■金沢創造都市会議 第2回プレシンポジウムを終えて
1.都心(みやこごころ)
 フィレンツェやヴェネチアは、今でも15世紀初頭のルネッサンス以来の営み、芸術、都市環境をたっぷり味わわせてくれるし、ウィーンやパリは町全体で18世紀以降の文化の香りを存分に漂わせている。
  それらの豊潤な蓄積は、都心が創造性を煮沸させる場であり、五感を集中させて驚きや遊びや、緊張を楽しんだ空間であったことを雄弁に物語っている。奈良や京都も、江戸や金沢も都心において同じく濃密なる瞬間を持ったことは明らかである。
  すなわち、過去の都心は政治、経済、生活、文化の全てが一極集中であり、エネルギー、人材、財力、創造力が竜巻のように高まった地点なのであり、情報が培養、発酵され、伝達していった場であり、一人の人間から見れば人やモノやコトと出会い、交流し、斗かい、昇華してゆく過程で何らかの創造を興奮しながら体験した場であった。
  その場が「都心(としん)」であり、その営みを「都心(みやこごころ)」と呼んでよいと思う。
2.都心活性化
 「中心市街地活性化法」が施行されたように、現在の日本の都心は空洞化が進行している。原因はクルマ社会化が可能にした行動圏と居住域の拡大による都心回避、情報社会化が可能にした全地域平等平準化による都心不要などといった構造的要因が主である。その結果 、政治、経済、生活、文化のあらゆる機能が都心に集積する必然性が消え、それと共にエネルギーや創造力も分散してしまいつつあるのである。
 現在の中心市街地活性化は都心商業の再建が主要施策になっているが、駐車場やモールの整備や空店舗対策という対処療法になっている点で構造的要因に対する決定打とはならないように思える。
  地方都市の都心メインストリートには都市計画上の施策として銀行や生保、全国企業支店などのビルが立ち並ぶ方向を理想に描いてきた。そしてメインストリートは出来たが一方で都心居住が郊外に追い出され、学校やお稽古社中や文化施設も一緒に郊外に転出していった。それが今や理想のビル群でさえクルマ社会と情報社会が来ると、都心に勢揃いする必要は無くなってきた。そのためかビルが並ぶ現在の都心は経済的営為だけという雰囲気を漂わせていて寂しいかぎりである。
  すなわち、まず居住、教育、文化が都心を離れ、次に商業も業務も都心から脱し始めだしたのである。
  そうした状況の中で、都市の未来像として、都市は求心力を失った都心がなくなり平盤的な広がりをもつ都市に移行するのか、やはり求心的な都心を有する高みと凸 凹のある都市を追うべきなのかの考察が必要と思われる。これは「創造都市会議」の長期的テーマの一つになりうる。
3.再び都心
  会議のテーマとして「都心−みやこごころ」を採ったのは、従来型の経済的な場としての都心ではなく創造力ある遊びに満ちた場として再び都心を構築できるのかと考えたことから始まった。
  人と人、人とモノ、コトのインターフェイスな交流の中から情報は生産される。生産された情報はデータとして世界を駆け巡り、端末を通 じて人に付着していく。その始まり点であるインターフェイスの場を新たな都心と呼べないだろうか。
  文学が起こり、映像が生まれ、音楽が奏でられ、美術が展示され、ファッションの流行が起こり、食文化や風俗が始まる、そんな場に人が集まり、刺激し合い、高め合い、生産し、流通 させ、データベースとしてゆく、それが都心ではないのか、との仮説である。
  機能的には、デザインや音楽事務所、アートや工芸のアトリエ、出版社、放送局、ギャラリー、ミュージアム、IT機器やソフトの工房、ファッションや食品、そしてさまざまな情報のクラブオフィス(例えばエコロジーや高齢化やボランティアなどの基地)などといった小規模だが発信力の強い情報の生産集積地である。それに帯同してかかわりのある各種店舗やネットワーク、携わる者達の住居や宿、味わいたい人々の住まいなども集積した都心像である。
  果たしてこうした都心は可能なのだろうかを考慮するために芸術、文化、情報、地域社会、民俗等の分野の力量 ある若手を中心に会議が持たれた。
4.会を終えて
  さまざまな意見が百出したが、結論は見送られたと評価するのが正しいだろう。
  現状の業種、業態での都心商業活性化は不可能であることも、銀行・生保・全国企業の支店ビル群も都心に活力を与えないことも確認されたし、都心に居住しても、日本人の住居観は自閉症的に閉じこもっているので、都心の賑わい交流をつくれないとの意見も評価された。さらにはIT時代のコミュニケーションは特別 な場を求めないので、モノやコトも土地に密着することはないだろうとの意見も多く出た。これらを統合してゆくと都心に集まる、都心で高まる必然性が見出せないことになる。
  最後の全体会議においても、討論はIT時代のコミュニケーションに話題が集中した。そこでは、大量 の情報が同時に、広範に、かつバーチャルに行き渡ることで人間の思考回路も社会のシステムも世界の秩序も変わり、新しい美意識、ライフスタイル、文化創造が生まれる。また、欲しい情報はどこにいても手に入るし、絶対に会うことのない人や組織とも対話ができるなどその事例や予測が活き活きと語られた。その一方で「都心」は必要としないのかの議論までは到達できなかった。
  都心がなくなると都市がなくなるとの意見も数多く聞かれるが、それは一体どういうことなのか。都市であるためには都心はどのような役割を任じなければならないのだろうか。そう簡単に先が見えるテーマではないが、「創造都市会議」としては追ってゆく価値のあるテーマだと考えているので、これからもゆっくりと追ってゆきたい。
 
金沢創造都市会議実行準備委員会  委員 水野一郎
金沢ラウンド誕生について
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福光松太郎

プレゼンテーション
 荒川哲生
 川勝平太
 竹村真一
 田中優子
 野村万之丞
 松岡正剛
 大場吉美
 金森千榮子
 小林忠雄
 佐々木雅幸
 水野一郎  
 米沢 寛
全体会議のまとめ
委員長総括
実行準備委員会