリックにしていかなければいけないと思いました。
 今日いろいろお話を聞いていて、今日のお話というのは民間同士、あるいは公と民間とのコラボレートによるコンバージョンの話かなという気がしました。小松さんが家守ということを言われまして、僕は大変関心を持っています。僕のイメージからいきますと、お江戸と違いまして金沢というのは職人の町ですので、家守即職人という受け止め方をしたいと思っているのです。大工さんは頼まれて家を作りますが、同時に瓦屋さんのお世話をしますし表具屋さんのお世話をします。そして、時として冠婚葬祭の世話までしたわけですから、現代版職人が小松さんのおっしゃった今の家守かなという気がしてなりません。ですから、本来家守制度というのは金沢にふさわしいかもしれないなと思っています。よくよく聞きますと設計屋と不動産屋の真ん中にいく仕事のような気がしまして、こういうコンバージョンを業としてやるというお人が金沢に出てきたら大変いいなと思っておりました。
 ただ、私は小松さんに一つだけ頼みたいことがあります。たった一つでもいいからいい事例を作ってほしい(笑)、これに尽きるわけです。小松さんと僕は投資銀行とよくお話をする機会があったのですが、今日までいろいろなお話を僕自身もしながら、成功したためしがないのです。今度小松さん、この家守で1件でもいいから成功してほしい、そうしたら広がっていくと思いまして、ぜひよろしくお願いしたいと思います。
 ファンドのことをご指摘になりましたが、どうも金沢という町はよそに水がついたとか震災になって現金募集ということになると、たくさん集まるのです。すごい町です。僕は日本の中でこんなすごい町はないと思います。この間、福井へさっと6000万お金を持っていくわけですしね。それから、先般の神戸の震災の時は1億の金を町会が全部集めるわけですからすごい町なのですが、ファンドというのはなかなかなじまないのです。ここはどこに原因があるか、ちょっと研究する必要があると思います。非常にコミュニティー連帯の土壌は色濃いのですが、ファンドというハイカラな言葉を使われるとどうもなかなか実りませんで(笑)。僕はこれは過去の例でもあったと思いまして、ここのところはよく分析、研究する必要があると思いました。
 それで、やっとこんな話ができるような時期になってきたなと。僕が市長になったころは、香林坊から武蔵までは電線がクモの巣だったのですから。そして、表面の建物が出たり入ったりで、やっとこの議論ができるようになったと思いました。今、水野先生もおっしゃいましたし、三宅先生は町屋も大事にしろとおっしゃいましたし、よくよくこういう件が実現できるようにしたいと思います。それから、この間に川勝先生は大学が使える空間をというのは、僕はこれも大変関心を寄せています。金沢はやはり学生の町でもありますし、永井先生が図書館をとおっしゃいまして、こういうものも僕は大事だと思います。若い人や学生など、そういう人たちが集まってくる空間形成というのも大事でして、町の中が元気になる手法だなと思っています。
 理屈を言うのは易しいのですが、問題は先ほど小松さんにお願いしたように、一つでもいいから事例を作ることだと。いい事例を作りますと広がりますので、僕はいい事例を一つでもいいからまずは作ること、ここからだと思っているのです。またよろしくお願いします。



(佐々木) 何となく中締め的な発言が出てしまったのですが(笑)、あとは行動あるのみということになったのですが、福光さん、いったんここで。

(福光) 市長さんが今ファンドという言葉がなじみにくいとおっしゃったのは、ちょっとみんなが実際もう一つよく分かっていなくて、どういうファンドがどのようにあったらいいのか。昔流に講というものがありましたが、そんな話に置き換えてもいいのだと思います。ただ、その町衆がお金を出し合うという話だけでは、リスクの大きな規模の話をしようとしていますから、政策投資銀行が大きくお金を出してくれるとかそんな話がまずあって、それで一つみんなで作ろうというような家守講のようなものを金沢流に何か設計しなければいけないと思うのですが、もう少しその辺、かみくだいて小松さんからお教えいただけませんでしょうか。多分みんなよく分かっていない。家守制度は分かっているけど何をどう作ったらいいか、もう一つよく分かっていないと思います。
(小松) 励ましとともに(笑)非常にある部分プレッシャーも感じながらなのですが、まず市長からご指摘のことで。ファンドという言葉は私もあまり好きではないのですが、どうもそのファンドというのは世の中に毎日のように飛び出すものですから、とりあえず置かせていただいたと。平たくいうと、利子の付かないお金を集めましょうということです。つまり、利子の付かないお金を集めることによって、その使い道でまさにパブリックに使える可能性が広がるということです。ですから、今、福光社長から講という言葉があったように、私も同じような発想なのです。講もそうですし、白川郷の結(ゆい)などもそうですし、神社のお祭りのときのご寄附もそうです。お金というのは、こういう皆さんの気持ちを伝える手段だと思っているのです。
 ですから、そのやり方が、一定の金額でまとまることによって・・・。私も普段、行政に近い立場で仕事をやっているものですから、また今もやっているのですが、その制度を作るまでとか予算化するまでに時間がかかるのです。そうすると、昨日、今日、少しのお金でもいいですから機動的にお金が欲しいという場合に、公的な資金というのはなかなか引き出せないのです。政策投資銀行からのお金もなかなか引き出せません。こういう事情のときになるべく機動的にパブリックなお金をどう引き出したらいいのか、これがまず基本にあります。
 ですから、まさに寄附の発想が基本にあって、その寄附で頂いたお金をどう使うかというそこを柔軟に、これまたファンドという言葉を使ってしまうとあれですが、家守が考えて、よくNPOというのが出てくるわけですが、NPOも今お金に大変困っているはずなのです。これもどちらかというと行政、どこかの官庁のお金をあてにしながらNPOの事業を推進する。そうするとそのためにいろいろな資料づくりというので四苦八苦されているはずなのです。ですから、私なりに今思っているのは、なるべく金額の高は問わず、とにかく機動的に使えるお金を、皆さんの浄財の中から頂けるような仕組みができないかと。
 家守会社というのは個人の出資で、まさに町衆のかたがたによって支えられる会社ですから、いろいろな金沢のかたから見ると、例えばそばに澁谷会長や米谷副頭取がいらっしゃるのですが、組織のお名前ではなくて個人のお名前で出資していただくと、米谷さんや澁谷さんが出資されているのなら安心な会社だと。そういう信用力を付与する会社にまずして、その信用力をバックに、ファンドというのは個々人のかたの気持ちですから、まちづくりのためにどうしても必要なお金を今度は家守に託すわけです。信頼の中で託すと。そうすると、家守はその託された信頼をベースに、今回ですと先ほどの公的なスペースをどうしても必要だといったときの改装費用を、オーナーと相談して、オーナーに全額負担していただくのがあまりにも厳しいのであれば、一部家守会社から出しましょう、改装費の一部を負担しましょうという形にする。また、先ほどのようにテナントで入られたかたが5坪、10坪しか借りられなくて、月々の家賃を当面は払えないというベンチャー企業だったとして、将来非常にこの会社は見込みがありそうだということであれば、当面の家賃は実質ゼロにしてやるから株だけ寄こしなさいよと。これで将来本当にいい会社になったらそれで出世払い、そんな形で回収させてもらうからと。
 厳しい目では事業性の判断をしなければいけないのですが、しかし、今、東京中心に世界的にファンドというのはたくさんできていますが、そのファンドマネージャーというのは毎年のように首を切られているのです。これはなぜかというと、年間20〜30%のリターンを出せないとおまえは用済みだと、こういう形のファンドなんです。ですから、こういう短期的な志向ではなくて、もっと息の長い我慢できる性格のお金を集めて、それでそのファンドを運用する家守には、例えば最低3年ぐらいの期間を任せるからその間に実績を出せ、その代わりいいものを作ってくれよと、こういう思いを託して任せるというイメージです。

(福光) 昨日から議論しているような話で、家守のファンドのようなものを作るとすると、小松さんのお考えではまずどれほど集めなければ役に立たないでしょうか。

(小松) 先ほども打ち合わせの場で議論していたのですが、世間で例えばファンドマネージャーというのがいちばん重要なのは報酬なのです。人件費をファンドマネージャーに対して幾ら払うかということを逆算したときに、ファンドの運用益で人件費を出すとすると、大体最低30〜50億ぐらい、相場的には必要になるのです。しかし、それは人件費を出すためのファンドだとすると、その規模が必要なのですが、先ほども米沢さんとお話ししていたりして、幾つかの会社が家守のために人件費を分割して負担してやろうという形にしてやれば、ファンドの規模はずっと小さくて済む、そうすると3億とか数億オーダーのファンドが集まれば、そのファンドを機動的に使って、先ほどのようなパブリックな当面の必要不可欠な用途に使うという考え方になります。
 ですから、そこはもう本当にその使い方をまず皆さんでよく議論して、何のためのファンドなのかということを考えるということだと思います。

(佐々木) どうもありがとうございました。では、大内さん。


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