■パネリスト プレゼンテーション
●山口裕美
 私は「現代美術のチアリーダー」と名乗っていますが、最初はこの言いかたしか自分の仕事を理解していただく言い方がありませんでした。10年ほど前、私は当時住んでいた西ドイツのフランクフルトから帰国し、アートが好きだったのでアート関係の仕事がしたいと思ったのですが、業界の門が狭いこともあって、なかなか自分の本当にやりたい仕事ができる場所が見つかりませんでした。その時はまだ日本にNPOがありませんでしたし、やる気満々で頑張ろうとすると「ちょっと変わった人」と思われてしまったようでした。スタートは美術ライターとして海外の展覧会を日本の雑誌に紹介したり、若いアーティストを紹介していく連載から始まりました。そうこうしているうちに、96年にインターネットのホームページを企画する話が舞い込みました。インターネットというのは役に立つというのがテーマなので、逆に日本で一番役に立たないホームページを作ってみよう(笑い)と「TOKYO TRASH」という名前で数人の仲間のアーティスト達と一緒にアートでありながら「アート」という言葉を使わないホームページを作りました。今考えてみると、その作りは凝りすぎていて、時期的に早すぎたかもしれません。凝ったリンクを作ったり、イケてるイケてないなどを判断していくつかクリックすると、アーティストの作品の部屋に行くとか、妙に変わったホームページでしたから。ただ、ネット系の人々はちょっと変わったものが好きですので、逆に注目を浴びました。それがきっかけで、マルチメディア関係の仕事をいただくようになり、金沢市が主催するeAT金沢(イート金沢)というマルチメディアイベントの99年、第3回の総合プロデューサーを担当し、アートをテーマにたくさんのアーティストに金沢に集まっていただき、フォーラムとシンポジウムを行ないました。
 私自身は街にも興味はありますが、その街に住む人により深い興味があります。アートも同様に作品よりもアーティストに興味があり、日本のアーティストが国や企業からの支援がないところで孤軍奮闘していて、創造の苦しみの中でのたうち回っているような状況なので、どうにか支援したい、という気持ちが強いです。まあ、早い話が「おせっかいなおばさん」ですが、そうした同時代のアーティストに関わりながら生きていくのが好きなのだと自分では思っています。
  現在、私はオーストラリアのシドニーと東京を往復する二重生活をしており、昨年はオリンピックが開催されたこともあって、シドニーで大きなワークショップを2回行なうことができました。1つは日本航空のシドニー線就航30周年記念イベントとして、アーティストの日比野克彦さんをお迎えして、ヨットの帆に参加者と一緒に絵を描くというワークショップを行ないました。シドニー現代美術館の大ホールを会場にしたのですが、予想をはるかに越えて大人から子供まで350 人くらい集まりました。最終的に絵を描いた帆を付けたヨットがシドニー湾、オペラハウスの前を走行するという、非常に爽快なワークショップができました。それが好評だったことを受けて協賛企業であったミズノと一緒に、オリンピック開催直前に、「ラッキーで行こう!」というテーマでワークショップのパート2を行ないました。このワークショップは黄色が幸運の色ということで、オリンピック直前、シドニーに集まったアスリートが最後の最後に必要な運、ラッキーを得られるようにという願いを込めて参加者は黄色のグッズを持ちより、黄色の大きな輪を作るものでした。そんなワークショップをシドニーでやりながら、同時期に、東京で玩具メーカー・キューブと一緒に、アーティストの考えをふんだんに入れた玩具、アートグッズというものをプロデュースしたりしました。常に頭の中にあるのは「どうにかしてアーティストのところにお金が行くようなプロデュースがしたい」、そんな思いです。  今回のシンポジウムは、福光事務局長から「アスペン会議のようなもの」というお話がでました。私は海外の美術館やそこで働くアート関係の人々と話をする時に、いつも思うのですが、やはり魅力があるのは作品それ自体でもあり、関係であったり、人であったりすると思うのです。中でも場所と人の魅力が大きいですね。
 例えば、金沢に来るのがとても楽しみなのは、金沢でしか見られないものを見て、金沢でしかお会いできない人にお会いすることで、そのことがとても魅力的に感じるわけです。eAT金沢は今年も5回目が行なわれました。続いていることも素晴らしいし、特に、きちんとしたシステムがあること、それからより強いネットワークができつつあります。東京からの参加者もいっぱいいるのですが、それはeAT金沢には異空間がある、ということが大きいと思っています。金沢には金沢自体の魅力がありますが、そこに集まる人がいることによって、そこに初めて他のどこにもない異空間が出来上がると思うのです。それゆえ、来年から始まるこの金沢ラウンドも、金沢ラウンドにしかできない時空間を作ってもらいたいと思います。アーティスト達の発想には、本当に奇抜なアイデアもあると思うので、そういう考え方をぜひこの金沢ラウンドでも取り上げて参考にしていただけたら、と思っています。
 

金沢ラウンド誕生について
パネリストプロフィール
モデレータープロフィール
開会あいさつ
福光松太郎
プレゼンテーション
 水野一郎
 伊藤光男
 竹村真一
 米沢 寛
 金森千榮子
 市村次夫
 川勝平太
 小林忠雄
 大内 浩
 松岡正剛
 山口裕美  
 米井裕一
 佐々木雅幸
●セッション1
都心で実験してみたいこと
●セッション2
これから議論すべきテーマは何か
●セッション3
創造都市とは何か
 
全体会議のまとめ
委員長総括
実行準備委員会