第3部 課題2 「活性化の仕掛け」
     
金沢工業大学客員教授
小松俊昭
株式会社ゼン代表取締役社長
宮田人司
 

 
(小松) 今お聞きいただいたように、非常に多種多様な機能を、見事に宮田さんは実践していらっしゃいます。延床でいうと17坪です。もともと酒屋さんでした。その酒屋さんをコンバージョンして、見事に今のような17坪のスペースに機能を凝縮されました。このでき上がったパッケージモデルを売り込んでいこうというのが、事業家的なセンスとしての素晴らしさだと思います。
 ということで、先ほどのIDEEの黒崎さんや今の宮田さんのようなかたが、いざとなればテナントとして、金沢に出てきてもいいとおっしゃっていただいているわけです。そうなると、いよいよここにありますように、家守会社実現のための条件が整うわけで、あとは、今日も何度も出ましたように、オーナーが果たしてどこまでご理解、ご納得いただけるかということになってくるわけです。
 私自身は今幾つか水面下の動きをしていますが、ここから先を情報開示してしまうと、いろいろな意味で問題がありますので、何となくイメージできそうな表現をさせていただきます。何をやっているかというと、この数か月、やはりオーナーの意思決定権を持たれている、特に今日も出られた東京を中心とした金融関係の会社、こちらの本社に足しげく参っております。足しげくと言っても、同じかたとやってもだめなので、本当に権限のありそうなかたとか、あとは理解してくれそうなかたを早く探し出そうと。そういうかたを洗脳という言い方は大変おこがましいですが、金沢の事情をいろいろ知っていただいて、そういう中から、「ぜひ新しい事業に協力してください」というお願いをしています。
 なぜそういうやり方をとっているかというと、やはり今、東京を中心とした金融関係のメガバンクにせよ、生損保にせよ、収益的に徐々に改善の見通しが出てきているので、早いうちにバランスシート調整をやろうという動きが出てきています。バランスシート調整ということは、世に言う損切りで、損切りの一つのパターンがビルを売ってしまうということです。これが、景気回復のテンポとともに加速度的に早まってきているということで、ほうっておくと金沢のビルはどんどん売られるということです。というのは、大変これも冷たい言い方ですが、支店経済としての価値、特に金融機能としての金沢は、着々と低下の一途をたどっているということだと思います。支店でなくても、せいぜいもう少し規模の小さいものでもいいですし、あるいはブロック単位でどこかに支店を置けばいい。こういう方向になってきていますので、少なくとも床のスペースは要らなくなりますから、あえてビルを持っている必然性はなくなってくるということだと思います。
 そういう中で、今度はどうやって売却に対して歯止めをかけていくか。これがなかなか難しいのですが、今、私はこういう言い方をしております。複数のビルを持っているかたを今ターゲットに置いているのですが、一つ売ろうとしていると。しかし、売ると売り先のかたが何をやるか分からない。中身次第では、非常に金沢らしさにそぐわないテナントが入ってくる。これも表現は難しいですが、私も今いろいろと地方都市に出張しておりまして、先日も先ほど佐藤支店長からあった鹿児島と熊本に行ってまいりました。特に、鹿児島で感じたのは、ものすごく風俗関係のお店が増えている、客引き系が非常に増えているということです。金沢でも、やはり片町のスクランブル辺りでは、似たような傾向がここ数年の間に高まっていて、声をかけられるのはうれしいような嫌なような、そういう状況が続いているわけです。似たような傾向が、下手をすると南町界わいに、これから出てくる懸念はあります。
 これは、売り方次第ですし買い方次第ですが、要するにいったん手を離れたらアウトオブコントロールですから、ある種のマネジメントをしていかない限り、そのエリアの理想をいかに高く持っても、所有がすべてですから、私からすると、そこのあたりが非常に今危機的な状況にあるかなと。ですから、ビルのオーナーのかたには、かりに複数のビルを持っていて、一棟ぐらいなら売ってもいいだろうと思って始めると、雪崩現象であれもこれも売られ始めていって、最後は自分が残存して残していたビルの収益力まで下がってしまうと。要するに、町全体の価値が下がるということで、銀行業界が今、担保評価についてもいろいろとご指摘を頂きながら、物件評価から徐々に収益還元型の評価に切り替えているわけです。そうすると、収益還元ということは、そのビルからどれだけもうかるかという非常に単純な評価基準ですから、テナントの上がりが少ないビルは、ますます価値が下がる。ですから、そのエリア全体の価値がますます下がることになってきますので、この雪崩現象がちょっと怖いかなという気がしています。
 そういった意味ではある部分、東京のかたがたには脅し文句のような表現に聞こえるかもしれませんが、そういう言い方をしつつ、宮田さん、あるいはIDEEさんのようなテナントを引っ張ってきますから、何とかビルを持ち続けて、いろいろな意味で「金沢らしさのまちづくりに協力してください」という言い方をしております。
 もう一つ、これはある意味の朗報ですが、やはり地元のかたから立ち上がっていただくことがいちばんありがたいわけで、地元の町衆的なかたが、ある意味では町のために協力しようということです。今日お集まりの中にそういうかたも出始めたことが、私からすると大変朗報です。ですから、こういう思いの中から、何とかビルオーナーのかたの意識が少しでも変わられて、こういう中から金沢らしさのまちづくりができるといいと。家守会社そのものも、決してもうけることだけが目的の会社ではなくて、私のイメージでは、要するにゴー・イン・コンサーンが維持できる。その程度のキャッシュフローが取れるような会社にしたいという意味です。ですから、極めてパブリックな精神ながらも、あまり補助金に依存することなく、経営が成り立つ程度の収益力を持ちたい。そのためには、オーナーのかたになるべく安くお借りして、それをサブリースによって収益性を保たせたいということです。
 私もアメリカのロスで、駐在を3年した経験があったものですから、そのときに、自ら10年間のリース契約をオフィス立ち上げのためにやりました。その10年のうちの2年間は、実はフリーレントを頂いた、要するに賃料ただにしていただいたのです。最近は、そんな言い方もしています。要するに、町を良くするために一瞬、これは2年というわけではないですが、家賃ゼロにして、限りなくゼロに近い家賃でテナントを誘致して、その上で町のにぎわいを戻しながら、中長期的に事業としての採算性を高めていきましょうという言い方です。これは無理難題であるかもしれませんが、手法としてはアメリカなどでもよくやっている手で、アンカーテナントといわれるキーテナントを誘致するときには、けっこう家賃をゼロにして、テナントを誘致するケースはままあります。ですから、こういうことも含めて少しいろいろな手法を幅広く加味しながら、意識改革という形での努力を何とかしてみたいと思っています。
 他方で、テナント側の情報も二つの事例を申し上げましたが、ほかにもあります。一つはかなりブランド力のあるレストランのオーナーといいますか、社長とご相談しています。「金沢に新しいタイプのレストランを開いてくれませんか」という話をしましたら、そのかたが逆に提案してくださいました。大変高名なシェフのかたですが、学校を開きたいと。どういう学校かというと、調理人だけではなくて、レストランのマネジメントができるかたとか、あるいはソムリエというか。レストランにもいろいろな機能があるわけです。これは旅館でも同じようなことだと思いますが、実践型のレベルの高いかたを養成するための学校を開きたいと。その開く環境としては、金沢は確かに食のレベルも高いし、お客様の食に対するこだわりも非常に強い所ですので、実践型に鍛えられるという意味合いも込めて、金沢はそういう学校を作るのに非常にいい環境ではないかというお話を頂いています。
 また、身近な例では、これはもうお名前を出してもいいですが、農業法人では最初に株式会社化した、ぶった農産の佛田社長が、例えば産直です。加賀野菜を含め、金沢の郊外で旬の農作物を作られている農家さんが、やはりダイレクトに売る場を求めていると。そういったときに、この家守的な感じの会社ができたらば、そこのテナントとして入って、金沢の旬の野菜を、まさに町中で生活されているお年寄りのかたに、毎日供給したいというお話もあります。
 ですから、冒頭に申し上げた場というものが非常に重要だということを改めて感じながら、今のお話を続けているところです。
 次に、またバトンタッチしまして、宮田さんから今度はテナントとして入る事業者ですね。こういう立場から、どういう条件であれば、先ほど申し上げた宮田さんなりに、進出の意欲をより強めていただけるか。このお話をしていただきたいと思います。よろしくお願いします。



(宮田) 先ほどの店もあったのですが、今回、小松様からこういった一連のお話を伺って、例えばゼンが金沢で事業をするとして何ができるかというところから考えました。その中で、我々が今いちばん力を入れているアニメーションスタジオがまず頭に思い浮かんだのです。なぜそれが思い浮かんだのかというと、ゼンのアニメーションスタジオはゼンスタジオといいますが、ここのアニメーションの制作方法がちょっと変わっていまして、今までにないような作り方をしています。というのも、インターネットスタジオというコンセプトで、世界じゅうのクリエーター、アーティストを、我々が持っているシステムを使うことによって、例えばうちが作っているAというアニメーションに世界じゅうから参加してもらうことができるのです。例えば、アニメーションを作るにはモデリング、いわゆるキャラクターを作る人であったり、その作られたキャラクターを動かすためのアニメーターという人がいたり、背景を書く人がいたり、音楽を作る人がいたり、いろいろな人たちがいて、たくさんの人たちの力を借りて一つの作品を作るのです。
 大手のディズニーさんにしろ、いろいろなスタジオがありますが、例えば100人、200人、300人というアーティストを一つのスタジオで抱えて作って、ある部分を韓国に下請を出すというやり方が今までだったと思いますが、ゼンスタジオの場合は、うちで作った共通のソフトウエアがあるのですが、それを使うことによって、リアルタイムでアメリカに居ようがパリに居ようが日本に居ようが、同時に制作進行していくことができるのです。
 ですから、今、我々が作っているアニメーションも、このゼンスタジオの東京のオフィスには、12名程度のアーティストがいますが、それ以外に、世界じゅうで150名ぐらいのアーティストが参加して作っています。ということは、この母体は実はどこにあってもいいのです。今回は金沢というお話ですが、金沢はやはり金沢工業大学をはじめとして、素晴らしい大学機関がありまして、特に金沢工大さんは、素晴らしいアーティストのかたを輩出されています。我々が仕事をご一緒しているクリエイター上田さんもそうですし。例えばゼンスタジオが金沢にあったとして、そういったところを卒業されたかた、また在学中のかたがたが、金沢のこの町の新しい家守事業で新しくでき上がったスペースに集まることによって、むしろ東京でやるよりも低コストで、素晴らしい作品ができるのではないかという気がしています。
 それをもし金沢で我々がやるとしたら、やはりこのようなインセンティブがあると非常にいいということを勝手に書きました。
 まず、やはり賃料です。ここの部分は、非常に我々も気にはしたいところです。さすがに、ただにしてくれというのは、ただより高いものはないのであれですが、この辺はなるべく安くしてほしいと。それから、やはりこちらにスタジオを持ってくることになりますので、何らかの補助金なりがあると非常に前向きに考えられる。それから、やはり大学、専門学校との産学連携の強化ができないものかと。あとは、やはり人材です。どれだけの人材が確保できるのか。また、今回、金沢という地方都市でやることを前提に考えたときに、この金沢という所から、直接ワールドマーケットに向けて情報発信していくためのインフラです。これは、当然インターネットですとか、そういったものがあると思いますが、その辺がどこまで整備されるのか。こういったビジネスモデルを金沢で展開することによって、いわゆる金沢という地元での雇用促進や、あとは新しい創造産業の活性化が見込めるのではないかと考えております。

(小松) ありがとうございました。それでは、そろそろまとめさせていただきます。結局、家守事業の場合には、人がどうしてもポイントになると私は思っています。ビジネスモデル的には、確かにサブリース事業やいろいろなデジタル型のビジネスということで、頭では当然理解していただけると思いますが、現実は家守という人がそこらじゅうを駆けずり回って、テナントを引っ張ってくるとか、いろいろな人と出会うとか、こういうことの積み重ねだと思います。そうすると、そういうかたが、特にやはり地域の中から出てこないとまずいと思っています。しかも一定レベルの若いかたです。バイタリティのあるかた。そういった意味の家守を育てる仕組み、あるいはそういうかたがたが、次から次へと育っていく場づくりといいますか、これが家守会社の一つの目的だと思っています。
 そのためには、やはり一つにはサポートシステムといいますか。このサポートという意味はJリーグのサポーターのイメージです。プロ野球のファンとJリーグのサポーターとの違いを最近いろいろな場で申し上げていますが、プロ野球ファンは、野球が終わったら東京ドームからそそくさと帰って家路にたどり着く。ところが、私は実は野球人間ですが、浦和に住んでおりまして、浦和レッズの試合が終わると、浦和の駅の周りはたまり場化するのです。サポーターが、今日の試合が勝とうが負けようが、焼鳥屋であったりいろいろな場でワイワイガヤガヤやると。次は何としてでも勝たせようということを、いろいろな場で語る。要するにサポーターシステムが、家守においてもどうしても欠かせないだろうと。家守のかたが一生懸命やることは間違いないですが、そういう姿を冷淡な目で見られてしまうと、家守のかたからすると「おれは何のためにやっているんだ」ということになりますので、何とかそういうかたがたを温かい目で支えてやる仕組みがなければいけない。
 それから3点めとして、かりに会社にすると、神社のイメージです。神社の奉加帳というか、お祭りのときのお札のような感じで、個人出資の会社にしたいという思いがあります。あまり会社組織で、会社の色がつく形ではなくて、金沢のことを本当に思われているかたが、個人、個人で出資されて会社を作るという考え方です。
 4点めは、やはりせっかく巣立ったからには、地域でうずもれることなく、この家守のかたは世界に羽ばたいていただこうというくらいのことで、続々と家守が出てくれば、その家守の後釜はすぐに埋まるということですので、このぐらいのことを考えていきたい。
 結果的には、コラボレーションにつながると私は思っていまして、これも金沢には大いに可能性があるということで提言しています。一つには、市民をいちばん上に置いているのは、やはり市民社会の中で、民度の高さが金沢の特徴だと思っています。市民芸術村に代表されるように、市民のかたがたが自分で自分たちの施設として、公的なものを使いこなしている。こういう都市は、地方を見渡しても私は今のところ金沢でしか見ておりません。それから、産業界においても、今日の場もそうですが、経済同友会をはじめとして、産業界がまちづくりのためにいろいろなことを提言し実践しようとしている。しかも伝統産業の層の厚さも非常にすごいと同時に、冒頭にお話ししましたように、新しいタイプのソフト産業、デザイン産業も存在している。そして教育界においては、やはり大学が19もあって学生が3万人もいる。これまた、この規模の地方都市では、非常に高い学都としての機能を有している。行政についても、今日はお見えでありませんが、山出市長が推進されている旧町名の復活とか、先ほど福光委員長から出たような先般のファッション産業都市宣言とか、こういう行政側からの働きかけ。それから、宮田さんからありました補助金制度もすでに市は用意されているわけでして、この辺の機動的な動きは、大変素晴らしいと思います。素晴らしいだけにうまく連携といいますか、つながりを何としても作っていただく。これまた、場として家守会社がうまく機能すればいいと思っています。
 ちょっと大それた言い方ですが、三位一体改革とかいろいろいわれている中で、地方がこれからどう自立していくかということは、要するにヒト・モノ・カネが、地域の中でうまく循環する、地産地消的な発想がどうしても必要だと思います。ですから、これをお金の面でも人の面でも、実現できればいいという期待をしております。
 最後に、画像で見比べていただきたいのですが、これは実は金沢美術工芸大学の坂本先生からお借りした写真です。ドイツのシュツットガルトの写真です。最初の写真は1900年代の前半です。ここの写真、町並みです。同じ角度から撮った写真で、これは1960年代、車社会が到来して、同じ場所が一挙に車に占拠されてしまった姿です。これは反省期に入りまして、反省した結果、1980年代に車をシャットアウトしたと。ある意味、町中に人を呼び込むために、にぎわいの装置を市民の手で考えられた。ある意味で、生活者の復権の姿です。これは現代の姿で、何となくごらんのとおり観光客風のかたが多く目立ちます。要するに、市民のかたが安心して住んでいる町は、観光客のかたから見てもいちばん心地よいということだと思います。この姿が、この4枚の写真の中に凝縮されていると思います。以上でプレゼンテーションを終わります。ありがとうございました。

(佐々木) せっかく宮田さんがお越しなので、eAT KANAZAWAで金沢とのゆかりが深いので、ちょっとその辺も自己紹介してください。

(宮田) 金沢にはここ4年ぐらい毎年来させていただいていまして、今年も相当な数で金沢に来ているのです。金沢で来年10周年になるeAT KANAZAWAというイベントがありまして、めでたくといいますか、来年は私がプロデューサーをやらせていただくことになりました。来年1月28日から恒例のeAT KANAZAWAというとんでもないイベントがあります。多彩で、素晴らしい顔ぶれのゲストの方々にお越しいただいて、面白いイベントになると思います。特に、創造産業系の著名な方々がいらっしゃいますので、ぜひお越しいただきたいと思います。どうもありがとうございます。

(佐々木) 知っている方はeAT KANAZAWAとは何か分かっていると思いますが、食べるという意味ではないのです。「electronic art talent」というものを略称してeATで、金沢の食文化とかフードピアもあったので掛けているのですが、文字どおり、デジタルコンテンツ系のアーティストの世界的なメンバーが金沢に集ってやっているのです。これを10年続けているということは、すごいことですけれど。
 それでは半田さん、行政の取り組みについてお願いします。

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