■ゲストプレゼンテーション

●田中優子
 私は横浜の下町で生まれました。子どものころの記憶では、どの家にも、引き戸を引いて入っていくと上がりがまちというのがありまして、外を通 った人、ちょっとした知り合い、近所のおばさんなどが、すぐにそこに入ってきて、ちょっと座って家族と話をしていくのです。
  今の都市と違って、どのような下町であろうと、商店街であろうと、ふっと入っていってちょっとかかわるということの積み重ねだったような気がします。もっともっと開かれていたと思うのです。私はそれから江戸時代を研究するようになったのですが、江戸という大都市、これは18世紀では世界最大の人口を抱えている都市です。そういう都市でも、やはり文化を作っていくときには、まず第一に人のかかわりがあるということに気がつきました。
 これは文化というものが、あらかじめ伝統的なものがあるにせよ、それをどの部分にして新しい時代に合わせて作り替えていくか。自分たちのものにしていくかということは、やはり、そこにどのような人が暮らしていて、どのような考えを持っていて、どのようにかかわっていて、そして人のかかわりを再合成していくかということとどうもとても深くかかわっている。それはいわゆる芸術家たちが集まらなくても、プロフェッショナルが集まらなくても、そこに住んでいる人たちが日常的にかかわることによって文化が出来上がっていくのです。
  これはものづくりという点でもそうです。例えば祭りの場合でも、やはりプロフェッショナルとそうでない人たちがかかわることによって、そこで実際にもののかたちもそうですが、技術が継承されて行きます。職人さんが残っていきます。祭りの継続しているところには、必ず職人さんが残っていきます。そして、文化が残っていきます。それからそれは年中行事と関係があります。つまり、季節と関係があります。ですから、人とのかかわりとの再構成というのを都市では必ずやっているのと同時に、季節というものをどうも再構成しながら文化を作っていく。季節も人とのかかわりも放っておけば、自然にしておけばいいというものではなくて、どうもその都市の文化というものは、都心(みやこごころ)を持った文化というのは、それを常に作り直していく、再構成していくのではないかというふうに思っています。ですから、これから今まであったものをどうやって使うかというだけではなくて、これから作ることができるものでもあると思うのです。
  それから私は、江戸時代の江戸、江戸時代はもちろん日本全国江戸時代ですが、その中で江戸という都市を空間として見た場合に、ちょっと驚くことがあります。それは都市の大建築というのは、必ず広大な庭を持っているということです。私たちは都市の大きなビルを見ると、庭のことなどほとんど想像しませんけれども、大きな建築物には必ず庭がある。その建築物よりももっと大きな庭があるということです。これが江戸を造っています。ですから、実際に現在の東京にも残っている広い面 積を持った森やあるいは公園は、ほとんど当時の大きな建築物、つまり屋敷跡なのです。そういう考え方があって、庭とそれからもう一つは水なのですが、そういうものを持った都市というものも実際にあったということなのです。これを私たちはもう一度造っていくということも可能ではないかと思っています。
  分科会ではそういうことも含めて、人がどのように都市を見てきたかということをスライドをお見せながらお話ししたいと思っています。それはそういうさまざまな絵に描かれた都市を見ていますと、一つは非常に細かい一人一人の人間の表情だとか、生き方だとか、職業だとか、そういうものが手に取るようにわかるように描かれている。つまり個々の人間というものに注目するのです。しかし、その全体が俯瞰して見えるようになっている。つまり、全体像というものもとても大事なものです。それは都市を歩くとどう見えるかと、歩きながら描いていくという視点を持っています。
  そういう都市を見る目の歴史を見ていくと、今度、私たちが都市をどう見るか。どう理解し、どういうものとして造り上げていくかということを問い直されているような気がするのです。そのようなこととして、今を問い直すような都市というものを見てみたいと思っています。よろしくお願いします。

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