■ゲストプレゼンテーション
●川勝平太
 私は京都の御所のすぐ南に生まれまして、そこで育ちました。ですからいわば旧都、都です。私の子どものときなどは母が御所などに連れていき、そこで編み物をして、私はそこの周りでシジミチョウチョウやモンシロチョウや、タンポポの毛を吹いたりして遊んでいるという原風景があります。それで東の方を見れば着物を着て渡る姿や、東山というか、きれいな比叡山を頂点にした景観が見えた。西の方に遊びに行けば、桂川に霞がかかっている。出町柳まで出れば、北山が文字どおり山紫水明の世界でありました。京都の都というのは緑のしたたるところでした。
  それは自覚はしていなかったのですが、高校を卒業して東京に出まして、多摩川を渡りますとぶるぶると緊張感が走ったものです。あるときに気がつきましたが、そこは山がない光景でした。何かが足りないと思いましたら、山がない、コンクリートジャングルであったわけです。そこに日本の10分の1の人口が住んでいまして、首都圏には4分の1の人口が住んでいる。そうした都市の中で最も美しいのは横浜と神戸であったかと思うのですが、ここ20年ほど大阪や名古屋や神戸や東京で人口減少が進む中で、横浜と神戸だけが人口の増加を記録していたのです。しかし、1995年に大地震が起こりまして、見るも無惨な姿を呈したわけです。ですから、都市の抱えている、最も美しい都市でさえ、一朝にして6000人の人が亡くなる、30万人の人が行くところがなくなるという悲惨な姿に変貌するということを目の当たりにしまして、私は人口の8割が都市に住んで、日本の人口の2分の1が三大都市圏に住んでいる住まい方はおかしいと思うようになりました。
  そこで兵庫県に対しまして、兵庫県は人口600万、そのうちの4分の1が神戸市に住んでいますから、あたかも人口1億2000万のうち4分の1が東京都に住んでいる、その縮図である。しかも、日本海側と太平洋側に面 した珍しい県であります。その意味で、瀬戸内海から日本海側まで直線距離にして80〜100 キロでありますから、その真ん中辺りに森の町を造ったらいかがかと、そうしたら「そうだ、丹波の森はウィーンの森に匹敵する」ということで、今、丹波の森とウィーンの森を比べる「丹波の森運動」というのがあるのです。
  丹波の森とウィーンの森の違いですが、ウィーンというのはオーストリアの首都です。しかも、その森はご承知のように人が造った森です。全部、切ってしまったあとに植えたものなのです。ですから、非常に親しみやすい。ハイルゲンシュタットが遺書を書いたり、ベートーベンがそこを散策するということのできる、人の手が入った、人が育てている森なのです。丹波の森は森しかない。要するに、人が行かないで、森として名前だけウィーンの森に匹敵させようということです。そういうことではおかしいということで、新しい森の町を造るかどうかといったところでだれも動きません。しかしながら、問題意識は全員が今、共有していまして、これまでのような都市中心の国づくりを見直そうとしています。
  見直す根拠は、日本が原料を輸入した製品を輸出するようなかたちでの国づくりを過去150年間してまいりましたけれども、文字どおり平成元年から日本の製品輸入量 の方が多くなったのです。ですからもう、臨海工業都市に住むべき必然性はなくなったわけです。そういう中で、少しずつ郊外へ移る動きが出ているわけですが、それが中途半端にしか移らないので都市のスプロール化という現象が起こっている。こうした中で、国土の計画が新しく策定されましたけれども、それはこれまでのような工業都市という都市づくりとは 違う、北海道や東北の自然の豊かな地域、かつての表玄関だった日本海の地域、それからまた黒潮にあらわれる太平洋新国土軸と言われるような地域こそが日本のフロンティアである。そこは世界でも、先進国にあっては有数の森を持っている。そこに森を生かした、山を生かした、自然を生かした町づくりをしていきましょう。これは人間が自然を造りますから、植物を育てるということですから、原生の自然ではなくて、ガーデンということになるだろう。そういうガーデンタウンというものを造りましょうということなのです。
  ですから、都市づくりというのは、やはり非都市と一緒に利便性、それから都市でない地域のゆとりやうるおいというものを、併せてこれから造っていくべき時期にきている。ですから、都市問題は都市だけで解決がつかないという、そういう意見を持っております。私自身も今、山の中に移り住みまして、3年前から標高1000メートルの、ここ金沢くらいの雪があるところに住んでおりまして、なかなか快適であると思っています。石の上にも3年で、といっても我慢したわけではありませんが、3年たって大変に気に入っています。日本の自然というものを、これまで失っていたということに気づいている昨今であります。
金沢ラウンド誕生について
ゲストプロフィール
コーディネータプロフィール
開会あいさつ
福光松太郎

プレゼンテーション
 荒川哲生
 川勝平太
 竹村真一
 田中優子
 野村万之丞
 松岡正剛
 大場吉美
 金森千榮子
 小林忠雄
 佐々木雅幸
 水野一郎  
 米沢 寛
全体会議のまとめ
委員長総括
実行準備委員会