第2部 課題1 「都心のデッサン」
     
金沢工業大学教授
水野 一郎
   


「インフラのコンバージョン


 それでは、具体的に提案してまいりたいと思います。(以下、スライド併用)

●昨年の金沢創造都市会議からずっと継続しているのですが、先ほどから挙がっております香林坊、南町、武蔵が辻に至る、この写真のビル街の通りは、銀行、信金、生保、損保、証券等の所有が大体7割です。しかも、日本の高度成長期に合わせて、自社ビル、貸しビルを含めて、その金融機関がビルをいっぱい造ってまいりました。この間にこの通りにあった地場資本のかたがたがそういった中央の金融資本に土地を売って、その結果こういうビルができ上がってくるわけですが、そのビル群が今、大変空き室の多い状況に陥っているわけです。貸しビルの空室率が、東京辺りでは5%を超えると大変で、10%を超えると危険であると言っているのですが、ここではもうすでに25%です。それから、そのほかに三つの銀行が一つに合併したりしておりますので、二つ分が今、使われないで空いている状況も見られます。そのようなことで考えますと、実質25%を超えておりまして、40〜50%に至っているのではないかと思います。そういう単機能の町であったことが、時代の波が変わってきたときに大変空いてきたという、そんな状況です。
 この状況を打破するために、昨年以来、市のほうもさまざまな政策を展開しているのですが、町全体が魅力的ではないのではないか、全体の構造が少し魅力的ではないのではないか、一つ一つのビルがどこのビルでも同じであるといえば同じビルで、町全体も同じではないかということがあります。それなれば、金融面で支援しようとするのが市の施策ですが、私どものほうからは個々のビルが変わりやすいような、コンバージョンしやすいような仕掛けが考えられないか、もう少し基盤的な面で変えられないかという提案をしたいと思います。
 それで、インフラストラクチャーという言葉があるのですが、基幹施設と訳していいと思います。ここで考えられる基幹機能としては交通です。これは車というのがあって、公共交通とマイカーなどの個人交通、それから歩行として流動する部分とバス停などの滞留する部分という両方があります。それから、エネルギーインフラとして、電気、ガス、水道などがあります。よく地震のときにライフラインがやられるという言い方をしますが、主にこういったことを指していると思います。情報インフラとしては、電話、ネット回線、ケーブルテレビ、有線といったものですが、最近、携帯電話を使ったユビキタスな情報インフラというのも、まだできていなくてもできつつあるかと思いますので、これから非常に重要なインフラになるかと思います。こういった都心インフラのコンバージョンにより魅力的な都市空間を創出して、ビル群のコンバージョンを後押しできないかということを少しご提案申し上げたいと思います。

●範囲としては、武蔵が辻から南町、香林坊に行くメインストリート、それからもう一つ、今度21世紀美術館ができたこの広坂通りの二つについてご提案申し上げたいと思います。

●まず賑わい回廊ですが、先ほどから出ていますように、金融単機能の町で車中心の道であるということです。すなわち、それほど歩く所ではないということです。それは先ほどの交通量調査でも十分出ていると思います。これを、先ほどの大内先生の話にあったような、このようなところへ仕掛けていきたいということです。
 金融単機能というだけではなくて、3時には金融機関は閉ってしまいます。それから、今、IT化してくる関係で、1階の店舗はそれほど人が動かなくなってしまっているということ、それから日曜、祭日、夜間は当然、金融であるために防御がありますので、どうしてもクローズな雰囲気になってしまっているということが重なっているかと思います。

●このコンバージョンをどう考えるかといったときに、いちばん上の「現状」と申しますのは、この道路に関しては現状でいこうかということです。今の片側二車線ずつ、四車線でいって、歩道も今のままでということです。今、実際、街路樹が植わっていて、非常に小さいのですが、これがそのまま成長するということです。そのときに考えられるのは、民地側のここが何とかならないのかということが、今回の現状型の提案です。先ほどのデータもあったように、この交通量につきましては非常に多いというのが現状かと思います。
 次に、今よく提案されているのはこの2番めの形です。歩道拡張・マイカー制限型です。要するに現有の歩道はこれだけですが、一車線分を歩道にしてしまうということです。こちらも現状の歩道ですが、一車線分を歩道にしてしまうのです。広い歩道にして歩行者中心にしようということです。それから、3番めにLRT導入論というのがあります。この真ん中の二車線をLRT用に作り変えていこうと。要するに公共交通重視型の提案があります。
 いずれにしましても、この2番めと3番めにつきましては、私どもは、ここに書いてありますように、長期的で都心全域改造を必要とすることだと考えています。しかし、これでもこの街を歩きたくなるかというと、この街全体が歩きたくなるという街を構成しにくいです。この3番めの案もそうだということです。すなわち、この両面からこちらの1案を今回提案したいと思っております。



●この1案の中に一つあるのは、先ほどのビデオで出てきたバスステーションです。バスの待合空間を近接ビルの1階のインテリアに設置するということです。普通の鉄道の駅の待合の空間と同じように、いすに座ってバスの行き先表示と来る表示を見ながら休んでいられるものです。もちろん、そこにはキヨスクもカフェも、あるいは情報板もある、待合空間もあります。寒い日も雨の日もそのインテリアで待っていられるという基盤を作ったらどうかということです。それが、この辺の公共交通の利用を高める一つの布石ではないかと思っております。バスを利用しましょうと言いますが、あの歩道でバスがいつ来るのかと待っているのはなかなか辛いものです。
 そこに、例えば近江町の情報とか、兼六園の情報とか、21世紀美術館の情報とか、そのバスの待合空間にいつも何か情報があるような仕掛けをすることができないかということも込めて、そういうステーションが必要であるということです。
 2番めに、ポケットパークの設置についてです。都心の小さな公園、昔はベストポケットパークという言い方をしましたが、考えますと、この武蔵から南町、香林坊を経てくる空間に、緑の休む空間は一つもありません。交差点の所に例えば小さな公園があってそこで一休みできるとか、そこで待ち合わせできるとか、そこで何かイベントやパフォーマンスをするとか、人が流動ではなくて滞留するための都市の空間を用意するのはどうかということです。
 3番めはパブリックスペースです。これは都市の中にさまざまな仕掛けをしていく。例えばカフェです。また、今、アート回廊ということで、さまざまな銀行のショーウインドーに、卯辰山工芸工房の所蔵品の展示や美大の学生たちの作品展などを行い、そういうギャラリー空間として使用し始めております。そういったことをもう少しきちっとフィックスしたらどうかということです。

●例えば、これはあるビルですが、ここにバス停があります。これがバス待合のステーションです。こちらが、そのビルの空間です。実は、この裏に駐車場があるのですが、この駐車場を公園として買収するということで考えますと、バス停、バスステーション、公園という空間が生まれます。こういう空間を南町の中に突っ込んで作っていく、生み出していくということが必要ではないかと思っています。
 具体的にいいますと、武蔵が辻に2か所のステーションがあります。上り、下りというのでしょうか、南町に2か所あります。それから、香林坊に2か所あります。そのうち、いちばん必要なのは南町界わいかと思います。あと、近江町の所です。近江町の所は今、プロジェクトが進んでいまして、幾らかプラザ、広場ができるようです。

●これは反対側のバスステーションで、やはりこういう空間です。ここは割と銀行の吹き抜け空間があって、この吹き抜け空間は空間としては非常にいい空間になりそうだという感じがします。この空間をこの銀行が得ることによって、この銀行に対する価値が上がるようなことを我々は考えてあげないといけないわけですが、それも含めて、ここで何かしてもいいという条件を出しながら、お互いに何か見つけていくというルールが要るのではないかと思っております。

●これはそのイメージのパースです。

●これはニューヨークのポケットパークあるいはパブリックスペースなのですが、ニューヨークはこういう碁盤の目でできています。ここ100年間でここに数多くの高層ビルが建ったわけですが、そのために人間が住む町ではないということになり、約25年前からポケットパークを作る動きがありました。ちょっと空いたら、そこをニューヨーク市が買収してポケットパークを作るというのをやりました。そのあと、パブリックスペースという制度を作りました。それが、このマークがついているビルなのです。このマークがついたビルをオレンジ色でマーキングしてあります。そこのところがそうなのですけれども、新築の際に1階のスペースをパブリックに提供した場合に、高さを少し上乗せしてもいいというご褒美を与えるわけです。だから、1階を市民に開放する、要するにニューヨーク市民、ニューヨークに来た人に開放するという制度です。そのことによって、ニューヨークには非常に面白い空間がいっぱい生まれ始めました。ニューヨークの町が生き生きしてくる、要するに死んだ町ではなくて生きた町になってくるという結果を示しております。

●これはNTTに相当するニューヨークのATTの本社ビルです。これがIBMの本社ビルです。このグリーンに塗った部分がパブリックスペースです。ニューヨークのATTの本社ビルのこのグリーンの部分の絵がこれです。ここはだれが行って休んでもいいという大変おしゃれな空間を提供しております。要するに、こういう空間を持つことが、その企業の大事な部分、プライドであると同時に、市民や利用者とその企業との関係のようなものを表明するという姿勢かと思います。

●これはIBMの本社ビルで、ニューヨークIBMです。

●これが街路ですが、街路からこういうガラスのドームがあります。このガラスのドームの中に竹林があります。ここにだれでも入れて、ここで休めるのです。
 この空間です。これがガラスのドームになっていて、この中が竹林です。

●この中にいっぱい人が休んでいます。やはりこういう空間で都市に息抜きの場所を与える、要するに休む場所を与える、魅力を与えるということです。要するに、今までの南町界わいのあの閉じた町からこういう開いた町に作り変える一つの手法かと思います。

●これはニューヨークのシティバンクの本社の1階の所です。ちょっと暗いのですが、アート作品があって、この下は全部空いています。こういう彫刻を置いたりしております。

●これはベルリンの通りで、民地を公に出す代わりに、そこのところにこういうショーウインドーを作ってもいいという仕掛けです。

●これはパリのギャルリー・ヴィヴィエンヌで、ほぼ百数十年前にできたアーケードです。パリの厳しい道の中に逆にこういうふうに突っ込んでいって、街区の真ん中にこういう空間を作るわけです。金沢で言うとちょうどプレーゴの大きなものであると考えていただければいいかと思います。それで、都市に滞留する空間を用意しているということです。要するに、通り抜けの空間を出すのです。すなわち、金沢の場合はビルの中をうまく通り抜けると武家屋敷に出てみたり、あるいは金沢のお城に出てみたり、仕掛けとしてはびっくり玉手箱ができるはずです。そういうところも含めて、こういう空間が都市を豊かにしていくであろうと思います。

●そういう民地の提供する空間は、実はイタリーなどは上手でして、これはポルティコという空間です。これはミラノですが、ボローニャにもいっぱいありますし、イタリアに行くといっぱいあるのです。こういう空間は全部民地側の空間です。民地が提供したパブリックスペースです。

●これは上越市の雁木です。これもここからこっちは民地です。この間が公道ですが、ここは民地です。この民地を確保して、雪のときでもここが歩けるということで、商売が成立するという仕掛けです。これはだれかが拒否してしまうとだめになってしまうので、みんなでやっていってつながってきている、そんな形です。形はそれぞれの家がやりますので、いろいろな形が出てくるわけです。こういうパブリックスペースのようなものも非常に面白いのではないかと思っています。こんなふうにして、先ほどから出している提案は決してとっぴなものではなくて、世界でも昔からも今でも挑戦しているテーマです。

●これは香林坊の地下にある絵です。犀川大橋の所と浅野川大橋の所を書いた絵ですが、道が都市のドラマの舞台であるということをはっきり示している絵です。県の文化財ですが、その文化財を模写したものが香林坊の地下の交差点に飾ってありますので、ぜひ見ていただきたいと思いますが、その絵です。 それから、この絵ですが、ここが武蔵が辻の交差点です。実は、このメインストリートは今、銀行のマークがいっぱいついています。ここにはそういうパブリックスペースはほとんどないのですが、この木倉町や武家屋敷を見るといっぱいあるのです。

●香林坊のにぎわい広場です。これが武蔵が辻のトイレ公園です。小さなポケットパークです。それから、これは小学校の跡地です。これが木倉町の広場です。それから、この辺の民地は市が買って、小さな通り抜けの道で歩道専用の道にしています。こんなふうにして、ところどころで息抜きをさせてきているわけです。要するに、昔の町の中では、広見のような形で小さくでもやってきているのです。そういったことで少し息抜きができているわけですが、このメインストリートはそれができていないということです。
 このように、109のこんな所にも、少し前庭を空けたり、横庭を空けたり、後ろ庭を空けたりしてやっているかと思います。これがプレーゴです。これは柿木畠の広見の所です。こんなふうにして、さまざまに古い町の中はできているということが分かるかと思います。

●これは、例えばここの角のビルの所はポケットパークにしましょうかとか、ここのところはこういう公の道で裏に抜けるようにするが、ここではワゴンセールをしてもいいとか、ここは花屋さんがここまで来るのだが、ここの広場で出してもいいという。要するに、これが道なのですが、この茶色の部分をパブリックに開放していただけませんかというような図です。これはバス停になった所です。そんな形でさまざまなファンクションをここに入れながら、都市の基盤を作り変えていくことをやってみたらどうかと思っています。
 これで、コストがどの程度かかるかという問題があろうかと思いますが、1棟に対して1億円出したとしても、多分50億は超えないで十分できるであろうと思っております。新しいビジネスパークを作るとか、新しい何とか団地を作るといったときに、投資するインフラはすぐ数百億を超えております。金沢の県庁周辺でいえば、もう500億どころか、かなり大きな額を投資しておりますし、駅周辺でいっても基盤整備として1000億を超える投資をしています。それに比べると、ここの町を作り変えるのに、各オフィスビル一つ一つに対してこういう投資をしながら1階を変えていって、そのことで少しにぎわいという受け皿を作ることによって、上部のコンバージョンを促すことができないかというのが今日の私の提案です。

●もう一つの部分は、広坂通りのコンバージョンです。現状はこちらに旧県庁があって、ここは実際は二車線ですが、バス停を入れて三車線です。それから、緑地があって、用水があって、またバス停を入れて三車線です。歩道があって、市役所側があるというのが現状です。これを、ここの用水まで全部歩道にできないかという提案です。こちら側を歩道ゾーンにして、今、ここにお店があります。ここはお店が多くてかなり開かれた町です。市役所があったり、21世紀美術館があったりします。ですから、ここの施設はかなり開きながら、ここを一つ特徴のあるアートロードとして転換できないということです。
 実は、今ここには工芸品の店が幾らか集積しています。あるいは骨董品屋さんが集積しています。そういう意味では、アートロードの資格というのでしょうか、基盤としては少し力を持っているかと思います。

●ヘブンアーティストというのは、東京都が認めている町中のパフォーマンスです。石原都知事の肝いりで許可証を出してやっている営みです。街でストリート・パフォーマンスをやってもいいということです。
 こちらは倉敷なのですが、倉敷の大原美術館の周りに行くと、いつも絵かきがいっぱいおります。似顔絵絵かきもいれば、日曜画家もいるという風景です。それは、ここが車を排除した歩行者天国だからです。

●これは、去年やったのですが、丸の内の中通りです。車道を縮めて、21mの道路だったのを歩道7m、車道7m、歩道7mに改変して、このビルの1階にあった銀行、金融関係の店舗にコンバージョンをやったわけです。20年かかったそうですが、フレンチのミクニが入ったり、グッチやルイ・ヴィトンが入ったり、あるいはお惣菜屋さんが入ったり、いろいろな形で入って、この町が生き返ってきました。それは今日来ておられる木虎さんのほうから昨年もご報告がありましたが、我々にとっては大変参考になるところです。

●今や全国区の遊び地区、ショッピング街になっております。そこには、こういうアートが道にはいっぱい置かれております。要するに、アートロードとしての性格も持たせておりまして、それ全体がミクニやルイ・ヴィトンなどがある町の雰囲気をしっかり守って育てているという雰囲気が、このアート作品と一緒になって醸し出されているかと思います。そういう形を広坂通りでもとりたいと思っております。
 こんなふうにして、武蔵、南町、香林坊、そして広坂というこのゾーンを改造することを今回は考えてみました。

●これが最後です。風格のある都市という言い方をしたときに、やはり基本的に町を形成しているのはその地域の人々の営みであったり、地域の人々の企業であったり、地域の人々と中央とが一緒になって何かをしたりするというお互いの掛け合いというか、その地域自身が持っているエネルギーというか、性格が出たときに初めて風格といえるのではないかと思っております。外力導入だけで、それが風格とはならないのではないかと思っております。そんな仕掛けをしてみたいということです。以上が私からの提案です。

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