第3部 課題2 「活性化の仕掛け」
     
大阪市立大学大学院教授
佐々木雅幸
   


「活性化の仕掛けに関する基本的な考え方」
 

 それでは、私は基本的な考え方という大それたことではなく、課題1で出た話題と、これから小松さん、宮田さん、半田さんにお話しいただく具体的な事例とのつなぎのような話を少しさせていただきたいと思います。(スライド併用)

●この会議は「創造都市」という概念を中心にして回っているわけです。これは私が一応自分の本の中で書いている定義ですが、そもそも創造都市とは何かといえば、そこに住んでいる市民の創造活動があって、そして、その町の文化と産業が創造性に富んでいるということです。今、話題になっていますが、脱大量生産あるいは脱製造業の時代の都市経済システムがあると。併せて、グローバルな問題やローカルな問題に、創造的に問題解決できる都市だということです。やはり創造の場が大事ではないかということで、先ほどもどんな町の中に創造の場を作るかという話題がありましたが、今日はその仕掛けについて考えることになろうかと思います。

●そもそも創造性ということがなぜ問題になるかといえば、やはり製造業をベースにした経済から知識情報経済に時代が変わってきている。そこで、人間の創造活動というものが、ハイテクあるいは先端技術における創造性のみならず、芸術的な創造性との相乗効果を発揮するような都市が伸びていくという仮説があるわけです。

●例えばアメリカで非常にはやっている説で、これはリチャード・フロリダという人が言っている説ですが、ハイテクが非常に伸びている町はゲイが多いという説があります。同性愛者が多いとなぜハイテクな人が多いかといえば、ゲイは実はアーティストが多いということなのです。つまり、最近のハイテク、デジタルコンテンツは、ほとんど音楽や映像などのアートにかかわっているからです。

●これはアメリカの約100年にわたる就業者の変化です。いちばん上がサービス業全体で、その次とその下にある二つが上に伸びていますが、これが創造階級という分野の人たち、あるいはその仕事に就いている人たちということです。

●創造階級や創造的専門職種とは何かというと、このブルーに書いているところです。結局、デジタル系のコンテンツ、あるいはもともとの芸術系の分野です。それから、それを支えるマネジメントや専門職の人たちで、ここが大きく伸びてくるのが21世紀の経済であって、そういう人たちが集っている都市が伸びるということになるわけです。

●今、アメリカ全体をとってみても、創造産業、創造経済、創造階級というもののウエイトが高くなっていくのが21世紀型だと。たまたま製造業主体に発展してきた所は空洞化という現象があるわけですが、その次の所ではこういう産業が伸びてくるということです。

●例えばこの説でいけば、サンフランシスコが最も創造的な都市だということになります。今お見せしているのはYerba Buena Garden Center for the Artsという市民参加型のアートセンターですが、ここは非常に面白いアートセンターで、ホームレスの人でもアート活動をしていたらウエルカムで受け入れるということです。そうすると、実にいろいろなアーティスト、つまりゲイとかクリエーターが集ってきて、今はやりのマルチメディア・ガルチというSOHO型の小さいものが集まるビジネス、これがこのアートセンターの周りに集ってきているということです。ここは40年前はどうだったかというと、実は都心で大変ホームレスの人が多かった場所なのです。それが、このアートセンターを軸にして変わっていったという事例です。

●今度はイギリスですが、イギリスではブランディング戦略が非常に元気がいいですが、イギリスのブレア政権がやっているブランディングの中心には、創造産業を振興するという考え方があります。つまり、創造産業を約13業種挙げていまして、これを全体として振興することを考えており、中心部は芸術系のもので、その周辺にはメディアや出版や映画、さらにその周辺には文化観光とか広告という形で、既存産業にも創造性を広げていって、活力を上げていくという考え方になります。

●イギリスの場合は、例えばロンドンやバーミンガムがこういう形で、ロンドンではすでに製造業よりも生産額が多くなっています。あるいは、雇用でも3番めにランクするということで、特にイギリス、ロンドンの場合は、音楽産業が世界的に大きなシェアを持っているわけですが、こういうものが伸びてくる。

●それから、バーミンガムというイギリス第2の都市で、主に工業都市だった所が、先ほどの水野雅男さんの話にもありましたが、都心再生をやった際に、カスタードというお菓子を作っていた工場をアーティストのセンターにして、アメリカと同じスペースという名前のボランティアの財団が工場1棟を買い取って、ここに小さいスタジオをたくさん作って、劇場とカフェなどを作りました。ここでいろいろなジャンルの人たちが集って仕事をし、この事業体はプロモーションまでやっているということがあります。
 それからロッテルダムでは、廃れていた通りが芸術通りとして再生したケースがあります。二〜三つスライドを出してください。

●これは美術館がある通りです。

●これは普通の通りです。

●今はこんなふうになっています。ここも麻薬中毒患者が多かった通りですが、二つの美術館を挟んで、その間の通りに小さな美術館を市が作り、居住者の人たちが次々と、アーティストが住んで活動できるような状態にしていったわけです。ここでは、街路の委員会というものができていて、行政と家主とアーティストが一緒になって、通り全体を考える委員会ができているようです。
 ヨーロッパの事例は分かったということで、次に京都です。先ほどフロアから出ましたが、金沢は金沢型の都心再生があっていいわけです。京都で問題になっているのは何か。これは私の友人の川辺さんというかたで、手書き友禅の職人なのですが、友禅は、ここにも関係のあるかたがおられるかもしれませんが、京友禅も加賀友禅も大変なのです。友禅や西陣織を織っていた町屋がどんどん空き家になっているわけです。このかたは、古い友禅では商売にならないので、今、デジタル画像で友禅風の柄を作っていまして、それをスポーツウェアのミズノと組んでこういう水着にしたり、巨大行灯で夜景をすると。
 もともと友禅というのは扇の付け作家ですから、着物と結びついているわけではなくて、友禅風柄なんです。だから、置き換えていけばいいわけです。現代に置き換えたのがこういうやり方で、この人たちがどういうことを仕事にしているか。

●西陣に古い路地、町屋がいっぱいあるわけです。これは西陣の帯を織っている織屋さんが織屋建てといって職人を住まわせて、そこを仕事場にしていた所です。こういうものが、全部路地ごと空き家になっていた。大体800〜1000軒空き家になっていたわけです。ほうっておくと、京都の町屋の風情が失われるだけではなくて、それこそどんな動物が住むか分からないということになってしまう。京都風のいわば家守事業というか、西陣町屋倶楽部というボランティアの団体ができて、家主さんとこのスペースを借りたいと思っている若いアーティストの間に立つことになった。アーティストに入って何かしてもらってもいいけれど、何をやらかすか分からないということで、家主さんは尻込みしていたのですが、こういうスペースで先ほどのような若い職人さん、アーティストが仕事をしたいと思っているので、その思いを実現するために、仲介する人たちが必要だったわけです。
 町屋倶楽部の構成は、京都での町の中でいちばん信用があるのはだれか、お坊さんですね。この近くのお坊さんと東京からやってきたアーティストの小針さんという写真家の2人が中心となって、町屋倶楽部というものを作り、この古い町屋を何とか残しながら、アーティストが住めるような空間を作ったのです。これは、実は京都の場合は借地借家法で、非常に安い料金でレンタル料が抑えられているので、若いアーティストが住めることがあります。しかし、この仲介の人がいなければ、町屋倶楽部という仲介の組織がなければ、恐らくはこれは朽ち果てるに任せたと思います。このような形で、京都は京都らしい都心の空洞化したあとを再生して、アーティストが住めるようなソフトが起きてきているという事例です。

●これはご存じのこのスペースです。これは、後ほどカラーコピーでお見せしたいと思いますが、10月のニューズウィーク誌、日本語版でなく本来のニューズウィーク誌が、金沢21世紀美術館の夜景を、こんなに素晴らしい形で紹介しております。恐らくこの一帯は、世界的にかなりホットな話題になる場所だろうと思います。金沢の在り方は、これからの金沢にふさわしいソフトをどのように作っていくかということになると思います。

●実は、創造都市という考え方が今、日本で急速に広がっております。横浜市が今年の1月にこの構想を発表しまして、4月から市の中に創造都市推進課という課ができました。そして、創造界隈ということで、バンクアートと称し、旧富士銀行と旧第一銀行の二つの銀行、こちらは都市再生機構が持っていますが、これを市が買い取ったようです。そして、この二つを芸術系のNPOに委託して、現在アート活動を展開しており、これはたくさんの人が訪れています。来年からは、旧富士銀行は東京芸大の映像系の大学院がここに進出することが決まっているようです。

●最後に、実は大阪でも同じような試みがあることだけご紹介して、次に譲りたいと思います。大阪では、例えば近鉄劇場や宝塚など、これまで大阪の文化を支えていた企業の力が衰えてしまった。そこで、新しく應典院というお寺が劇場を作りました。NPOでやっています。
 それから、これは大阪市が造ったフェスティバルゲートという評判の悪い遊園地で、倒産してしまったのです。倒産して、カフェやレストランが抜けたあとに、映像系あるいはOMSという歌劇団が入って、ここを活動の基盤にしています。金沢でもありますが、倉庫群を活用したアートスペースが起きています。

●それから、やはり行政が使っておりました施設を芸術と産業の創造の施設に変える。金沢の場合は武蔵のビジネスプラザがそうですが、やはり都心に創造の機能を持ってきて、その周辺にSOHO型のビジネスをうまく展開していけないかということが考えられます。

●そして、最後です。やはり先ほども金沢工大が中心地に戻ってきたら、あるいは金沢大学が戻ってきたらという意見がありましたが、実は私がおります大学院は、梅田の北新地の盛り場、大阪市が持っている再開発ビルの中にあります。ですから、これから都心の衰退を再生していく場合の一つの決め手は、社会人大学院のようなものが来ることも必要なのではないかという感じがしています。
 このあとは具体的に小松さんと宮田さんから、家守事業を金沢でどう展開したらいいか。そして、クリエーターのかたが集まるとしたら、どういう条件が必要なのか。また、半田さんのほうから、金沢市が現在持っている都心再生のための助成のシステムがどのように展開しているかについてお話しいただきます。よろしくお願いします。
 

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