芝浦工業大学教授
大内 浩
   

ご紹介いただきました大内です。朝から夜景の話ということで、皆さんのブレイン・モードを少し変えていただきたいということと、中には夜の方が元気が出るという方もおられるかもしれませんので、ご協力いただきたい。映像をたくさんご覧いただいて、そこで、いろいろとご感想をいただければ幸いかと思います。

(SLIDE1-01) 金沢を演出する1つの提案として、夜景にこだわってみました。「日本の都市景観は、昼は非常に乱雑で見苦しい限りだけれども、夜はなかなかエキゾチックで美しい」というコメントを、私はよく外国人の方にいただきます。たしかに日本の都市というのは、古いものと新しいものが混在していまして、例えば、高さやかたちがそろっていない、昼は非常に乱雑な姿をしています。ところが、夜は全然違う雰囲気になります。「その明かりの空間は、なかなかほかに見られない美しさがある」ということをよく外国人に指摘されます。

(SLIDE1-02) 2番目に、「明かりによって演出された夜は、もう1つの人生を楽しむための都市装置です。」これは私が勝手に作ったコピーですが、皆さん、なんとなく思いあたるふしがあるのではないかと思います。夜というのはある意味で昼間から隔絶された違った空間であり、違った時間であり、違ったライフスタイルがそこで実現できるという意味で、なかなかおもしろい世界ではないかと思うのです。例えば、夜を楽しむために着替えたり、昼とは全然違った仲間とそこで何かの会話を楽しむ等々、別 の世界があるのではないでしょうか。
3番目には、日本には独特の明かりの文化が育まれてきたはずである、それが少し最近は忘れられているのではないかということです。灯篭や提灯、行灯、ぼんぼり、また花火というのもある意味で明かりの演出装置であったと思うのです。我々は、そういうものをもう1度見直してみることが必要かなと思います。最後に金沢の魅力の数々を夜景というものによって、その空間の中で演出ができないかということです。金沢創造都市会議のテーマである「記憶」に学ぶという1つのきっかけを作る、明かりだけで全部やるつもりはないのですが、1つのきっかけを作りたいというのが私の問題提起です。

(SLIDE1-03) これ、皆さん、おなじみかと思うのですが、おわかりでしょうか。実は片町、金沢でもっとも夜は賑わう空間ですが、左が夜で、右が昼間の空間です。これも片町の商店街の、あるブティックの姿ですが、皆さん、どちらが美しい、どちらがなんとなくおしゃれかとお感じになりましょうか。 昨日はこのへんにいたという方もおられるかもしれません。実は私もおりましたが。これは全く同じ空間です。ちょっとカメラの角度が変わるだけで全く同じ空間です。右側がもちろん昼間なのですが、どちらが美しいか、やはり夜の方が美しいと思いませんか。

(SLIDE1-04) これも片町周辺の表通りです。あるカラオケショップがありますが、こういう照明がされております。

(SLIDE1-05) これは最近、金沢の中心街に再開発をされて、ブティックと、奥に入りますとレストランなどがあるところです。昼間も決して悪くはないのですが、夜の照明もよく考えられて、なかなかいい空間であるかなと私は考えております。

(SLIDE1-06) これは竪町という、金沢の中では比較的、若者に好かれている、若者の多いまちの、ある商店の昼と夜の景観です。

(SLIDE1-07) こんなお店も夜は見つけました。これも全く同じなのですが、左は夜です。実際はもうちょっとピンクが濃いのですが、白いシャッターにこういうピンクの明かりが映っています。

(SLIDE1-08) これは最近作り直された竪町の交番です。まさに中の明かりだけで、夜はファサードが消えています。つまり何が言いたかったというと、夜の景観というのは、建物のファサードが消えて美しく変身するのではないかということです。
もう1つのテーマは、夜の盛り場は華やかにアジア的な空間が醸し出される。実はこれは、私はだいぶ前から気になっていまして、どうも夜になると、我々は本当のアジアになるのではないかということです。昼間は結構、有名な建築家の建物があったり、デザイナーの演出があったりと、少し洋風っぽいものがあるなどいろいろあるのですが、夜のまちは、どうも見事にアジアになるのではないかということが、前から私は気になっています。その例をご覧いただきます。

(SLIDE1-10) これはどこだか、おわかりいただけますか。夜の空間というのは、実は地域性がないということなのです。どこかと言いますと、実は左下が京都の祇園新橋です。右側が東京の赤坂、一つ木通 りです。たぶんどこだと聞かれてもわからない。京都と赤坂の違いもわかりません。

(SLIDE1-11) これはおわかりでしょうか。なんとなく左の上はおわかりかもしれませんが、これは実は香港です。右側の上は、私、ここにおられる三宅先生と一緒にちょくちょく訪ねている中国の遼寧省の中心都市であります瀋陽です。左下は、ソウルのミョンドンです。なんとなくアジア的空間という意味では、私たちは夜になるとほっとするというか、そういうことは皆さんも何かご経験いただいているのではないかと思うのです。明らかにこの夜の景観は、ヨーロッパでもなければアメリカでもない。例えば、アメリカですとラスベガスのようにあるデザイナーによる夜の景観もありますし、ヨーロッパでは、夜はもっと慎ましやかにライトアップされたものであるとか、噴水がきれいにライトアップされたような姿はもちろんありますが、こういう明かりの空間というのは、あまり見られないといえると思います。

(SLIDE1-12) 実は金沢でも、いろいろな夜の試みがなされております。これはよくご存じだと思いますが、第四高等学校の跡で、今は近代文学館になっておりますが、夜になるとこのようにライトアップされております。

(SLIDE1-13) これは金沢の、地元の方はご存じかもしれません。しかし市民の方でも意外に夜は知らないという方がおられるかと思いますが、浅野川にかかっております大変きれいな木造の梅の橋です。その梅の橋は夜になりますと、このようにライトアップされます。この水に映る姿はなかなかきれいな姿ではないかと思っております。

(SLIDE1-14) これはごく最近、偶然見つけたのですが、浅野川大橋のたもと、ちょうど東の廓のところにバス停があります。そのバス停のベンチなのですが、最近デザインの何か賞をとったと伺っています。夜はこのように、上の2つのように、なかなかアクリルのベンチがきれいに浮かび上がるような、ちょっといたずらといえばいたずらかもしれませんが、演出を試みております。下は昼間で皆さんが利用されていますが、夜は座るのに何かはばかるようなくらい美しい空間です。

(SLIDE1-15・16・17) 金沢で新しい明かりの演出が、始まっている例をあげてみます。

(SLIDE1-18) 実は建築の世界で、夜を意識した一種の建築デザインというのが最近いろいろなところで試みられています。これは残念ながら金沢ではないのですが、右側が東京、銀座のミキモトのビルです。ちょうど銀座通 りに面しているところが真っ黒な壁面です。そこになかなかおしゃれな明かりを修景しています。左側は新宿の高島屋です。

(SLIDE1-19) この右側は、最近注目されている代表的な建築家の1人のレンゾ・ピアノが設計した東京のエルメスのビルです。その右側が芦原義信先生のソニービルですが、銀座晴海通 りに面しています。このビル全体は外側に照明がついているわけではなくて、ビルの中の室内の明かりがちょうど外に滲み出すように、ビルの側面 がすべてガラスでできているのです。ですから昼間はそれほど存在感がないのですが、夜になりますとビル全体がぼーっと大きな明かりの塔のようになるという、なかなか印象的なデザインを施したビルが銀座にできました。これは東京国際フォーラムです。東京国際フォーラムは2つの大きな明かりの通 路というか、歩くところに明かりが演出されておりましてこれもなかなか印象的な世界かと思います。

(SLIDE1-20) ここからが問題提起といいますか、夜景の演出を何とかしようということです。これは金沢だけの問題ではありませんが、全国の商店街が、夜になりますと実につまらない。シャッターで覆われてしまうということです。これは、コストの問題や、場合によっては安全の問題などいろいろな理由があるとは思いますが、ちょっとこれはもう少し考えてみてはどうかというのが私の問題提起です。

(SLIDE1-21) 無味乾燥な地下街です。地下街について、いろいろな工夫はありますが、残念ながら金沢の現状では、この武蔵の地下街というのもこういった風景でして、これはたしか夜11時ごろだったと思いますが、こんな姿です。  それからこちらは散策路、白鳥路という道でして、金沢城のちょうど内堀に沿って散策路ができております。昼間ですと、特に朝は本当に気持ちのいい散策路なのですが、夜はちょっとまずいなという、そういう空間になっております。

(SLIDE1-22) ここにおられる方にちょっと差し障りがるかもしれませんが、これはまさに金沢の表通 り、百万石通り、国道157号線です。こちらに日銀があり、主要な銀行の支店等々いろいろあります。実はここも夜撮ろうと思ったのですが、最近の新しいデジカメでもどうすることもできないぐらい夜は暗くなってしまって、ここは夜を散策するという空間ではもうないのです。このへんが、なんとかならないかというのが、もう1つの問題提起です。
では、いくつかの提案です。全部について回答にならないと思いますが、これは竪町で少し試みられている商店のシースルー型のシャッターです。完全に中を暗くするのではなくて、シースルー型のシャッターに今、替えております。話を聞きますと、一部で、こういうシースルーにするについては商店に若干の助成金が出ます。お金の出所がどこなのかは私は知らないのですが、そういうことはもちろんやっております。時間が経てば、少しずつこういうかたちにはなっていくと思いますが、まだちょっと十分ではないように思います。

(SLIDE1-24) 実はこれはほかの町です。先程、もう、洋学を超えなければいけないというお話もありましたが、たまたま先月ニューヨークにおりましたので、その例を持ってまいりました。これはニューヨークの五番街にあるGAPの店舗です。これはちょっとお店の名前はわからないのですが、こういったまさにシースルーでありまして、非常に奥行のある明かりになっています。シースルー型のシャッターの中には、これはむしろたしか古いタイプではないかと思いますが、なかなかデザインされた、きれいなシャッターもあります。日本でこれを使っている例を私はあまり見たことがありませんが。 ほかに、これは五番街のショーウィンドウ。ご存じと思いますが、アメリカではこういうショーウィンドウのデザインについて専門に教えている大学やデザイン学校があり、こういう世界は大変なプロフェッショナルな世界として確立しております。ショーウィンドウをこのように設計してもらいますと、ただ歩いているだけでも非常に楽しいし、そして結果 的には夜は非常に安全なまちをつくるということにも貢献していくのではないかと私は考えています。

(SLIDE1-25) あともう1つ、シースルーのシャッター以外に歴史的建造物、これは石川門のところで、金沢城の一角がライトアップされています。これは武蔵のところのある近代建築です。歴史的建造物が金沢にはたくさんあります。あまり何でもかんでもやればいいというものではありませんが、ある種、観光客や市民にとってシンボリックな動線に沿ったかたちでライトアップをするということが、もう少しあってもいいのではないかと考えています。

(SLIDE1-26) なかなかおもしろいなと思いますのは、尾張町の商店街の方たちが非常に頑張っておられまして、尾張町の一種のミニ博物館、それもお宝博物館といいますか、さすがに金沢でありまして、それぞれご自身、商店が持っているお宝がたくさんございます。それを眠らせておいては、ということで、それぞれのお店のショーケースのところをちょっと借りて、こういうお宝、必ずしも古いものではなくて、こういった蓄音機のようなものもあれば、あるいは加賀の文化の伝統的なものもございます。そういうものを、こういうショーケースの中にディスプレイするという試みをしております。私は、これはなかなかいい試みではないかと思うのです。つまり金沢の持っているもう1つの魅力というのは、ごく普通 の庶民の方が、実は大変いろいろな、我々が再評価すべき宝をたくさん持っているということです。そこから学ぶということを、私はぜひやるべきだと思うのです。セキュリティの問題とか、夜、照明をするにはコストがかかるとか、いろいろな問題はもちろんあるのですが、なんとかそういうことを支援できないかということです。

(SLIDE1-28) 私がやったというよりも、私の研究室の学生にやらせたということなのですが、先程のシャッター街、これは片町から竪町に入るちょうど入口のところにあるわりに大事なポイントなのですが、このようにシャッターが下りてしまいます。これはたしか尾張町だったと思いますが、古い庄屋さんの建物です。夜はこういう空間です。そこにCG上で、先程の能作さんのショーウィンドウをはめ込むということをちょっとやってみました。なかなかいいのではないかと勝手に評価しております。  それからこちらには明かりをちょっと・・・。これが金沢にふさわしい明かりのデザインかというのは、いろいろご批判いただきたいのですが、例えば、こういう明かりを、ある種の動線上に、これから修景していくということができないか。つまり明かりの演出や明かりによる効果 というのは金沢の魅力を再発見する装置として、比較的容易に、かつ安価にできると私は考えています。 昼間のデザインを変えるというのは大変なことでありますから、夜であれば、ある程度それほどのコストをかけなくてもできるかなということです。

(SLIDE1-23) 最後の提案です。ちょっと長くなりましたが、シャッターをシースルー化できないか。中央商店街のシャッターをシースルー型に誘導する。そのための改造資金などの支援策。一部で実施されているのですが、それを充実させる。それから、金沢お宝ディスプレイ計画。主要街路に面 するウィンドウに、金沢の伝統工芸や新製品、新技術。古いものだけであっては、私はつまらないと思うのです。金沢で生み出されている新しい技術や商品をディスプレイする、そういう場面 を設ける。そして市民や観光客に非常に身近なところで金沢のお宝に接する機会を提供することがあってもいいのではないかと思うのです。
夜の金沢演出計画。夜の散策の楽しみを演出するために、市民や観光客の多い動線に沿って、金沢らしいデザイン性にすぐれた明かりによる修景を図る。そして明かりの回廊計画。旧市街を中心に観光ポイントを結ぶルート上に、提灯や行灯などの目印による明かりの回廊を計画整備するということを、そろそろお考えになったらどうか。ピンポイント的にはもう試みられております。
そして明かりの夜祭りということですが、年に数回、金沢ではいろいろなイベントが行われておりますので、明かりをテーマにした夜景を計画する。その間、既存のネオンや照明を消すことで効果 的な演出をするといったようなことが、私の今回の提案です。ちょっと時間がオーバーしまして恐縮です。ありがとうございました。


トップページへ戻る