経過報告と今回のテーマ説明
     
金沢創造都市会議開催委員会実行委員長
福光松太郎

(福光) 今日は皆様、大変お忙しい中をお集まりいただき、ありがとうございます。今、飛田代表幹事から、主に経過報告も含めて基調スピーチをしていただきましたので、私からは少し重なったことになるかもしれませんが、今日初めて金沢学会にご参加いただいた方もいらっしゃいますし、2年に一度の開催ということも含めまして、これまでの復習をさせていただきたいと思います。
(以下スライド併用)

●この金沢創造都市会議開催委員会は「金沢創造都市会議」と今日開いております「金沢学会」とを1年ごとに交互に開催するという、ちょっと複雑な仕組みを作って実践中です。いずれにしましても今、基調スピーチであったように、金沢という町を俎上に乗せて、このユニークな伝統的な町を活性化していく、あるいは風格のあるように活性化していくにはどうしたらいいか。これは多分、世界におけるさまざまな中核都市のかなり貴重なモデルにもなるだろうということで、金沢そのものを研究のテーマにすることを深めていこうというのが基本的な考え方です。また、具体的な成果をもたらさなければならないという、学術的ではありますが、大変実践的な集まりを作っているつもりです。
 それで、昨年2回目がありました「金沢創造都市会議」は、これからの新しいテーマや都市問題にかかわるさまざまな現代の課題なども含めて勉強するという意味で、市民のかたも含めて公開でシンポジウムを行っています。それで、今日のこの第2回の「金沢学会」のほうは、金沢創造都市会議などでも取り上げたテーマを、さらに金沢的に掘り下げる、あるいは金沢に当てはまらないかを研究する、あるいは金沢が抱えている課題を、学会員でけんけんがくがくと議論をしようということで、今日お集まりのかたは皆さん学会員で、この学会は非公開の会議であり、一般の市民のかたは入っていないということです。今日はご都合でご参加ではありませんが、明日は山出金沢市長もフルタイムで参加されるわけで、そういうタイプの討論の場ということです。

●2001年にこの形でスタートしたわけですが、金沢創造都市会議のほうのグランドテーマは、この年に飛田代表幹事からもお知恵を出していただきました、「『記憶』に学ぶ」というのが創造都市会議のほうのグランドテーマになっております。この町は、いわゆる記録ではなくて、非戦災都市でもあるので、記憶を持ちながらずっと進んでいる町だと。したがって、さまざま意味で記憶から学べることというのも大事にしながら、新しい都市の問題の解決などに当たるときの姿勢にしましょうということで、これはこの金沢を今後語るときの方向性としては、大変分かりやすく、かつ力強い方向性となります。

●この年の、第1回創造都市会議では、「都市の記憶と想像力」を記念対談のテーマにして、金沢の構造、金沢の経済、金沢の心といったものに対してさまざまな問題提起をし、問題を掘り起こしていくスタイルで金沢創造都市会議をやりました。

●創造都市会議も金沢学会も、そのつど日程終了直前に宣言を出しております。2001年の金沢創造都市会議の宣言は今のようなお話で、今、基調スピーチであった、ふるさと教育の重要性の再認識、記憶から引き出される金沢らしさを幅広く分かりやすく語り伝えていくことの必要性ということや、この金沢学会を創設することもこのときの宣言で決められ、金沢学会ができたということです。

●そして、次の年に金沢学会が設立されました。これも金沢学会のグランドテーマとして採択をされたわけですが、「美しい金沢づくり」というのが永遠の金沢学会のテーマということになりました。これは先ほどの飛田代表幹事の基調スピーチにもあったように、教科書も徳川側から書かれているということで、ある意味では強い東京に対して「美しい金沢」という対立概念をぶつけていこう、あるいは「美しい金沢」というものは世界に通じるのではないかという意味で、グランドテーマになっております。

●そして、学会の方式として、今のように基調スピーチ、それから川勝平太さんの金沢学会の定義的なお話を頂きました。

●第1回の金沢学会では提案が四つ出ました。一つは金沢の夜景の問題。もう一つはお城。今日そこに最新の金沢都心の航空写真が用意してあります。今回のために作ったのですが、ここにお城があります。今、石川門というのばかりがお城の門のようですが、実は大手門という門が本当の正門だったのです。大手門の正門の前にずっと道がありまして、その大手門の中通りというのは、今、全くただの道になっています。それを再生しようという提案がありました。
 もう一つは、今、景観問題が出ましたように、道の看板の問題も含めて、金沢へ車で入ってくる時の四つの花道という、そのアプローチ路についての景観形成やその美的な問題について。それからもう一つは、香林坊界隈のにぎわいづくり。先ほども出ました都心の活性化です。特に香林坊の交差点近辺を中心に、第1回では、周辺について相当分析をしました。

●第1回の金沢学会の宣言文は、「グローカリズムの視点」。それから、「美しい金沢づくりに向けて、住む者が自らの町に誇りを持ち、自信を深めることのできる方策」。そしてもう一つは、金沢学会のもう一つの大きなグランドテーマ、長期的なテーマとしては、「尊経閣文庫」。これは前田家の宝物ということに定義すれば、それが今、実は当地にないわけで、東京と鎌倉にあるわけですが、先々はこれらを金沢に元のとおりに持ってくることはできないかと。これは都市の風格の中でも大事なテーマで、こういうテーマもいつも意識しましょうという宣言です。

●そして去年、第2回創造都市会議が開かれ、この学会で出た内容を受けて、都心のにぎわいの各論をやろうということで、「都心居住と創造都市」ということで都心ににぎわいを復活する、都心に住まうことを復活する。そういうことが、いかに金沢のパワーとしての創造力の回復につながるかということを議論しました。

●「都心居住と創造都市」が第2回の基調対談のテーマです。創造都市会議はパネルディスカッション方式をとらず、すべて対談でやっております。建築家の山本理顕さんと三宅理一さんが基調対談をされました。

●そして「コンバージョン」という、すでにあるビルを使い直すという意味で、これに関する補助制度もたくさん今、作られているわけですが、このころから「補助制度を作らなきゃいかん」ということになりまして、現在はかなりのスピードで補助制度が整備されております。それから、都心の賑わいというものと、都心で暮らすということの一つの都市民としての心ぶりといったような話。それから、具体的な再生プログラムにはほかに何か例があるのかどうかといった話。こういうことを掘り下げていったわけです。

●昨年の第2回創造都市会議の宣言文では、金沢の再生には、歴史、文化、伝統を現代に生かす戦略が必要だと。そして、兼六園をはじめとして、先ほどスピーチしていただきました、世界遺産登録運動を始めること。そして、感性を重視し、金沢独特の趣、風情といったキーワードを町づくり、都心づくりに入れていかなければならない。当然「和」という、洋と和という意味での「和」の趣が、とても大事なテーマであるというのが出されております。
 そして、その前の年の金沢学会の四つのテーマにつきましては、社会実験を試みましたが、こういうことも含めて、各論を本当に現実化する。そして、動き出すときには、行政頼みではなくて、心ある経済人や市民が資金も出し合って支える「町衆の心意気」が必要であると、こういう論点を取り上げて、宣言文として採択をしたわけです。

●第1回の金沢学会の時の四つのテーマのうち、三つが宿題として去年1年間ワークショップという格好でずっと研究をされました。それは去年の創造都市会議でも報告したのですが、ちょっとここでも触れさせていただきます。一つは、香林坊界隈の賑わいづくりの実験として、ここに中央公園というのがあります。これは旧県庁の隣にある公園で、近代文学館の奥にある旧四高のグラウンドを公園にした部分ですが、この活用がなかなかうまくいっていないし、いろいろな意味でまだまだ問題のある公園なのですが、そこで、オープンカフェを臨時に突然出現させてみると、人は集まるだろうかということでした。これを実際に手がけたのはこの学会員の水野雅男さんですので、一言コメントを頂けますでしょうか。

(水野) 昨年の10月から11月にかけて、週末お天気のいい日に4日間実験をしました。中央公園に突然カフェを営業してみて、立ち止まったりお茶を飲んでもらうという実験をやりました。結果はやっぱり皆さん好評で、「こういうのは通年であるといいね」というご意見を頂きましたし、その設営をしている時に市長もいらっしゃって見てくださいました。その結果として、県と市で中央公園にカフェを整備するという方向で動きが生まれていると聞いております。以上です。

(福光) ありがとうございました。まだ具体的にどのように動くか分かりませんが、こういうオープンカフェというのが、こういう公園の中に人を集めるための一つの技術でもあります。この応用はいろいろ利くわけですが、しかしこれにしても行政だけでできるかどうか。民間と行政が一緒にならないとできないのではないかとか、いろいろな話があります。金沢市もこの中央部にたくさんのポケットパークを作っております。つまり、旧町家が売りに出て、急にいろいろなマンションが建ったりしたら困るという場合は、市が買い上げてポケットパークにしている例はたくさんあります。そういう場所の一つの使い道でもあるわけで、実験の意味は大変あったのではないかと思っています。

●大手門の中町通りの再生ということです。石川門ではなく正門の大手門中町通り。今は、全く普通の、何といいますか、かなり地味な町並みなのですが、これは本来、正門前の大変由緒ある通りだったわけです。向こうへ出ますと、橋場町につながります。

●これは、今のあの道をお城の方へ向き直すと見えた河北門という門です。これを造ったらどうかということも含めて、前回の金沢学会で提案がありました。これについては、担当された副実行委員長の米沢学会員からコメントを頂きます。

(米沢) 2002年に中町通りの再生を提言させていただきました。それで、金沢市で2003年に学識経験者と中町の周りの町会長がお集まりになった二つの部会を作っていただきました。その二つの部会ともに私ども経済同友会も入って意見を言わせていただき、1年がかりでその金沢の中町通りの構想を固めさせていただきました。現在はそれを持って、具体的にいろいろな影響が起こる各町内会への説明が全部終わったところです。これからどうしようかということは、一方通行にしたほうが雰囲気が出るのではないかということで、その交通実験を年末にかけてできないかと、今、町会の皆さんと協議をしている最中です。また、この町内会の説明の最中に、私どもがやっている旧町名の復活の話も、それぞれの町会でお話が出ています。あと、県のほうも、今言っていた河北門の復元について検討をしていただくようになりました。

(福光) ありがとうございました。第1回金沢学会この提案で、市で委員会ができ、比較的早い対応として、この地域の活性化に取り組み始めたということで、県の金沢城の再整備の話の中にも河北門が入ってきております。

●これが先ほど申し上げました金沢へ入ってくるときの四つの道の話です。この景観、道路脇の無秩序な看板とか、特に郊外に出れば出るほど、どの町か分からなくなるのは、地方都市は大体そうなのですが、それにしてもそれでいいのかということで議論しておりました。これは議論をスタートしてしばらくしたときに、市のほうでもモデル交差点を作られて屋外看板の規制に入っておられました。以前から景観検討委員会、あるいは景観条例が金沢市は早かったので、その中でも屋外広告物が問題として議論されてきましたが、具体的な規制のモデル作りにもう実際に入っていただいております。

●次は金沢の夜景をデザインするということで、夜景の話を出しました。今、元の県庁の建物が残っておりますが、ちょうど県庁が実質的には駅の西の方、海側に移ってしまいました。この中心部が空いているのも大きな課題で、ここが空いていると夜が暗いということもあって、市民からもいろいろ意見も出たこともあり、金沢学会でも、夜をちゃんとしなければだめだというお話を出しました。そこで、県で、これは土木のほうですが、「灯りの回廊」という、夜、ちゃんと歩けて、すてきな道を作ろうというのに受けていただき、ちょうど金沢学会の提案もその中にビルトインされることになって、その社会実験をしました。これは大内先生が担当されましたが、コメントを頂けますか。

(大内) これは市庁舎の前に金沢工業大学(以下工大)の金谷先生の学生が中心となって、学生たちが制作したものを一時的に夜置かしていただいたものです。ちょっと独特の面白い空間が出現し、随分多くの方に注目していただきました。あと二つ、2種類の実験をしました。一つは広坂の商店街の皆様にショーウインドーの一部やお店の前にちょっとした灯り、学生たちが設計した面白い灯りを置かせていただいて、ショーウインドーを普段とは少し違った趣にするということをやっていただきました。もう一つは、先ほど福光さんからもお話がありましたように、金沢にふさわしい灯りとは一体何なのかということもやはり考えなければいけない。ただ明るくすればいいという話ではないし、「和」の追求、「和」の灯りであるとか、「風情」というようなことを考えて、金沢にふさわしい灯りを設計しなくてはいけないということが私たちの一つの大きな目的でしたので、幾つかの照明灯を並べて、大変たくさんのアンケートを取らせていただきました。
 結果から申し上げますと、街灯のタイプについては非常に意見が分かれたということですが、皆さんから一致して得られた回答は、やはり金沢が注目すべき一つのキーワードは、「和」の灯りだということでは、90%以上の方がそういう意見を持たれていたということが、非常に重要な確認事項であったかと思います。県のほうでも、いろいろと回廊計画を考えていただいておりますので、これからも少しずつ実験をすることによって、普段にはない美しい金沢が、灯りによって演出できるのではないかと考えております。

(福光) このスライドでは工大の学生さんが中心の、いわゆるイベント的なものの写真しか出ていませんが、実験では、今おっしゃいましたように、照明器具そのものの様々なタイプを実際に並べてみて、どれが金沢の町にいいかというアンケートを取って、随分たくさんの通行者である市民の方にアンケートに応じていただきました。随分はっきりとした好みも出ているようで、それらの結果も県の「灯りの回廊」を作るときに反映されていって、多分今年度の終わりごろから具体的な着工といいますか、そういうものが動く予定だと思います。金沢の中心部に四つのルートができるということで、これも比較的早く、いろいろな解決策が動き出したことでした。

●そして、その後、この会場の場所に21世紀美術館ができました。夜は特に空飛ぶ円盤が降りてきたように見えますので、ご遠来のかたには今日ぜひ夜景も見ていただきますようにお願いします。これで随分夜景が変わったこともございます。

●創造都市会議の去年の宣言にありましたように、町衆の心意気も含めて賑わいを作らなければいけません。そして、県や市の都心の活性化のための助成制度のほうは、申し上げてお願いをしたら、随分スピーディーにできました。これは香林坊から武蔵へ向けての道、つまり、この航空写真ですと、香林坊交差点から武蔵が辻への157号線と、さっき飛田代表幹事のスピーチに出てきました、いわゆる「賑わい回廊」と呼んでおりますものですが、これが、さびしい回廊になりつつある、大変重要な道なのです。
 しかし、その助成制度ができたのに、町衆もいろいろ探ってはみたものの、具体的な案がまだ一つも動いていない。これはやっぱり大変なことだと。やっぱり具体的に動かないとものは動いていかないという、さっきの各論を打破しようという姿勢の論点からいいましても、まさにもう具体的な例がこの中から早く生まれないといけないと。グランドビジョンのようなことを言っているよりは、まず具体的に一つずつ何か変わった実例がないと前へ進まないということになりました。それで、今回の第2回金沢学会のメインテーマを「都市の風格」としたということなのですが、さっき「都市の風格」の構成要素の特に三つめにあった都市自体の活性化。そのうち特に金沢の場合は、この道筋。そして当然ここに示しております美術館ができたこと。それから県庁跡地が空いておりますこと。それから、この兼六園を面として、さまざまな史跡も含めて世界遺産登録運動が始まったこと。県が一生懸命お城を整備しておられること。こういうことの絡みで、この道やこの辺りをどうしたら具体的に活性化できるかということを、今回の金沢学会の「都市の風格」を具体的にしていくためのテーマとしたわけです。
 今日は、今の基調スピーチを受けまして、午後の部で課題が二つ用意されております。一つは「都心のデッサン」。この都心をどんなふうにして具体的に変えていくことができるかというのを、さまざまにデッサンしてみましょうという趣旨です。そして、アイデアはあっても、それを仕掛けていく、実現していくときに、先ほどもあったように、空いているビルの床が、支店長さんに申し上げても、「それは私は関係ないんです」「それは本社です」と。それで、本社に聞いたら、「それは管理会社に任せてあります」といったような話で、何か「のれんに腕押し」というのか、「ぬかに釘」というのか、非常にややこしい話です。そういうことに仕掛けのありようがないのかということも今日のもう一つのテーマです。この二つについて、今日はけんけんがくがくとやっていただきます。
 そして明日10時からですが、場所を変えて全日空ホテルで、これらを含めてもっと突っこんだ討議をします。明日は市長さんも入って自由に討論されますので、そんなことも含めて、一つのアイデアの具現化に向けた展望を見いだせればなと思っているわけです。学会という名前からは、何か議論すれば終わるようなイメージがあるのですが、この金沢学会の場合は、金沢という町そのものを俎上に乗せるという意味では、大変現実的な、あるいは実現しなければあまり意味がないというタイプの論会、学会ですので、ぜひ一つ熱心なご討論を頂きますように心からお願いをしたいと思います。
 以上、経過報告と今回のテーマの説明とさせていただきます。ありがとうございました。
 

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