課題討議の報告
     
芝浦工業大学教授
大内 浩
   


(福光) 皆さん、おはようございます。昨日も大変ありがとうございました。白熱した議論をしていただき、感謝申し上げます。今日はいよいよ昨日の議論を受けてまた激しく議論していただきながら、我々の宿題をもう少し明確にしたいと存じております。今日は全国市長会会長の山出金沢市長にも、お忙しい中を曲げて、昨日無理に東京に日帰りしていただいて、第1回の金沢学会に引き続き、今日はずっとここにご出馬を頂きまして、いろいろ議論に入っていただくということです。また、ご都合で今日からお出ましいただきました、国際日本文化研究センター教授川勝平太さん、それから、慶應大学の三宅理一先生、このお2人は昨日おられなかったわけでして、そういう布陣です。昨日だけでご都合でお帰りになったかたも2〜3名おられますが、そんなふうに進めていきたいと思います。それから、会場の学会員の皆様も今日初めて出られたかたは、青年会議所理事長の松本浩平さんもそうです。
 今日の進行ですが、最初に昨日の第2部「都心のデッサン」の部分と、第3部「活性化の仕掛け」の部分につきまして、まず「都心のデッサン」のほうを大内さんに報告をお願いします。そのあと「活性化の仕掛け」の部分を小松さんに報告していただいて、今日初めて出られたかたにも把握していただくようにお願いします。そのあと、佐々木さんの進行で討論に入らせていただきます。12時ごろに1回短い休憩がありまして、そのあと川勝さんに総括発言を頂き、宣言を採択して閉会あいさつをお願いしているわけで、大体12時40分ごろ閉会する予定です。それではよろしくお願いします。
 まず、第2部の「都心のデッサン」の報告から、大内さんにお願いします。

(大内) それでは私から、かいつまんで昨日はどういう議論をしたかということと、残された課題について整理、進行させていただきます。昨日、ご存じのとおり、水野先生から非常に具体的な提案、武蔵から香林坊および広坂、いわゆる百万石通りですが、特に武蔵と香林坊間のビルが、いろいろな考え方がありますが、ひょっとすると想像以上に空き室があると。昨日は大体2〜3割、場合によってはもう少しということでした。さらに、議論でも少しありましたように、ひょっとするとここ1〜2年の間に、すでに現在壊されているビルがありますが、相当のものがビル丸ごと、場合によってはそこから撤退されるなり、あるいは解体されていくなり、そういう危険さえあるということで、皆さんも大変大きな危機感を持たれたのではないかと思うのです。
 もちろん長期的にあの一帯を本当にどういうふうに、金沢のまさに表の中心街として再生させていくかということがもちろん重要であり、そういうご指摘も皆さんからありました。しかし、私たちとしては、まずはとにかくかなり短期的に手を打たなければならないことがあろうということで、具体的に水野先生に提案を頂きましたので、それをビジュアルでかいつまんで先生のほうから改めてご紹介いただくほうが、皆さんにもイメージがはっきりすると思いますので、まずそれを先生、恐縮ですがお願いできますか。

(水野) それでは少し昨日の復習をしてみたいと思います。(以下スライド併用)

●現状は、左の写真のような町並みです。このビル群の空室率が25%、それからすでに閉鎖している、壊しているビルなどがあるということです。そういったビルのコンバージョンを考えるわけですが、この街の風景を見てもお分かりのように、普通のビル街という表情です。今コンバージョンがなかなか進まない一つの要因に、この全体の風景、全体の雰囲気があるのではないかということを、まず考えました。それで、全体の雰囲気、すなわちインフラストラクチャー、この全体の空間の構造を少し変える必要があるのではないかと考えたのです。

●その空間構造を変える範囲を、武蔵が辻から南町、香林坊に至る百万石通りと、香林坊から広坂に行く広坂通りと、二つの所で提案しようかと思っています。

●現在は金融中心の単機能の街、車中心の街路というところから、極めて閉鎖的なにぎわいのない歩く気にならないストリートであると。それを何とかにぎわいのある開いた街、歩きたくなる道、街に変えたいということです。

●現在、道路計画のコンバージョンとしてよく議論されるものに、3番のLRT導入型というのがあります。真ん中にLRTを入れて両脇に車道を残すという案です。2番めは車道を少し歩道化する、歩道を拡幅して車を制限するという案です。これもよく出てくる案です。しかし、いずれにしましても、2番と3番でやりますと金沢都市圏の交通体系全部を少し細工しなければならないので、ここで緊急的にやるのは少し無理ではないかということで、1番の道路そのものは現状型でいって、その代わり各ビルの1階部分を少し開放的にできないか、そのためのお手伝いをできないかということです。あるいは、今、壊しているビルがありますが、そういうところは公園というかポケットパークに確保しながら新しい手が打てないかとか、バス停を入れられないかというようなことです。

●それが今ここにある三つの提案です。一つはバスステーションとして、ビルの1階のインテリアにバス用の空間を作り、居心地のよい空間にしていこうということです。休憩、待ち合わせ、情報入手、キヨスク、カフェなど、また、情報コンセントなどを置いてもいいのではないかと思います。もう一つはポケットパークです。武蔵から南町、香林坊の間に公園が一つもありません。そういうところに公園を少し入れたらどうかということです。3番めはパブリックスペースということで、各ビルが1階のある部分を街に開放していくというパブリックスペースの提案です。

●これは一つのバスのステーションとして提案したものです。1階をバスの待合室にしていき、その中にバスの情報、街の情報を入れる。このビルの裏に駐車場があるのですが、そこを公園にするという形です。そして、裏の町と武家屋敷や尾山神社などとつながっていく道を作ろうという提案です。

●これは情報コンセントがある風景です。右のほうはバスの待合室と、向こうに公園があるという風景です。

●これはもう一つのほうのバス停です。これは実際は北陸銀行なのですが、ちょっと申し訳ないのですがバス停にしてしまっております。インテリアをバスの待合空間、大きな断面図にありますが、吹き抜けのいい空間があるのです。あそこは都市の広場、屋内広場としては非常にいい広場になるので、銀行の営業とこの都市の広場という概念がうまく結びつかないかなという提案です。

●そのインテリアの風景です。

●こういう事例は実はニューヨークでやっています。ニューヨークにはパブリックスペースがあって、オレンジ色に見える点の所で開いた空間がいっぱいできております。

●例えば、これは右の方の図でATTと書いてあります。NTTに相当するATTというアメリカの電話会社がありますが、その1階の所、緑色の部分がオープンスペースです。右側の方にIBMの三角の部分がありますが、これはIBMのニューヨーク本社がガラスドームを作って、その中に竹林を作っている風景です。左側の写真は、ATTの1階のパブリックスペースです。

●これがIBMの竹林です。だれでも入れる休憩場所です。こういうスペースを都市に提供する、要するにニューヨークの街にぎっしり詰まったビルの中にこういうオアシスをいっぱい作っていくということで、ニューヨークが活気を持ち続けるという仕掛けです。

●この辺もそうです。右の赤い彫刻があるのは前庭を開放している、左の銀行の下は下の空間を開放している、ベルリンのは民地を提供してその民地が公の空間になっているのですが、そこにこういうワゴンやショールームのようなものは置いていいよというものです。

●これはパリのギャルリー・ヴィヴィエンヌです。金沢のプレーゴのような空間ですが、パリのルイ・オペラ座周辺には幾つもギャラリーがあります。廃れていたのですが、最近ここで三宅一生がショーをやったりして、かなりまた生き返ってきております。左がイタリアのポルティコで、これは民地にこういう空間を作って、みんなが快適に歩ける空間を作る、それによってこの商店街が繁盛するという方法です。右下は上越の雁木です。これも民地に公の部分を提供して、雪の日でもここで歩けて買い物できるということがあります。金沢の場合も雨、雪の多い都市ですので、こういう形でセットバックしていく、あるいは1階を開放していくということが、必要ではないかということです。

●これは金沢の都心の風景ですが、柿木畠あるいは木倉町の周辺について、市がいろいろ小さな公園、広場をぽつぽつと用意している風景です。このようにして都市の中に息抜きのできるにぎわいの広場、あるいはトイレなどを設けることによって、柿木畠も木倉町も人の回遊性が高まっている、今、金沢では面白い道路です。ところが、香林坊から南町へ行くストリートにはこういったものが用意されていないということです。比較です。

●この1階の空間を、右の方から行くとバス停、カフェにしてみたり、ここのところは買い取ってポケットパークにすると。そこの前庭はワゴンセールにする、花屋さんが店を出してもいい、オープンカフェもいい、ギャラリーもいい、あるいは町の人みんなが集まってリサイクルプラザがあったり古本市をやったりしてもいいよと、何かそういう空間と機能を導入していけばどうだろうかということです。

●これが広坂通りです。真ん中に木があって用水がある広坂通り、左側が県庁側で右側が市役所側とします。そうした場合に、右側の市役所側の車道をすべて歩道化して、21世紀美術館と香林坊の間をアートロードとして整備するという提案です。

●そこではこのようなストリート・パフォーマンス、あるいは絵描きとか、そういうもの、あるいは屋台とかワゴンセールというイベント、あるいはアンティークでもいいし物々交換市でもいいし何でもいいのですが、そういうところにして、少し自由な空間を作ったらどうかということです。

●それの成功例が、丸の内という所でできているということです。丸の内は21m道路を7m歩道、7m車道、7m歩道という形に変えて、同じ石で舗装していっております。

●そこでにぎわいができております。そこには右の写真のように、アート作品がいっぱい並んでおります。

●こんなふうにして空間の構造を変えることによって、ビル個々のコンバージョン意欲を引き出していきたいという提案でした。以上、ちょっと駆け足でしたが。

(大内) ありがとうございました。大体水野先生のご説明で尽きているのですが、昨日の討議の中でいろいろなコメントが出ましたので、若干ご紹介したいと思います。やはり現状のままでは本当に将来、せっかくの大事な中心であった所が、思いのほかまずい状況になるということで、皆さん認識が一致したのではないかと思うのです。これは短期的な対策ですので、もちろん長期的に特に金融機関等々の活動というのは、これから金融機関自身もさまざまな規制緩和の中で変わられるということも、昨日ご紹介がありました。今までのように1階の店舗で正直いって3時に閉めて、私たちとはあまり関係のない形に金融機関がなるという状況ではこれからなくなりつつあるし、金融機関側のかたたちもそうお考えですが、そういった規制緩和にも合わせた形でこの提案を考えてみたわけです。
 もちろん皆さんから、特に香林坊、武蔵の間はちょっと距離があるという意見も出ていました。実際、金沢のかたがたがあの間を歩かれるのはそう多くないわけですが、もし南町辺りに例えばポケットパークのようなものやカフェのようなものなど、何かある種の滞留できるようなものがあれば、散歩したりする空間、あるいは観光客のかたの動線として考えられます。近江町も大きく変わりつつありますので、兼六園、21世紀美術館、そして広坂を歩かれて香林坊に寄られて、ずっと武蔵の方に回遊していくような動線が確保できる可能性がある。そういう意味でも、現在の香林坊と武蔵の間は注目してもいいのではないかと思います。
 しかし実際は、残念ながら歩道も非常に狭いですし、自転車と歩行者が交わってちょっと危険な状態ですらあります。これは市のほうでもお考えで、少しベンチを置いていただいたりはしているようですが、私たちは民間のビルのオーナーのかたたちには全くお断りせず具体的にこんなことを提案して失礼かとは思いましたが、大体私たちで調べた限りでは、短期的にすぐできそうなのが2〜3か所あります。それから、長期的にこういった形で1階をいわば公開の空き地とする。都市計画の上ですと普通は建て替えのときに総合設計制度等を使って、公開空き地を提供いただくというやり方があるわけですが、建て替えということを現実に待っていることもできないし、現実の交通事情からいうと、車道を狭めるということも多分できない。ということであれば、雪のことも考えれば、先ほど水野先生からお話があったように、むしろ1階をご提供いただくようなことを積極的に、例えばそのビルのオーナーさんのほうでやっていただく。また、そういうことであれば逆に、例えばその上の階についての改造などのさまざまなそういう改造に、いわば公のために民地をご提供いただくわけですから、何らかの形で公的なバックをする。あるいはこれはこの次の部の家守制度とも関係していくのですが、みんなで支え合ってそういった1階部分をパブリックスペースとして使うというようなやり方を支援していくような仕組みを、民と官が協力して作るということを考えてはどうかということです。
 もう少しいろいろな建築上の技術的な検討もしなければいけないのですが、すでに若干のセットバックができている所もあります。全体で見ますと香林坊、武蔵との間だけでも約9〜10棟ぐらいは、ある程度こういう考え方でできそうだということは、私たちなりに判断しております。ですから、全国にこういう例をやっているというのはあまり聞いたことがないわけですが、もしこういう新しい制度を支援するようなものが官の側、あるいは民自身の側が作り上げれば、相当画期的な新しい一つのまちづくりの手法になっていくのではないかと思います。
 もちろんさらに議論がありましたように、基本的にはそういうふうに1階を連担させて開いた形にしていくことで、ではそこで何をやるのかという例えばソフトウエアも非常に必要ですし、そこでの企画力のようなものも非常に重要です。あるいは最終的には、例えば望むらくは、金沢地元の企業が今の中心地に戻ってこられるようなことを誘導するような仕掛けがあれば、もっと便宜を図るようなことさえやはり僕らとしてはすべきではないかと今思っています。残念ながら現状ではある種の支店経済の中で動いていますので、東京等々のほかの資本がオーナーであったりしますので、なかなか動きにくいということも現状としてはありますが、そういうことも踏まえた上で何かできないかという提案です。
 広坂については、もちろんお祭りのときなどは車道を制限して、少しいろいろなお祭りをやっていらっしゃる経緯もありますので、もう少し完全に、今、水野先生にご紹介いただいたように、車線片側を全部閉じてしまうというのも究極的に私たちは望ましいと考えているのですが、場合によっては部分的に1車線だけでも、例えば歩道を車道側に出して、現在の歩道にオープンカフェをずっと出すというような形で、そこに連担したにぎわいの空間を作ることも必要ではないかということも、私たちの事前の討議の段階では出てまいりました。そういうことをし、そしてさらに、例えば県や市がファッション都市構想宣言をされましたので、そういう延長上に例えば和の空間といいますか、金沢らしい空間を、今までの金融機関あるいは事業所、オフィスという所に、またちょっと違った金沢らしい味わいを演出していくということが、多分金沢の皆さんにとっても、金沢の新しいシンボルを再生という形で作り上げるということを、皆さん評価していただくことになるだろうと思います。また、最初に申し上げましたように、観光客のかたたちにとっても新しい動線ができますので、いろいろな金沢の新しいイメージを差し上げるようなことにもつながるのではないかと思います。
 また、これは金沢だけではないのですが、今まではさまざまなオフィス空間が非常に閉じられた空間でしたので、その閉じられた空間をどうやって開いていくかということが、基本的なコンセプトではないかと思います。そういう意味では、皆さんのご意見が一致したのです。いろいろと昨日出していただいた提案シートの中には、もっと具体的に頑張らなければいけないという激励のコメントをかなりたくさん頂いております。皆さんのお手元に配られておりますので、それも合わせてご参照いただければけっこうだと思います。大体以上です。

(福光) ありがとうございました。地元の方はもう分かっておられますが、念のためにご遠来の方にご確認を。特に川勝さん、三宅さん、この航空写真でごらんいただけますように、これが昨日開催された21世紀美術館です。新しく、この間10月9日にオープンしました。これが広坂通りで、香林坊から157号線、武蔵・・・。ですから、香林坊から武蔵まではこんなに距離があると言えばあるわけで、先ほどから大内さんがおっしゃっておられました。この道並みの周りのビルの幾つかをモデルとして、あんなふうにしたらどうかということでした。
 続きまして、昨日の第3部で「活性化の仕掛け」ということで、家守制度についてかなり詳しく話が出ましたので、小松さんからもう一度復習していただきます。

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